人類の総人口の半数を死に至らしめた大戦から4年ほどの月日が流れていた。
ジオン公国はジオン共和国に名を変え、自国と、そして宇宙の復旧に尽力していた。
地球連邦政府と手を取り、コロニーの修復と建設、難民の支援に力を注ぎ、それでいて、アルテイシア・ソム・ダイクンを国主として認められない
ジオン共和国は苦しい中でも、宇宙の復興と平和に力を尽くしている。その姿勢は、スペースノイドにも少しずつ伝わっていた。
そして惨禍の復旧もひと段落した頃、ジオン共和国からサイド6に向かう貨物船があった。それ自体は、珍しいことではない。積み荷が3機のMSということを除いては。
「そろそろイズマコロニーか。おまえら、体調は万全だろうな」
「愚問だぜ、ガイア」
「ああ、こんな任務はすぐに終わらせて観光でもしようや」
ガイアの問いに、マッシュとオルテガは快活な返事を返した。
黒い三連星として名を馳せた彼らは、ある任務を帯びてサイド6へやってきたのだ。
それはガンダムパイロットのスカウトである。
「だが、ガンダムは容易い相手ではない。気を抜くなよ」
「ああ、しかしなんでまた、大統領はガンダムパイロットにこだわるんだ?」
「昔の男だったりするんじゃねぇのか。やっこさんまだ独身なんだろう?」
と、オルテガは茶化すように笑った。
アルテイシア大統領が大戦時に、連邦兵としてホワイトベースに乗艦していたことは公然の秘密となっている。そして、ホワイトベース隊の伝説的なガンダムパイロットの名は、ジオンにも伝わっていた。
そのパイロットの名前が、クランバトルで無双しているガンダムのパイロットと同名だったのだ。
「下世話な詮索はよせ、オルテガ。おそらく、政治的な理由だろう。連邦の伝説的なパイロットがジオンの要職に就くというのは、俺でも大変な事件だというのは想像がつく」
「だが俺たちが勝っちまったら、その伝説にも傷が付くかもしれねぇぜ? なにせ3対1、機体の性能差もほとんどなさそうだ」
そう言って、マッシュはハンバーガーの包み紙をダストシュートに放り込んだ。
彼らの機体はゲルググ
ガンダムの詳細なスペックは不明だが、決して引けを取る性能ではない。
「それに向こうの武装はマシンガンとサーベルだけなんだろ? こっちはビームライフルにビームマシンガンに……うっかり殺しちまわないか心配だぜ」
「あまり侮るなよ、オルテガ。相手はクランバトルで21連勝無敗。そして、あの赤い彗星でも敵わなかったやつだ。それに、武装を変えてこないとも限らん」
ガイアが赤い彗星の名を出した瞬間、オルテガは不機嫌に鼻を鳴らした。
「みんなヤツを高く評価し過ぎなんだよ! 確かにルウムでは活躍したかもしれん。だがそれからは、大した戦果も挙げてねえじゃねえか!」
原作ではV作戦を察知し、ホワイトベースのジャブロー降下を阻止した。ガルマを守り切れなかったという失態はあったものの、ジャブローへの侵入口を突き止めたりと、戦果を挙げていたシャアであったが、この世界ではオデッサで活躍した程度で、ほとんど戦果を挙げていない。
「だがパイロットとしては優秀だった。ヤツがソロモンにいれば、ドズル閣下も死ぬことはなかったかもしれん」
続けてマッシュも渋面を作った。
彼らはザビ家の信奉者というわけではない。ドズルの人柄に惹かれて軍に入った者たちだ。基本的に荒くれ者なので、策謀に動くタイプであるギレンやキシリアはあまり好きではなかった。
グラナダ攻防戦にも参戦していたが、彼らはキシリアがグラナダを脱出することを知らされなかった。それを脱出後に知った彼らは、キシリアのために命を懸けるのがバカらしくなってしまったのだ。
確かに、どうあがいても勝てない戦であれば、総大将が退くというのは間違った判断ではない。だがそれは、計画的な撤退であるべきなのだ。現場に知らせず、あまつさえ精鋭まで引き連れての電撃的な撤退に納得できるのは、ザビ家に命を捧げた親衛隊くらいのものだろう。
しかしグラナダ攻防戦は、ガイアが見るかぎりそこまで一方的な戦ではなかった。耐えればソロモンやア・バオア・クーからの援軍もあったかもしれない。そうなれば、連邦軍を押し返すことだってできた。
すべては仮定の話であるが、ともあれキシリアに失望した彼らは友軍の脱出を助け、弾薬が尽きた後は連邦軍に投降した。
そしてそのまま捕虜となり、その状態で終戦を迎え、戦後交渉でジオン共和国に帰還した。その後は教導隊として軍に残った。
「ケッ! どうだかな。俺はヤツが最初から気に食わなかったんだよ。あのスカした態度が……」
「オルテガ、そのくらいにしておけ。死人を
赤い彗星、シャア・アズナブルはア・バオア・クーでの戦闘で未帰還となった。長らく行方不明扱いだったが、終戦から3年経って死亡扱いに変更された。
「任務を確認するぞ。クランバトルでガンダムをボコす。その後パイロットに接触して大統領の意向を伝える。断られたら、それはそれでいい。荒事はなしだ。いいな」
『了解!』
イズマコロニーが近づいてくる。
貨物船の入港は速やかに行われた。
◇
MSの戦闘は非情に過酷だ。高速戦闘ともなれば、交通事故並みの
クランバトルの映像はVIP会員になればすべて閲覧することができる。当然ガイアは、ガンダムの試合をすべて確認していた。
ガンダムの推力はゲルググSと大差はない。尤も、ガンダムが全開機動を行っていると仮定してだが。
試合開始から3機のゲルググは高速機動で敵機の探索を始めた。ビームライフルが開発されてから、MSの戦闘は『撃たれる前に撃つ』というのが基本スタイルになった。
現状ビーム砲を防げる装甲は存在せず、ビーム砲を完全に防ぐことができるのはIフィールド・バリアのみだ。そのIフィールド・バリアもMSに搭載させるには様々な問題があり、搭載機はほぼ存在しない。
敵の射撃武器はマシンガンのみ。仮にビームライフルを急遽持ち出したとしても、一息に3機を仕留めるのは不可能だ。1発撃てば位置はわかる。最悪1機撃墜されたとしても、2機で囲い込めば勝機はある。
それがガイアの立てた作戦だった。
「――ッ!? 正面か!」
センサーが高速機動で近づいてくる機影を捉えた。
「ハハッ! やっこさん、正面から突っ込んで来やがった」
「思い切りがいいじゃねぇか。嫌いじゃないぜ!」
「散開しろ。囲い込むぞ!」
『了解!』
ガイアはそのまま進み、マッシュとオルテガが左右に別れた。
ビームライフルを数発撃つが、ガンダムは最小限の動きでそれをかわした。
距離が詰まる。お互いのビームサーベルがぶつかり合い、電光を散らした。
その瞬間、ガイアの歴戦の直感が警鐘を鳴らした。機体を捻り、緊急回避。ギリギリでビームサーベルの刺突をかわす。
「二刀流とはな!」
スラスターを逆噴射して距離を取る。
そこにマッシュの放ったビームの雨が降り注いだ。ビームマシンガンは速射性に優れた強力な火器である。実弾のマシンガンと違い、適当に撃ってもMSを撃墜するには十分な威力がある。
しかしそのビームの雨を、ガンダムはすべてかわしきった。その一連の動きを見て、ガイアは驚愕した。
(単純な速さじゃない。あの動きの滑らかさはなんだ? 映像で見るのとはまるで違う。
ガイアの額に冷たい汗が流れる。あのガンダムは、既存のMSとは何かが違う。ガイアはそう直感した。
ライフルは当たらない。そう判断したガイアはビームライフルを収め、ビームマシンガンを構えた。
上下左右に火線を躍らせる。1発でも当たれば隙ができる。だが――
(なぜ当たらん!?)
ガイアとマッシュがマシンガンで攻め立て、死角からオルテガがライフルを放つ。それでも1発の命中もない。
(全天周囲モニターにしたところで、人間の視覚が広がるわけじゃない。後ろまで見えているわけではなかろうに!)
ガイアは歯噛みした。しかし現実として1発も当たってないのは事実だ。このままでは、先にこちらのエネルギーが尽きる。
(このままタイムアップを狙うか? いや、そんな情けないマネができるか!)
クランバトルの制限時間は10分。既定の時間に達すれば、残りの機体数が多いチームの勝利となる。当然それを狙ってきたチームもあった。無論、上手くいかなかったわけだが。
「マッシュ! オルテガ! ジェットストリームアタックをかけるぞ!」
「やるのか、ガイア!」
「へへっ、久しぶりだな!」
3機のゲルググが渦を巻くように上昇する。そして3機が一列に並んだ。単縦陣でガンダムに向かう。
先頭のガイアがマシンガンを構えた瞬間、ガンダムが何かを投げる仕草を見せた。
直後、ガンダムは頭部バルカンを発射した。その瞬間、ガイア機とガンダムの間で爆発が起きた。
「な、何がっ!? クラッカーかっ!?」
ガンダムが投げたのはビームサーベルの発振器だった。それをバルカンで撃ち、誘爆させたのだ。
視界が煙に染まる。そこからは一瞬だった。まず先頭のガイアがサーベルの刺突で頭部を貫かれ、左に避けたマッシュ機の頭部が斬り飛ばされ、反対側にいたオルテガの方に蹴飛ばされた。咄嗟にそれを受け止めたオルテガ機の両手はふさがり、なす術もなく頭部を斬り飛ばされた。