「お疲れ様でした、ウィリー少佐」
ルセット女史からドリンクを受け取る。さすがに黒い三連星は強敵だった。まさに三位一体のコンビネーション。ジェットストリームアタックの出鼻をくじくのに失敗していれば危なかったかもしれない。
「タイムは6分28秒。さすがにねばられましたね」
それは序盤のデータ取りを除けば、尤も長いタイムだった。
とはいえ、やっぱり素人よりベテランの方がやりやすいな。攻撃の意思はしっかりしてるし、ちゃんと弾も狙ったところに飛んでくる。素人は予測できない動きをしたり、射撃も安定しないからやりづらいのだ。
クランバトルも玉石混交で、元軍人の腕利きもいれば、素人に毛が生えた程度のやつもいる。
「もうデータは十分集まったんじゃないか? あれ以上の強敵はもう出てこないだろう」
「……そうですね。最近はマッチングにも苦労しますし、潮時かもしれません」
最初はガンダムという物珍しさもあって、対戦相手に苦労はしなかった。しばらく勝ち続けても、単機相手なら勝機はあると思ったチームが多く、それまでと同じような
だがそれでも連勝が続くと、試合を断られることが多くなった。そして今回の、黒い三連星相手の勝利。
もう相手は見つからないだろう。
「少佐のアイデアも刺激的でした。形にできるように努力します」
「ああ、力になれたのなら幸いだ」
外はまだ明るかった。
イズマコロニーは開放型のコロニーであり、ガラスでできた採光窓と人々が暮らす地上部分が交互に設置された筒状の構造となっている。
アジア系の移民が多く、公用語が日本語で、どこか懐かしさすら覚える。カミイグサコロニーも良かったが、イズマコロニーも悪くない。
最寄りの駅に向かっていると、視線を感じた。俺を見ているのは、スーツを着た3人の男。
中央に立派な口ひげをたくわえた男。
右側に隻眼の男。
左側にわし鼻の大男。
剽悍な武人に見えなくもないが、少し腹回りがな。まあ、戦争も終わって久しいからな。
「ウィリー・ケンプ殿ですね」
「人違いじゃないかな。私はただの、通りすがりのサラリーマンだよ」
そう言うと、口ひげの男は懐から1枚の紙を取り出して拡げて見せた。似顔絵だ。よくできている。
「アルテイシア大統領が描いた似顔絵です。よくできているでしょう?」
「ああ。彼女には、ホワイトベースで世話になった。で、俺に何の用かな? 黒い三連星の諸君」
「……ふっ、自己紹介の必要はなさそうだな。堅苦しい話し方もやめだ。ウチの大統領が、あんたをスカウトしたいらしい。好きな地位を用意するとさ」
「それは、魅力的な勧誘だな」
そういえば最近連絡を取っていなかったな。だが好きな地位と言われてもな。MS開発はやってみたいが、連邦の目があるから好き勝手もできなさそうなんだよな。
それに俺がジオンに行くと、ゴップ先生に対して申し訳が立たない感じがする。ないとは思うが、地球圏全域に指名手配される可能性もある。軍人騙りと
「だが、今は無理だ」
「ふむ。今は……か」
考えるような仕草で、ガイアは口ひげを撫でた。
「わかった。大統領にはそう伝えておこう。邪魔したな」
そう言って、3人は帰っていった。あっさりしてるな。こんなガキの使いのような仕事は乗り気ではなかったのかもしれない。
もうちょっと情勢が落ち着けば、サイド3に移住するのも悪くはない。まあその場合、仁義を通す意味でもゴップ先生に話は通しておかなければならないだろうが。
……落ち着くのかな、情勢。デラーズ紛争は起きていない。グリプス戦役は……どうだろうな。連邦内に過激派はいるようだが、今のところティターンズは結成されていない。
アクシズのハマーンもどう動くかわからない。シャアがアクシズに行ってないから拗らせてはいないと思うが、アルテイシア政権を認めず、ミネバを擁立するとなると、ジオンvsネオ・ジオンになる。ハマーンが連邦に鼻薬を嗅がせるなりの裏工作をするかどうかはわからないが……。
そんなことを考えながら、電車に揺られて自宅へ向かう。
駅構内を歩いていると、見慣れた制服が目に入った。
目を向けたのは一瞬だったが、その少女はこちらの視線に気づいたようだ。
「なに? おじさん」
おじさんか。俺もそんな歳なんだよな。
「いや、気分を害したのならすまないね。その制服、ハイバリー高校だろう? うちの娘も、ハイバリーの中等部に通っていてね。つい目を向けてしまった」
「娘さん?」
「双子の女の子さ。半年ほど前に転入したんだ」
「そういえば、中途半端な時期の転校生って話題になってたな」
赤毛の少女は思い出すように斜め上を見ながら小さくつぶやいた。
「おじさん、普通の会社員に見えないね。なにしてる人?」
「普通の会社員だよ。コロニー公社で働いている」
レオン・ミュラーは出張でサイド6に来ている。クランバトルでのデータ取りは終わった。ウィリー・ケンプはジャブローに帰ることになるが、レオン・ミュラーはこのまましばらくサイド6で働くことになる。
といっても空出張のようなもので、実質休暇である。お言葉に甘えてしばらくはのんびりさせてもらうつもりだ。
「ふ~ん。ま、いいか。じゃね、おじさん」
ハラハラと手を振りながら、少女は背を向けて歩き出した。
不思議な雰囲気を持った少女だったな。
さて、俺も帰るか。