ゼロの使い魔~紅の吸血鬼~   作:青鉱

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その十一 ルイズ

 私は貴族だ。

 貴族とは決して敵に後ろを見せない者のことをいう。

 

「放して。放しなさいマリコルヌ!」

「ダメだよルイズ。今ここで君を放してしまったら、君はまたあのフーケのゴーレムに突っ込んでいってしまうだろう?」

「当たり前でしょう! 貴族が敵を前にして逃げるなんて出来るわけないじゃない!」

 

 彼に抱えられ森の中を進みながら、私は叫び腕を振り回す。

 

「力が無くちゃそれも無意味じゃないか」

 

 私を放すことなく、マリコルヌは言葉を紡ぐ。

 その一言が私に突き刺さる。

 

「それでも……それでも私は貴族よ!」

 

 胸の奥の鋭い痛みに耐え、叫ぶ。

 今の私には、縋るものなんてもうそれしかないのだから。

 

「ダメだね。だったら尚更僕は君を放さない」

「な、なんでよ!」

「君が好きだから、失いたくない。それでは理由にはならないかい?」

 

 マリコルヌの言葉に、私は言葉を失う。

 

「せめて、こんな時くらいは格好付けさせてくれよ」

「……あんた、後で覚えておきなさいよ。絶対にその顔殴りとばしてやるわ」

 

 自嘲するように笑みを浮かべ震える身体を必死に抑える彼に、私は小さく言葉を吐き出し顔を背けた。

 

「……ほら、運ばれてあげるから早く行きなさい」

「ごめん」

「謝るなばか」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「二人とも無事!?」

「私達は大丈夫よ。キュルケとタバサも怪我はない?」

 

 馬車まで戻ると、先に戻ってきていたキュルケとタバサが私達へと駆け寄ってきた。

 見る限り、二人に怪我はないようだった。

 

「ええ、私達も怪我はないわ」

「ミス・ロングビルとレミリアは?」

 

 私の質問に二人の表情が曇る。

 

「ミス・ロングビルはまだ戻ってきていないわ。レミリアはあの広場に一人残って……」

「あんた達、レミリア一人残してきたっていうの!?」

「残ったのは彼女の意志」

「だからって!」

「見捨てるとは言っていない。ミス・ロングビルと合流して態勢を整えてから直ぐに救援に向かう」

 

 二人に詰め寄る私を見つめ、タバサは悔しそうに表情を崩した。

 

「みなさん、無事でしたか」

 

 その声に振り向けば、森の中から草むらをかき分けロングビルがこちらへと歩いてきた。

 

「ミス・ロングビル、あなたも無事でよかったわ」

「破壊の杖は見つかりましたか?」

 

 彼女の言葉にタバサが抱えていた破壊の杖を見せる。

 

「なるほど、ではフーケがこちらへと来る前にすぐにこの場を離れましょう」

「ちょっと待って、レミリアがまだあの広場に残っているのよ。すぐに助けに戻らないと!」

「いえ、こちらに来る前に広場の様子を見てきました。フーケにやられたのか広場の中央に残ったゴーレムの残骸と共にミス・スカーレットの遺体を確認しました。あれでは彼女はもう……」

 

 顔を伏せるロングビル。

 

「そ、そんな、うそ……よね?」

 

 私は彼女に詰め寄り、その服を掴む。

 

「残念ながら、あれは間違いなくミス・スカーレットでしたわ」

 

 膝から力が抜け、その場にへたり込む。

 

「ルイズ……」

 

 私を支えるように、マリコルヌが肩を抱く。

 皆もまた、沈痛な面持ちで私を見ていた。

 

「ともかく、ここは引きましょう。私達にあのゴーレムに対抗する手段がありません」

「ミス・ロングビル、しかし」

「非情な意見であるのは理解しています。ですが、本来の目的を達した以上犠牲者を増やさないためにも逃げるべきです」

「私は残るわ」

「ルイズ! それは!」

 

 マリコルヌが声を荒げる。

 

「私はレミリアの主よ。せめて、彼女の遺体をこの目で確認するまでは、私は学院には戻らないわ」

「しかし、僕たちではあのフーケのゴーレム相手には手も足も出ないんだよ」

「わかっているわ。だから、行くのは私だけ。あんた達はこのままこの場を脱出してちょうだい」

「君一人残してそんなこと出来るわけないだろう!」

「……一つ、あのゴーレムに対抗できる手段がある」

 

 睨み合う私達にタバサが静かに告げた。

 

「これを使う」

 

 彼女が掲げたそれは破壊の杖だった。

 

「聞いた話では、昔オールド・オスマンはこれを使ってワイバーンの群を撃退したことがあったらしい」

「ですが、ミス・タバサ」

「壊さなければ問題ない」

 

 難色を示すロングビルにタバサは言葉を投げた。

 

「でも、肝心のそれの使い方なんてわかるの?」

 

 彼女の抱える破壊の杖を指さす。私はこんな特殊な形の杖の使い方なんて全く知らない。

 私の言葉に全員が考え込む。

 

「大人しくそれを渡してもらおうか、お嬢さん」

 

 不意に男の声が響いた。

 驚き、一斉に声のした方向――馬車の方を見ればそこにはフードを目深に被った人物が一人佇んでいた。

 

「いつのまに!」

「動くな」

「っ!」

 

 咄嗟に杖を引き抜こうとしたキュルケに一瞬で近づいたその男は、彼女の首元に短剣を突きつけた。

 

「さあ、その破壊の杖を渡してもらおうか。でなければ彼女の命はこの場で尽きることになるぞ」

「フーケ、何故ここに……」

 

 驚いた表情を見せるロングビル。

 

「ここに俺がいるのが不思議か? 俺はここで君達が揃うのを待っていたんだ」

「キュルケを放しなさい、フーケ!」

「それは聞けない話だ」

 

 杖を構えた私に、フーケは言葉を返すとキュルケの首に短剣の刃先を押し当てた。

 彼女の首に紅い筋が一本入り、そこから細く血が溢れ出す。

 

「あまり時間はないぞ。仲間の命を取るか、その破壊の杖を大人しく渡して皆無事に生き残る道を取るか、二つに一つだ」

「……分かった」

 

 少しの間睨み合いを続けた後、タバサは破壊の杖を彼の方へと放った。

 

「賢明な判断だ」

 

 キュルケの首に突きつける短剣を固定したまま、フーケは片腕で器用にそれを受け取った。

 そして、彼は短剣を下ろすとその場から跳び退った。

 直後、一瞬前まで彼の立っていた地面に氷の矢が突き刺さる。

 

「遠慮無しか。けれど、何の勝算も無しに姿を晒すほど俺も愚かじゃないぞ」

 

 続けて迫るマリコルヌのエア・カッターを短剣から長剣に持ち替え、切り払う。

 それからフーケは素早く森の茂みの中へと駆け込み、姿を消した。

 

「待ちなさい、フーケ!」

「待つんだ、ルイズ! 一人で行くのは危ない!」

 

 フーケの後を追いかけ、私もまた森の茂みへと駆け込んだのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「まいったわね。フーケの奴、完全に見失ったわ」

 

 フーケを追って一人森へと踏み込んだ私は、茂みの深い森の中でも損なうことのない足の速さにあっという間にその姿を見失ってしまった。

 それからしばらく森の中をさ迷った後、私の目の前には広場があった。

 瓦礫と土くれが散乱したその場所で、無造作に地面に転がったそれを目にする。

 目にしてしまった。

 

「レミ……リア?」

 

 欠けた頭部を晒し、赤いドレスを自らの血で更に紅く染め上げた私の使い魔がそこに倒れ伏していた。

 膝から崩れそうになる足を必死に動かし、彼女の下へと歩み寄る。

 震える腕で抱き上げる。

 

「冗談はやめてよ、レミリア」

 

 小さく、軽い身体が私の腕に収まる。命を失ったそれは、私にはとても重く感じた。

 

「返事しなさいよ。私は、絶対にあんたに主と認めさせるんだから、こんな所で寝てるんじゃないわよ」

 

 冷たくなった身体を抱きしめる。

 

「……お願いだから、目を開けてよ、レミリア……」

 

 嗚咽が漏れ、涙と共にその名を呼ぶ。

 返事があるはずが無いことは私自身がよく理解している。

 誰かの死がこれほどに痛いものなのだと、初めて理解した。

 

「なんだ、その娘っこは死んだのか」

「っ!」

 

 背後からの声に、私は咄嗟に杖を引き抜いた。

 瞬間、喉元に長剣の刃先が突きつけられる。

 

「止めておけ。お前が呪文を唱えるより早く俺の剣がその命を刈り取るぞ。大人しくしていれば危害を加えるつもりはない」

「いったい何のつもり? 殺すならさっさと殺しなさいよ」

「無駄な殺生は避けたいだけだ。それに、お前だってすすんで死にたくなんてないだろう?」

「ふざけないで! レミリアを殺しておいてよくもそんなことっ!」

「何のことだ?」

 

 軽く首を傾げたその様子に、私は一瞬で頭に血が昇る。

 杖を振り上げ、短く呪文を唱える。

 ロック。

 爆発。

 

「っ!」

 

 私とフーケの間で起こった閃光と爆音と衝撃に、二人してその場から吹き飛ばされる。全身の痛みを噛み殺して素早く起きあがり、間髪入れず詠唱を続ける。

 ライト。

 フーケの飛び退いた一瞬後に彼のいたその場所が爆発した。

 

「待て、今は争うつもりはない!」

「うるさい、喋るな! 今すぐここで死ね!」

 

 アンロック。

 爆発で巻き起こった土埃が視界を覆い尽くす。

 念力。

 ディテクトマジック。

 その中に更に魔法を打ち込む。

 土煙の中から、フーケが飛び出してくる。

 

「とんでもない失敗魔法だ」

 

 彼の拳が私の腹部に突き刺さった。

 

「がウッ!」

 

 衝撃と痛みに地面を転がり、吹き飛びそうになる意識を必死に繋ぎ止めながら更に呪文を唱えようと杖を振り上げる。

 

「少し寝ていろ。殺しはしない」

 

 声と共に杖を蹴り飛ばされ、目の前に迫る拳を最後に、私の意識は途絶えた。

 

To be next?

 




やだ、私の小説短すぎ?
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