「早々に決闘騒ぎとは随分な事をしでかしたものじゃのう、ミス・スカーレット?」
「あら、私はミスタ・グラモンと中庭でダンスをしていたにすぎないわよ、ミスタ・オスマン。決闘だなんて言いがかりも甚だしいわね」
中庭での決闘騒ぎの後、駆けつけたコルベールによって私達は学院長室へと連れてこられていた。
私の向かいのソファに腰掛けた老人が大きく息を吐き出した。
「つまり、お主は中庭で行っていたのは決闘ではなく、そこのミスタ・グラモンの誘いでダンスをしていたというわけじゃな?」
「そうよ。私は彼から礼節と拳を使ったダンスの仕方を教授してもらっていただけ。そうでしょう、ミスタ・グラモン?」
「あ、ああ、その通りだ。僕は彼女、ミス・スカーレットと共にダンスのレッスンをしていたにすぎない」
背後へと視線を向けると、そこに立っていたギーシュはぎこちなく頷いた。
「現に私と彼には傷一つ無いわ。仮のダンス相手として彼が作り出したゴーレム達は、私の下手な踊りのせいでバラバラになってしまったけれど」
「ふむ、彼女はそう言っておるが内容に相違は無いかのう。ミス・ヴァリエール、ミス・シエスタ?」
「間違いありません。オールド・オスマン」
「は、はい、間違いありません」
オスマンの言葉に、私の隣に座るルイズとシエスタが答えるが、その瞳はせわしなくあちこちを差迷っていた。
二人の様子にオスマンは愉快そうに目を細めた。
「わかった。全員がそう言うのであれば、そうなのじゃろう。幸いにして怪我人も出ておらんしのう。今回の件はミス・スカーレットとミスタ・グラモンの『フリッグの舞踏会』に向けてのダンスの共同練習をしていたとでもしておこう。ミス・ロングビル、報告書類にはそのように書いておくように」
「承知しました、オールド・オスマン」
「お主達は知っておるだろうが、決闘行為は本来禁止されておる。今回は周りを囲んでおった生徒達が決闘だと騒ぎ立てておった結果、そのように誤解されたが、次はこんな事は起こさぬように気をつけるのじゃよ」
そう言うと、彼はにやりと口の端を吊り上げた。
貴族同士の決闘は禁止された行為であり、それが発覚すれば懲罰もありえる。とは、中庭での騒動の後そのことに気が付き顔を青くしたルイズから聞かされていた。
そのため、呼び出しを受けた時にこの場にいる全員で口裏を合わせることにしたのだ。
国内の有力貴族と国外の貴族との決闘なんて公に知られてしまえば、小さくないやっかい事の種を抱えることになる。学院側としてもそれは避けたいはずだ。
だからこそ、オスマンはこうして無茶な提案にも乗ってきたのだ。
「そうね。今度は誤解されないように気をつけるわ」
「次は無いからのう」
彼の言葉に、私は肩を竦める。
「では、話はここまでじゃ。ミスタ・グラモン、ミス・ヴァリエールは今からであれば次の授業にはまだ間に合うじゃろう。学生は勉強が本分じゃ。サボったりなぞせんようにの」
「はい」
ギーシュとルイズが揃って部屋を出ていく。
それから私は再びオスマンへと向き直ると口を開いた。
「ミスタ・オスマン」
「何かね、ミス・スカーレット」
「彼女、シエスタを私専属のメイドとする事にしたのだけれど、雇うのに何か必要な手続きはあるのかしら?」
「ふむ……ミス・シエスタ」
彼の視線が私の隣に座るシエスタへと動く。
「ひゃ、ひゃい!」
「そう緊張することはない。お主はどうしたいのかと思ったのじゃよ」
身を震わせた彼女に、オスマンは好好爺といった笑みを向ける。
「ミス・スカーレットはお主の雇用を望んでおる。だが、私としては本人が嫌がるものを無理矢理雇用させるというのは承諾しかねるのじゃよ」
「私としては雇用の話は受けてくれると嬉しいのだけれど」
「しかし、ミス・スカーレット。お主、給金の支払いはできるのかのう?」
「そうねえ……当てはあるわ。シエスタ、今の給金はいくら?」
「え、あ、月十五エキューほど頂いていますが」
「それなら少し働いてもらうことになるけれど、その三倍の給金を支払うとしましょう。それでどうかしら?」
「ふぇ!?」
「あら、少ないかしら?」
「いいいいいいえ!」
勢いよく首を振るシエスタ。オスマンは呆れたように私に視線を向けた。
「ミス・スカーレット、十五エキューは平民の一般的な給金からすると決して安くはない金額じゃ。その三倍となるとかなりの金額じゃが、お主に支払えるのかのう?」
「問題ないわ。さし当たって、ミスタ・オスマン。来週までには三倍で返すから、一エキューを借りられないかしら?」
「それは構わぬが、本当に大丈夫かのう……」
そう言うと、彼は懐から金色に輝く硬貨を取り出す。
「感謝するわ。今月いっぱいは仮契約としましょう。それで私は仕えるに値しないとあなたが感じれば、そのまま契約を解消してしまって構わないわ。それでどうかしら?」
シエスタはしばし考えるように黙り込むと、やがて一つ頷いた。
「分かりました。それで構いません」
「そう、ありがとう」
「なら、この場で書類を作ってしまうとするかのう。ミス・ロングビル、白紙の雇用契約の書類とペンを一本持って来てくれんかの」
オスマンの言葉に秘書は羽ペンと三枚の用紙を持って来ると、彼にそれらを手渡した。
そして、それらに文字を書き込んでいき、私の目の前のテーブルの上に三枚それぞれ書類を滑らせた。
「必要な条件はこちらで書き込んでおいた。二枚はそれぞれ二人の控えじゃ。後はお主等のサインをそれぞれ書き込んでもらえば良い」
書類の一枚を手に取り、私はそこに書かれた文字に目を滑らせる。
そして一通り内容を確かめた後、私はオスマンへと視線を向けると、彼に書類を手渡した。
「駄目ね。読めないわ」
見たこともない文字で書かれたそれは、私には理解することが出来なかった。
To be next?
あけましておめでとうございます。
皆、お年玉は好きかー!?
はい、ただ聞いただけです。
一日には上げようと思っていたのですが、見事に間に合いませんでした。
次回は少々文少量が多くなりそうなので、短いですが今回はここで切ることと相成りました。
次回の更新はできれば今週中には何とか。
読んでくださりありがとうございます。