ゼロの使い魔~紅の吸血鬼~   作:青鉱

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その十七

 窓辺から朝日が差し込む。

 

「ミス・スカーレット……その、私」

 

 ベッドに組み敷かれたメイドが私の名を口にする。

 

「教えたはずよ、シエスタ。いったいどうするのかしら?」

 

 耳元で囁き頬を撫で、襟元を開いた首筋に指を滑らせる。

 顔を耳まで真っ赤にして、小動物のように震える少女に嗜虐心を刺激されつつ、私は再度言葉を紡ぐ。

 

「さあ、どうするのかしら?」

 

 彼女は赤い顔のままブラウスのボタンを外して首筋を晒け出した。

 

「いい子ね」

 

 もう一度少女の頬を撫で、首に口付ける。

 

「んっ」

 

 湿った音を発てて唇を離すと、くすぐったそうにシエスタは身をよじる。

 そして、私はゆっくりと彼女の肌に牙を沈ませた。

 プツリと皮を裂き、肉に沈み込む感触が歯を通して伝わり、次いで流れ出した液体が口腔を伝う。

 それを舌で味わい燕下する。

 インスタントなどではなく、生物特有の甘く熱を帯びたその味に、私の内の吸血鬼としての本能が顔を出す。

 一口燕下する度に、更にと欲する本能が理性を押し流そうとする。

 溢れ出る滴に舌を這わせる。自らの呼気に熱が籠もるのを感じる。

 

「ミス……スカーレット……」

 

 耳を刺激するか細い声に、とろけそうになっていた理性が息を吹き返した。

 口を離してシエスタを見ると、小刻みに身体の痙攣を繰り返しながら潤ませる瞳と視線がぶつかった。

 

「私、もう、だめ、です……」

 

 息も絶え絶えにそう言うと、少女はくたりと意識を手放した。

 

「ちょっと刺激が強すぎたかしら」

 

 黒く艶のある髪を一度梳いてから、シエスタの首筋を確認する。

 そこには既に傷跡は無く、血の流れた跡だけが残っていた。

 

「どうやら、問題無く機能しているようね」

 

 人間としてはあり得ないほどの回復力を確認してから、残った血痕を指先で拭って舐め取って、シエスタの身体を横たわらせたまま私はベッドを下りる。

 少しだけ身体を動かして自身の妖力の巡りを確認する。

 

「悪くないわね」

「ミス・スカーレット……私」

 

 背後からの声に振り向けば、シエスタがベッドから身体を起こしていた。

 けれど、その顔は貧血の様子が見て取れる。

 

「少し寝ていなさい、シエスタ。そうすれば失った血も戻るはずよ」

「は、はい、ですが」

「仕事に関しては気にしなくて良いわ。まずは身体を休めなさい。私はルイズの所に行ってくるわ」

 

 彼女にそれだけを伝え、私はルイズの部屋を出て食堂へと向かった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「あなた、今朝は私を追い出すように食堂に向かわせたけど何だったのよ」

 

 教室でルイズと合流すると、席に着くなり彼女は言葉を掛けた。

 

「ただの朝食よ。ただし、食材はシエスタだけどね」

 

 ぎょっとした顔で私をみるルイズ。

 

「レミリア、あなたまさかシエスタを」

「血を貰っただけよ。いったい何を想像したのよ」

「そ、そうよね。よかったわ」

 

 あからさまにホッとした表情をしたルイズに私は肩を竦めた。

 すると、横合いから声を掛けられた。

 

「おはよう、二人とも。一体何の話かしら、レミリア?」

「おはよう、キュルケ。なんて事無いわよ。私の朝食についての話をしているだけよ」

「朝食ってもしかして?」

「キュルケも興味があるのかしら。シエスタと一緒に参加してみる?」

 

 笑みを向けると、キュルケは勢いよく首を横に振って私から一歩離れた。

 

「せ、せっかくのお誘いだけど、私は遠慮させてもらうわ」

「あら、それは残念」

 

 くっくと笑みを浮かべる私にキュルケは青い顔をして自身の席へと戻っていった。

 

「少し脅かしが過ぎたかしら」

「レミリアがそんな事言うと洒落にならないのよ」

 

 隣を見ればルイズとの間隔も一人分空いている。

 その様子に私は肩を肩を竦めるのだった。

 教室の扉が開き、男が一人現れた。

 長い黒髪と身に付けた漆黒のマントを揺らし、男は教壇の前に立った。

 その顔には見覚えがあった。フーケの一件でミセス・シュヴルーズを責め立てていた教師の一人だ。

 

「授業を始める。席に着きたまえ。……知っての通り、私の二つ名は『疾風』。疾風のギトーだ」

 

 教室中が静かな雰囲気に包まれた。その様子を満足げに見つめ、ギトーは言葉を続けた。

 

「最強の系統は何か知っているかね? ミスタ・グランドプレ」

「は、はい、風の系統です」

 

 マリコルヌが席を立ち答えると、彼は満足そうに頷いた。

 

「その通りだ。風は火をかき消し、水を押し流し、土を吹き飛ばす事が出来る。まさに最強の系統だ」

 

 彼の言葉を耳にした生徒の幾人かが顔をしかめる。

 何ともくだらない話に、私は内心息を吐き出した。

 

「ふむ、どうやら納得のいかない者もいるようだ。ではミスタ・グラモン」

 

 呼ばれ、ギーシュが席を立つ。

 

「君が得意のゴーレムを作ってくれたまえ」

「しかし、ミスタ・ギトー」

「かまわん。風が最強という所以を実演して見せよう」

 

 その言葉にギーシュは目を細めて、バラを象った杖を振った。

 花びらが一枚、剣を構えた青銅の戦女神へと姿を変える。

 

「さあ、来たまえ」

 

 壇上で剣を向けていたゴーレムがギトーへと駆ける。

 それに慌てること無く彼は腰に指した杖を引き抜き、薙払うように振るった。

 烈風が教室内を吹き荒れる。

 それによって吹き飛ばされたゴーレムが地に落ちてバラバラに砕け散った。

 

「このように、風はどのような物をも吹き飛ばすことが出来る」

 

 不満そうな表情をして席に着くギーシュに構うこと無く、彼は言葉を続ける。

 

「目に見えずとも、風は諸君らを守る盾となり、また敵を薙払う矛となるだろう。そして、風が最強たる所以にはもう一つある」

 

 そう言って、ギトーは杖を立てた。

 しかしその時、教室の扉が開かれ緊張した面持ちのコルベールが入ってきた。

 

「ミスタ、授業中です。一体何なのですか?」

 

 コルベールをギトーが睨みつける。

 

「今日の授業は全て中止であります」

 

 重々しい調子で告げたコルベールの言葉に、教室内に歓声があがった。

 それを抑えるように両手を振り、コルベールは言葉を続けた。

 

「皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとってよき日にあります。始祖ブリミルの降臨祭に並ぶ、めでたい日であります。恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見であり、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花。アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます」

 

 教室がざわめいた。

 

「姫殿下が……」

「ルイズ?」

 

 更にコルベールは続ける。

 

「したがって、粗相があってはいけません。急なことではありますが、全力を挙げて、歓迎式典の準備を行います。そのために本日の授業は中止といたします。生徒諸君は正装し、門に整列すること」

 

 そうして、生徒達が緊張した面持ちで頷いたのを確認し、重々しく頷くと彼は目を見張って怒鳴った。

 

「諸君が立派な貴族に成長したことを姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ! 覚えがよろしくなるように、しっかりと杖を磨いておきなさい! よろしいですかな!」

 

 彼の言葉が終わると同時、生徒達は一斉に教室を駆け出していった。

 

To be next?




風のアルビオン編、始まり始まり。
ただの朝食シーンなので何の問題も無かった。いいね?
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