なんか、ガンダムが強奪されたらしい。
それはいい。いや、よくはないが、ガンダムが強奪されるのはいつものことなので驚くようなことじゃない。
サイド7でロールアウトしたばかりの新型が2機と、保管されていたMk-Ⅷが強奪されたようだ。
問題はMk-Ⅷが核装備の状態のまま奪われたってことかな、ハハッ。
いや笑いごとじゃねぇよ。Mk-Ⅷが現役で残ってたことも驚きだが、核を装備してたことも驚きだ。核運用を想定した機体は造るなとテム博士に言っておいたんだがなぁ。
造ったんじゃなくて改修だと言われたらまあ……いやそれでもダメだろ。
おそらく、テム博士はゾディアック計画にかかりきりでそれどころじゃなかったんだろう。もしくはアナハイムがアナハイムしたか。
『というわけで頼むよ』
「頼むと言われても困るんですけどね、閣下。正式に追撃隊を組織するべき案件じゃないですか」
『無論、やっているよ。キミたちは……伏兵だな』
陽動ではなく伏兵とな。つまりどさくさに紛れて刺せということだろうか。
「なるほど……たち、ということは小隊で動くのですか?」
隊長はあんまり向いてないんだよな。戦術の幅は広がるけど、ハッキリ言って、俺にリーダーシップはないと思うんだ。一年戦争でそれを実感した。俺がボスを叩くから、取り巻きは任せるって指示しか出した覚えがない。まあガンダム3機という特異な編成だったから仕方ないとも言えるが。
本来なら小隊は格闘用MSと支援用MSを組ませるからな。
『ブランリヴァルを出す。あと私の娘も付けるよ』
「娘さん……ですか」
本当の娘ではない。養女だ。名前はイングリッド。金髪の可愛らしい子ども……らしい。実際に見たことはない。噂を聞いた程度だ。
『噂くらいは聞いたことがあるのだろう?』
「いい年をして養女と称した手籠めを仕事場にまで
『そうまでハッキリと言われたのは初めてだよ』
普通は隠すが、あえて見せるということは意味があるのだろう。政治の世界は魔窟だからな。無能を装っているのかもしれない。
「そいつはどうも。この状況でよこすということは、パイロットなのでしょう?」
『新型を任せられる程度には優秀だよ』
「そりゃ頼もしいですな」
しかし、連中核を奪って、どこに撃つつもりだろうか。観艦式はもう終わったし、月かルナツーあたりか? グラナダには割とデカめの基地と工廠があるけど……いや、まて。なんか嫌な予感がしてきたぞ。
「閣下、ひとつわがままを聞いていただけますか? ニュータイプ用の新型を1機追加していただきたい」
『ニュータイプ用を? パイロットのあてはあるのかね?』
「ええ、一応は」
『……ふむ。わかったよ。なんとか都合を付けよう』
「よろしくお願いします」
ゴップ先生との通話を終え、新たに番号を押す。ほどなくして、回線がつながった。
「あー、もしもし。ちょっとお願いがあるんだけど。そう、仕事じゃなくてお願い。まだ確証はないんだが、サイド3に核が撃ち込まれるかもしれない。だから手伝ってほしくてね。うん、判断が早くて助かるよ。サイド6のイズマコロニーまで来てくれ。なるはやでよろしく」
◇
「ウィリー・ケンプ少佐、着任しました。こちらは協力者のシロウズ・シノミヤ氏です」
「シロウズ・シノミヤです」
「お話は伺っております。艦長のココノエです」
ペガサス級第5番艦ブランリヴァル。
形状や色はホワイトベースとよく似ている。一年戦争ではガンダム3号機を搭載していたらしい。
「早速ですが、機体のテストを行いたい。許可をいただけますか?」
「もちろんです。MSデッキには伝えております」
「ありがたい。では、失礼します」
ブリッジを出て、MSデッキへと向かう。
「ずいぶんと腰の低い艦長だな。階級は大佐のようだが……」
「彼は、俺に対する命令権を持っていないからな」
「どういうことだ?」
「まあ、色々あるのさ」
「……ふむ」
昇進させて閑職をあてがい、軍で飼い殺しにする。原作でのアムロのような扱いを、ウィリー・ケンプは受けていることになっている。それを管理しているのがゴップ先生子飼いの軍人であり、真実を知るものはごく少数だろう。
「レオン・ミュラーとウィリー・ケンプか。連邦軍に利用されているだけではないのか? あなたは、それでいいのか? 戦うのが嫌だから、軍を辞め、コロニー公社に移ったのではないのか?」
「戦うのは嫌さ。それ以上に、俺の好きな人たちが不幸になるのが嫌だ。だから戦っている。幸か不幸か、俺には戦う力があるからな。それに、利用されっぱなしではないよ。持ちつ持たれつさ」
ゴップ先生が離してくれないという理由もあるが、おそらく裏で色々と便宜を図ってくれているはずだ。だから、しばらくはこの状態の方が良いような気がする。
「その好きな人たちの中に、私の妹も含まれているのかね?」
「だからこうして戦っている」
俺がそう言うと、シロウズは小さく笑った。
MSデッキには4機のガンダムがあった。そのうちの1機を見て、シロウズはかすかに眉根を寄せた。
「待ってくれ。まさかあれが私の機体というわけではないだろうな?」
「いや、さすがにそれは……」
ゴップ先生は知らないはずだ。しかしあの色は……。
「お久しぶりです、隊長!」
俺たちを見つけたジャック少尉が駆け寄ってくる。いや、あの階級章は中尉か。昇進したんだな。
「ああ、またよろしく頼むよ」
「はい! あなたがシロウズさんですね。ジャック・ベアード中尉です。よろしくおねがいします」
「よろしく頼むよ、ジャック中尉」
ふたりが握手をかわす。ふたりとも金髪のイケメンだから絵になるな。女性メカニックがチラチラとこちらを見ている。
「イングリッド、キミも挨拶しなよ」
ジャック中尉がキャットウォークでドリンクを飲んでいた少女に声をかけた。
彼女は小さくため息を落とし、キャットウォークから飛び降りた。
小さな体がゆっくりと降下してくる。見定めるように俺を眺めた後、彼女は口を開いた。
「初めまして、ウィリー少佐。イングリッドよ」
「ああ、よろしく。で、こっちが……」
「シロウズ・シノミヤだ。よろしく、レディ」
「……よろしく」
敬礼を送り合うでもなく、握手をかわすでもなく、ふたりは見つめ合っていた。いや、イングリッドは睨んでいるのか? ニュータイプ同士感じ合うものでもあったのだろうか。
……ニュータイプ? そうか、この少女、ニュータイプだ。
「あんたの機体はあれよ。少佐のはあっちね」
と、ふたつの機体を指差して、イングリッドは軽やかに飛び立った。どうやらあの機体はシロウズのものではなかったらしい。
「気難しい子のようだ」
「まあ、同じチームになるんだ。これから親睦を深めていけばいいさ」
「ふむ。では慣熟訓練に入るか」
「ああ、ファンネルの操作に慣れてもらわないとな」
「ファンネル?」
そういえば、まだファンネルを知らないんだったか。
「脳波で操作する無線のサイコミュ端末だ。ちょっと操作にクセがあるが、すぐに慣れるさ」
「無茶を言ってくれる。連邦系のMSはジムにしか乗ったことはないぞ」
「おまえなら大丈夫さ」
複座式のジラソーレは単独で動かすだけでも難しいのに、1時間くらいの慣らしで全開機動をやらかしたらしい。データを見た時は目を疑ったわ。
それくらい適応力が高いのだ、こいつは。
「……ふっ、ならばやってみよう。しかしまさか、私がガンダムに乗ることになるとはな」
そう言って、シロウズはコクピットに滑り込んだ。