第1話で喧嘩させたのはちょっと早かったかもしれんと後悔した主です。
喧嘩なんてギスギスはさっさと終わらせましょ。ね??
一本遅い電車に飛び乗り、私は先に行った親友、望晴を追いかける。
既に望晴の乗車した電車が発射してから30分が経過しており、彼女がバカな真似をしていなければ既に帰宅しているだろう。
一抹の不安...どころかもし彼女に拒絶されたら自分がおかしくなるかもしれないという焦燥感を抱え、私は彼女の元へ急いで向かっている最中、聞きなれた着信音とともに私の携帯が震えた。
画面を見れば湊(みなと)と書かれており、電話の相手はすぐにわかった。
ちょうどこの車両には私しか現在乗車していないので小声で電話に出た。
「...もしもし」
「よぉ、なんで電話したかわかるな?」
「今向かってる」
湊が何かを言いかけるも私が矢継ぎ早にそう言葉を繋げると湊は押し黙り、私に言葉を待っている。
そんな彼に私は自分の今の感情をぶちまけた
「今は君に構ってる余裕ないの。私だって望晴のこと心配だし今いっそいで向かってるんだから。
いつも元気で明るい朱莉ちゃんは今はいないんです〜」
少しイライラしながらそういうと、はぁ...と電話の向こうでため息が聞こえた。
なんだ、こっちは今たってるのもやっとなくらい心の傷おってるのに説教電話してきたのはそっちだろ。
はぁ...は私のセリフなんだよこんにゃろめ。
内心少し落ち着きを取り戻させてくれたことには感謝しつつもそれを言葉にはせず彼には本性をさらけ出す。
まぁ、後の兄さんにくらいは本性を見せたってバチは当たらないだろう。
「...とにかく、さっさと終わらせてくれよ?泣きながら帰ってきて部屋に閉じこもってこっちも困ってるんだ」
「馬鹿な真似してないだけ可愛いもんじゃないかな?」
「できねぇように危ねぇもんは隠した」
「さっすが湊。シスコンキモ」
「うっせぇ。んな事言ったらてめぇだって同性愛者だろーが」
「はいコンプラです。通報しますLGBTQ守れカス」
「言い過ぎだろ!?」
ふふっ、と口元がつい緩む。
その声が聞こえていたのか、電話の向こうで湊がため息を付いているのがわかった。
「...肩の力抜けたみたいだな」
「そーだね。ま、お陰様で」
短い会話。
だが、向こうの声のトーンが幾分か下がりこちらを心配してくれていた事が落ち着いた今よくわかった。
「さっさと来いよ?早くしなと飯の時間になっちまう」
「それは電車に言って。私はこれでも最速でそっちに向かってるんだからね!! ..あと、ため息ばっかつくのやめた方がいいよ?」
「幸せが逃げるってか?」
「いや、吐息厨みたいでキモイ」
電話口からまるでボディーブローを受けたような声が聞こえたが気のせいだろう。
「じゃあまた後で。夕飯私の分もよろしくー」
「は?作るわけ――」
そこで私は電話を切り、電車を降りて走り出す。
彼女の家まではここからおよそ2キロ半。
全力疾走にはかなり長い距離だが、何故か軽い足を無理やり動かし走り抜ける。
さっきまでのクソッタレな...そう、楽しみにしていた休日に突然約束をドタキャンされた時のような気分は無くなり、いつも彼女を迎えに行くような晴れ晴れとした気分で私は彼女の家までの帰路を走り抜けた。
***
家に帰って、およそ1時間。
冷静になり考えればすぐにわかっただろう真実を、私は噛み締めていた。
「...なんで、あんなこと言ったんだろ...」
自分が自分で嫌になる。
親友に大嫌いなんて言って帰ってきてしまった。
きっと、○○さんの言ってた話は嘘だ。
そもそも、○○さんは私を嫌ってる。
そんな話を持ってくる時点でおかしかったのだ。
それなのに...
「バカ...私のバカ...」
たった一人の親友すら信用出来ない。
何が親友だ嘘つきめ。
お前はそう言って朱莉を利用してるだけじゃないか。
違う、そう思いたいのに。
心が沈んでいく。
思考が低下していく。
あぁ、こんなふうに傷つくならいっそ朱莉と仲良くなんてならなきゃ良かったのかもしれない。
「...私のクズ...しんじまえ...」
虚空に向かって、自分への暴言を吐く。
言ったところで死なないし、どうせそんな勇気もない。
何もない。空っぽの人間だ。
空っぽの人間が、沢山持ってる人間にあやかろうとして近づいた。
まるで物乞いだ。
涙があふれる。今までの思い出も、私の勝手な感情が生み出した一時の幻想だったんだ。
きっと朱莉が落ちぶれたら私は彼女を捨てる。
そう、思ってしまう。
...正しかったんだ。今日、彼女との縁が別れたことは。
そう思う他、私の心をこれ以上傷つけるのを防ぐしか無かったから。
そう思い込んで布団に入る。
「..............................」
冷たい布団は私を責め立てない。
ゆっくりと温もりで包み込んでくれる。
このまま永遠に眠ってしまいたい。
...でも、どうせ永遠に寝るなら...最後に朱莉の笑顔がもう一度...遠くからでいいからもう一度、みたいな...
コンコンコン
そう思ってる時、ノックが聞こえた。
兄さんかな...
そう思った私は躊躇いつつも掛けていた鍵を外し、ドアノブをひねる。
「...ぁ」
「...えと...えへへ、来ちゃった...」
***
開いた扉から見えたのは、酷い顔の女の子だった。
泣いてたのか、目は赤くなり、
鼻も嗅いだんだろう、鼻も赤い。
それに髪は乱れてボサボサだし、強く噛み締めたのか唇も少し切れちゃってる。
「...ぁ」
か細い声が聞こえた。
私を見て目を見開く彼女は、やっぱり可愛い。
そんな彼女に何を言えばいいのか、ごめんなさい...は多分彼女をさらに追い詰める。
ありがとう...は、何に対して?煽りじゃない?
おかえり...はそもそもここ私の家じゃないし私の方がただいま案件じゃない?
そうして数瞬思考して...
「...えと...えへへ、来ちゃった...」
なんて、面倒くさい彼女のようなセリフしか出てこなかった。
***
すぐに扉を閉めようとするも、朱莉の方が力は強い。
扉を抑えられ、閉めることは許されなかった。
そして、無理やり朱莉は部屋に押し入り、私が逃げないようにか再び部屋に鍵をかけた。
そこからの空気は、正直地獄だった。
何を言えばいいか分からない。
どこから謝ればいいのか分からない。
久々に目も合わせられないほど、朱莉との距離を感じた。
そんな時だった。
ピトッと私の頬に朱莉の手が伸びた。
「ぇ...ぁ...」
「...泣いたの?」
布団とは違う、人の温もり。
暖かくて、ほっとして、自分と同じ温かさなのにどこか安心できて。
そんないつもの温かさの手と言葉が、私の頬と鼓膜をくすぐる。
「...ぅん...ごめ...なさい...私...」
「怒ってないよ、怒ってない。大丈夫、大丈夫だから。いくらでも聞くから、ゆっくり話して?」
ゆっくりと、私の目を見て朱莉が続ける。
吸い込まれるような漆黒の瞳。いつもはみんなの前でキラキラしているそれは、今は私だけに向けられ私だけを見てる。
涙が溢れた。
今日はもう、出ないと思っていたのに。
「ごめん...ごめんなさい...私..朱莉に酷いことを...」
言葉が溢れる。感情が乱れる。
朱莉といるといつもこうだ。
いつもはのほほんとしてるのに、時々真をついて来ないで欲しい。
私はそこまで心が強くないんだ。
そんなに優しくされても返せない。
もっともっと、貴女に依存してしまう。
だから離れようとしたのに、酷いことも言ってしまったのに。
どうして貴女は歩み寄ってくるの...?
***
全てを聞いた。
努力も、葛藤も、後悔も、懺悔も、本音も。
聞いて、後悔した。
私が彼女を思ってしていた行動は、彼女を傷つけることに繋がっていたのか。
そう思うと、心が痛い。
でも、逆に勇気が湧いてきた。
そっか、望晴はそれだけ、私をしっかり見ててくれたんだね。
震えながら私の言葉を待ち、小さくなってしまった望晴を見る。
顔は俯き、目が合うことはない。
...今なら、言える。
正直、ずるい事をしてる自覚はある。
今言うのは、とってもズルくて汚くて傲慢で強欲で怠惰だ。
でも、こうして傷つく彼女をもう見たくないから。
後で「選択権なんてなかった」とか「朱莉ってずる賢いよね」とか言われても受け入れよう。
そう言われたっていいから今は、貴女とただ一緒にいたいんだ。
「...ねぇ、望晴。伝えなきゃ行けないことがある」
ビクッと彼女の方が震えた。
怖いよね、ごめんね。
でも、大事な事だから。
「...大丈夫、私はずっと望晴の、望晴だけの味方だよ。
昔も今も、これからも。...だから、聞いて欲しいんだ」
少し安心したのか、ゆっくりと彼女は頭をあげて私の目を見る。
ヘーゼル色の瞳を潤ませながらこちらを見つめる彼女をいますぐ抱きしめたいが、今はダメだ。我慢しろ。
そこで私は深呼吸をして...
「大丈夫、望晴。私は望晴のこと大好きだよ。だから、仲直りしよう?」
今の気持ちを、ぶつける。
そして、ゆっくりと彼女の背に腕を回して優しく抱き寄せる。
しばらくして、彼女の泣き声が私の右肩辺りから聞こえてきたが、彼女が「もう大丈夫」と言うまで私はずっと彼女を抱きしめ続けるのだった...
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不定期ですが次回もお楽しみに