P-SWAT―ロス市警機械化特殊部隊―   作:福ノ権兵衛

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第1章 始まり

 イーサン・クーパーはロサンゼルスのアーバインで生まれ育った。彼には尊敬する父がいた。父ロバートはロス市警SWATの隊員であった。ロバートは生死を分ける緊迫した状況下に置かれていても任務を遂行し市民の安全を守っていた。ロバートは事件で片腕を失ったが、彼は後悔していなかった。むしろ市民を救えた証として誇りに思っていた。そんな父親をイーサンは心から誇りにしていた。しかし10歳の誕生日の前日、ロバートは強盗事件の制圧任務にて民間人をかばう形で殉職した。葬式が終わりイーサンは、大人になったらSWAT隊員となり尊敬する父のような人間になると決心した。

 それから15年が経った。彼はカリフォルニア大学を卒業後、警察官となり厳しい訓練を得て晴れて憧れのSWAT隊員となった。亡き父と同じく市民を守る勇者になれたことを誇りに感じていた。しかし、彼が大人になった時には世界は彼が思い描いた未来とは異なる世界となっていた。

 世界各国は軍事、治安維持、作業に「パペット」と呼ばれる遠隔操作式無人ロボットを用いるようになり、人間の労働者を使うことは非効率的で時代遅れという風潮が高まった。彼はこれをよく思っていなかった、特にこの風潮によって誕生したパペットを運用する機械化特殊部隊“P-SWAT”の存在に厭悪の情を抱いていた。父を含めたかつてのSWAT隊員たちが死の危険を顧みずに命を懸けて任務を遂行した。しかしP-SWATの無人機オペレーターは、安全なコントロールルームでゲーム機のコントローラーを操作するかのように任務を遂行するだけだ。死の危険に晒されることのない、ただのゲーム感覚で操作する臆病者とイーサンは軽蔑していた。

また、現大統領“フレデリック・L・ダグラス”は改革の一環として5年後までにSWATを解体し、P-SWATのような特殊部隊を各警察署に配置すると宣言した。これを聞いたイーサンは「勇敢な者を排除し、卑怯者を増やす行為だ」として激しい憤りを覚えた。そしてふつふつと煮えたぎる怒りと嫌悪は彼の人生を大きく変える事となるとはまだ誰も知らない。

 

 2052年6月23日、ロサンゼルス・カルバーシティ。19時25分、かつて映画産業の中心地であったこの地で銃乱射事件が発生した。犯人は違法改造した汎用ロボット5体を連れ、ショッピングモールに侵入し見境なく発砲した。既に民間人と警官含め12名が死亡、15名が負傷した。そして現在19時35分、犯人は人質を3階にあるスーパーマーケットに集めて立てこもっている。窓や入口はシャッターで固く封鎖されている。ロボットには自爆装置が取り付けられており、いつ犯人が起爆するのか分からない。従来の方法では対処できないと考えたロス市警はSWATとP-SWATによる合同作戦を開始した。本部のオフィスではブリーフィングが行われていた。作戦を説明するのは署長のエリック。銀髪シェーブヘッドのドイツ系の中年。顔にはいくつものしわがあるが、眼光は鷹の如く鋭い。

エリック「いいか、犯人が立てこもっている階層には非常階段がついている。そこを駆け上がり、バックヤードを通って後ろから奇襲する。爆発する危険性があるためP-SWATのアーモが先導し、SWAT隊員はそれを盾にして進む。また誘爆するリスクがあるため、人質の避難が完了するまでロボットへの発砲を禁ずる。今回はP-SWATとSWATの初となる合同作戦だ。互いの長所を活かして人質を救助せよ、以上だ。」

しかし、これを快く思わない隊員がいた。SWATに配属されたばかりのイーサン・クーパーである。茶色がかった黒髪ウェーブが特徴的な日系人とイギリス系白人のハーフだ。彼は署長に抗議しようとするがSWAT部隊の隊長ヘンリーに止められる。

イーサン「隊長、なぜP-SWATの奴らと組まないと行かなければならないんですか?俺たちだけでもやれます!」

 それは彼がSWAT隊員であることへの自信と亡き父の想い出から出た発言だった。

ヘンリー「馬鹿をいうな、イーサン!相手は自爆ロボットを5体持っているんだ。下手に攻撃してみろ、人質だけでなく俺達も死ぬことになるんだぞ!俺達はブリーフィングのとおりにやればいい。」

 しかし、と反論しようとした時、一人の女性警官がやって来た。肩まで伸びる赤毛とスレンダーな体型をもつ彼女こそP―SWATの突入チームのリーダーであるミシェルだ。絵画に出てくるような美しい顔をしている。身長は170㎝の長身、モデルのように整った体型をしているが訓練で鍛えているのか筋肉質だ。それはイーサンの横に立つと話し始めた。

ミシェル「ヘンリー隊長ですか?P―SWAT突入班隊長のミシェル・マッケンジーです。突入作戦についてお話をしたいのですが・・・。」

 ミシェルの姿を見てイーサンは驚いた、安全圏からパペットを操る奴らだからてっきり聞き取れないくらいの小声で喋る筋肉のない陰キャのかと軽蔑していた。その様子を察したのかヘンリーは彼を睨む。

ヘンリー「イーサン、お前がパペット・オペレーターを憎む気持ちも父親を誇りに思っていることも分かる。だがな、SWATはチームワークが重要だ。たとえ相手が憎き相手でもな。分かったなら支度に戻れ。」

ヘンリーが苦言を呈するも彼は不満げな態度で持ち場に戻る。彼は待機しているアーモ3機を射るように眺める。全高2m弱、炭素繊維強化プラスチックのボディに防弾チョッキの素材であるアラミド繊維の追加装甲を身に着けている。脚部と腕部は産業用ロボットと同じ垂直多関節式を採用している。マニピュレータは銃器を取り扱うため3本になっており、形状は日本の剣道で使う前腕を覆う防具「こて」に似ている。背面には燃料電池を内蔵した作戦用バックパックを搭載している。デザインは第一世代やパペットの前身である汎用ロボット群と異なり警察署長じきじきに手掛けたものとなっている。これまでの工業機械然としたフォルムとは異なり、日本のロボットアニメのようなヒロイックでがっしりとした体格、角張ったアーマーとSWATヘルメットを模したバイザーヘッド、パトカーと同じ白と黒の塗装に肩部にはパトランプを付けている。

 いかにもナードが好きそうなデザインをしたパペットが俺たちの代わりだって?冗談じゃない、こんな玩具を採用するなんて言語道断だとイーサンはP-SWATとアーモを導入した署長を呪った。

イーサン「卑怯者どもめ・・・。」

 にぎやかだったカルバーシティは緊迫した空気に包まれていた。ショッピングモールの外には警察のパトカーや特殊部隊の装甲車が周辺を囲んでおり、パトランプが回転し、サイレンが鳴り響いていた。黄色いバリケードテープの向こうにはマスコミや野次馬が灯りに集まる蛾のように集まっていた。警官が追い払おうとするも、それを気にせず多くの者がカメラやスマホをショッピングモールや警察に向けていた。無論、SWATとP-SWATを見るためだ。彼らは装甲車で現場に到着し、ショッピングモール北ゲート近くの搬入口に集結していた。

彼らは階段を使って裏口から奇襲しようとした。ミシェルを先頭に非常階段を上る。後ろにはP-SWATの医療チームとイーサンらSWATが付いてくる。他のものは自らを奮い立たせていたが、イーサンだけは怒りを募らせていた。「相手は運動が苦手な内気で細身の青年だ。作った自爆ロボットは旧型機、こんなの俺たちだけでも十分だ」と内心不満だった。三階に到着し扉を開けてバックヤードに侵入する、死角に敵がいないかカバーしあいながら前に進む。店に出す前の食材や調味料が入った段ボールが山積みされている。搬入口に近づくと隊長機がセンサーで犯人の位置を特定する。犯人は搬入口近くの食品コーナーにおり、自爆ロボットと一緒に人質を囲んでいる。犯人の精神状態はあまり宜しくなく荒れており、いつ爆発させるか分からない状況だ。

ミシェル「いい、321で突入するわよ。」

ヘンリー「了解。」

部隊の面々は銃を構え突入の準備を整える。彼女がフラッシュバンのピンを抜き、もう片方のアーモがドアを少し開ける。

ミシェル「3,2,1!」

 安全装置を外し、隙間から投擲する。それは犯人の足元に転がる。犯人が訝しんだ瞬間、目の前に閃光と耳をつんざく爆発音が響く。

ミシェル「GO!GO!GO!」

 突入する隊員、彼らはすばやく犯人と人質に近づこうとした。P-SWATが犯人を射殺し、SWATチームや医療チームが人質を確保する。任務は達成したかに見えた、しかし自爆ロボットは停止せずこちらに迫って来た。

ミシェル「ロボットが動き出した。私たちが抑える。ヘンリー、人質をお願い!」

ヘンリー「了解だ、ミシェル。イーサン、何している、外に出るぞ!」

 ミシェルたちはロボットに組み付き動きを封じた。その隙にヘンリーたちは人質をつれて避難しようとした。しかし、人質の一人、10歳くらいの少年が転んでしまった。そこに一体が人質に近づいて自爆しようとした。少年は震えて立ち上がれない、彼女たちは間に合わないと真っ青になった。その時だった、銃声が鳴り響いたと思ったらロボットの頭部が突如吹き飛んだのだ。ロボットは少年の目の前に倒れこんだ。彼女は銃声がした方向に目をやるとそこにはイーサンがいた。彼はヘンリーと同行せずここに残ったのだ。

イーサン「くたばれ、鉄くずどもが!」

 次々と自爆ロボットを破壊するイーサン。旧型かつ市販品であるため5.56mm弾によって装甲や関節が撃ち抜かれ倒れた。同じく人質の安全が確保できたためミシェルたちも発砲し始めた。しかし彼女らが慎重に一発ずつ撃っているのに対し彼は1体にこれでもかというくらいの弾数を乱射していた。まるでこれまでの鬱憤を晴らすかのようだった。

ミシェル「イーサン、やめなさい!ブリーフィングを聞いていなかったの!?」

イーサン「その前に破壊すれば問題ないだろ!?」

ミシェル「下手に衝撃を与えたら爆発するのよ!?」

イーサン「うるさい、卑怯者の指図は受けない!」

 ミシェルの警告を無視して彼はロボットを破壊しようとする。その姿に彼女は呆れ返る。当然だ、協調性が命であるSWATのモットーを、彼は私的な理由でそれを否定しているのだから。

アーサー「いい加減にしろ!」

イーサン「邪魔するな!」

 とうとう痺れを切らしたP-SWATのアーサーがイーサンを止めようと抑える。しかし、イーサンはそれを振り払いアーサーに向けて弾丸を何発も撃った。バイザーはへこみ、右ひざの関節部にダメージが入る。そして頭部に銃口を向けた刹那、イーサンの体に電流が走る。ミシェルにテーザー銃を撃たれたのだ。

イーサン「うぐぐぐ・・・。」

 イーサンはその場で倒れこみ、荒れた食品コーナーの床にうずくまった。撃ったミシェルはため息をはいた。

ミシェル「まさか、訓練以外にこれを味方に使うとはね。」

フランク「だいじょうぶか、アーサー?」

アーサー「くそ、右ひざの関節がいかれやがった。メインカメラにもひびが入っている。」

ジェシー「この狂犬が!爆弾背負ったロボットにあほみたいに撃った挙句、味方まで襲うなんて何考えてるの!?」

 あるものはあきれ果て、あるものは仲間を心配し、またあるものは彼を責めた。イーサンは屈辱を感じた。子供を守るために攻撃したのにあいつらに責められ、抵抗した挙句テーザーを受けるなんて、パペット越しの卑怯者に撃たれるなんて、天国の父に何といえばいいと思いながら気を失った。そこにヘンリーが駆けつけてきた。

ヘンリー「イーサン!」

ミシェル「大丈夫、気絶しているだけよ。」

ヘンリー「本当に済まない、こうなったのも俺の責任だ。人質や君たちを危険に晒した。」

ミシェル「いいのよ、別に。それに彼のおかげで守れた命もあったから・・・。」

 事件は無事解決した、しかしそれは大団円とは言い難かった。一人のSWAT隊員の私怨がチームと人質を危険にさらす危険となったのだから。

 後日、正午のロサンゼルス市警察署。イーサン・クーパーは署長に呼ばれ署長室にやってきた。ドアを3回ノックすると寂声で返事がきた。

エリック「入れ。」

イーサン「失礼します。」

イーサンは部屋に入る。壁にはロサンゼルス全域の地図、机には飲みかけのエスプレッソ・コーヒーと今回の事件に関する報告書、そして日本製のデジタル時計。棚には法律に関する書物と表彰、そして彼が好きな日本のアニメロボットのフィギュア。そして椅子に座る眼鏡をかけたドイツ系の中年。短く切った銀髪、しわを寄せながら報告書に目を通している。彼こそがロス市警のエリック・マッカーソン署長である。彼はある程度見終わると今度はイーサンをじっと見つめる。例えるなら問題児を見る校長先生のようだった。

エリック「えー、イーサン・クーパーだな。」

イーサン・クーパー「はい。」

 そう確認すると今度はイーサンの履歴書を開いて確認する。イーサンは正直、一昨日の事件であんな大失態を起こしたことで自分は懲戒処分を喰らうだろうと考えていた。だから今更履歴書を確認したところでどうにもならないと諦めていた。

エリック「君はハイスクール卒業後、法律や政治学、犯罪心理学を学び高い評価を受けている。警察学校には首席で卒業し射撃コンテストでは1位を、また候補生時代では最高成績を獲得している。だが君には協調性が欠如している、SWATにはチームワークが大切なのだ。だが君はP-SWATのメンバーを毛嫌いするあまり危険な行為を犯した。」

イーサン「・・・いかなる罰でも受けます。」

エリック「そうか、なら君にはある部署に異動しそこで働いてもらう。」

 そういうと彼はイーサンに一枚の異動辞令を手渡す。追い出し部屋か、とそう思いイーサンは紙を見る。その内容を見て衝撃を受けた。

イーサン「どういうことですか!何故俺がP-SWATに異動なんですか!?」

エリック「君は確かに命令を無視し仲間や人質を危険に晒した。本来なら君は懲戒処分するのが当たり前だ。だが、君には現場で活躍した経験と技術、そして積み重ねた功績がある。切り捨てるのは惜しい、そこで君には贖罪の意味を込めてそこで研修と任務をこなしてもらう。」

 イーサンは凶器で頭を殴られたように立ちすくんだ。彼にとってこれほど屈辱的な異動命令は人生で初めてだった。自分が軽蔑し、嫌う部隊に所属するなんて夢にも思わなかったからだ。

エリック「そういう事だ。まあ、頑張り給え。」

 署長はにやりと笑いながら敬礼した。イーサンはそんな憎らしい顔を叩き潰したいと腹をたてた。

                                                 続く

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