茨の園がもぬけの殻であることを確認した俺たちは、補修と補給のためにコンペイトウへ向かった。
わずかな休息の時間中に、俺はココノエ艦長から呼び出しを受けた。
ブリッジに行くと、妙に緊張した雰囲気だった。
「少佐、これを見てくれ」
艦長から数枚の書類を受け取る。
……ふむ。星の屑作戦の全貌か。サイド3への核攻撃。そしてコロニー落とし。首魁はやはりデラーズか。
タイムスケジュールが曖昧なので、そこは何とかするしかないな。
「いくつもの中継を挟んで、高度に暗号化されていたのでね。何事かと思ったが、それも頷ける内容でしょう?」
「そうですね」
流したのがシーマとはかぎらないが、なんでグリーン・ワイアット大将じゃなくてゴップ先生なんだ? 0083に彼は出てこなかったはずだが。
まあ今は0084年だし、色々と違っているか。
「内容は理解しました。すぐに出られますか?」
そう言って書類を返す。そういえば何か足りないと思っていたんだが、デラーズの演説がないんだ。まあ演説も良し悪しだけどな。各地に散らばった残党を集められるというメリットはあるが、連邦軍や共和国軍の警戒を強めてしまうというデメリットもある。
原作では核の糾弾をやっていたが、この世界ではマ・クベが撃っているのでそこをツッコむこともできない。
それに地球圏全域に放送するには、通信網の要所要所に内通者を置く必要がある。それが上手くいかなかったのかもしれない。
「艦の補修には、あと2日かかる。もう手を加え始めているようでね。途中で切り上げるにしても、丸1日はかかる」
「では先行させていただきます。
「それは……」
艦長は言葉に詰まった。他の艦を出すにも手続きやら何やらで時間がかかる。管轄が違うなどと言われる可能性もある。
面倒な派閥争いに現場の人間を巻き込まないで欲しいが、その恩恵を受けている以上文句も言えない。
ブースターくらいなら、余り物が転がっているはずだ。
「ちょうど、と言っていいかわかりませんが、妻と義妹が
ブリッジを出る。制止の声はなかった。メカニックにはかなりの無理を言わなければならんな。お詫びに全員にビールでもおごってやろう。
あと、セイラさんにも警告しておかないとな。
◇
ブースターユニットを装着したアリエスが宇宙を駆ける。
星の屑作戦。その計画はあまりに杜撰だ。
まず、コロニー落とし。落とすだけならまだしも、狙った場所に落とすならば、高度な軌道計算が必要になる。尚且つ、邪魔が入らないというのが絶対条件だ。
残党軍が総出で死守するとしても、確率は
サイド3への核攻撃にしてもそうだ。直撃すれば
ダイクン派の主力は一掃できるだろうが、共和国を排して公国を取り戻すというのはかなり厳しい。
自国に核を撃ち込んだ者たちに、市民は協力などしないだろうし、恐怖政治は長続きしない。さらにそんな混乱したサイド3を、連邦が放置するとは思えない。残党軍を一掃して、連邦の息のかかった者を統治者に据えるだろう。
そう考えると、連邦軍の仕掛けた壮大なマッチポンプのように思えてきた。デラーズは踊らされているだけではないのか?
「あなたは黒幕が連邦政府だと考えているのか?」
隣りを飛ぶジェミニから通信が入った。
「どうだろうな。今のところ、連邦政府の都合の良いように動いていると思えなくもないが……」
連邦の派閥争いは加速している。ガンダムを奪われた派閥の失態。コロニー落としを実行する
さすがに考えすぎだとは思うがな。いくらなんでも原作と乖離し過ぎている。
「……
「なに?」
「旧世紀の、とある国の軍師を称賛した言葉だ」
相変わらずポンポンと知識が出てくるヤツだな。まあ、そういう教育を受けてきたんだろうが。
「つまり、そんなにわかりやすい話ではないと?」
「真の黒幕は決して表舞台には立たず、影で人々を操り策を結実させる」
「で、その真の黒幕は誰だ?」
「さて、そこまではな。私はパイロットであって、名探偵ではない」
からかうように、シロウズは小さく笑った。
「ついでに言えば、政治家にも向いていないらしい」
あっ、こいつ結構根に持ってやがるな。
「だが経営者には向いていたようだな」
「ふっ、そうかもしれん。退屈ではあるが、人々に感謝されるというのは、存外気分が良い」
まあ基本的に軍人って市民に感謝されることがないからなぁ。防衛とか復興支援とか、そのくらいか?
コロニーを増設して、地球の人々を宇宙に上げるというのは、こいつの考えとも一致している。気の長い話ではあるが、経済圏の中心を宇宙に移すというのは、こいつも興味を示していた。
簡単に言うと宇宙を盛り上げようぜ、という話だ。サイド共栄圏に似ているようで、ちょっと違う。
とそこで、コロニー移送作業に従事しているララァから
(どうしたララァ、なにかあったか?)
(海賊に襲われそうなの。助けてくださる?)
やはりララァのニュータイプ能力は、俺たちとは一線を画しているような気がする。育児休暇中だというのに、今回の護衛に志願したのは、コロニーが襲われるという予感があったからだと言った。
予感というよりは予知に近いだろう。まあなんでもかんでも見通せるというわけではなさそうだが。
俺としては主婦に専念してもらいたいのだが、ララァに言わせれば旧時代的な考えらしい。
確かに俺は古い地球人だけれども。
(すぐに行く。無理はするなよ。そのザクレロもどきでは、大した戦力にもなるまい)
(あら、かなり改良してあるんですよ)
なんであんな道化みたいな見た目が気に入ったのかわからん。もっと良いのがあっただろうに。とはいえ、コロニー公社に払い下げられるMSなんてザクとジムくらいだが。
(では、なるべく早くお願いしますね)
(ああ、本当に無理はするなよ。ヤバくなったら逃げろ)
(それは先ほど聞きましたよ)
笑いながら、ララァは通信を切った。まあアルマもいるし、俺たちが着くまでは持つだろう。もうかなり近づいているしな。