TS従魔のダンジョン攻略記!   作:おにっく

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黒い竜の噂

「案内……? 別に私たちとしては構わないけど」

 

 四人は目を合わせながら意思確認をして、こちらに向き直った。

 見たところ、この人たちはここのダンジョンに慣れている。病嵐が逃げることを選択するほどの手だれだ。

 

 ここのダンジョンは一朝一夕で攻略できるようなものではないし……こういった場合は、案内人がいた方がこちらとしても助かるんだ。

 っていうのは、師匠の受け売りだけどね。

 

「サンもそれでいい?」

「うん。俺は別にいいよ」

「……んじゃ、ここは坊主たちの言葉に甘えとくか。解体しようぜ」

「あ、私手伝うニャ」

 

 ミーニャさんと……ええと、確かバウさんと呼ばれていただろうか。二人は、死体の方へ向かった。

 正中線上に切り込みを入れて、皮や肉を剥ぎ取って行く。

 彼の皮にあまり価値はないけど、討伐の証明用だろう。内臓の一部は薬になる。棘や甲羅は装飾品かな。

 

「……」

「サン?」

「いや……慣れないなって……」

「ああ」

 

 いつもは魔道具に入れて持ち帰ったり、あるいはそのまま運んでしまうもんな。

 場合によっては、攻略を優先して放置することもあるし。

 

「ところで、なぜあの魔物を追っていたんですか?」

「……依頼だ」

「連盟からの依頼ですね。ダンジョン内に紛れ込んだ魔物の討伐。このダンジョンにいていい強さの魔物ではありませんから」

 

 支払いがどうこう言っていたのはそういうことか。

 肉は食えたものではないとはいえ、素材は連盟の買取になるだろうし、そこそこの報酬がもらえそうだ。

 

「ミーニャさん……あ、あちらの猫の獣人の方なのですが。最近ダガーを新調されまして……本人が、ええと、経済をよくお回しになるといいますか……」

「よく散財をする」

「ノワールさん!? 率直すぎます!!」

「はは……」

 

 散財か。うちの子(サン)はそういうところがなくて助かる。

 ただ、サンを仲間に迎え入れてから貯金が徐々に減っているのは確かだ。主に食費で。

 奢る時は、その日の財布が空になる覚悟が必要になる。

 

「よしっ、と……こんなもんだな。ミーニャの嬢ちゃん、穴を……なんだその顔」

「あ……フレーメン反応……」

 

 サンもよくあの顔をするけど、亜人種の人たちってみんなこうなんだろうか。

 思えば、ソラさんもたまにやっていた気がする。見ている分にはちょっと面白いけど。

 

「不快……」

「わかる……なんでこの匂いで平然と立ってられんのかわかんないニャ……」

 

 サンと謎のシンパシーを得ながらも、ミーニャさんとバウさんは素材を包んで背負った。

 収納の魔道具は便利だけれど、量産はできない貴重品。俺も、昔はああやってたっけな。

 

「それじゃ、改めて自己紹介ニャ。とはいっても、私はもうしてるから……」

 

 ミーニャさんがチラッと目を向けると、真っ先に反応したのは中年ほどの、髪の短い男性。

 額にゴーグルをつけていて、顎髭がなかなかどうして似合っている。素敵な老け方をしていると思う。

 

「俺からか? 俺はバウってんだ。年齢は四十……代だ。しがない探索者さ。趣味は酒集め。よろしくな」

 

 手を差し伸べられて、それに従った。かなりフランクな人みたいだ。

 サンも倣って握手を交わしたあと、なぜだか驚いたように自分の掌を見つめていた。

 

「俺の手、ちっちゃくない……?」

「……」

 

 それはまあ、そうだろう。と、言いたいけれど、サンはまだあの体に慣れていないんだろう。

 難儀な話だ。

 

「パーシァです。回復魔法が得意です。よろしくお願いしますね、サン様。イリオス様」

「様……」

 

 ラルウさんの時もそうだったけど、むず痒いな。

 いや、確かにあいつも「お兄様」で様付けだったけど、それとこれとは別と言うか。

 

 全身真っ白な服を着ていて、もう一人の真っ黒な鎧の彼とは対照的な印象を受ける。

 

「で、最後のがそこの……」

「……」

「……おいおーい、置物くん。なんか喋れニャ」

「今、考えている」

 

 最後の一人が、件のサンを斬ったという男。

 

「ぬぅう……」

 

 サンとしては恨みはないが、やはり少し引っ掛かるものがあるらしかった。

 彼の目線が向いた瞬間、明らかに怯えていたし。

 

「ノワールだ。趣味は斬ることだ」

「ひっ」

「おいリーダー!! あらゆる選択肢の中で最悪解選んでんじゃねぇ!!」

「ほんとだニャ!! 見て!! 怯えてる!!」

「……すまない」

 

 ……うぅん。よくわからない人だ。多分、ジョークのつもりだったんだろう。

 昔の自分を思い出して、親近感が湧く。

 

 と、こっちの紹介もしないとか。

 

「えと、イリオスです。こっちはサン。二人で探索者をやってます」

「……サンの嬢ちゃんは竜人族か? ホンモノは初めて見るな……」

「ねー。私もソラ・シーカーくらいしか知らないよ。……その人も亡くなっちゃったし」

「っ……」

 

 聞き馴染みのある名前を出されて、サンはビクッと肩を跳ねさせた。

 もう、随分と噂は広まってるみたいだ。

 

「お二人はどういったご関係なのですか? 揃って、お若く見えますが」

「うーんと」

 

 説明すると長くなるし……そもそも、本当のことを言うつもりはない。

 言えば俺がとっ捕まるか、サンが魔物とバレるかのどちらかだ。

 

「相棒だよ。旅の道連れ」

 

 困っていると、サンが自信満々に言った。

 この前女将さんに使ったフレーズ、気に入ったみたいだ。どこか彼女は誇らしげだった。

 

「旅、ですか……?」

「うん。色々探してんの」

「まあまあ、パーシァの嬢ちゃん。あんまり詮索するのはお行儀が良くないぜ?」

「た、たしかに……ご、ゴメンナサイ、私ったら」

「お気になさらず」

 

 正直、聞かれたら果てしなく困ってしまったのでとても助かる。

 

 バウさんの言う通り、こういった会話は注意が必要だ。

 探索者なんてものは、人によって理由がピンキリ。一攫千金なんて夢のある話もあれば、病気を治す魔道具を求めて、なんて、どうしようもない理由なことだってある。

 下手につつくと、相手にとっての地雷を踏み抜くことになる。

 

「……そんじゃ、ちょっくら行ってみっか。いい判断だと思うぜ。ここのダンジョンは割と難易度高いしな」

「最初の頃は私たちも苦労したよねぇ」

 

 この人たちとは、うまくやっていけそうだ。

 

 

 

 

 かくして、ダンジョンの案内を始めたミーニャ一行。

 

「ご主人」

「ああ」

 

 道中魔物に遭遇した際、イリオスとサンがそれに対処。

 

「《スター・トレイル》」

「《飢竜集雷拳》」

 

 ほんの数秒。まだミーニャたちの視界にすら入っていない段階での出来事だった。

 

「……ワオ」

「雷魔法、でしょうか……?」

 

───この二人、強い。

 

 ミーニャが抱いた、率直な感想である。

 

 魔物の気配は、猫の獣人であるミーニャの耳にも届いていた。故に、サンが気づくのも理解はできる。

 だが、イリオスについては話が別。何故人の身で、あの距離の敵の位置を正確に把握できるのか。

 

「というか、見たことのない魔法……オリジナル……?」

 

 今時、己自身で魔法を開発する探索者などほとんどいない。既存の魔法を使った方が効率がいいからだ。

 しかしことこの二人の魔法については、致命的なまでの噛み合いを見せている。

 

「行きましょうか」

 

 そんな二人だが、今まで名前どころか噂すらも聞いたことがない。

 火のないところから立った煙のような不気味さに、ミーニャは少し汗を垂らした。

 

「はぁー……イリオスの坊主もそうだが、サンの嬢ちゃんも中々戦えるんだな。ちっこいからちょっと心配してたぜ」

「竜人は老けないからだろう」

「あ、そうか……サンの嬢ちゃん、何歳なんだ?」

 

 バウの質問に、ミーニャは後頭部を引っ叩いた。

 女性に年齢を聞くものではないぞ、という怒りの一撃である。

 

「……なぜ、ミーニャは……バウを、叩いたんだ……」

「え、えぇと……あはは……」

 

 生憎なことに、ミーニャ一行の男性陣はデリカシーというものを持ち合わせていなかった。

 

「っと、悪い。あんま聞くもんじゃなかったか?」

「いいよ別に。十四歳」

「……十四歳!? 十四歳!?」

 

 見た目よりは少し歳上に感じるが、竜人であることを加味すれば驚くべき若さだ。

 あまり意味のない比較とはいえ、最低三百年は生きると考えれば、人間年齢でまだ四歳程度のものなのではないか、と。

 

「ご主人は十七」

「十七!? 二十歳とかじゃなくて!? え、年下!?」

 

 逆にイリオスは見た目よりも若い。というより、見た目が少し老け気味だ。

 この国、ファンタジアでの成人年齢は十六歳。成人したてと未成年のコンビである。

 

「なんつーか……苦労してんだなぁ」

「いえ、それほどでも……」

 

 ないです、と言おうとしたが、ふとこれまでの旅を振り返る。

 魔物を食って死にかけたり、不審な成人女性に誘拐されたり、子供の面倒を見ることになったり、その子が殺されかけたり。

 

「ナイデスヨ?」

「してる感じの反応だニャ」

「……させてる」

 

───君も苦労してる側なんだよ?

 

 と、目線だけでサンに伝えた。

 ここまでの旅はわずか二、三ヶ月。それだけの期間でサンは、四度死にかけている。

 それと比べれば、自分がここに至るまでに味わった苦痛など大したものではないだろう。

 

「……休憩にしよう」

「話ぶった斬んなニャ。斬ることが趣味ってそういうことかニャ?」

「いや、そういうことではなく」

「うっせぇ、わかってるニャ!」

 

 先程の自己紹介も絡めて皮肉ったミーニャに対して、ノワールは愚直に返した。

 

「すまねぇな、うちの二人が」

「別に、気にしないけど……仲悪いの?」

 

 ノワールとミーニャは常々険悪気味だ。

 同パーティ内での恋愛が崩壊のきっかけになることなどままあるが、それはそれとして不仲なのも問題だろう。

 

「いや、別にそういうわけじゃないんだが……まあ、色々あんだよ」

 

 サンの質問にその意図があったかは定かではないが、返ってきたのは曖昧な答え。

 喧嘩するほど仲がいい、という言葉があるし、そういう感じなのかもしれない。と、サンは考えるのをやめた。

 

「休憩なら、あの付近がちょうど良さそうですね。見晴らしがいいですし、奇襲の対策になります」

 

 パーシァが指し示したあたりに移動して、イリオスたちは腰を落ち着ける。

 時間もほどほどに経って、ある程度の補給が望ましいだろう。つまり、飯の時間である。

 

「……なんというか、わかりやすいねぇ」

「ミーニャの嬢ちゃんもたまにあんな感じだぜ」

「え、まじニャ!?」

 

 察したサンが尻尾を振り始めたのを見て、ノワールを除いたミーニャたちはくすりと笑った。

 

「収納の魔道具……? 珍しいものをお持ちになっているんですね」

「師匠が昔くれたんです。最近まで収納の魔道具だってことは知らなかったんですけどね……」

「え、えぇ……そんなことあるの?」

「互いに口下手なもので……」

 

 師は弟子に似る。なんて言ったら、あの人は少し怒るだろうか。

 パンにさまざまなものを挟みながら、イリオスはぼんやりとウェイラのことを思い出した。

 

「う、いい匂い……いいニャぁ、収納持ちは……こちとらいつも通りの携帯食料祭りニャ……」

「別に不味くはないだろ?」

「飽きるのニャ!! 不味くなくても!!」

 

 探索者向けの携帯食料は、その品質の改善に余念がない。

 昔はあまり味の質も良くなかったため倦厭されがちだったが、現代ではかなり改善されつつある。

 

 とはいえ、携帯食料は携帯食料。防腐処理を施さなければいけない、栄養を考えなければいけないなどの都合上、味は単調になりやすいのだ。

 

「畜生……帰ったら絶対美味しいもの食べてやるニャ……」

「お、いいねぇ。いつものところ行っとくか?」

「ミーニャさん、バウさん、散財ばかりしていてはいけませんよ? 清貧という言葉があるように、モノばかりを求めていては」

「それ言ってるの、大概金持ちだから嫌いニャ」

「……もう来月はお金貸してあげません」

 

 くだらない会話をしながらも、四人もまた食事の準備を終えた。

 携帯食料はお湯で温めたり、戻したりするものが多い。魔法のあるこの世界において、お湯はそこまで貴重ではないためだ。

 

「……」

 

 するとどうだ、煙に乗じて良い匂いが漂ってくる。

 それは、しっかりとサンの鼻にも届いた。

 

「ん……?」

 

 目線を感じたミーニャは、右に、左に、食べ物をひょいひょいと動かしてみる。

 その全てにバッチリと瞳を追従させ、その目つきはさながら獲物を狙う獣である。

 

「食べてみる?」

「……いいの?」

 

 余った蓋に肉の一部を乗せ、そっとサンに差し出した。

 

「おいしい……」

 

 一口食べて、これでもかと幸せそうに笑うので、ミーニャはもう少し分けてやることにした。

 サンに対して少し大人びている、というわけではないが、かなりおとなしい印象を受けていたが、こういったところは年相応未満らしい。

 

「……親戚の赤ん坊の面倒を見たことがあったんだけどよ……なんつーか、今それを思い出した」

「わからないこともない」

 

 ミーニャに餌付けされつつも、サンは食事を終えた。

 腹を膨れさせるわけにはいかないので量は少ないが、それでも十分過ぎる精神的な休息だ。

 しばらく腹を休めるべく、ここでの休憩は続行である。

 

「それにしても、ダンジョンの中は平和なもんだねぇ」

「そうですね……あの噂が嘘のようです」

「……噂?」

 

 見張りを交代しながら休憩をしていたその頃。バウとパーシァの呟きに、イリオスが反応する。

 何かあっただろうかと頭の中を掘り起こしてみても、思い至る話はない。説明を求めて、目線を向けると。

 

「悪竜の復活だよ」

「……っ!?」

 

 さらりと。当然のように、しかしあまりにもおかしなことを言うので。イリオスは、これでもかと驚いた。

 

「数年前から噂されててな。まあ、よくある与太話の類だと思うんだけどよ」

「ですが、事実としてこのダンジョンでの行方不明者は増えています」

「一応な」

 

 パーシァにしろ他の二人にしろ、別段感情的になる様子はない。

 つまり、これはこの国での常識なのだろう。であれば、もう少し知っておきたいところだ。

 

「悪竜って、勇者に殺されたんじゃないんですか?」

「その通りニャ。けどここ数年間、目撃情報があるんだニャ」

 

 曰く、このダンジョンでの行方不明者は数年前から急増。

 また大怪我をして帰還するものも数名おり、彼らは皆口を揃えてこう言うのだ。

 

「ダンジョンの奥で、黒い竜を見た。ってね」

 

 その特徴についての証言は一致しており、悪竜の復活だ、と噂されている。というのが、事の顛末である。

 

「ま、大方ダンジョンボスがドラゴンそっくりだとか、そういう話だろうけどねー」

「しかし、それだけでは説明がつかない部分も多々あります。同一ダンジョン外での行方不明者もいますし……そもそも、行方不明者が急増というのも……」

「とにかく、そういう話があるんだ。坊主たちも、ダンジョンの深くに行く時は気をつけろよ?」

「心に留めておきます……気をつけような、サン」

 

 与太話だったとして、強い魔物がいることも事実。

 警戒するに越したことはないと、サンの方を振り向いて。

 

「……サン?」

 

 彼女は。なぜだか、少し笑っていた。

 

「どうした?」

「……え? あ、いや。なんでもない、よ?」

 

 どこか、不穏な空気を感じ取り。イリオスは、腹の奥で何かが蠢くように感じた。

 

 

 

 

 悪竜の、復活。

 

「悪竜って、勇者に殺されたんじゃないんですか?」

 

 そう、そのはずだ。そのはずだよ。悪竜は死んだ、って、伝説なんだろ?

 死んだ生き物は、生き返らない。

 

「しかし、それだけでは説明がつかない部分もあります」

 

 ……けど、ここは。異世界だ。

 魔法がある。魔道具がある。固有魔法がある。

 

 本当なのかな。本当だと良いなぁ。

 だってさ、もしも。もしもだよ? もしも、悪竜が生きてるなら。噂が本当なら。悪竜が、生き返ったって言うなら。

 

「……サン?」

 

 なあ。またお前に、会えるのかな? お前に、償えるかな?

 

「どうした?」

 

 ……ソラ。




すみません、また更新が遅れました……

最近お話を書く際、執筆の速度が非常に落ちています。少し忙しさが増している時期というのもありますが、執筆ペースの影響がかなり大きいです。
そのため更新頻度を三日に一度に落とします。
この作品を楽しみにしてくださっている方がいたら、申し訳ございません。何卒、ご理解いただけますと幸いです。よろしくお願いします。

単純に最近書き過ぎだったのと、ちょっと書きにくい部分書いてるのもあるので、書きやすいパート入ったら戻るかもしれないです!
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