ゼロの使い魔~紅の吸血鬼~   作:青鉱

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その十三

 フーケ達の姿が森の中へと消えたのを確認して、私は一つ息を吐き出した。

 自身の腕を掲げてみれば、長時間日の光に当たっていた箇所は爛れ、所々黒く変色し、触れればボロボロと炭化した皮膚が落ちる。

 その場を立ち上がり、破壊の杖を拾い上げた。

 

「――ああ、なるほど」

 

 ルーンの力で強制的に流れ込んできた知識に最後のフーケの言葉の意味を知り、一人納得して頷いた。

 しかし、思考を一旦打ち切り地面に転がっているルイズへと歩み寄る。

 

「あんな状況でまだ寝ていられるなんて、いい気なものね」

 

 直ぐ側で派手に戦闘を繰り広げていたにも関わらず、一向に起きる気配を見せないご主人様の様子に呆れてため息を吐いた。

 それから彼女の襟元を掴んで引きずり、周囲で一際大きな木の下へと移動する。木陰にルイズを転がし、その隣に腰を下ろした。

 何やら鈍い音がしたけれど無視だ。

 そうしてポシェットの中身を確認しようとして、舌打ちを一つ。

 既に大部分が黒く炭化した自身の腕が目に入ったからだ。これでは物に触れば途端に砕けて落ちるだろう。

 

「これは日が落ちるまでは動けそうにないわね。まったくもって忌々しい日差しだわ……」

 

 日が沈むまで後数時間。現状ではろくな回復は望めない。

 木の幹に背中を預ける。

 

「ん、うぅ……頭痛い……」

「あら、目が覚めたかしら?」

 

 そこで丁度額を押さえ身体を起こしたルイズに声を掛ける。

 

「レ、ミ……リア?」

 

 幾度も瞬きを繰り返した後、呆然とした様子でルイズは私を見る。

 

「……ああ、私も死んだのね。でなきゃレミリアがこんな所にいるわけがないもの」

「勝手に殺さないでちょうだい。生きてるわよ。私もあなたも」

「嘘。嘘よ。だって、あなたあの時絶対死んでいたわ。額に穴が空いて……」

「頭に穴が空いた程度で私を殺せるはずが無いじゃない。私は吸血鬼よ。人間ほど柔ではないわ」

 

 一つ息を吐き出す。

 

「生き、てるの? 本当に? そ、そうだったわ。フーケ、フーケはどうしたの!?」

 

 私の言葉が浸透するように、徐々にルイズの瞳に理解の色が浮かぶ。

 

「本当よ。ほら、この通り足だってあるじゃない。って、スカートを捲ろうとするんじゃない。フーケなら追い払ったわ」

 

 スカートの端を押さえ、端を摘むその手を叩く。

 衝撃で指が一本砕けて落ちた。

 

「あ、あなたその腕っ!」

 

 私の黒く変色した腕に目を丸くするルイズに肩を竦める。

 

「ちょっとした日焼けよ。フーケ相手に血も使い過ぎてしまったし、少しはしゃぎ過ぎたかしら……」

「はしゃぎ過ぎたって……バカなこと言ってるんじゃないわよ! 早く手当しないと!」

「気にするほどのものではないわ。夜を待てば自然と治るものなのだから。吸血鬼の不死性は伊達じゃないのよ」

「ならせめて安静にしていなさいよ。見ているこっちが痛いわ」

「はいはい、わかったわよ。そうだ、ルイズ。私のポーチから小瓶を一つ取ってくれないかしら。この腕では取れなかったのよ」

 

 自身の腕を掲げる。

 私の腕を見て、ルイズはポーチへと手を伸ばした。

 

「これで良いかしら?」

「蓋を開けてちょうだい。……ありがとう」

 

 ポーチから引き抜かれ、蓋の開いた小瓶を受け取る。

 中身を口に含み、嚥下する。

 少しずつ身体に力が戻ってくる。

 

「大丈夫、レミリア?」

「ええ、大丈夫よ。悪いんだけど、私は夜まで動けないから皆を呼んできてくれないかしら」

「わかったわ、呼んでくるからレミリアは絶対にそこを動くんじゃないわよ!」

 

 そう言って私を指さすルイズに軽く手を挙げて答えると、ルイズは森の中へと駆けていった。

 彼女の姿が森の中へと消えたのを確認して、ゆっくりと息を吐き出した。

 

「さて、夜まではゆっくりしていようかしら」

 

 瞼が強制的に下りてきて、そのまま私の意識が黒く塗りつぶされたのはそれからすぐのことだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 懐かしい者を見た。

 私の目の前に私と彼女がいた。

 紅魔館の唯一の人間で、私のメイドだった女。

 私は椅子に腰掛け、彼女の出した紅茶に口を付けている。

 メイドは私の傍らで静かに佇んでいる。

 時折私が話しかけ、その度に銀の髪を揺らしメイドが微笑む。

 既に過ぎ去った、セピア色に褪せた戻ることの無い光景。その懐かしさに私は眼を細めた。

 そうして、その光景はだんだんと薄れ、風景に溶ける様に消えていった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 目を覚ますと、そこは見知らぬ何処かだった。

 

「ミス・スカーレット、目を覚まされたのですね」

 

 傍らから掛けられた声にそちらを向けば、学院に残してきたシエスタが安心した様子で息を吐き出した。

 

「ここは?」

「トリステイン魔法学院の医務室です。ミス・ヴァリエールと共にミス・タバサの使い魔がお二人を運んでくださったのです」

「そう。どのくらい寝ていたのかしら?」

「ミス・スカーレットが運び込まれてから一日です。まだ安静になさっていてください」

 

 起き上がろうとする私をシエスタが抑える。

 強制的にベッドに転がされ、自身の腕へと視線を送る。

 腕は未だ所々黒ずんではいるものの、動かす分には特には支障は無いようだった。

 

「もう動く分には問題無いわ」

「駄目です。水のトライアングルメイジですら匙を投げかけるほどの怪我だったと伺いました。お願いですから、まだ横になっていてください」

 

 そう泣きそうな顔で懇願するシエスタに、渋々ベッドに横になる。

 

「ところで、ルイズはどうしたのかしら?」

「ミス・ヴァリエールでしたら……」

 

 私の言葉にシエスタが何かを言い掛けた時、無遠慮に部屋の扉が開かれた。

 

「シエスタ、レミリアの様子はどうかしら?」

「おはよう、ルイズ」

 

 ベッドの上でルイズに軽く手を挙げる。

 それにルイズは鼻を鳴らして答えた。

 

「随分と遅いお目覚めだったじゃない」

「そうね、すっかり寝過ごしてしまったようね」

 

 私は肩を竦める。

 

「今回の件に関してはオールド・オスマンへ報告は済ませたから、私は部屋に戻るけどレミリアはこのまま大人しくここで寝ていること。分かったわね!」

 

 突きつけるように指先を私に向けると、ルイズは足取り荒く医務室を出て行った。

 

「いったいなんなのかしら」

 

 ルイズの姿に私は呆れて溜息を零す。

 

「言葉ではああ言っていますが、ミス・ヴァリエールもミス・スカーレットをとても心配してらしたのですよ。オールド・オスマンの所へ行くまでの間、ずっとあなたの側に付いていらしたのですから」

 

 そう言って、シエスタはクスクスと笑った。

 

「なるほど、ツンデレね」

「ツンデレ、ですか?」

「いいえ、なんでもないわ」

 

 小首を傾げたシエスタに頭を振る。

 

「それじゃご主人様の命令もあるわけだし、私はもう一眠りさせてもらうわね」

「はい、おやすみなさいませミス・スカーレット。私はこのまま御側に控えておりますので」

 

 再びベッドに横になった私に、シエスタは軽く頭を下げた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「まずは破壊の杖の奪還ご苦労じゃったのう、ミス・スカーレット。大事無いかね?」

「ええ、ゆっくり休ませてもらったし問題無いわ」

 

 明くる日の朝、私は起きて早々にオスマンのいる学院長室を訪れていた。

 

「事の顛末は昨日ミス・ヴァリエール達から聞いておる。その活躍を称え、お主を含めミス・ヴァリエール達五人には勲章の授与を後日行うことになっておるのでそのつもりで。本当によくやってくれたのう。して、今日は何の用かね?」

「今日はミスタ・オスマンに訊ねたいことがあるの」

「ふむ、伺おうかの」

 

 ソファーに腰掛け、私は足を組む。

 

「あの破壊の杖についてなのだけれど、あれはどういった経緯で手に入れた物なのかしら?」

「何故そんなことが気になるのかね?」

「あの破壊の杖はこの世界で使われている銃を発展させた物よ。けれど、今のハルケギニアの技術レベルではあれだけの物を作ることは不可能だわ。あれは地球の人間の手によって作られた物よ。そんな物が何故この世界にあるのかしら?」

 

 私の言葉にオスマンはしばし口を閉ざした。室内に沈黙が落ちる。

 

「……あれは私の妻が集めていた物の一つなのじゃよ」

「あら、あなた結婚していたの」

「ほっほ、意外かの?」

「ええそうね、少し。そのあなたの心を射止めた奥様は、今は?」

「もう随分と昔に先立たれてしまっての。子供に恵まれなくて、今では気ままな独り身じゃよ」

「それなら、私が名乗りを上げても良いわよ」

「ほっほ、気持ちだけ受け取っておこうかの」

 

 そう言って笑うオスマンに、私は小さく笑みを浮かべる。

 

「その奥様は愛されていたのね」

「そう言われると年甲斐もなく恥ずかしくなるのう」

「ふふ、素敵なことだと思うわよ」

 

 オスマンは咳払いを一つ。

 

「それで、妻は珍しい物を集めるのが好きだったのじゃ。あの破壊の杖はそんな彼女が集めていた物の一つなのじゃよ。学院の創立時に記念として妻から貰ったものなのじゃ」

「あなたはあれが何か知っているのかしら?」

「昔、飛竜に襲われた妻を救った男が持っていた武器の内の一本ということは聞いておったのじゃが、それ以上のことは私にも分からんの。当時の思い出を妻が語る時、よくその男に嫉妬しておったものじゃ」

「あれはもっと厳重に保管するべき物よ」

「ふむ、それほどのものだと?」

 

 頷いた私に、思案するようにオスマンは自身の髭を撫でる。

 そうして、やがて大きく頷いた。

 

「そうじゃのう。今回の件は反省点も踏まえ、宝物庫の品の保管をもっと厳重にする事を約束しよう」

「そうしてちょうだい。ところで質問をしたいのだけれど良いかしら?」

「ふむ、何かの」

「今回の破壊の杖の様な品は他にもあるのかしら?」

「――妻の収集癖につられ、私でも色々と調べてみたことがあるのじゃが、このハルケギニアにおいて、使い道の分からない品が何処からか流れ、世界各地で見つかる事は知っておる。破壊の杖もそういった品の内の一つじゃろう。しかし、それ以上の事は私にも分からなかった」

 

 そう言うと、オスマンはソファーから立ち上がり執務机の側の棚から一冊の本を取りだした。

 

「昔、それらの品に関して私が記した本じゃ。大したことは書いていないが、気になるのなら切っ掛け程度にはなるじゃろう。読んでみるとよい」

「ありがとう、借りておくわ」

 

 差し出された本を受け取る。

 

「そういえば、今週の虚無の日に執り行われるフリッグの舞踏会にはミス・スカーレットは参加するのかね?」

「フリッグの舞踏会?」

「この学院に通う生徒達は皆貴族じゃからの。本格的に社交界に出るための予行練習のようなものじゃ」

「……それならイブニングドレスの準備でもしておくべきかしらね。参加させてもらうわ」

「そうかそうか、存分に楽しむと良い」

「それじゃ、この辺りで失礼させてもらうわね」

 

 そう言って微笑む彼と握手を交わして、私はシエスタを探すために学院長室を後にした。

 

To be next?

 




遅くなってすまんかった。
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