TS従魔のダンジョン攻略記!   作:おにっく

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侵食する悪意

 ダンジョンの攻略開始から、数刻後。

 

「素材いっぱいニャ。うはうはニャ。サンたちに感謝ニャー」

「はは……」

 

 ミーニャは分配したお金でパンパンに膨れた財布に頬擦りをしていた。

 傍目からは控えめに言って奇人や変人の類だが、周囲の者たちも慣れているのか特段反応は見せない。

 

「いや本当に、結局坊主たちに手伝ってもらっちまったな」

「いえ。僕たちとしても、とても勉強になりました」

 

 何度か魔物との戦闘があったが、そのほとんどがサンたちの元に辿り着くより先に殲滅された。

 一部漏れた魔物もいたが、それらもミーニャたちが簡単に始末できる程度の敵だ。

 

「それより、良いんですか? 報酬をいただいてしまって」

「どうぞ、ご遠慮なく。結果として、一人当たりの報酬は想定より多くなりましたので」

 

 一日、ダンジョンを攻略して。サンとイリオスの感想は、「生ぬるい」だった。

 危険性を考慮して難易度が低いダンジョンに潜ったのもあるが、それでもあまりに危機感のない攻略だ。

 

 とはいえ、本来ダンジョンの攻略とはこうあるべきもの。

 グランドワームから始まり、ウェイラにソラに魔王に、その他諸々の化け物たち。死にかけるような戦いは、探索者として最も避けるべきものなのだ。

 

「ふふ……」

 

 サンも財布の中を見つめて満足げに笑っている。

 最近では魔道具を手に入れる機会も減っていた故、相応に物欲を満たされているのだろう。

 

「ご主人、飯食いに行こう飯。ちょっといいとこに」

 

 否、食欲である。

 

「はいはい。少し休んでからな」

 

 イリオスとしても、ダンジョンの難易度がこの程度で済んでいるのは僥倖。

 初級者から中級者向けのダンジョン故、後進育成の意味を込めて完全攻略は禁じられているが、日銭には困らなさそうだ。

 他の完全攻略を許可されているダンジョンに潜れば、より金勘定は良くなるだろう。

 

「改めて、魔窟の異常さを認識させられるな……」

「あれおかしいよな……絶対俺らより強い魔物いたもん……」

 

 サンとイリオスは、仲良く地獄の思い出を回想した。

 死にかけた記憶は何度かあるが、半分くらいはソラかウェイラのせいである。

 

───ひょっとして魔窟じゃなくて、あの二人が異常なのでは?

 

 と、思ったが、イリオスはそれ以上口に出さなかった。

 己の師なら、こんな独り言に気づいてもおかしくはない。彼とて、まだ命は惜しいのだ。

 

「よし、と……報告終わったぜ、嬢ちゃんたち」

「……すまない、バウ……いつも、世話をかける」

「いいっつーの」

 

 病嵐の討伐報告を終えて、ノワールとバウが戻ってくる。

 バウはどこか疲れたように肩を伸ばしており、何やら面倒ごとを始末し終えた後のようだ。

 

「なあ、坊主に嬢ちゃんよ。俺たちはこれから飯に行くんだが、よけりゃ一緒にどうだ?」

「あ、それさんせーい! これからも一緒になるかもだし、仲良くなっておきたいニャ!」

「またそうやってすぐお金を……」

「ああ、えぇと……」

 

 イリオスは両手を軽く挙げながら、チラ、とサンの方を見る。

 最近、サンはあまり夜中機嫌が良くない。精神的な調子の悪さ、という表現が近いかもしれない。

 ともかく、不安定さが日頃より増すのだ。

 

「俺も全然ヘーキ」

 

 が、今日は機嫌がいいようだ。

 少し安心しながらも、そういうことなら、とバウたちに遠慮なく着いて行く。

 

「皆さんは、いつ頃からこの国に?」

「ん、私たち? えぇーとね……どのくらい?」

「三、四年くらいか? 活動拠点にしてる、ってだけで、結構他の国にも行くけどな」

「そうですね。つい先日も、東の方へ出たばかりですし」

 

 ファンタジアから東に方面にはニィナの住む国、ドーンブレイクがある。

 恐らく別の国から帰る途中なのだろうが、サンと出会ったのはそこだろう、と、イリオスは考察した。

 

「そういえばそっちの方に行った時、珍しい魔物がいたよねー。あの金ピカのヤツ」

「……金ピカのヤツ?」

「そうそう! 多分ワイバーンなんだろうけど、あの子はお金になりそうだったニャー」

 

 自分の鱗で金勘定を考えられるという事実に、サンはゾワっと身震いをした。

 つい先程魔物の解体現場を見たばかりであるため、鮮明に自分に置き換えた風景をイメージしてしまう。

 

「……そこの……サンの鱗に、少し似ている」

「っ……!?」

「し、失礼なのでは……ですが、言われてみればそうですね」

「ニャハハ、じゃああの魔物もドラゴンだったりしてニャ」

 

 全部当たっているのだが、これ以上うちの子を追い詰めるのはやめてはくれないだろうか。

 イリオスの願いが届いたのか、その話はそこで打ち切りだった。サンはゲンナリとした顔で、少し憔悴気味だ。

 

「あ、着いた着いた。ここだニャ、この店がうまいんだニャー」

「値段も安いし、量も多いしな。飯を食うならここだぜ」

 

 そう言いつつ辿り着いたのは、大衆向けの居酒屋のような飯屋である。

 漂ってくる匂いを嗅いでみるとなるほど、確かに悪くはなさそうだ。

 

 サンが喜んでくれそうだ。そんな期待を胸に、イリオスは暖簾をくぐった。

 

 

 

 

 サンの注文を最後に、運ばれてくる料理の数々。

 ミーニャとパーシァは口を開けて唖然としていた。当の本人は何も気にせず、いつも通り『いただきます』と手を合わせて飯を食っている。

 

「坊主、酒は飲まねぇのか?」

「すみません、お酒は少し……」

「なんだ、苦手か。じゃあほれ、飯を食いな。もっと太くなれ、ほっそい体しやがって」

 

 バンバンと背中を叩かれて、イリオスは近所に住んでいた老人を思い出した。

 妻にも子にも先立たれ、犬を飼って細々と暮らしていた彼は、よく食事を共にしていたかな。と、少し懐かしむように回想する。

 

「あいつマジでデリカシーねーニャ……パーシァ、どう思う?」

「え、えぇと……あはは……」

「嬢ちゃんたちには言ってねぇだろうが嬢ちゃんたちにはよぉ……お、サンの嬢ちゃん、いい食いっぷりだな」

「ふ?」

 

 頬をリスのように膨らませたサンは、飲み物と共に口の中の食べ物を全て胃に送り。

 

「まだ腹一分目」

 

 何故かドヤ顔をするので、イリオスは頭を押さえた。

 だんだんと、サンの食事量は増えてきている気がする。伴って、竜形態のガタイも大きくなっている。

 最初は小型犬の子供ほどの小さな、本当に小さな体だったが、今ではすでに中型犬程度の大きさだ。この分では、来月には自分が乗れるくらい大きくなっているのではないだろうか。

 

「……」

 

 竜に乗る。妹が聞いたら目を輝かせていただろうと、少し寂しげな感情に包まれる。

 

「ダハハっ、そーかそーか! いいねぇ、若いのはそんくらい食えた方がいいぜ……お前らにも言ってんだぞリーダー! ミーニャの嬢ちゃん! パーシァの嬢ちゃん!」

「俺は……相応に、食っているつもりだが」

「女の子は色々気にすることが多いのニャ! ねぇパーシァ!」

「ミーニャさん、遠回しにサン様のことを罵倒していませんか?」

「……ハッ!?」

 

 しれっと女の子の枠組みから外されたサンだが、彼女、否彼? は、あまり気にしていなかった。

 飯を食って食事する、それだけがサンの満足感である。

 

「ご、ごめんねぇサン、そんなつもりがあったわけじゃなくって」

「いや、別に……あ、そうだ。お詫びじゃないんだけど、聞きたいことがあるんだけど」

「いいよいいよー! お姉さんになーんでも聞いちゃってニャ!」

 

───お姉さんって、四つしか変わらないだろうがよ。

 

 バウの視線を弾き飛ばしながら、ミーニャはじっとサンの顔を見つめた。

 すると彼女は、少し言いづらそうにして。

 

「悪竜について、もっと教えてほしい」

「……あ、ぁえ? 悪竜ニャ?」

「うん。悪竜の復活について」

 

 もっとこう、上手な化粧の仕方だとか。どうしたらお姉さんみたいに綺麗になれますかとか。そう言った可愛らしいものを想像していたんだけれど。

 自己肯定感に溢れた勘違いを盛大に追い払われながら、ミーニャはなんとか取り繕う。

 

「なんでそんなこと聞くの?」

「え……あ、それは、えと……その、同じドラゴン……竜人、だし。気になって」

 

 言い訳だが、事実でもある。

 今や己と同じ種族であるドラゴン、その数少ない痕跡たる悪竜。彼女にとってそれは、十分な興味を引くものだった。

 

「……なんだい、同族意識かい? やめとけやめとけ、碌でもねェ」

「バウさん、そんな言い方は」

「嬢ちゃんのために言ってんだ。あんなのに親近感持ったって、不幸な目にしか遭わねぇぞ」

「それは……その通りですが……」

 

 悪竜への恐怖は、この地には根深い。

 彼による被害は凄惨なものが多く、そして強くこの国に言い伝えられているからだ。

 それゆえに、勇者ステラは英雄視されているのだから。

 

 今でこそほとんど払拭されているが、つい二、三百年前までは竜人族などへの差別意識や恐怖心を持つ者も少なくなかった。

 ゆえに、竜人族が悪竜に親近感を抱く、など、あまり穏やかな話とも言えないのだ。

 

「い、いや、でも……その……」

「……んー。しょうがないニャあ。ちょっとだけ話してあげる」

「ミーニャ」

「わかってるニャ。でも、聞くくらいならいいでしょ? どーせ周りは騒がしくて何にも聞こえないし」

 

 最後まで引き留めようとしていたバウだが、それを言われると弱い。

 小さくため息をついて、ジッポライターに手をかけた。

 

「バウ……ここには、未成年がいる……」

「っと、そうだな。悪い」

 

 咥えた煙草を潰して、酒に再び手をつける。

 そんなバウを傍に、ミーニャはサンに向き直って話し始める。

 

「悪竜ってのは、よーはすっごい悪いドラゴンだニャ。勇者ステラ様が倒してくれたの」

「それは知ってる。ご主人が聞かせてくれた」

 

 いきなり話題に出されて驚きつつ、イリオスは目が合ったサンに笑いかけた。

 

「フレーメン反応……」

 

 腑に落ちない表情をされながらも、サンとミーニャは勝手に話を進めて行く。

 

「でね、まあ悪行とかは別にいくらでも出てくるんだけど……んー、そうだニャ。一番恐れられてるのは、ステラ様の死因かニャ」

「死因……?」

「呪いだよ」

 

 呪い。その言葉に、サンはふと首元に触れる。

 

「魔道具とかの?」

「ううん、そういうんじゃないニャ。ファンタジーな意味合いでの呪い。晩年、ステラ様は……その意識を段々、悪竜に蝕まれて行ったんだって」

「……固有魔法とか?」

「んー……魔物が固有魔法を使う、って話は聞いたことないニャ」

 

 まあ伝説は伝説だし、誇張されてるのかもね。ケラケラと笑いながら、ミーニャは話を続けた。

 

「だからステラ様は、自分で命を絶ったの。周りに被害を出さないために、悪竜の呪いを抑え込んで」

「……」

「死後も尚伝播するほどの、強烈な悪意。それが、悪竜が恐れられてる理由だニャ」

「悪意……」

 

 悪意は、人を害そうとする感情だ。

 例えば、誰かを苦しめたい、だとか。誰かを傷つけたい、だとか。誰かを殺したい。だとか。

 

「……悪竜、か」

 

 そう、それはまるで。己の中に抱え込まれた、この感情───

 

「べぇっくし! だぁーい畜生!」

 

───と、そこまで考えて、くしゃみひとつで思考は霧散した。

 

「ジジイコラ!! くしゃみもっと小さくしろニャ!!」

「俺だってできるならしてぇわ!! いいか!? おっさんはな!! 頑張ってもでっけぇくしゃみしか出ねぇんだ!! おっさんはなぁ!! 弱い生き物だ!! 悲しみを抱えた生き物なんだよ!!」

「何が悲しみを抱えた生き物ニャ!! お前が抱えてんのは腰痛老眼高血圧その他諸々の衰えニャ!!」

 

 一度解けた集中は中々まとまらず、サンの脳みそはいつも通り数ビット程度の小さな容量をこねくり回している。

 

「その、ごめんなさい。私たち、いつもあんな感じでして……」

「……お姉さんが苦労してそうなのはわかる」

「え、えぇと……その、私は……楽しいですよ? お堅い家でしたから、新鮮で……」

 

───そして、疲れる。

 

 パーシァは、最後の言葉をお茶と共に啜ってなかったことにした。

 

「それにしても、悪竜に興味があるんですか?」

「……ちょっと。復活したとか言ってるし」

「んー……眉唾ですが、前例がないわけでもありませんからねぇ」

「詳しく聞かせて」

 

 突然ずい、とサンに迫られ、パーシァは少したじろいだ。

 

「さ、サン様?」

「前例って何?」

「さ、先程のお話には続きがありまして……その、一度座ってはいただけませんか!?」

 

 その言葉で若干の冷静さを取り戻し。サンは、椅子に座って話を聞く体勢に戻る。

 

「……勇者ステラ様が自決する際。わずかな時間ですが、この国で暴れ果てたのです」

「この国で……」

「ええ。その場を見た者たちは、皆さん一様にこう言っていました」

 

───黒い竜を見た。

 

 背筋がゾッとするものを感じながら、サンはわずかに笑いをこぼす。

 

「悪竜の意志に蝕まれていたステラ様は、悪竜に成りかけていたのではないか。だとすれば、悪竜の意思は。今もまだ、どこかで」

「という。噂、だ」

「わ、わわっ、ノワール様!?」

 

 横から割って入ってきたノワールに、パーシァは慌てふためいて椅子から転げかけた。

 

「すまない」

「い、いえ、お気になさらず……どうかされましたか?」

「帰る。二人も騒がしくなり始めた」

 

 サンがノワールの後ろを見てみると、ミーニャがバウの髭を引っ張っているのを、イリオスが必死で止めている。

 酷い惨状だ。他に表現の手段がないほどに。

 

「そ、そうですね……それでは、向かいましょうか」

 

 なれた手つきで堂々と宥めに行く彼女は、服装通りの聖女なのかもしれない。

 サンは、ぽけーっとした脳みそでそんなことを考えた。

 

「サン、帰るみたいだ。行こう」

「やだ。飯を食う」

「……? ダーメ。帰るよ」

 

 何故だか駄々を捏ねるサンを引っ張り、そのまま外に連れて行く。

 これでお開きと、各々が宿まで向かい始めて。

 

「ん?」

「へ?」

 

 ミーニャ一行と、宿の前でばったりと会った。

 

「……ひょっとして」

「……ニャハハ。変なぐうぜーん」

 

 まさかの宿も同じだという事実に、六人は揃って微妙な感情になった。

 偶々行った先の飯屋で同じになり、偶々ダンジョンで出会い、偶々同じ宿に泊まる。

 

 偶然にしては出来すぎているが、こんなところで奇跡が起こらなくていいものを。

 なんだかどうしようもない気持ちになって、イリオスはの気分は少し沈んだ。

 

「先いいぜ」

「あ……ありがとうございます」

 

 少し気まずくなりつつ、バウに譲られてイリオスは前に進む。

 

「戻りました。イリオスです」

「あ、お帰りイリオスさん。布団、変えておいたよ」

「ありがとうございます」

 

 そうして、鍵を受け取って、サンの元へ戻ろうとして。

 

「え……鍵、一つ……?」

「誤解です」

 

 しまった。これは非常にまずい。何が悪いかと言えば、世間体がまずい。

 仮にも成人と未成年、なによりサンの外見年齢は実年齢よりさらに幼い。このままではロリコンのレッテルを貼られるどころか、下手すればお縄である。

 

「あ、そうだイリオスさん。部屋空いたけどどうする? もう一部屋いるかしら?」

「……あ、そういうことね」

 

───ありがとう女将さん。

 

 突如差し伸べられた蜘蛛の糸に、イリオスは追い縋った。

 

 そう、今回は空き部屋がなかったから仕方なく。それ以上でもそれ以下でもないのだ。

 しかしイチから伝えようとするとどうしても言い訳がましい。女将の言葉は、まさに鶴の一声だった。

 

「要らない。ご主人は俺と同じ部屋でいいの」

「あら、そう」

「え……やっぱりそういうこと……?」

 

───何してくれてんだサン。

 

 突如途切れた蜘蛛の糸に、イリオスは絶望した。

 

 せっかく解けかけた誤解とも言えない誤解が、また振り出しに逆戻りである。

 

「……まあ、そのな。イリオスの坊主。いいか、真面目に聞け。もちろん、当人同士の想いも大事だ。だがな、それが世間からどう見られるかというのも」

「違いますから! その、話を聞いてくれません!?」

 

 結局十数分ほどかけて、イリオスは誤解をかろうじて解いた。

 解けたはいいいが、疑念を持たれたという事実が今後大きく足を引っ張るかもしれない。後のことを思うと、ため息が出てくる。

 

「なあ、サン……どうしてあんなこと言ったんだ……?」

 

 部屋の扉を閉じて、先程までおとなしかったサンに話しかけて。

 

「ふぬ……」

「ん……?」

 

 先程まで暗闇で気づかなかったが、顔が妙に赤い。

 

「サン、君……」

 

 カシャ、カシャ、と、イリオスは記憶を掘り起こして行く。

 思い出すのは、サンがドヤ顔をかます手前。あの時サンが手に取ったドリンク。それは、横にいるバウのグラスへと伸びており。

 

「酒を飲んだな!?」

「のんでらいよ」

「飲んでるよ、その反応は!!」

 

 思えばここに来る前も、さらに言えば店を出る時もそうだ。とてもふわふわしていた。

 

 竜人は毒に強いはずじゃなかったのか、と嘆くイリオスだったが、アルコールへの耐性と毒へのそれは別物である。

 

「とにかく、水……!!」

 

 カップを取ってこようと、ドアに向かおうとして。

 

「まって」

 

 動かない。体が。ぴくりとも。

 

「っ……サン……」

「おいていかないで」

「ちょ、わっ!?」

 

 それどころか引っ張られて、引き戻される始末だ。

 ベッドに二人仲良く倒れ込んだところで、イリオスの腕はサンによってガッチリと掴まれた。

 

「困るよサン、せめて水を」

「独りにしないでよ……ご主人……」

「っ……」

 

 抜け出そうともがくも。その表情を見てしまい。

 

「ふへ……」

「わ、と……いや、離してくれないかな……」

 

 酒で上がった体温が、寒い夜にはぬくぬくと包み込んでくるようで。

 そのうち、イリオスもまた眠りに落ちた。

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