ゼロの使い魔~紅の吸血鬼~   作:青鉱

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こぼれ話その一 ヒリガル

 大通りに溢れる人々が歩き、通り過ぎていく。

 王都トリスタニア。

 トリステイン魔法学院で暇を出された俺は一人でこの場所を訪れていた。

 

「どけどけ! 道を開けろお前ら!」

 

 大通りに足を踏み入れて直ぐに聞こえてきた声に、俺は顔を向ける。

 視線の先には、通りを歩く人波を割るように何処かで見た覚えのある大柄な男が走ってきていた。

 人を弾き飛ばすことを考慮しないその様子に、人々は慌てて男に道を譲る。

 俺もまたそれに習い、道の端へと寄る。

 その際にちらりと男へと視線を向けると、彼の腕に抱き抱えられた老婆の姿があった。

 老婆の悲鳴が遠ざかっていく。端から見れば完全に人攫いのそれだ。

 

「待て貴様! その女性を放せ!」

 

 そんな彼の後ろを数人の衛士が追いかけていく。

 

「俺はこの腰を痛めたばあちゃんを医者に見せに行くだけだ! 邪魔するな!」

 

 追いかけられながら、男は叫ぶ。

 

「嘘を付くな貴様!」

 

 そんな奇妙な追いかけっこが通り過ぎたことを確認して脇に避けていた人々はまた、それぞれに通りに戻っていく。

 

「今のは何だったんだ?」

「兄ちゃんはあれは初めてかい? ありゃあここ最近の名物さ。あの男はもともと札付きの悪党で有名な傭兵だったのさ。それがどういうわけか、急に人助けを始めてな。で、それを信じられない衛士がやつが何かする度にああして追いかけっこが始まるのさ」

 

 俺の言葉に、隣にいた果物商人の男が答えた。

 

「へえ、そうなのか。あ、一つくれ」

 

 硬貨を一枚渡して、果物を一つ受け取る。

 

「まいどあり」

 

 受け取ったそれをかじりながら、通りを進む。

 そうして、小道に入った先に目的の店がある。

 

「おっちゃん、いるか?」

 

 扉をくぐり店内へ足を踏み入れて声を掛けた。

 店内には所狭しと武器が並べられていた。

 

「おう、坊主か」

 

 カウンターの奥から姿を表した男は俺の姿を目にして、口を開いた。

 

「どうしたんだその腕」

「仕事でちょっとミスしちまってな」

 

 俺の吊られた左腕に彼は眉を潜める。

 

「何をしているのかは聞かねえが、坊主はうちの上客なんだ。ある日いきなり死ぬなんて事はやめてくれよ。それで、今日は何の用だ。ついにデル公に嫌気が差して溶かしにきたか?」

「おいおい、久しぶりに会ったってのに、随分な言い様じゃねえか」

 

 おっちゃんの言葉に、俺の背に刺した長剣、デルフリンガーが答えた。

 

「デルフには毎回助けてもらっているからな、手放すつもりは無いよ。今日はスローイングナイフの補充に来たんだ」

「ふむ、いくつ欲しいんだ?」

「十本」

「ちょっと待ってな。在庫を漁ってくる」

 

 そう言って、おっちゃんは店の奥へと引っ込んでいく。

 俺はカウンターに背を預けて店内を見回す。

 剣に限らず、槍、ハンマー、斧、銃等、様々な武器が飾られている。

 その中でふと、樽の中に無造作に突っ込まれた見るからに粗悪な武器に目を止める。

 

「なあ、デルフ」

「なんだ、相棒」

「おまえ、俺に買われて良かったのか?」

「今更何言ってるんだよ、相棒」

「まあ、おまえがいてくれて助かっているのは確かだな」

「そうだろうそうだろう」

 

 

 俺がこの知性ある剣、インテリジェンスソードであるデルフリンガーを買ったのはこの店だった。

 姉さんに仲間として認められ、武器を買いに来た際に僅かな有り金を(はた)いて手に入れたのがデルフだ。

 当時、この場に並んでいる武器を買うのに桁一つほど金が足りず、店主であるおっちゃんに指されたのが今目の前にある粗悪品の入った樽だった。

 

『坊主、おれを買え』

 

 錆だらけの刀身で、キィキィと音を響かせて、デルフは俺に話しかけた。

 喋る剣なんてものを見たこともなかった俺は、その物珍しさからそれを手に取って、気が付いたらデルフを買っていた。

 姉さんは呆れていたが、俺にとっては満足のいく買い物だった。

 それから毎日のようにデルフと色んな話をしながら、その刀身の錆を落としていった。

 そうして、どうにか使えるようにまで錆を落とした頃、姉さんと一緒にフーケとしての初仕事に赴いた。

 魔法吸収というデルフの能力が発覚したのはその時だ。

 姉さんが貴族の館に盗みに入っている間に私兵達を引き付けるのが俺の仕事だった。

 その私兵達に、魔法使いの傭兵が混じっていた

 同じ魔法使いである姉さんから魔法の対処法の手ほどきを受けているとはいえ実戦だ。人間兵器とも言える魔法使い相手に下手を打てば、一瞬で命を刈り取られる事は目に見えていた。

 俺の避けられない位置に放たれたファイアーボールを苦し紛れにデルフでガードしたのが始まりだった。

 デルフの刀身に触れた炎が吸い込まれるようにして消えたのだ。

 その時は考える暇も無く、とにかく使える物は使う一心で無我夢中でデルフを振りまくった。魔法使いの魔法を防ぎに防ぎ、気が付けば姉さんに拾われて貴族の館を脱出していた。

 それからというもの、デルフは貴族と対峙するのに無くてはならない相棒となった。

 

 

「これからも頼りにしているぜ、相棒」

「おうよ」

「ところで、デルフよ。あの時、レミリアと対峙した時、何だって吸収が出来なかったんだ?」

「それなんだが、あの娘っこの使っていた魔法な、ありゃ魔法とは別物だ」

「どういうことだ?」

「そのままの意味だよ。あれはこの世界で使われている魔法とは違うものだ。俺も吸収出来ないなんて経験は初めてだからな。どんな原理なのかは知らねえが、あれが危険なのには変わりないからな。また対峙することになったら真っ先に俺を使えよ」

「対峙しないことが一番良いんだがな。とはいえ、対策は考えておいた方が良いよな」

 

 天井を見上げ、息を吐き出す。

 

「何の話だ、坊主」

「何でもねえよ。それより、あったのか」

「おう、これだ」

 

 スローイングナイフの在庫を抱えて戻ってきたおっちゃんはそれを一本一本カウンターに並べていく。

 手に取って感触を確かめる。

 

「良いナイフだ。なあおっちゃん、ついでにここに銀の武器なんて置いているか?」

「銀の武器だあ? ふむ、それなら……」

 

 少し考えた後、おっちゃんは壁に掛けられた一角から武器を一本手に取って戻ってきた。

 それは特に装飾の無い実用一辺倒のロングソードだった。

 

「こいつなら坊主でも問題なく使えるだろう。だが、銀は脆い。扱いには気を付けろよ」

「ありがとう、おっちゃん」

「あまり危険なことには首突っ込むんじゃねえぞ」

「気を付けるよ」

 

 肩を竦めて苦笑して、代金をカウンターに置く。

 金額を確認して、おっちゃんは頷く。

 

「確かに」

「じゃあな、また来るよ」

「ああ、また顔見せねえと許さねえからな。デル公もな」

 

 スローイングナイフをホルダーに仕舞ってロングソードを腰に佩き、おっちゃんに軽く手を振って俺達は店を出たのだった。

 

 

To be next?

 




外伝的な話なので短めです。次話も極力早めに投稿したいです。(願望)
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