TS従魔のダンジョン攻略記!   作:おにっく

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調査依頼

 最近朝目覚めると、横でサンがいびきをかいている。

 

「まったく……風邪を引くったら」

「んがぁ……」

 

 腹までむき出しになった服を整えて、毛布を被せてやる。

 しばらくすると、彼女は煩わしそうに毛布を蹴ってひっぺがした。

 

「これが原因か……」

 

 確かに最近少し暑いけど、竜人だからより暑く感じるのかな?

 サンはただでさえ、体温が高いし。

 

「……いや、僕の手が冷たいだけかな」

 

 妹に指摘された、遠い思い出を噛み締める。

 ティッシュでサンの口元についた涎を拭き取って、ゴミ箱に放り投げた。

 

「……」

 

 こうしていれば、普通の女の子みたいだ。

 普段の言動や表情も鳴りを顰めて、まあ、いびきはうるさいけれど。

 

 長いまつ毛に、艶のある髪。整った顔立ちは、まるで精巧な人形のようだった。

 本当に、あいつにそっくりで。

 

「あー……」

 

 自分の頭を軽く叩いて、考えないように努める。

 

 考えを払拭するように、立ちあがろうとして。

 

「……ん?」

 

 サンの手元に目が行った。

 その手のひらに握られているのは、ソラさんの遺品。髪留め、で。

 

「……」

 

 アニスは、解析は終わったと言っていた。

 魔道具であることは確かだ。しかしその効果は、複雑に絡み合ってわからない、とも。

 

「いや、待った」

 

 そう考えると、あんまり寝てる最中に持って欲しくないかもしれない。爆発しても困る。

 少しばかり焦って、サンの手から魔道具を取ろうとして。

 

「……サン。離しておくれ」

「むにゃ……」

 

 その手でガッチリとホールドされていて、手放してはくれなかった。

 以前は、スノウに返そうとしていたのに。今は、今のサンは、絶対に手放そうとしない。

 以前風呂場まで持って行ったときは、さすがに咎めようかとも思った。

 

 ……ああ、本当に厄介な性質をしてくれている。

 「何度手放しても自分の元に戻ってくる」、なんて。まるで、魔道具に意思が宿っているみたいじゃないか。

 

「……そんなこと、あり得ないのにな」

 

 きっと、これも……サンがそんな理想を抱えてしまった、一因なのだろう。

 

「ほら、サン。はーなーしーて」

「んん……うるさい……」

「あ」

 

 しまったかも。

 

「……ん? は、へっ?」

 

 目覚めたサン。

 彼女はこちらを見て困惑した後、重ねられた手と交互に見比べて。

 

「……お、おはよう?」

「何が!? はぁ!? へ、何!? 変態!?」

「違うよ……」

 

 これは俺が悪いのかな。いや、割と俺が悪いな。これは。

 

「なあ、サン。こういうトラブルもあるし、やっぱり部屋は別にしないか……? 多分、もう部屋にも空きがあるだろうし……」

「……いや、いいよ。面倒だし。しかもご主人が変なことしなきゃ起こらなかったトラブルだろ」

「う……」

 

 その通りだ。はぐらかす意図はなかったけど、結果としてそうなっちゃったな。

 

「……」

 

 手のひらの魔道具を見て、サンはそれを大層愛おしそうに、大事そうに懐にしまった。

 ……まるで、人間に接しているかのように。

 

「……サン」

 

───ちゃんと、教えてあげないと。

 

 ミーニャさんの言葉が、耳の奥で木霊する。

 

 サンが大事に抱えるそれには、もうソラさんはいないし。彼女が生き返ることは、決してない。

 

「ん? なに?」

「……」

 

 伝えようとした声は、俺の意思に反して、掠れるように喉の奥から抜けて行った。

 

「いや、なんでもないよ……なんでも、ないんだ」

 

 きっとこの選択肢は、間違いだ。

 

 

 

 

 朝食を取ってから、街に出た。

 いつまでも図書館にこもっていると、体が鈍る。だから、今日はダンジョンの攻略だ。

 

「この辺になってくると、探索者も多いのな」

「そうだね。探索者向けの施設とかも、こっちの方が豊富だ」

 

 この剣も、手入れに出したいな。

 油を拭き取ったり、刃こぼれを研いだり、騙し騙し、自分でもやっているけど……そろそろ、ちゃんとした職人に頼みたい。

 

 ……師匠にもらったものだから、もう二年くらい経つのか。

 

「ところでご主人。俺たちはどこに向かっているんだい」

「連盟だよ。よさげな依頼がないかと思ってね。お金はあるに越したことはない」

「依頼……ミーニャたちがやってたみたいなやつ?」

「まあ、そうだね。あれは外来生物の駆除だから、滅多にないけれど……」

 

 主に魔道具の納品だとか、あとはダンジョンそのものの攻略依頼もあったりする。

 間引きだったり、突然出現したダンジョンへの対応だったり、理由は様々だ。

 

 それと、ダンジョン内の調査依頼なんかもあったかな。

 行方不明者の捜索だとか、ダンジョン自体の調査とか……まあ、俺たちにはあまり関係のない話だ。

 

「あとは、魔道具が競り売られてたりするんだ。そっちも見ておこうかと」

「魔道具……体が自由に変えれる魔道具とか、呪いが解ける魔道具、とかも?」

「あるかもね」

「おお……!」

 

 サンの目はキラキラと輝き始めた。こういう時はちょっと猫っぽい。

 尻尾で感情がわかりやすいのもあるけれど、サンはそれがなくても十分にわかりやすいタイプだ。

 

「さて、と」

 

 連盟の施設について、扉を潜る。

 周りには、夥しい数の探索者。見ているだけでも、人酔いしそうになってくる。

 

「こっちかな。おいで」

「はーい」

 

 逸れないようにサンの手を引いて、辿り着くのは依頼が張り出された掲示板。

 意外と量が少ないのは、やはりこの国も比較的探索者が多いからだろう。

 

「おお……ファンタジーって感じ……!」

「はは……」

 

 サンは何やら、僕にはよくわからない感動をしていた。

 

 ……いや、少しわかるかもしれない。本で読んでいただけのダンジョン。他の国々。外の世界。

 それが現実に、目の前に現れて。その時の感動は、今でもはっきりと覚えている。

 

「少し見ていこうか」

「うん」

 

 どれどれ、内容の程は。吟味するために、サーっと依頼を見回していく。

 畑に出現したダンジョンの攻略、《悪竜の墓場》内、新規ダンジョンの調査。仲間を探しています、落とし物捜索。

 

「うーん……」

 

 どれも面倒そうだ。めぼしいものと言えば、一番最初のやつだろう。

 畑にダンジョンだなんて、きっと困っているだろうし……よし。これにしようか。

 

「サン、何かいいものはあったかい?」

 

 その前に、サンにも確認を。

 そう、振り返ると。

 

「……」

 

 サンは一枚の紙を手に、立ち尽くしていた。

 

「サン……?」

 

 覗き込んでみると、そこには大きな文字で、一言。

 

───悪竜の調査依頼。

 

 と。そう、書き込まれていた。

 

「っ……」

 

 依頼人は、ファンタジア支部。つまり、連盟直々の依頼。

 今までは噂話でしかなかった悪竜の話が、突如現実味を帯び始めていて。

 

「これ、受けたい」

「ダメだ」

 

 だから、サンがそう言った時。咄嗟に、頭ごなしに、否定してしまったのだ。

 

「なんで」

「理由は、三つある」

 

 ただ、その理由はさして難しくないもので。

 

「一つはその依頼の階層。ダンジョンの深部だ。多分、悪竜の目撃情報が多いのはそこなんだろう」

 

 噂には聞いていた。悪竜が出るというダンジョンは、ある程度まとまっている。

 ただ、問題はその深さで。

 

「僕とサンは二人だけ。少人数で長期間ダンジョンに潜ろうとすると、十分な休息を取るのは難しい。普段とは違うんだよ」

「……魔窟の時は」

「ソラさんがいた。でも、今は違う」

「っ……」

 

 今までサンとダンジョンを攻略する時は、短期間での攻略を心がけていた。

 

 《悪竜の墓場》は、これでもこの国最大のダンジョン群。

 そこに二人で長期間潜ることは、あまり前向きになれない。

 

「もう一つは、その依頼の危険性」

「危険、性……」

「……悪竜の痕跡を調査、と言われてはいるけれど。噂の化け物に、出くわさないとも限らない」

 

 悪竜と同一視されているそいつの強さは、未知数だ。

 例えばそれが、僕やサンでも容易に殺せる程度なら問題ない。だけれど、僕たちよりずっと強い魔物だっている。

 この国の探索者が手をこまねいているのだから、それを憂慮するのも当然だろう。

 

「……三つ目は?」

「時間がかかる。小銭稼ぎには、割りが合わないんだよ」

「……」

 

 サンは、みるからに不満そうだった。

 けれどだからって、やっぱり、なんてするつもりもなかった。

 

 ……それにしても、連盟から依頼が出るなんて。いよいよ、悪竜の噂も無視できなくなってきたらしい。

 まだあまり話を聞かないと言うことは、この依頼が張り出されたのは本当に、つい最近だろう。さっきかもしれない。

 

 大方、いつぞやのように外来生物が住み着いているか、新しいダンジョンボスが生まれた……なんていうのが、オチなんだろうけど。

 

「じゃあ、たくさん人を集めれば行ってもいいってこと?」

「……え?」

 

 もう、サンは引き下がっただろう。そう思って、だから、彼女の言葉には驚かされた。

 

「そうすれば、危なくないだろ」

「……危なくない、なんてことはない。危険性が、少し下がるだけだよ」

 

 なんて、普段の攻略だってそれは同じだ。

 けれど、それにしてもこの依頼は……少なくとも、あまり乗り気にはならない。

 

「……でも、ほら。俺……俺は、強いよ……?」

「知ってるさ。それでも、これは取らなくていいリスクだろう?」

「う……」

 

 確かに、サンは強くなった。俺も。

 けど、サンだって忘れたわけじゃないだろう。

 あの戦いでの、己の無力さを。身を焦がされるほどの、悔しさを。

 

「けど……」

 

 それでも、やっぱりサンはその依頼が気になるみたいで、違和感を感じた。

 

「どうして、そんなにそれを受けたいんだ?」

 

 思い浮かんだ疑問をそのまま口に出すと、サンは小さく俯いてしまう。

 何か、俺には言いづらいことなんだろうか。

 

「だって、悪竜は……もし、悪竜が、本当なら……」

「……?」

「悪竜が、さ……もし、本当に生き返るなら……」

 

 まごついて、サンは。

 

「……なんでも、ない」

 

 自分の言おうとしていることに、自信がなくなったみたいに押し黙ってしまった。

 

 ……ああ、なんだ。そういうことか。

 サンがやけに、悪竜に執着している理由。同族意識や、好奇心なんかじゃない。

 

 死者の復活。サンが目を向けているのは、ただその一点のみだ。

 全部、合点が行った。サンがなぜ、死者蘇生なんてことを言い出したのかも。なぜ、苦手な本を読んでまで、悪竜を知ろうとしたのかも。

 

「サン……」

 

 ミーニャさんの、言う通りだ。

 今、この子をこのままにしておくのは危険すぎる。

 

「……なに?」

 

 きっとこの子は、誰かが説得しない限り。どこまでも、どこまでも……ダンジョンの、奥深くへ。

 

「……悪竜は……死んだ生き物は、復活なんてしない。もし居るなら、それは悪竜にそっくりなナニカだ」

 

 だから、せめて……これだけは、伝えておこうって。

 

「……そう……だよな……」

 

 こんな俺でも。お前には、笑っていて欲しんだけどな。

 

「ちょっと失礼。これもらってくニャ」

「あ、どうもすみませ……ん?」

 

 いや、この声は。

 

「ミーニャ?」

「あ、サン! 昨日ぶりだニャ! ホントによく会うねぇ!」

「ミーニャさん……」

 

 何の因果なんだか。改めて、よく会うなぁ。

 

「……イリオスも。おはようニャ」

「どうも」

 

 でも、昨日あんなことがあってから、まだ一日も経っていないわけで。とても気まずい。

 

「ん……? なんかあったの? 二人」

「いや、何も……なかった、ですよね?」

「……うん、そうだよ。何にもない何にもなーい。なになに、やきもち? 可愛いところあるんだねぇ」

「《ドラゴンブレ」

 

 とんでもないことを口走ったサンの口を、急いで両手で押さえた。

 耳が赤くなって、尻尾がだらんと垂れ下がっている。なるほど、照れ隠しか。

 

「ちょ、ダメだよ、こんなところで撃ったら……二人とも、依頼探し?」

「はい。体が凝り固まってしまうので……」

「ふーん、なるほどニャ。どうどう、なんかいいものあったの?」

「……なかった。ミーニャは?」

 

 サンがそう言って問いかけると、ミーニャさんは「にゃっふっふーん」と意味不明なことを呟きながら、先程俺たちの間から取った紙を見せて。

 

「これニャ、これ。悪竜の調査依頼」

「え」

 

 それが、つい先程サンが戻した紙だったものだから。つい、おかしな声が出てしまった。

 

「最近、結構話題になってるんだよ? 悪竜の話。一部ダンジョンは入場制限もされかけてるし……ちょーっとほっとけないよねぇ」

「でもそれ、危ないんじゃ……」

「そんなことないニャ。いや、油断はダメだけど……あくまで調査依頼。帰還の魔道具があれば、万が一でもなんとかなるよ」

 

 「話が違うぞコノヤロウ」、そんな感じでサンに睨みつけられるけど、別に嘘をついたつもりはない。

 

 少なくとも二人で行けるような依頼ではないし、手間暇を考えれば受ける理由もなく……特別な理由があれば、話は別だけれど。

 今回の場合は、むしろそれも受けない判断に拍車をかけた、

 

「ひょっとして、これを受けようとしてたの?」

「う、うん。一応」

「あー、それはちょっと厳しいかもニャ……二人で受けるような依頼じゃないし、そもそも許可が降りなそー……」

 

 どう言い訳、もとい弁明したものかと迷っていると、まさかのミーニャさんから助け舟が出される。ありがたい話だ。

 

「あ、そうだ。二人も一緒に受ける?」

 

 かと、思ってたんだけど。次に出されたのは、きっと泥舟だった。

 

「いいの?」

「もっちろん。どうせ四人だと微妙なところだったし、他のパーティと組もうと思ってたニャ。サンとイリオスなら強さもお墨付きだし、みんなも反対しないでしょー。どう?」

「ご主人……?」

 

 サンに、期待の眼差しを向けられる。

 

 ……ああ、畜生め。余計なことをしてくれる。

 これじゃあ、サンを説得するための理由が減ってしまう。

 

 ミーニャさんも、悪竜がサンの妄執のきっかけであることくらいは気づいてるだろう。

 何がしたいんだ、この人は。

 

「……」

 

 そんな意図を込めて、ミーニャさんと目を合わせて。彼女は、口をパクパクと動かしていた。

 師匠直伝の読唇術で、かろうじて読み解いてみると。

 

「一度、現実を見せておくのも手だよ」

 

 ……と。そう言いたいらしかった。

 

「う、ん……」

 

 確かに、そうかもしれない。

 一度、ここで悪竜の正体をはっきりさせることができれば。サンも妙な期待は捨てて、サッパリと前を向けるかもしれない。

 

 ……でも、そんなのは楽観的な予測で。ほとんど、願望のようなものだ。

 

「ねぇ」

 

 頭を悩ませていると、ミーニャさんはずい、と距離を詰めてきた。

 彼女は、丸い目でしっかりとこちらを見据えて。

 

「私も、できる限り手助けするからさ。一緒に行こうよ」

「……」

 

 できる限り手助けする、か。

 一体、()()()についての話なんだか。

 

「……わかった。でも、危なくなったらすぐにやめるよ」

「やった! さっすがご主人、話がわかる! イケメン! 優しい! いい感じ! えーっと……や、優しい!」

「褒めの語彙が無くなるの、早くないかな!?」

 

 もし、サンの抱える問題についてなら。

 ミーニャさんの意図が読めないながら、淡い期待を抱いて、提案を受け入れてしまった。




お久しぶりの更新です。
不調を始めとし、少し色々……色々ありました……
更新ペース、戻せるように頑張ります……
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