後方支援者面で行けない0084   作:乾燥海藻類

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閑話 「愛国者たち」

ビーム砲はかわせない。それが兵士の共通認識だった。

正確に言うのならば、ビーム砲を見てかわすのは不可能だということだ。

当たらないように常に動く。射線に入らない。なにしろビーム砲が直撃すれば、どんな重装甲でも意味がないのだ。

 

「はぁ、はぁ、はぅ、ぐぅぅ!」

 

動く。とにかく動く。動きを止めるな。士官学校時代に教官から何度となく言われたことだった。

コウ・ウラキ少尉はぼんやりとそんなことを考えながら、必死にコントロールスティックを操作していた。

一筋の光芒が機体をかすめ、コウの頬に汗が伝う。

 

(僕にだって出来るはずなんだ。僕にだって……)

 

敵は3機のゲルググ。いずれもビームライフルを装備している。いかにガンダムの装甲でも、直撃すればただではすまない。

渦を巻いて接近してくるゲルググ隊のひとつに照準を合わせて引き金を引く。しかし、その光芒は標的を捉えることなく虚空へ消えて行った。

 

「くっ、スペックでは圧倒しているはずなのに!」

 

距離が詰まる。接近してきたゲルググがビームナギナタを振りかぶった。

 

「ちぃぃっ!!」

 

その攻撃を何とかビームサーベルで防ぐ。ビーム刃同士がぶつかり合い、電磁干渉を引き起こした。

 

「はっ!?」

 

鍔迫り合いによって動きが止まった。その左右から2機のゲルググが刺突を仕掛けてくる。

その動きに気づいてからの、コウの行動は早かった。

 

「くっそぉぉっ!!」

 

頭部バルカンを撃ちながら、出力に任せてビーム刃を押し進める。わずかに出来た空間を使って、腰部のビームダガーをゲルググのコクピットに投擲した。

後方に飛び退(すさ)ると同時にビームライフルを構え、左のゲルググを撃ち抜く。

 

しかし、最後のゲルググに接近を許してしまった。ビームナギナタで頭部を突かれ、反対の刃でコックピットを潰された。

ビームサーベルでは出来ない、両刃を活かした技だった。

そこで戦闘シミュレーターの天井が大きく開いた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

シミュレーターが停止しても、まだ視界が揺れているような気がした。

空調はきいているが、ジャブローは地下独特の鬱屈さのようなものがある。少なくとも、コウにはそう感じられた。

 

「お疲れ。惜しいところだったね」

「……ありがとうございます」

 

水の入ったペットボトルを受け取り、コウは喉を潤した。

 

(やはり咄嗟の反応は目を瞠るものがある)

 

一息に水を飲むコウを眺めながら、アムロ・レイ技術少尉はフッと笑った。

コウ・ウラキはまだ経験の浅い若き少尉である。ゾディアック計画におけるガンダムパイロットの選定は、新兵からベテランまで広く行われた。

コウは操縦技術はそれほど瞠るところはなかったが、戦局眼があり、耐G能力を持ち合わせ、何より熱意があった。つまり成長を期待した投資枠のパイロットだった。

 

(パイロットの真価が問われるのは、シミュレーター(ゲーム)の上手さじゃない)

 

戦場には戦場の空気というものがある。100回のシミュレーターでは得られないものが、戦場にはあるのだ。

コウは戦争を知らない。一年戦争後に任官したパイロットだった。

実戦でどう化けるか。それはまだ本人にもわからないことだ。

 

「でも、やっぱり1対3というのは厳しいですよ」

 

コウの口から思わず弱音が漏れた。

連邦軍は大戦時から格闘用MSと支援用MSを組ませて敵に当たる戦術をモットーとしてきた。当然コウが士官学校で習った戦術も、それに沿ったものだった。

 

「ウラキ少尉。キミの乗るガンダムは、量産型のガンダムもどきじゃない。厳しいことを言うようだが、ゲルググ3機程度に苦戦しているようでは、他のパイロットにガンダムを奪われてしまうぞ」

 

脅すようにアムロは言った。とはいえ、アムロに人事権はないし、一度決まったパイロットを交代するというのは、コウに余程の落ち度がないと行われないことだった。

しかし、コウは言葉通りに受け取り、冷や汗を流した。

 

「あの、実際に機体に乗るのはいつになりそうなんですか?」

「そうだね。どんなに早くてもあと1ヵ月はかかるんじゃないかな」

 

ゾディアック計画の素体となる"ルミナス"の実戦データは十分に集まり、12機の建造が始まった。

アムロもその開発には関わっていた。だが正直に言えばアムロはあまりMSが好きではなかった。

子どもの頃から機械いじりやプラモデルを組み立てることは好きだった。バイク、自動車、飛行機のプラモデル。そして市販のペットロボットを改造して、独自の"ハロ"を作った。どれも、人の心を満たしてくれるものだ。

 

対して、MSは兵器だ。人を傷つけ、命を奪うものだ。一年戦争の頃は、真新しさもあって、いじるのは楽しかった。父の勧めもあって、特に迷うこともなく軍属の技術者になった。

だが趣味が仕事になると苦痛になるように、次第にアムロはMSに興味を失っていった。しかし、仕事は仕事としてしっかりやる。妻子を路頭に迷わせるわけにはいかない。そう考えるくらいには、アムロは大人になっていた。

 

「まあ、しばらくはシミュレーターだね」

 

そんな葛藤はまるで見せずに、アムロは笑いながらコウに告げた。

軍人にしては実直で素直なこの若者を、アムロは嫌いではなかった。

 

(とはいえ、新型のガンダムが必要な事態にはなってほしくないけど)

 

今のところ、連邦政府とジオン共和国の関係に波風は立っていない。残党軍もこのところおとなしい。地球の残党軍は殲滅されたのではないかとも言われている。

しかしアムロは、それが嵐の前の静けさのように思えて仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド7。

一年戦争時には、ジオンの本拠地であるサイド3から遠かった事を隠れ蓑に、V作戦で作られたガンダムを始めとするMSの性能実験場があった。

原作と違い、コロニーに穴が開く事故がなかったため、復旧は時間も費用もさしてかからずに行われた。今では生活可能な環境を取り戻し1000万人ほどが暮らしている。

 

そして現在でも、その時に造られた施設を再利用して、新たなMSの開発・実験を行っていた。

ゾディアック計画で建造される12機のうち3機がこのコロニーで建造されていたのだ。

さらにこのコロニーには、もう1機のガンダムが保管されていた。一年戦争末期に開発された機体、ガンダムMk-Ⅷである。

 

このガンダムはV作戦で開発されたガンダムではあるが、当時の最先端技術の粋を集めて開発された特別なMSだった。7号機までとは建造方式が違うため、Mk-Ⅷと名付けられた。

それは現在の最新鋭機と比べても遜色ない性能だ。何よりこのMk-Ⅷの最大の特徴は、バックパックを変更することにより用途を拡大できることにある。

強襲機にもなれるし、支援機にもなれるし、砲撃機にもなれる、戦術的価値の高い機体なのだ。

 

「核実験は予定通り行われるのだな?」

 

暗い室内で、銀髪を束ねた男が呟く。ジオン公国の制服に身を包んだ端正な顔立ちの男だった。

 

「はい。間違いなく」

 

答えたのは、黄色い作業着(ツナギ)を着た細面(ほそおもて)の男だった。ツナギにはアナハイムのワッペンが付けられている。

 

「新型の方はどうだ?」

「一応、稼働は可能です。ですが、何分(なにぶん)試験機なもので。また、3機のうち1機はニュータイプ専用機のようです。パイロットがまだ未定なので、これは動作の保証ができません」

「……ニュータイプか」

 

ジオン・ダイクンが提唱した人類の革新。それがいつの間にか、戦場で一騎当千の活躍をする兵士などと誤解されるようになった。その理由のひとつが、伝説ともなったガンダムパイロットだろう。

あの赤い彗星もニュータイプだったのではないかと言われている。

 

「……ついで、と考えた方が良いだろうな」

「はい。本命はMk-Ⅷでよろしいでしょう。近代化改修がされており、決して新型に引けを取るものではありません。実績があり、何よりタフな機体です」

 

銀髪の男は静かにうなずいた。

 

「ようやく、ジオン公国が蘇えるのですね」

「ああ。あのようなまがいものに、真のジオン国民は騙されはせん。ジオン共和国などという連邦の傀儡国ではなく、正当なる血統の公王のもとで、ジオン公国は真の独立を手に入れるのだ」

 

ジオン共和国。確かに独立は成ったが、地球連邦政府の介入があり、彼らの顔色を窺う必要があるのは事実だった。

その姿が、真のジオン国民からは虚飾に(まみ)れた独立にしか見えなかったのだ。

 

「すべては、正当なるジオンのために」

『ジーク・ジオン』

 

ふたりの男は互いに敬礼を送り、背を向けて歩き出した。

 

 

 

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