ゼロの使い魔~紅の吸血鬼~   作:青鉱

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その十五 マリコルヌ

 僕が初めてルイズと会ったのは何年も前の事だ。

 両親に連れられヴァリエール公爵の主催するパーティーに参加した日。

 僕は彼女と出会った。

 彼女自身の姉達の横でドレスに身を包み、煌びやかな会場で声を掛けてきている参加者達に挨拶を交わす彼女。

 その姿を料理に手を付けながら遠巻きに眺めていた僕は、笑みを貼り付けたその顔に一抹の悔しさを孕んだものを感じた。

 何か劣等感に苛まれているような、そんな表情だった。

 劣等感だらけの僕だから気が付いた。なんてそんな事を言うつもりは無い。

 ただ、彼女に惹かれるものを感じたのは間違い無い。

 その時に感じた感情の答えを見つけられないまま、ルイズを再び目にすることが出来たのは幾分か時が過ぎ、トリステイン魔法学院に入学してからのことだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「で、それを私に話してどうするつもりなのかしら、ミスタ・マリコルヌ?」

 

 食堂の椅子に腰掛け紅茶の注がれたティーカップに一つ口を付けて、僕の話を聞き終えたミス・スカーレットは言葉を紡いだ。

 ルイズを来週のフリッグの舞踏会のダンスに誘い、部屋から追い出された後、僕は偶然出会(でくわ)した少女に紅茶を奢りながら話を聞いてもらっていた。

 

「あ、いやその、だからルイズの使い魔であるミス・スカーレットに彼女の説得をお願いできないかなと」

「――ミスタ」

 

 暫し黙っていた彼女が僕へと視線を向けた。

 その赤い瞳に思わず姿勢を正す。

 

「良いわ。あなたにはルイズを助けてもらったことだし、協力してあげるわ」

 

 ティーカップの縁を指先でなぞり、彼女は一つ頷いた。

 

「ほ、本当かい! ありがとう、ミス・スカーレット!」

「けれど、何か策は考えているのかしら?」

「いや、何も思い浮かばないんだ」

 

 元々当たって砕けるつもりでルイズの部屋に行ったら玉砕したわけだし。

 僕の言葉にミス・スカーレットは何かを考えるように、自身の顎に手を添えた。

 

「それなら、私からルイズに口添えをしてみるわ。結果は追って連絡することにするわ」

「それは是非頼むよ!」

 

 思わず飛び跳ねて喜ぶ。

 そうして彼女と一つ握手を交わして僕達は席を立ったのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 彼女は泣いていた。

 この学院にある林の小さな広場。

 一人で散策をしていた時に偶然見つけたその場所の真ん中に彼女はいた。

 ただひたすらに杖を振るい、自身の精神力が尽きるまで魔法を唱え続ける。

 結果は、ただ爆発するばかりの失敗魔法。

 ゼロのルイズ。

 彼女を表す学院での呼び名。

 魔法を失敗する度に皆がルイズをあざ笑い、(そし)る。

 しかし、彼女はそれらを怒ることはあれど、嘆くような姿は見せたことは無かった。

 そんな彼女が膝を抱え、肩を震わせ、小さな広場の真ん中で一人静かに涙を流していた。

 声を掛ける勇気など無く、彼女のその姿を僕はただ隠れて見ていた。

 それからというもの、僕は毎日のように彼女の姿を目に焼き付けていた。

 一人でがむしゃらに特訓を続ける姿と、時折流すその涙を。

 そしていつの頃からか、僕はルイズという女の子に恋をしていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「マリコルヌ様ですね」

 

 ミス・スカーレットと別れた日の夜、食堂で食事を終えた僕に一人のメイドが声を掛けてきた。

 彼女には見覚えがあった。

 ルイズの部屋を訪ねた時に見たメイドだ。

 

「そうだが、僕に何か用かな?」

「ミス・スカーレットから言付けを預かっておりますのでお伝えいたします」

 

 彼女の言葉に、僕は居住まいを正す。

 

「分かった、聞かせてくれたまえ」

「『話は付いたわ。月が中点を指す頃にヴェストリの広場へ』以上です。確かにお伝えいたしました」

 

 僕が頷くのを確認して、メイドは一つ頭を下げるとその場を後にした。

 その時、彼女の顔が嬉しそうに笑みを浮かべていたのが少し気にはなったが、今は逸る気持ちを抑えるのでいっぱいでそれどころではなかった。

 

 

「私を待ってる奴がここにいるってレミリアが言っていたのはあなたの事かしら、マリコルヌ?」

 

 月明かりのみが差し込むヴェストリの広場に声が響いた。

 

「あ、ああ、よく来てくれたね、ルイズ」

「それで、わざわざこんな時間に私を呼び出したのは一体何なのよ。私は早く部屋に戻って寝たいのだけれど」

 

 そう言って、僕の目の前に立つルイズは小さく息を吐き出す。

 僕は緊張を押し出すために息を吸い、吐き出す。

 

「ルイズ、フリッグの舞踏会で僕と踊ってくれないか?」

 

 ルイズは考えるように暫し口を閉じる。

 

「ルイズ……?」

「……ねえ、マリコルヌ。一つ聞かせてくれないかしら?」

「何かな」

「なんで、そんなに私に(こだわ)るのよ」

 

 少し俯いて、ルイズは呟くように言葉を紡いだ。

 

「ルイズが好きだから」

 

 以前とは違い、自身でも驚くほどすんなりと言葉が出た。

 それに彼女の表情が忙しなく変わっていく。

 そうして最後に彼女はそっぽを向いて叫ぶ。

 

「わ、わかったわよ! フリッグの舞踏会ではダンスくらい付き合ってあげるわ!」

「本当かい! ありがとう、ルイズ!」

「でも、フーケ討伐の時に助けてもらったお礼に一緒に踊るだけなんだからね」

「それでも構わないよ」

「話はそれだけね。私はもう部屋に戻るわ」

 

 この場で踊り出したくなるほどの気持ちで僕が答えると、ルイズはその場を立ち去ろうと踵を返した。

 

「女子寮の前まで送るよ」

「いらない。一人で帰れるわ」

「だけど」

 

 僕の方を見ることなく、ルイズは足早に歩いていく。

 

「おやすみ、ルイズ」

 

 その後ろ姿に、僕は一つ声を掛ける。

 

「……おやすみ、マリコルヌ」

 

 それに言葉を返して、今度こそルイズは帰って行った。

 その背中を見えなくなるまで見送ってから、僕はたまらずその場で小躍りしたのだった。

 

To be next?

 




どうもお久しぶりです。
今回はマリコルヌのお話でした。短くてスマヌ。
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