TS従魔のダンジョン攻略記!   作:おにっく

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黒い巨鳥

「ってことで、二人を連れてこーと思うニャ」

「どういうことで?」

 

 サンとイリオスを引っ張ってきたミーニャに、真っ先に突っ込んだのはバウである。

 

「んー、そこで行きすがってニャあ。せっかくだし一緒に行こうって」

「せめてそれを先に伝えてください……それと、せっかくだしというのも……」

 

 次いで、パーシァである。

 二人はミーニャとノワールに比べて常識があるため、割を食いやすかった。

 

「真面目なお話をしますと、私以外にも精度の高い回復魔法の使い手が欲しいです。それに、サン様に夜遅くまでの見張りはできるのですか?」

「……戦力としては、問題はないが。少し、人数が少ない」

 

───なんか思ったより歓迎されてなくない?

 

 意思のこもったサンの目を、イリオスは頬を掻いて誤魔化した。

 

 イリオスは水を利用した感知魔法を使い、ダンジョンへの知識の深さを持ち、さらに料理もできるオールラウンダー。

 サンは圧倒的な力を持ち、飛行も可能な超特化型戦闘要員。

 

 二人の相性は悪くないのだが、これが集団での長期活動となると少し話は変わってくる。

 二人にしかできない技能は、持て余すのだ。それを頼りに動けば簡単に瓦解する。

 

 とはいえ、それでも当然いれば重宝される存在だろうが、今回の場合欲しいのは頭数だったのだろう。

 

「あの、俺とサンも回復魔法は使えますよ。一応、サンの方が上手いです」

「え、そうなの?」

 

───そうなんだよ。

 

 と、説得の傍でイリオスは頷いた。

 サンの場合、不衛生なのに回復魔法を使ったりするせいで効率が悪いのだ。最悪、悪化してもおかしくない。

 適切に使えばより回復魔法は強く作用するが、竜人由来の頑丈さで乗り切ってしまうせいで成長がないのである。

 

「……具体的には、どの程度の治療が?」

「打撲や、多少深い切り傷程度ならすぐに治せます。それ以上となると、少し時間は……」

「あら、すごい……」

 

 回復魔法はかなり難易度の高い魔法だ。

 正確な知識と、精密な操作を求められる故である。

 身体強化魔法と同様、古来ではほんの一握りの人間しか使えなかった。

 

「……坊主、確か収納の魔道具持ってたよな? サンの嬢ちゃんも」

「はい、一応」

「んっ!」

「そうなっと、いるだけありがてぇな……いいんじゃねぇのか? 俺は賛成だぜ」

 

 自分ではなく魔道具が評価された事実に、サンは少しむくれてみせた。

 無論バウとしてはそんなつもりはなく、サンが圧倒的な実力を持っていることは大前提としているだけだ。

 

「どっちにしろ、今回のダンジョンはスペースが限られてるしな。大人数では行けないだろ」

「それは……そうだ」

 

 今回の調査は、いわば先遣隊としての役割があり、真偽の確認とルート構築が主な目的。

 迅速さも求められるゆえ、大きくても十人規模。六名であれば、十分人数として確保できている。

 

「連盟も行方不明者の捜索を頑張ってるけど、この辺のダンジョンは手出しできてないみたいだしニャ」

「……それも……そうだ」

 

 故にこそ、今回の調査は探索者を募集している。

 ファンタジア支部の職員では実力が足りず、他国から呼び寄せるには時間と金がかかるのだ。

 

「……そうですね。私としては、懸念点は解消されました」

「俺も……そうだな……」

「さっきからそうだしか言ってねぇぞリーダー」

「壊れた蓄音魔道具みたいだニャ」

 

 なぜだか責められて、ノワールはしょげた。

 

 本当にそう思うから同意してたのに、なんでちょっと強い言い方をするんだろうか。

 周囲としてはそんなつもりもなく、かつそうも見えなかったため、ノワールの気持ちは彼以外に伝わることはなく。

 

「……では、一度目の調査は。このメンバーで、いいだろうか?」

「賛成ー」

 

 ともあれ、締め括ってみせたのだった。

 

 

 

 

 数日おいて。

 

「ここが例のダンジョンか」

 

 調査の方針を固めた六人は、ダンジョンに訪れていた。

 

 広めの洞窟のようなそのダンジョンは薄暗く、けれどもほのかに明るく。

 ひんやりとした空気が肌を撫で付け、鳴らす音はこの世ならざる者のようだった。

 

「不気味、ですね……」

 

 そんなダンジョンにて、六人の陣形はかなり単純なもの。

 広範囲の探知を行えるイリオスが中央で《広域型感知魔法》を発動。遠方を見渡せ、かつ戦闘力の高いサンが前衛を務める。

 

「なーんで私がこいつと一緒なんだニャ!」

「お前は、貧弱だ……仕方ない……」

 

 後方確認は夜目の効くミーニャ。また、タフなノワールが横につく。

 

「つーかお前その鎧の色変えろニャ!! 見づらい!!」

「……それも、そうだな。すまない」

「はぁ……わかればいいニャ」

 

 いつも通り苦労させられて、ミーニャは大きく息を吐いた。

 

「パーシァの嬢ちゃん。明るすぎやしねぇかい」

「……」

「杖にヒビが入っちゃいねぇかい」

 

 光魔法が得意なパーシァは嫉妬に怒りながらも、サンの後ろで全体を照らしていた。

 横のバウは戦闘要員である。

 

「後ろも前も女、子供に任せるってのは情けねぇな……」

「いつものあの魔道具は使わないのですか?」

「温存してんだ。場合によっちゃミーニャの嬢ちゃんと代わるぜ」

 

───それ私にくれないかな。ミーニャさんと代わるから。

 

 そう、思わなくもなかったが、バウが後ろに行った方が都合がいい場合もある。

 仕方ないなと、パーシァは言い出すのをやめにした。

 

「しかし……イリオスは、感知魔法も使えるのだな」

「確かに、珍しいですよね。何を感知するんですか?」

 

 感知魔法は、本来分類としては存在しない俗称である。

 というのも、何を感知するかによってその性能が大きく異なるからだ。

 感知魔法の種類分けが難しいため、単純な属性魔法の区分に入れておいた方が、何かと都合がいいのである。

 

「生き物の体液です。水の流れと、血中の鉄分量を探知してます」

「ほぉー……ああ、この前後ろ見なくても俺に気づいたのはそれか」

「そうですね」

 

 この前の一件、つまりはイリオスがミーニャに落ちこませられたあの一件、を、持ち出すのはいかがなものか。

 若干のデリカシーのなさを感じながらも、イリオスは表にせず答えた。

 

「なんというか……珍しい合わせ方ですね。かなり頭に負担がかかっているのでは……」

「はは……もう、慣れました」

「最初の頃吐いてたもんな、ご主人」

 

 実用されていなかった理由はただ一つ、脳みそが焼き切れるからである。

 彼本来の処理能力の高さと、無意識下に行なっている魔法による演算の補助がなければ、とっくに廃人になっていてもおかしくないのだ。

 

「ミーニャ、どうなんだ? 同じ探知魔法の使い手としてはよ」

 

 話を振られて、ミーニャは少し不機嫌な顔つきになり。

 

「化け物レベルだよ。私だったら頭が三回くらい爆発してる」

「……頭が爆発する人間など……いるはずが、ない」

「例えニャ、例え!!」

「いや……冗談の、つもりで……」

 

 そしてその後、鋭いツッコミを入れた。

 軽く二桁回頭を爆発させているサンは、この二人は何を言っているんだろうと、遠い目で見ていた。

 

「ミーニャさんは、感知魔法が使えるんですか?」

「一応ね。風の感知魔法。身体強化魔法との併用だよ」

 

 触覚を鋭敏下させ、操った気流の変化により周囲の構造を把握するものである。

 なんとなくの地形を感知することができるが、その処理能力は本人に依存。多少効率の良い方法を用いているとはいえ、イリオスも同じことをしている。

 

「って感じ」

 

 ミーニャの説明を受けて、実感。

 イリオスは、思ったよりとんでもないことをしているのではないか、と。

 

「……坊主。実はロボットだったりするか?」

「違いますよ!!」

 

 ロボット扱いされ、イリオスはは憤る。

 色々と酷い扱いはされてきたが、流石に心と自由意志のない演算機扱いされたのは初めての出来事である。

 

「いや、悪かった。んなつもりじゃなくてな……坊主は料理といい戦闘といい知識といい、多彩だな」

「むっ」

 

 遠回しに脳筋と言われた気がしたサンが眉を顰めた。

 

「確かに……実は、良家の出身だったりされるんですか? 指南役がいたりとか」

「良家なんかじゃないですよ。指南役は……師事している方は、いました」

「……名を、聞いておきたい。さぞ、高名な……」

「高名……どうなんでしょう。リタさん……ウェイラ・リタって言うんですけど」

 

───あれ。というかさっきバウさん、ロボットって。

 

 と、そこまで話してイリオスは気づき。

 

「あの」

「ウェイラ!!? ウェイラってあの、ウェイラ・リタのこと!?」

 

 そしてそれは、すぐさま轟音で掻き消された。

 

「え……えっと、はい……」

「有名なの? ウェイラ」

「有名なんてもんじゃねぇよ」

 

 サンの反応に、お前もかと言った感じでバウが補足する。

 探索者で知らないものはいないほどの有名人。だが、サンは異世界人ゆえ、当然知る由はない。

 

「名前は分からなくても、異名でなら知ってる方も……隻眼の鬼神、六花の覇者、それと、氷結の女オーガですとか……」

「最後のはご主人がつけたやつじゃね?」

「……」

 

 ある時あまりに過酷な修行に、酒場のマスターに愚痴ったあだ名だったが、まさか広まっているとは。

 いや、それはいい。それは良いとして、もしこれがウェイラに伝わっていたら自分は今度こそ殺されるかもしれないどうしよう。

 

「ヒュッ……」

「へぇー、あの人がねぇ……ってことは、噂は本当だったんだニャ」

「噂?」

 

 顔を青ざめさせるイリオスを傍に、一人納得するミーニャ。

 彼女の呟きを、サンは見逃さなかった。

 

「うん、噂。鬼が幼体を連れてるって」

「幼体」

「あれは君のことだったんだニャ。噂より、結構おっきいけど」

 

 イリオスが成長期を迎えたのは、ウェイラと別れる少し前のことだ。

 色々あってやさぐれていたが、彼女との出会いでようやく飯をまともに食うようになったのである。

 

「言われてみればそのピアスに、銃に、戦い方も少し似ていますね……てっきり、憧れから真似をされているのかと」

「真似って、そんな奴いるの?」

 

 くどいようだが、探索者は死と隣り合わせの仕事。

 故にと言うかそもそも当然と言うか、コスプレをしながら探索をするやつは一部の例外(へんたい)やファンを除いていない。

 

「いるの、と言いますか……イリオス様のそれは、ステラ様の真似ではないのですか……?」

「……ん?」

 

 ステラといえば、あの銅像の。

 サンのすっとろい脳内CPUはたっぷり五秒ほどかけて、その姿を思い出す。

 

 髪型、剣、マント、軽装備。

 

「あー!」

 

 確かに、似ている。と言うより、今まで気づかなかったがかなり近い。

 ウェイラの装備をステラに付け足せば、まあ大体こんな感じになるかな、という具合である。

 

「た、たまたまですよ。たまたま」

「やー、無理があるでしょ。別に恥ずかしいことじゃないよ?」

「やめてやれ、嬢ちゃん。オトコノコにはな? 触れてほしくねぇ領域があんだよ」

 

 そう、偶々でもなんでもなく。イリオスのそれは、ステラの真似である。

 もちろん彼自身が強めのファンボーイだ、と言う理由もあるが、大半は妹の影響。この服装をすると、彼女はとても喜んだのだ。

 

「……ご主人、大丈夫。俺もね、俺もね、マフラー解く時にもう後戻りはできんぞとか言ってた」

 

 何を言ってるのかよくわからないが、とりあえず一緒にしないで欲しいことは確かだった。

 別に自分は、好きでやっていたわけではないのだ。

 

「……にしても、何にもないよな。今のところ」

 

 なんとなく話に区切りがついて、ふよふよと浮きながらサンがぼやく。

 

 悪竜の調査。その恐ろしさは、数日、情報を集めていたサンが身に染みている。

 だからこそ、かなり警戒心を持ってここに来ていたのだが。今のところは、拍子抜けもいいところだった。

 

「油断すんなよ、嬢ちゃん。この辺りはまだ被害報告がねぇ。もう少し先だな、件の場所は」

「今の所、痕跡も見つからないニャ」

 

 所々、戦闘の跡は見つかるが、小型の魔物のものが多い。

 加えて、この近辺にはまだ魔物がいる。悪竜のような強大な魔物がいたとして、住み着くことはだろう。

 

「イリオス……まだ、交代は大丈夫か?」

「平気です。かなり楽をしていますから」

 

 イリオスの現在の《広域型感知魔法》は、活動時間を加味して半径五百メートル。

 慣れてきたおかげで、この程度なら半日ほど保つ。無論、精度は徐々に落ちていくが。

 

「そう、か……もう少し、先に進んでみよう」

 

 今回の探索は、長期に渡る想定だ。

 場合によっては中継拠点を設営し、戻ることも考えているが、できるだけ進んでおきたい。

 

 そんな考えから、先に進んで。

 

「っ……!?」

 

 直後、全員が息を飲んだ。

 

「こ、れっ……!」

 

 洞窟の死角。曲がりくねった道の、その横側に。突如、真っ黒な巨大生物が現れたから。

 

「《ドラゴンブレス》!!」

 

 最初に動けたのは、サンだった。

 イリオスの《広域型感知魔法》はどうなった? こいつはどうやってそれを切り抜けた?

 

 そんな疑問を全て棚上げして、火を吐き出す。

 

「かてぇ……!!」

 

 爆ぜた炎で明らかになる全容。

 

 全身を黒い羽毛に包んだその巨鳥は、高さだけでも十メートルを超えている。全長は、いったいどれほどになるだろうか。

 鋭く尖った嘴の間からは牙がのぞいており、足は鳥のものとは思えないほど不気味に太かった。

 

 まるで今にも襲い掛からんばかりに、大口を開けている。

 

「だったら、先手必勝」

 

 右腰に構える拳。

 暗闇の中で、バチバチと雷を迸らせ。

 

「《暴竜集雷拳》!!」

 

 その鳥の顔面を、真っ黒に焦がしてみせた。

 

「《ウィンド・ブレイカー》!!」

「《ヒートチャージ》!!」

「《黒耀壁》」

 

 無論、指を咥えてそれを見る面々でもない。

 ミーニャは風の衝撃波を、バウは槍の先端に炎を纏わせ、ノワールは黒い壁を洞窟中から出現させる。

 

「《スター・トレイル》」

 

 イリオスもまた、それに続こうとして。

 

「……あ、れ?」

 

 全員が、違和感に気づいた。

 

「死んでる……?」

 

 ピクリとも、動かないのだ。

 今にも襲いかかってきそうな、その魔物が。巨体のまま、こちらを見据えるのみ。

 

「……」

 

───もしや。

 

 恐る恐る、イリオスはその鳥に近づいていく。

 

「あ、危ないよ?」

「いえ……」

 

 ゆっくり、ゆっくりと歩み寄って。深く、剣を突き刺した。

 

「……先程申し上げたように。僕の《広域型感知魔法》は、対象の血と体液を感知するものです」

「う、うん」

岩人形(ゴーレム)のような、血を持たない生物。あるいは、小さすぎる生き物でもなければ、必ず見つけることができる」

 

 そして、それを一気に引き抜いて。

 

「だから、不思議でした。なぜ、気づかなかったのか……でも、これで腑に落ちた」

 

 サンたちに、刃を見せつけ。

 

「干からびてます」

 

 その剣には、一滴たりとも血がついてはいなかった。

 

「っ……なぁ、坊主よ……普通生き物は、そんなふうに死なねぇよな……?」

「はい……」

 

 それだけではない。

 わざわざ、大口を開けて待機していたあのポーズ。意図してその動きを取らせでもしない限り、ああはならない。

 つまり。

 

「剥製……?」

「……そういうことだよ」

 

 その場の全員が、同じざわめきを感じ取った。

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