21世紀、アメリカの科学者エドワード・マクレイン教授によって作製された人工幹細胞によって再生医療技術は大きく飛躍した。これにより人々は手足や臓器が何かしらの理由で負傷・欠如した際には一度の治療で後遺症なく完全に回復できるようになった。また副次的な作用として銃を撃たれて即死しない頑丈な体を得るようになった。
しかし、この技術革新はアメリカ社会における銃の殺傷能力向上を招く要因となった。散弾銃や炸裂弾、裏社会では対物ライフルや手りゅう弾が流通するようになった。その結果、銃乱射事件やテロ事件は以前にも増して過激化。死亡率が上昇し、SWATの作戦遂行率は低下していった。
ミシェル「・・・こうした背景があるため、従来のSWATチームが困難になって来たの。そこで、その不足を補うために設立されたのがP-SWATよ。チームは2つに分かれている。1つはあなたが嫌いなパペットで構成されている「突入班」、もう一つが犯人との交渉や人質の保護と治療を担当する「治療班」よ。」
ここはロス市警本部にあるP-SWATのオフィス。そこではP-SWATの歴史と導入に至った時代背景、チームとパペットの説明が行われていた。椅子に座り授業を不満げな表情で受けている男がイーサン。教鞭をとり嫌そうな顔をしている彼に丁寧に説明しているのがP-SWATのリーダーであるミシェルだ。
ミシェル「突入班の目的は単に犯人の制圧だけではないわ。私たちが運用するパペット“アーモ”は炭素繊維強化プラスチックとアラミド繊維の増加装甲で覆われている。これを利用して避難経路の確保や犯人の凶弾を防ぐ壁の役割を持っているのよ。流れとしては突入班が先陣を切って突入すると同時に後方の医療班を防御する形で進む。人質の救助の際には彼らと医療班を守るために壁となる。で、最後に犯人を制圧もしくは確保する。こんな感じね。何か質問は?」
彼女が言うとイーサンが手を挙げる。
イーサン「大体話は分かった。だけどわざわざ制圧の際にパペットを使うのは変じゃないのか?それだったらSWAT隊員にライオットシールドを持たせたり、装甲車を盾にすればいいじゃないか?」
ミシェル「いい質問ね。さっきも話したように武器の殺傷能力が向上したと比例して武器の貫通力も上がったのよ。そのためライオットシールドを装着しても無意味になってしまったのよ。それに装甲車も室外では使えるかもしれないけど、事件はだいたいが立てこもり事件が多くあまり活用する場面がないのよね。」
彼女を困らせるためにいじわるな質問をしたつもりが、あっさり返されたことにイーサンは苦虫を噛み潰したような顔をした。座学が終わり、イーサンにとって苦痛と退屈の時間が一旦終わった。休憩所へ向かう道中彼は前の職場の上司、もといSWAT隊長のヘンリーとばったり出会う。
ヘンリー「どうだ、新しい職場は?」
イーサン「苦痛ですよ。先ほど退屈で難しい話を聞かされましたよ。」
そうイーサンは愚痴を言う。
ヘンリー「まあ、そうだろうと思ったよ。なれるには時間がかかるな。」
イーサン「冗談はやめてください。こんなチーム、いつか出てまたSWATチームに戻りますよ。」
ヘンリー「はは、それまでお前の席は空けておくさ。くれぐれもミシェルたちに迷惑をかけるなよ。」
そういってヘンリーは立ち去った。イーサンは内心P-SWATに異動されたことを苛立っていた。彼は再びSWATに戻るためにも、この状況を打破しなければならないと考えていた。彼が今出来ることはP-SWAT隊員として多くの任務をこなすことだけだった。そうすればあの憎たらしい本部長も自分をSWATに戻してくれるかもしれないという思いに駆られていた。
休憩が終わるとミシェルからガレージに来るよう連絡がきた。イーサンは憂鬱な気分のまま、重い足取りでP-SWATのガレージへ向かった。装甲車があるところはSWATとは変わらないがどこか異質だった。装甲車の他にも無線中継車があり、駐車スペースの横にはパペットの格納兼整備スペースが厳然と構えていた。整備員が本部隊の主力パペット“アーモ”の修理と調整を行っている。待機状態のアーモに彼は目を峙てていると一人の整備員が声をかけてきた。黒の短髪や優しそうな顔つきからして日系人だろう。
整備員「イーサン巡査、お待ちしてました。自分アシダっていいます、アーモの整備と調整をやっています。ミシェル隊長から聞きました、どうぞこちらへ。」
イーサンはアシダについていくとハンガーにかけられたアーモの一体の前にたどり着いた。その機体は前の作戦で見た機体と異なり黒と白の塗装ではなく青と白のツートンカラーだった。頭部もよく見るとツインアイになっている。装甲も丸みを帯びている。
イーサン「この機体は?」
アシダ「訓練用に設計されたアーモ、通称トレーナーです。巡査の機体が届くまで、当分はこれを操作してパペットの基本操縦課程を受けてもらいます。」
イーサン「内容は?」
イーサンが質問するとアシダは「えっと、確か・・・」と言いながら手に持っていたタブレットを操作して課程内容を確認する。
アシダ「主にパペットの操縦方法と射撃訓練、制圧任務の演習とパペットの点検ですかね。」
イーサン「ん?射撃訓練だって?パペットはマスタースレーブ方式で操縦するから別に訓練する必要はないだろ?」
アシダ「そうは上手くはいかないんですよ。おっしゃる通りマスタースレーブ方式の性質上、動きをトレースするだけなので操縦が容易なのは確かです。しかし、衛星通信や中継車があるとはいえパペットが遠隔操作式ロボットであるため動きにラグがかかってしまうんですよ。なのでいつものタイミングや速さで撃ったとしてもラグが発生して外れる確率が大きくなるんです。ですからこれまで以上に射撃の腕が求められているのです。」
アシダの説明を聞いたイーサンはパペットを恨んだ。社会人の大人が小学校の授業を受けるようなものだった。
イーサン「この鉄くずのせいで射撃課程を受け直すことになるなんてな。」
???「誰が鉄くずだってぇ!!」
イーサンが愚痴をこぼした途端、凄まじい怒号が響く。アシダが慌てて上を見上げる、そこには手すりにがっしりと握りしめ、鬼のような形相をした男がいた。服装からしてどうやら整備長だろう。こちらもアシダと同じ日系人でやや茶色に近い黒い髪に四角い眼鏡をかけている。その男はカツカツカツと勢いよくらせん階段を下りてイーサンに迫った。
???「貴様か!前回の作戦で俺の仲間に傷をつけた大馬鹿野郎は!!」
アシダ「整備長、落ち着いて!」
掴みかかろうとした男をアシダが間に入って制止する。
イーサン「な、なんなんだいきなり迫って。てか、あんた誰なんだ!?」
カワブチ「俺か!俺はP-SWAT整備班班長のカワブチだ!ここでミシェル隊長ら突入班と共に駆ける我らの戦友たちの整備点検を行うものだ!」
カワブチの言葉にイーサンは困惑した。
イーサン「はぁ?戦友だって?」
カワブチ「そうだ、銃弾の雨を掻い潜り隊員たちと共に死線を渡る。鋼鉄の体で仲間や人質を守り、悪を挫く鋼鉄の戦友だ!そんなかけがいのない友に向けて貴様は撃った!ゆるせん!」
カワブチの憤激にイーサンはむっとする。そして自身の中にあるパペットに対する不満をぶちまける。
イーサン「ふざけるな、何が戦友だ!パペットは人が操るロボット、感情も血も涙もない、痛みの感じない人形だ。」
カワブチ「何だと!」
アシダ「2人とも落ち着いて・・・。」
ふたりの怒りが爆発しそうになろうとした時、そこにミシェルがやって来た。
ミシェル「そこまでよ。」
カワブチ「ミシェル隊長。」
アシダ「隊長。」
イーサン「ミシェル・・・。」
ミシェル「此処での喧嘩は立派な規律違反よ。P―SWATはチームワークが大事よ、あなたたちのようなここで乱闘する輩は必要ないわ。分かったなら離れなさい。」
彼女の仲裁で2人はおとなしくなり、渋々離れた。
ミシェル「よろしい。イーサン、明日はパペットの訓練よ。訓練だからと言って気を緩めない事ね。」
イーサン「・・・了解。」
イーサンは返事したものの、彼女の言うことに不服的な態度を取った。自身が嫌うパペットに初歩的な練習をやらされることに納得できなかった。同時に彼はパペットを操縦しても結果は変わらないと高を括っていた。
翌日、ロサンゼルス郊外にある射撃訓練場。広大な荒原に1台の衛星中継車と5体のアーモが立っていた。そのうちの一機はイーサンが操るトレーナーと呼ばれる訓練機であった。上空にはドローンが飛行しており、搭載されているカメラで全体の記録を中継している。
場所は変わって、ロス市警本部にあるコントロールルーム。VRゴーグルをつけた隊員たちが操縦用のエクソスケルトンを身につけている。床にはホロタイルが敷かれているところを見るに操作感が向上している。
ミシェル「これより、射撃訓練を開始する。全機、射撃準備。」
アーサー、フランク、ジェシー「「「了解」」」
イーサン「・・・了解」
他の隊員が復唱するもイーサンだけはどこかぎこちない。射撃訓練が始まり、隊員が操作するアーモがM4A1カービンを的に向けて撃つ。アーサーやジェシー、フランクやミシェルの弾丸は精確に心臓と頭部の位置を射抜く。しかし、イーサンだけは違った。彼は普段のように構えて引き金を引いた。
イーサン「はっ!?なんで?」
しかし弾丸は的の端っこやあらぬ方向へ飛んだ。彼は困惑した。普段から欠かさず射撃訓練をしている身としては内心焦るだろう。照準が定まらない原因はパペットと人体の違いにあった。人体は個人差があるものの幅が狭い、しかしアーモは人体に寄せているものの胴が広いため照準がズレる場合がある。そのため、照準にはコツが必要なのだ。
ミシェル「次はキルハウスを使った制圧訓練よ。ルールはシンプル、私たちAチームが中にいる犯人役のBチームを押さえる。Bチームがキルハウスから逃亡、もしくはチームの誰かが撃破されたらこちらの負け。」
イーサン「なぜ、Bチームが出たら負けなんだ?」
ミシェル「1つは室内での制圧を主眼にした訓練であること。もう一つはパペットの弱点を意識していることよ。」
イーサン「弱点?」
ミシェル「そうよ、パペットは遠隔操作式ロボットであるがゆえに中継車や衛星通信に依存している。そのためジャマ―で電波を遮断されたり圏外に逃げられたら追跡は不可能よ。」
イーサン「なるほど、無敵のアキレスにも弱点があるのだな。」
ミシェル「そうよ、どこかの無鉄砲な誰かさんに教え込むための訓練としては面白いでしょ?」
ブザーがなり、ゲームは始まった。皮肉を返されたイーサンは不機嫌になりながらも練習に取り掛かった。先頭からミシェル、アーサー、フランク、ジェシー、そしてイーサンの順で並ぶ。ミシェルのアーモがドアをぶち破りキルハウスの中に入る。各員敵からの攻撃に注意しながら部屋の中に入り安全を確認する。
ミシェル「クリア」
ジェシー「クリア」
アーサー「クリア」
周囲に警戒しながら進むと大広間の入り口に到着する。ドアの窓から中を見るも位置が悪く正確な人数が確認できない。その為ミシェルがアーモのセンサーで探知すると2機のパペットと3人の武装した犯人が中にいることがわかる。
ミシェルはバレないように仲間に手信号で合図する。彼女とアーサーは武器ラックから閃光弾を取り出す。
ミシェル「3、2、1!」
バリンと窓から放り込まれたそれは眩い光と煙を発した。ごほごほとひどく咳き込む犯人。
ミシェル「GOGOGO!」
突入するAチーム、Bチームのパペットも犯人を逃すために攻撃を開始する。弾が飛び交う中、ミシェルたちは椅子や机、棚に隠れながら牽制する。1体、2体とパペットが破壊され、犯人の一人をアーサーが素早く格闘に持ち込み捕らえた。
アーサー「こちらドッゴ2、犯人を制圧。」
するともう一人の犯人が裏口から逃げた。イーサンは透かさず追いかける。
イーサン「待てっ!」
ミシェル「待ちなさい、パピー!」
彼女が彼のコールサインを呼ぶも彼は止まらず犯人を追跡し始めた。先程演習の目的を言ったばかりなのに、彼はキルハウスから出るまでに捕らえればいいと勘違いしている。あともう少し、障害物を越えてあともう少し、あともう一歩のところでそれは起きた。ブチっと何かが切れた音が聞こえた刹那、ドゴンと爆発した。イーサンの機体は勢いよく左横に横転した。
イーサン「一体何が?」
彼は立ちあがろうとする。しかし、うまく立ち上がれない。頭部カメラを足下に向けると大腿部や関節部分が大きく破損していた。周りを見渡すと横転した原因が判明した。イーサンが通った廊下の壁を見ると紐がたらりと落ちていて、その糸を辿ると手榴弾のピンがついていた。
イーサン「・・・ワイヤートラップか。くそっ!」
イーサンが悔しがるとブザーが鳴り響く。そしてミシェルから連絡が来る。
ミシェル「逃げられたね、イーサン。」
イーサン「ミシェル・・。」
屈辱的だった、移動させられる以前は射撃訓練やキルハウスでの訓練は上手くいっていた。なのに入ってからは的に当てられない上に、初歩的な罠にかかって行動不能になる。それが彼のプライドを傷つけた。
カワブチ「ほらそこ!ネジが緩んでるぞ。しっかりしないとちょっとの衝撃で部品が外れてしまうぞ。」
アシダ「巡査、装甲の取り付け位置が若干ズレています。ここをこうして・・・。」
演習が終わり、イーサンは罰として破壊されたトレーナーの修理と点検を行っていた。イーサンはため息をはきながら修理をしていると、遠くからアーサーたちの声がした。
アーサー「よう、ポピー。お前あんなにパペット嫌いだったのにトラップにかかるほど性能を過信していたそうじゃないか。」
イーサン「うるさいな、コールサインで呼ぶんじゃねえ。」
アーサー「ははは。ポピー、俺から一つアドバイスだ。くれぐれもカワブチのおやじを怒らせないこったな。」
ジェシー「彼の話、少しはためになるわよ。ところで、この後飲みに行くけど貴方もどう?」
そうジェシーは彼を酒の席に誘おうとする。しかし、イーサンは嫌そうな顔をして答えた。
イーサン「悪いけど、俺は下戸なんでね。」
ジェシー「あら残念。」
本当は上戸であるが、プライドを守るために嘘を吐いた。だがそれも負け惜しみにしか聞こえない。
フランク「じゃあな、イーサン。また明日。」
そういって彼らはPSWATのガレージを後にした。
イーサン「今に見ていろ。きっと後悔させてやる・・・。」
カワブチ「おい、イーサン。調整中によそ見するんじゃねえ!」
こうしてイーサンはカワブチたちに注意されながらトレーナーの修理を行うのであった。
続く