TS従魔のダンジョン攻略記!   作:おにっく

55 / 62
奇妙な縁

 眩しい。朝か。

 

「……うぅん、ん? うおっ!?」

「おはようございます、イリオス殿。朝は弱いのですね」

「なんで! ここに! いるんだ!」

 

 朝っぱらからこいつの顔、というか仮面? を、見たくはないんだけど。

 

「ご依頼の品のためでございますよ。こちらの魔道具は、やはりサン殿から離れるとどこかへ転移してしまいます故」

「あ……そっか。悪かった」

「いえ」

 

 ……いや、待て。

 

「だったら一声かければよかったんじゃないか?」

「では、わたくしはこれで! また晩、こちらに伺います故!」

「待っ、このやろうッ!」

「うぅ……うるさい!」

 

 ああ、サンが目覚めた。いよいよカオスだ。

 

「おや、サン殿。ゆうべはお楽しみでしたか?」

「朝飯……」

「おやおや、寝ぼけておりますね。あまりよく眠れなかったのでしょうか?」

 

 アニスはサンの目やにをとって、手櫛で寝癖を直した。

 最後に、胸元の魔道具にソラさんの遺品をぶち込んで。

 

「それでは、また!」

「……はぁ……朝から、嵐みたいなやつ」

「……ん? ご主人、今アニスいた?」

「気のせいじゃない? 気のせいってことにしとこう」

 

 これ以上朝から疲れたくはない。あいつと関わるのは昼頃からがちょうどいいんだ。

 

「んんー……? 確かになんか、こう」

「朝食はベーコンエッグらしい」

「すぐ食べようすごく食べよう、何してんだご主人さっさと行くぞ!」

「……はいはい、仰せの通りに」

 

 ひとまず、朝飯が終わったらダンジョンだな。

 

 

 

 

「なあ、ご主人。結局この銅像ってなんだったの?」

 

 ダンジョンへ向かう途中、ふとサンがそんなことを聞いてきた。

 

「ああ、そういえば説明の途中だったか……とはいえ、見れば大体わかるんじゃない?」

「……魔王みたいなもん?」

「大体正解」

 

 勇者ステラと悪竜は、向かいあうように剣と牙を構えている。

 この銅像は、かつての悪竜と勇者の戦いを示したもの……だったかな。

 

「悪竜『テラー』。それが、この竜の名前。勇者は悪竜を打ち倒すためにこの国に来たんだ」

「悪竜……?」

 

 悪い竜と書いて、悪竜。名の通り、こいつがやった悪行を並べ立てれば枚挙に暇がない。

 

「とても悪いドラゴンだったんだ。ダンジョンボスでもない、野生のドラゴン。あらゆる生物をいたぶり、弄び、苦しめた……なんて、言われているね」

「へぇ……ほんとに魔王みたいだな」

「実は、魔王よりも厄介な存在だったりする」

 

 こいつのタチが悪いところは、その知能だ。

 人語を解することができた彼は、生物を簡単には殺さなかった。

 言葉巧みに人を騙し、己に挑んだ者の四肢を捥いで送り返したり、尊厳を奪うためだけに人の姿を取った、なんて噂もある。

 

「ってことは、こっちの女の人が」

「ご明察。勇者ステラだよ」

「……なんかちょっとご主人に似てるな。服とか」

「あはは……」

 

 察しのいいやつ。

 

「……英雄の次は、勇者か」

「……サン」

「行こうぜ、ご主人。今日はダンジョンだろ」

「……うん。ああ、そうだな。ひょっとすると、すごく美味しい魔物がいるかもしれない」

 

 ソラさんにもらったレシピは、読み物としても非常に有益なものだった。

 様々な魔物の知識や生態が記されていて、そのついでに食べ方や調理方法が書き連ねられている。

 よほど試行錯誤したのだろう、序盤はその大半が腹を壊した、という経験談が占めていた。

 

「魔物! 楽しみになってきた!」

「……」

 

 しまった、元気付けるためとはいえ軽率だったろうか? 本当はあんまり食べたくないんだけど。

 

 ……ああ、でもすごく尻尾が揺れている。

 お腹が空いて食べる気満々、という感じだ。こうなったサンは、飯を食わせないと理性を失う。

 ドラゴンになった影響だと思いたいけど、察するに前世からこうだったんじゃないだろうか。

 

「と、ついたね」

「ここ……?」

「ああ、その通り。これがこの国唯一のダンジョン群。《悪竜の墓場》だ」

「悪竜の……墓場……」

 

 聞いたことを復唱しながら、サンはダンジョン群の入り口を見つめた。

 基本、このダンジョンは地下へと伸びている。だから、サンが見ているそこは、実は何も関係ない人工物だったりするのだけど。

 

「……雰囲気あるなぁ」

「は、はは……」

 

 まあ、言わぬが華かな。

 

「というか、ここでも悪竜……?」

「ああ……このダンジョンはね。かつて悪竜が骨を埋めたその地から生まれ出た、って言われてるんだ」

 

 ダンジョン群に立ち入る手続きをしながら、サンに軽い説明をしてみる。

 

 かつて悪竜に支配されていたこの地へ、勇者が訪れた。

 彼女はなぜだか、「斃すべき魔物はいないか」と、そうしきりに聞いていたそうだ。

 

 悪竜に脅されていた国民たちは勇者を嵌めようとしたけれど、結局裏切ることができず、真実を明かしてしまう。

 そうして瀕死になりながらも、勇者ステラは悪竜を殺した。「この地から悪竜は消えた」、それが彼女の最後の言葉だったそうだ。

 

「……なんか、ありきたりなお話だな」

「ぐっ……!? け、けど、面白いんだよ!?」

「ほんとかぁ?」

 

 サンに疑いの目線を受けながらも、扉の先へ。

 

「うわっ!?」

 

 すると突然、扉が閉まる。ふんわりと浮かされる感覚。

 

「エレベーター?」

「その通り。人を分散させるために作られたらしいよ?」

 

 犠牲者もなくこれを作り上げたというのだから、末恐ろしい。

 問題としては、老朽化が進んでいること。いつか壊れたら直せるのには数年かかるらしい。

 

「さ、こっちだよ」

「もうダンジョン?」

「ああ。早いだろう?」

 

 光の魔道具で照らされた洞窟のような道を歩いていく。

 そして、奥の鉄扉を開き。

 

「おぉー……お……?」

 

 目の前に広がる景色は、ただの岩場、という感じ。

 ……うぅん、感動が少ない。流石に、魔窟のようにはいかないよね。

 

「なんかこう……地味だな」

「あはは……まあ、そうだね。魔窟と違って、ここはダンジョンが点在してるんだ」

 

 空間を隔てず繋がっているような、あんなダンジョン群はこの世でもほとんどない。

 多くのダンジョン群が、少し離れた場所で安定して存在している。実際、ニィナさんのとこのダンジョンもそうだったわけだし。

 

「つまんねーの」

「こーら、油断しない。確かに見た目は地味だけど、ここも立派にダンジョンなんだよ?」

 

 魔窟のような臨場感はないけれど、これが本来のダンジョンの形。

 まあ、流石に岩場はちょっと地味すぎたかな。サンには退屈だったかもしれない。

 

「つっても、こんな開けた地形で魔物、なんて……と……」

 

 突然、サンは虚空を見つめた。その目の形も相まって、なんだか猫みたいだ。

 

「サン?」

「来る」

 

 そのつぶやきに従って、彼女の視線の方に《広域型感知魔法》を伸ばす。

 ぼんやりと見える輪郭は、象程度の大きな魔物……なのに、かなりの勢いでこちらに迫ってきている。いや、逃げてきている?

 

「何あれ」

病嵐(ヤマアラシ)。大きめの魔物で、背中の棘は雑菌や寄生虫塗れだ。この辺の岩を食ってるから、かなり硬い」

「へぇー」

 

 しかし、あんな移動方法をするんだな。実際に見るのは初めてだ。

 背中の棘をスパイクのように使って、回転しながらこっちに向かっている。

 

 背中に突き刺さった腐肉が取れないせいでひどく不潔だとは聞いているし、あまり近寄って欲しくないな。

 彼にはお帰り願うとしよう。

 

「《スター・トレイル》」

 

 幸いにして、この距離なら射程内だ。

 多少傷を与えて、《スター・トレイル》の刃で誘導してやれば。

 

「《圧縮型ドラゴンブレス》」

「……え?」

 

 そんな俺の思考が実現するよりも、サンの行動が早かった。

 

「……うん。多分やった。大丈夫ご主人、行こう」

「っ……ああ、うん。そうだね」

 

 ……サンは。強くなった。

 

 ソラさんに鍛えられた時。ソラさんを助けるために鍛えた時。

 その鍛錬はサンを飛躍的に成長させ、サンはあの頃より何十倍も強い。

 

「どした、ご主人?」

 

 けれど、ここ最近でまた。サンはその力を、急速に増している。

 修行を重ねているのはわかる。それに、手に入れた力が馴染始めているのも大きいだろう。

 

「いや……強くなったなと思って」

「はは……」

 

 ……問題は。その力は、一体何のためのものなのか。

 

「まだまだだよ」

 

 サンの口元から。真っ赤な炎が溢れた。

 

 

 

 

 死体を確認するべく、病嵐の方へと向かう。

 道中いくらかの魔物に襲われたけれど、《スター・トレイル》を使えばそれだけで簡単に対処ができた。

 

「……あった」

 

 しばらく歩いて辿り着いたそこには、大きなヤマアラシとアルマジロを足したような生き物の死体。

 死体を起こすと、心臓を一突き。火傷と血の跡が貫いていた。

 

「あの距離で……」

 

 サンは精密な操作が苦手だったはずだけれど……あそこまで遠くから、心臓だけを撃ち抜くなんて。

 

「……」

「サン、顔」

 

 悪臭でフレーメン反応を起こすサンを傍目に剣で病嵐の棘を切ろうとしてみる。

 ……切れないほどではないけれど、硬い。

 

「何してんの? ご主人。皮取るの?」

「ああ、それもそうなんだけれど……妙だと思ってね」

「妙?」

 

 この病嵐。他の生き物や探索者に襲われたような傷跡がある。

 実際、こっちに向かってきている時も何かから逃げているようだった。

 

 ……極め付けに。このダンジョンは広いけれど、そこまで強い魔物はいない。

 

「こいつはダンジョンの魔物じゃなかったんじゃないかな」

「へ……?」

「ぎにゃぁああ!? 先にやられちゃってるー!?」

 

 と、サンに考察を話そうとしたところで。

 劈くような、聞き覚えのある悲鳴が聞こえた。

 

「げっ」

「この声は……」

「もー! 横取りされちゃった! どうしよ、どうしよぉ!! 今月ピンチなのに!」

「お、落ち着いてくださいミーニャさん! お金なら私が貸してあげますから!」

 

 のそりと死体から顔を上げてみると、見覚えのある猫耳がペタンと横に伏せていた。

 頭をブンブン振り回す軽装の女のそばで、白い服に身を包んだ少女がオロオロと困り果てている。

 

「ミーニャの嬢ちゃん! パーシァの嬢ちゃん! どうした!?」

「どーしたもこーしたもねーニャ!! 他のやつにやられちゃった! バウがちんたらしてるからニャ!!」

「仕方ない。諦めろ」

「テメーは黙ってろニャまっくろくろすけ!」

 

 一人、二人。また増えた。四人パーティか。

 ……というか、察するにこの面子って。

 

「俺、なんか別の呪い受けてる気がする……」

 

 横でどんよりとし始めたサンを軽く撫でると、サンは病嵐の棘を振りかぶった。

 洒落にならない。少し強めに嗜めて、なんとか腕を下ろさせる。

 

「それにしてもこれ、どうやったんでしょうか……? 背中側から心臓を貫かれてますが……」

「ん? ああ、ほんとだな。なんだぁ、魔法に長けたやつでもいたか?」

「……魔物じゃないか?」

「おい! 無視すんなニャ! こら!」

 

 あまり話したくはないけれど、仕方ない。

 物陰からヒョイと姿を表して、両手をあげて一歩前へ。

 

「あの」

「っ!?」

 

 真っ先に、ミーニャさんが跳んだ。両の手にはナイフを構えて、戦闘準備万端だ。

 流石に、猫の獣人といったところだろうか。

 

 それ以外の面子も一歩遅れて、武器を構えた。

 魔物より人間が警戒されるというのは、嘆かわしい話だ。

 

「……って、あれ? イリオス? イリオスじゃないの」

「ん? ミーニャの嬢ちゃん、知り合いか?」

「一応ニャ。ほら、昨日忘れ物してた子達」

「ああー……あったな……あったな?」

「オメーは酒飲んで見てなかったニャ中年」

 

 ここで武器を構え返したりすると、そこで魔法を貯めている少女に攻撃されかねない。

 探索者同士の戦闘は当たり前に御法度だけれど、倒した魔物や魔道具を横取りされる、なんていうのは、探索者にとって警戒しなければならないことの一つだ。

 

「ミーニャさん、昨日ぶりです」

「そうだねぇ、物陰から出てくるからびっくりしたよ。ゴメンゴメン」

 

 と言いつつ、武器は持ったままだもんなぁ。ちゃんとしてる。

 

「サン、出ておいで。大丈夫だ」

 

 念の為サンは残しておいたけど、この分なら大丈夫そうだな。

 

「あ、サンもいるんニャね」

「……」

「ありゃ、人見知りだニャ」

「……?」

 

 サンは人見知りなんてタマじゃないと思うけど。

 やっぱりあれかな。あそこの彼を警戒しているのかな?

 

「……あいつ、俺を見ているな」

「面食いさんなのかもしれないですね」

「何を言っている」

「あ、いえ……」

 

 サンのためにも、できるだけ早く終わらせないとな。

 

「あーっと、イリオスの坊主にサンの嬢ちゃんか? 二人して、どうした?」

「嬢ちゃんじゃない。坊主」

「……あ、んな、そうなのか!? いや悪いな、歳食ってくると見分けがつかなくってよ……」

「え……いや、え……? えぇえぇえええええ……!?」

 

 サン、余計に場をややこしくするのはやめてくれないかな。

 そんな意図を込めて視線を送ってみたけど、するべきことをしたまで、とばかりにため息をつかれた。なんてふてぶてしい。

 

「無理があるでしょ。嬢ちゃんで合ってるニャ嬢ちゃんで。それで、どうしたのかニャ?」

 

 いよいよ話が進まなくなってきたのを察して、ミーニャさんが軌道修正を図った。

 とても助かる。案外、この中で一番話がしやすいのはミーニャさんなのかもしれない。

 

「えぇっとですね、そこの魔物を倒したのは僕たちでして……」

「あ、そうなの? んー……どうしたもんかニャ」

 

 基本、ダンジョン内で倒した魔物はその人のものになる。が、色々とルールは複雑だ。

 

 瀕死まで追い詰めた魔物を横取りされてはたまらないし、他者が狙った魔物を攻撃することをある程度縛るルールは国ごとにある。

 しかしそうなると、今度は魔物に人が襲われていても助けることができなかったり、手負いの魔物を攻撃できなかったり。

 だからこそルールに幅は持たせられていて、そうなると今度はどのラインからが助けるに該当するだのなんだのかんだの。

 

 ……とにかく、この魔物の所有権がどっちに行くかは微妙なところなのだ。

 

「まだかなり余力を残していましたし、私たちからは離れていました……となると、どちらかと言えばイリオスさん方の」

「ちょいちょいちょーい!? パーシァ!? 何いい子ちゃんになっちゃってるニャ!? 余計なこと言わなければもらえそうなところなのに!!」

 

 ミーニャさんは小声のつもりかもしれないけれど、余裕で全部聞こえている。

 さっきはちょっと信用しかけてたんだけど、失敗だったかな。

 

「……な、ご主人。俺は別に要らないんだけど。あげちゃってもよくない?」

「え? ……うーん……そうかも」

 

 俺たちにとって、今回の探索はあくまで下見。それに、お金にも困っていない。

 

「支払いが近いんだよ!? 終わらないとこの国離れられないのに!!」

「え、えと……ごめんなさい……けど、嘘は良くないですよ……?」

「潔癖かニャ!! 探索者なんてそこの二枚目くらい真っ黒でちょうどいいニャよ!?」

「……? 服はどうでもいいだろう?」

「そういう意味じゃねーニャ!!」

 

 なんというか、ミーニャさんの必死さを見ていると……うん、そこまで欲しいわけでもないもんな。

 

「わかりました、お譲りします」

「……なんつーか、悪いな。坊主に嬢ちゃん」

「いえ……その代わりにと言ってはなんですけど」

 

 それに、いい機会を得た。

 

「ダンジョンを案内してくれませんか?」

 

 ちょうど、シェルパが欲しかったところなんだ。




すみません、また少し更新が遅れました……!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。