過酷な世界で生きる   作:バトルマスター幸恵

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第6話「家族」

は今家に居る。

あの後はいつものように素振りをし、アリアと他愛ない会話を繰り広げ帰ってきた。

今家に居るのは俺とリドロフだけだ。

ミシーナは森の方へ護衛に行っている。

リドロフ曰く何も見つからなければ、今日の夜、もしくは朝に帰ってくるそうだ。

 

リドロフは、心配しなくて良い、彼女は負けない。

と言っていた。

これが長年を共にしてきた人間の信頼なのだろうか。

俺にはまだ、完全には理解出来ないな。

 

ちなみに今は、椅子に座りながら、彼が作っている食事を待っている所だ。

ミシーナが居ないので食事はリドロフが作っているのである。

 

「出来たよー」

 

リドロフは出来たての野菜スープを二つ分運びながら、俺の対面の席に着く。

 

「ありがとう」

 

「おう」

 

俺の目の前には、チーズ。黒パン。野菜スープが並んでいる。

ちなみに野菜はかなり大雑把にカットされていた。

まあ...俺の前世から見れば貧相なのかもしれないが、この世界の平均的な晩飯だ。

俺も別に嫌いという訳では無い。

いや、こういった男飯は個人的に好きだ。親近感を感じる。

 

「父さん話があるんだけど、今いい...?」

 

俺はリドロフがご飯を食べる前に言う。

俺は今から前世の話をするつもりだ。

信じてくれるだろうか...。

いや別に信じなくても構わない。

ただ俺が話しておきたいのだ。

もう演じるのに疲れてしまった。

 

「...?どうした、モウア?」

 

心臓がバクつく、頭では大丈夫、少なくとも捨てられたりなどはしない。

そう理解出来ている。

だが、どうしても怖い。

分かっているからと言っても、直ぐに行動に移せる訳では無いのだ。

怖いものは怖い。

俺が言い淀んでいると、リドロフが話しだす。

 

「モウア、顔色良くなったな...良かったよ...」

 

そういえばあの後アリアにあの時の顔色を聞いたら、顔に死と書いてある、と言われた。

俺が思っていたよりもずっと、顔色は悪かったのかもしれない。

 

「「.........」」

 

長い沈黙が生まれる。

気まずい。

多分俺が話出すのを待ってくれているのだろう。

でも怖いのだ。

頼る。

みんな簡単に言う。

それがどれ程難しいか分からずに。

 

俺はずっと、彼らの子供として過ごして来た。

この六年間ずっとだ。

それを急に「実は僕は前世の記憶があってー」と、どうやって言えというんだ。

 

そう思っているとリドロフが俺の両肩に手を置く。

ゴツゴツとした、男として憧れる手だ。

 

「何があっても、どうなっても...俺は、俺たちはお前の親だ」

 

そう俺が今から言おうとしていた事を察したかのように言った。

そうだな。

リドロフとはもう六年も一緒にいるのだ。

もっと信じよう。

アリアにもそう言われたじゃないか。

大丈夫。大丈夫だ。

俺はそう自分に言い聞かせた。

 

「父さん、えっと何から話せばいいか分からないんだけどね...」

 

 

 

――――

 

俺はアリアに話したように、洗いざらいすべてを話した。

ちなみに神についてと世界大戦については話していない。

あれは、また俺の前世と別の問題だ。

それに本当に起こるかも分からないし、今は良いだろう。

 

「食事にしようか...」

 

俺が話し終えると、リドロフはただ一言そう言った。

否定の言葉でも肯定でも無い、まして驚きでも無かった。

きっとある程度察しはついていたのだろう。

リドロフは賢いからな。

 

「「......」」

 

俺たちは沈黙の中食事を食べ始めた。

いつもバカみたいに声の大きい母さんがいないと、こんなにも食卓は静かなんだな...。

また気まずくなってきてしまった。

申し訳ない。

 

でも、話すことは出来た。

これで大丈夫なはずなんだ。

俺の背中に気持ちの悪い汗が滲みでる。

そう思って居るとリドロフは意を決したように喋りだした。

 

「実はなモウア...僕達は大体分かってたんだ。流石にその地球?の話は想定外だったが、モウアは多分、6歳じゃないんだろうなってのは...なんとなく...察していたんだ。正直怖かったよ」

 

「......」

 

俺は思わず黙り込む。

胸が痛い。

そりゃあ...怖いよな。

 

自分は子供を育ててると思ったらただの子供では無く、全くの他人の記憶をもった子だったなんて誰だって怖い。

俺が親でも怖がっていただろう。

分かっている。

分かっているが...。

俺はこの人に拒絶されたくない。

きっとこれは我儘なのだろう。

でも嫌だ...もう、嫌だ。

俺は家族に成りたいのだ。

 

「それで僕は母さんに相談した、どうしても怖かったからね、でもあの人何て言ったと思う...?」

 

「......」

検討がつかない。

あの人は何て言うだろうか。

 

「彼女はこう言ったんだ、『で?それでどうするの?』って、そこで気づいたよ。僕達はこの子の親だ。どんな事実があろうとそれが変わるわけじゃない...それは事実だし、そうありたいと思う。本当に。ごめんね」

 

リドロフはそう言った。

 

「はあっ...」

 

俺は咄嗟に息を吐く。

自分でも気づかない内に息を止めてしまっていたようだ。

 

「モウア、もう一度だけ言うよ...何があっても、どうなっても...俺は、俺たちはお前の親なんだ」

 

リドロフは俺に言い聞かせるように...力づよくそう言った。

この人はいつから察していたんだろう。

 

確かに言われてみれば、俺が欲しかった情報をある程度素早く手に入れることが出来ていた。

この人達のサポートがあったからなんだな。

そうか、この人達は俺を尊重していたのだ。

ずっと前から。

俺のやりたいようにやらせてくれていた。

彼らは俺が自分について語りだすまで、ずっと待ってくれていたんだ。

彼らは最初から『俺』の親だったのだ。

 

俺の胸の痛みはもう既に無くなっていた。

よくリドロフを見ると、俺と同じでほとんど食事が進んでいない。

この人も怖かったのかもしれない。

正直俺は両親の事を余り親だと思ってはいなかった、子供の演技をしていたし、それがこの人達の幸せでもあり、俺の義務でもあるそう考えていた。

でもそうじゃ無かった。

 

この人は最初から俺の親だった。

なぜ俺の頭は要らない事を気づかせるくせに、こんなに大切な事は気づかせてくれないのだろう。

親...か。

 

「いいのかな...?」

 

俺の口からこぼれる。

言うつもりは無かったのに、こぼ落ちてしまった。

 

「ああ...もちろん...僕の方こそちゃんと気づいてやれなくてごめんな...」

 

リドロフはそう言った。

ずっと前からこの人は俺をクルト・モウアとして接してくれていた。

この人にとっては俺とクルト・モウアがいるのではなく、俺がクルト・モウアなのだ。

なんて当たり前な事だろう。

 

そうか。

最初から、俺とクルト・モウアを分けて考えているのは俺だけだったのだ。

俺はそれに今やっと気づいたのだ。

自分でも愚かだとは思う。

でも俺にとって大きな一歩だと思う。

 

「うん...大丈夫だよ。今からも『父さん』って読んでいいかな?」

 

「ああ。」

 

リドロフ...いや、父さんは少し笑ったきがした。

俺は今日初めて親子になれたそんな気がする。

今からでも遅くは無いだろう。

いまから家族をやっていくのだ。

 

 

―――――

 

俺が父さんに秘密を打ち上げた夜。

俺はリビングの椅子に一人で座っていた。

ミシーナ...いや、母さんを待っているのだ。

父さんは俺の事を気遣ったのか先に寝てしまったようだ。

 

そうして待っているとガチャリと扉が開いた。

風に綺麗な茶色の髪をなびかせ、夜を背景にし、母さんが現れたのだ。

 

「母さん...お疲れ様。護衛は成功したの?」

 

「そうね!あの魔物の原因は分からなかったらしいけど、護衛自体は成功よ!魔物全部叩き斬ってやったわ!」

 

母さんはそう大きな声を響かせながら笑う。

 

「そうなんだ...凄いね...それでさ、母さん。ちょっと言いたい事があるんだけど良い...?」

 

母さんにも話しておかないといけないだろう。

父さんから話を通すのは中々不義理な気がする。

話すなら俺からだ。

それが最低限の義理だろう。

 

母さんは怒るだろうか、父さんのように謝るのだろうか、それともある程度察していたし...話した事を感謝するのだろうか。

正直全く予想が出来ない。

だが話すしかない。

どう言われても...。

 

俺がそんな事を思っていた時だった。

母さんから予想外の言葉が返ってきた。

 

「ダメよ。」

母さんらしからぬ小さな声でそう言った。

 

「......え?」

 

俺の口から漏れる。

それは...俺の話をしてはいけないと...?なぜ...?

確かに俺は疑問形で言ったが、否定されるとは思わなかった。

すると母さんが俺にゆっくりと近づくと、ポンと俺の頭に手を置いた。

 

「もう...解決したんでしょう...?」

母さんは冷静にそう言った。

 

「なん...で...?」

 

思わず俺は聞く。

解決したにはした。

でも母さんに話していないし、こう言っては悪いが、母さんは思慮深いタイプでは無い。

何で分かったのだろうという疑問が俺の中を渦巻いていた。

気になったりしないのだろうか。

 

そう思って居ると、母さんは少し笑い、当たり前の事を言うように口を開いた。

 

「だって...親だからね...」

 

そうか...そうだったか。

 

「早く寝るのよ」

 

母さんはそう言うと寝室に向かった。

そうか...この人にとっては、全部当たり前だったか。

俺はこの日。

この世界に来て初めて熟睡出来た気がした。

 

 

 

――――

 

俺は朝、ゆっくりと目を覚まし、リビングへ移動した。居たのは母さんだ。

 

「......おはよう」

 

俺の声は自然と小さくなっていた。

ほんのちょっぴりとだけ気まずいのだ。

いや、どんな顔をしていいか分からないと言った方が正しか。

問題自体は解決したんだがな......。

 

「おはよう!朝ご飯出来てるわよ!食べなさい!!」

 

母さんはそう言うと、俺に野菜のスープとパンを出した。

いつもの朝食と同じ料理。

いつもと同じ母さんの大声。

父さんは既に仕事に出かけていたようだ。

これもいつも通りである。

そこにあったのは全ていつも通り、何も変わらない、

いつもと同じ、俺の家族だった。

 

 

 

――――

 

数日が経った。

あの魔物の発生原因はまだ特定できていない。

それが少し怖いが、まあ教会が発生原因を究明中だ。

直ぐに原因は分かるだろう...。

 

今日はアリアから戦争を止めるなら情報交換が必要と言われ、悪夢が現れた場所に集まっている訳だが、今はアリアと一緒にボケっと寝っ転がっている。

まあ...情報交換という名目で遊んでいるだけだな。

 

なんとなくだが、あの一件から俺と彼女の距離は近くなった気がする。

アリアも少し饒舌になっただろうか。

少なくともあの異常な様子はほとんど無くなっているようだ。

今はダウナーで大人びた魅力を持つ少女と言った様子である。

可愛い。

 

「アリア先生!剣の流派について教えてください!」

少しおちゃらけて話しかけみる。

 

「そうねぇ...一言で言うなら、速心流は自分が死んでも敵を殺せば勝ち、みたいな流派。頭がおかしいと思う。王国流は平凡。帝国流はなんでもありで強い。我流は弱いって感じね。」

 

面倒くさそうにそう答える。

母さんが速心流はダメだと言っていた理由が分かった。

 

「例えば?」

 

「うーん...まあそこら辺はある程度教会で学ぶんじゃない...?それより等級の方が大事。ちなみに等級は三大国の試験で決められてる」

 

なるほど...?

 

「三大国っていうのは...?」

 

「あー...教会やるだろうから、説明は省くわ...」

 

これあれだ、説明がめんどくさいだけだ。

最近きづいたけどこの子、めんどくさがりなんだよな。

剣を振っている時はカッコイイんだが、それ以外の時間はボケっとしているというか、グデっとしているというか。

 

 

「等級って言うのは?」

 

「そうね、等級は知らないと死ぬからちゃんと教えとく」

 

何それ、怖い...。

ひょいっとアリアが立って木刀をひろう。

 

「目安としては同じ等級の魔物に互角かそれ以上に戦える感じ。八から六までの等級は...まあ一般人。どれだけ鍛えたかみたいなもの。第五等級は、才能があればいけるんじゃない?まあここら辺はどうでもいいわ...大体似たり寄ったりで雑魚ばっかりだから」

 

ほう...雑魚か...雑魚?ほんとに?第五等級って悪夢と互角なんだろ?十分化け物では...?

 

「ちなみに第五等級って何人に一人くらいなの?」

 

「んー...一万人に一人くらい?」

「ええ...」

 

それは...とんでもない才能では?

 

 

「大事なのはここから。第四等級は天賦の才。選ばれた者。絶対に戦ってはだめ。クルトじゃ正面から一対一で戦えばどこまで作戦を整えても勝てないと思う。戦争をするなら第四等級の騎士を主軸にするでしょうね。」

 

 

「そ...そうなんだ...」

 

正面から戦えば勝てない...。

まあ言いたい事は分かる。

知力で武力に勝てるギリギリのラインがこの辺りなのだろう。

まあ。正面から戦う事は無いと思うが...。

頭には入れて置こう。

 

「そして第三等級。英雄の領域。人類の最高到達地点と言い換えてもいい。ちなみにこの等級から試験は無い。どちらかと言うと認められる物。国に一人居れば十分って感じ...?」

 

人類の最高到達地点という事は人類の純粋なスペックの限界なんだろうな...。

 

「ちなみに、アリアはどのくらいなの?」

 

「第四等級相当はある」

 

アリアはそう言いながらどや顔を俺にかましてくる。

可愛い。

最近気づいたがこの子は結構チョロイところがある。

 

「あれ...同じ等級の魔物と互角に戦えるんだよね」

 

「うん」

 

「じゃあ...アリアなら悪夢倒せたんじゃあ...」

 

悪夢は二メートル半程度の体格をしていたが、この世界の戦いに体格は前世程重要では無い。

魔力を体に循環させる事で身体能力を上げる事が出来るのからだ。

ちなみに俺が弱い理由でもある。

 

「まあ。勝てたって断言は出来ないけど多分...。」

 

「そっか...」

 

俺は結構思い違いをしていたんだな。

まあ、あの時点でこの子があの悪夢より強い事を察しろというのも無理があるが、もう少し頼ればよかったな。

今から気をつけていこう。

幸いにも俺はまだ六歳なのだから。

 

「ちなみにさ、アリアは固有魔法とか使えたりするの?」

 

「無理。私は魔力も多く無いし...一応第五等級の水魔法なら詠唱を短縮して使えるから、それを使って何とか経験とかで戦ってる感じ?」

 

「へえ...そうなんだ」

 

魔力は多くない...それでも第五等級の魔法を使えるくらいには多いんだな。

俺は...うん。

やめよう。

俺には頭脳がある。

そう言う事にしよう。

 

「まあいいや...それ以上の等級は...。」

そうアリアが言い淀む

 

「それ以上は...?」

 

数秒の沈黙がある。

まずい事なのか?

その時、少しだけ空気が変わった気がした。

さっきまでの少し緩い空気が引き締まり、いつになく真剣に言う

 

「ただただ理不尽で無敵。あれが人間なのか、魔物なのか、その他の生命体なのかは分からない。事象そのものと解釈した方が良いかもしれない。一応...人間の姿を保っているようだけど...言うなれば、怪物ね。」

 

「な...なるほど...」

 

「それで、第一等級だけど...。もし居るなら、それは神よ。勝つとか負けるとかそんな次元じゃない。世界の理に近い理不尽。まあ。これに関しては無い物として考えて良いと思う。誰も見た事無しい...一応大昔に居た見たいな記録はあるけどね。」

 

神か...俺が会ったあの上位者はこの等級に属するという事なのだろう。

あれは人間の姿を保っては居なかった。

あの鼻血や血涙は人類にはどうしようもない理不尽を感じたもんな。

 

あれ...まてよ。

俺あの邂逅した神に思いっきり喧嘩売ったよな...。

この世界の事を盾にして脅して、あの場所の物質を盗んだ...。

思ったよりとんでも無い事してしまったかもしれない。

まあ、あの多腕の神はこちらに干渉出来ないだろう。

別に問題ないか。

 

「まあこの辺りの事を良く覚えておくことが、平和に安らかに生きるコツだね」

 

「なるほどね...それ以外に注意することはあるの...?」

 

「あー...と言うかね...この世界あなたが思ってる以上に終わってるの」

 

「終わってる...終わってるってどういう事?」

 

 

「そうねえ...人工的に神を作って失敗して国ごと滅んだり、神を呼び出す呪文を開発したアホがいたり、それを全世界にばら撒いた奴がいたり、呼び出された神に興味本位で喧嘩吹っ掛けてボコボコにした人間がいたり...」

 

はあ?そんな...ええ...?

なんか急にとんでもない事言われて理解出来ないんだが...

 

「まあ歴史上の話よ...半分神話みたいな物。嘘かホントかも分からない。ただどうしようもない世界の大きな流れに殺されることもある。そんなの警戒しても無駄ってこと」

 

その言葉には強い説得力があった。

まるで私はそう殺されたと言わんばかりの圧力だ。

 

そうか、この子は何回も死んでる訳だもんな。

所作が達人じみているせいか、メンタルが安定しているせいか、その悲壮感のような物は余り感じ無かった。

言葉に出来ないような酷い目にあった事もあっただろに...。

 

「大丈夫、戦闘は無理かもしれないけど...神様相手は俺が何とかするさ。俺は賢いからね」

 

「何それ、慰めてるの...?」

 

そう言って少し笑う、先ほどの緊張した空気はほどんどなくなって居た。

 

「別にそう言う訳じゃないけどさ...。」

 

「大丈夫。ここに来たのは二度目って言ったでしょ?その時貴方は居なかった。でも今は居る。私の知っている世界と違いがあるの。今までそんな事は無かった。今、何かが変わり始めている気がするの。だから。大丈夫」

 

アリアは力強く言うと俺の横に再び寝転んだ。

この子にとっての救いに俺は成れていたんだな。

良かった。

本当に。

 

この世界のことについて伝えるとき思い出したくない事もあっただろうに、俺に伝えてくれた。

感謝すべきだろう。

そうして情報交換が終わった。

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