ネッ友(自称行き遅れ)の「結婚してくださいよ~」にOKしてみた翌朝、玄関に綺麗なお姉さんがいた   作:古野ジョン

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第33話 聞きたいこと

 結局、綾音さんは部屋の中に通してくれた。広々とした畳敷きの和室で、隣の部屋とは襖で仕切られている。

 

 パソコンの置かれた文机と格式高い和箪笥も目を引くけど、何より驚いたのが天井に届きそうなほど背の高い本棚。分厚い学術書から文庫本まで様々な書籍が並べられていて、綾音さんの見識の広さを物語っているようだった。

 

「これ、使ってくださいね」

「ありがとうございます」

 

 受け取った座布団を敷いて、その上に正座した。綾音さんも俺と向かい合わせになるように正座する。

 

「……」

「……」

 

 いざ改めて相対すると、妙に気まずい。多分綾音さんも同じ気持ちだと思う。聞きたいことは山ほどあるけど、それは向こうも同じだろうし。

 

「「あのっ」」

 

 声が揃ってしまい、なんとなく互いに目を逸らす。綾音さんはうさ耳を揺らしたまま、もじもじと緊張している様子だった。

 

「ど、どうぞ」

「いいですか? じゃあ……」

 

 右手を出して促すと、綾音さんはコホンと咳ばらいをした。そして背筋を伸ばして、口を開く。

 

「まずお聞きしたいんですけど。……どうしてここが分かったんですか」

「というと」

「本名も住所も言ってなかったですよね。ぺ、ペンネームはバレてましたけど……」

 

 綾音さんは首をかしげた。この人だって俺の住所を特定してきたのに、何を不思議に思っているのだろう。とはいえ、経緯は話すべきか。

 

「言いにくいんですけど、これです」

「え?」

 

 額縁を差し出し、氏名欄を指さす。綾音さんは怪訝そうな顔をして、目を凝らしていたけど……どんどん顔を赤くしていく。

 

「えっ、ちょっ……えっ? なんで? なんで、私……」

「本名も住所もみーんな書いてありましたよ。おかげですぐに分かりました」

「わっ、私のばかああああああっ!!!!」

 

 綾音さんは文字通り頭を抱えて、うめき声をあげていた。わざと書き残して俺にヒントを与えてくれていたのかな……とも思っていたのだけど、まさか本当にこの人の大ポカだったとは思わなかった。

 

「なっ、なんで!? いつ気づいたんですか!?」

「一昨日です。文字が細かったので気づかなかったんだと思います」

「そうだけどっ! なんで私も気づかなかったのよおぉ……」

「結構高いところに飾ってありましたから、無理もないです」

「そんなフォローはいらないのっ!」

 

 半分涙目になりながら、パジャマの袖で攻撃してくる綾音さん。やっぱりこの人は変わらないな。どこまでも……可愛らしくて、素敵な人だ。

 

「あっ、それともうひとつ分かったことがあって」

「なんですか!?」

「一応、本名かどうかを確認しようと思って。国体の記録を調べました」

「えっ? それって……」

 

 綾音さんの顔から血の気が引いていく。恐らく、住所や本名なんかよりもよっぽど隠したかった情報かもしれないけど……結婚すればどうせ分かることだったんだ。だったら遠慮することもないよな。

 

「綾音さんのねんれ――」

「わあああああっ!! だめっ!! 皆まで言わないでくださいっ!!!!!」

「えっ? 僕、特に何も思わなかったですけど」

「嘘言わないでっ!!! おばさんだと思ったくせにっ!!!」

「こっ、この年齢でおばさんって言ったら怒られますよ!!!!?」

「もうっ、全部バレてるじゃないですかあ……」

 

 ため息をつきながら、畳に倒れこむ綾音さん。本当に気にしてないんだけどなあ。

 

「綾音さんって」

「どうせおばさんですよっ!!」

「何も言ってないですって! いや、そうじゃなくて……」

 

 座布団から降りて、綾音さんの側に近寄る。そして、うさ耳のついたフードを外して……綾音さんの頭を撫でた。

 

「……やっぱり、可愛いです」

「ふえっ?」

「可愛いですよ。綾音さんは可愛いです」

「そっ、そんなに言わないでくださいよ……」

「可愛いじゃないですか。年下の男に可愛いって言われて照れてるとことか」

「ちょっ、調子乗んなっ!」

 

 ()()()()()が身を起こしてパンチを繰り出してきたので、しっかりと手のひらで受け止める。綾音さんは頬を赤く染めて、恥ずかしそうに黙り込んでいたけど……姿勢を正して、また背筋を伸ばした。

 

「わ、分かりました。とにかく、私の秘めたる部分も全て知ってしまったんですね」

「言い方おかしくないですか!?」

「それで、ひゅーがさんは?」

「えっ?」

「聞きたいこと、あるんじゃなかったんですか」

「……はい、いろいろと」

 

 綾音さんは真っすぐに俺の目を見つめていた。そう、何もじゃれ合うためにここに来たわけじゃない。確かめたいことはいろいろある。

 

「まずなんですけど。……どうして、僕の家に来なくなったんですか」

「……」

 

 沈黙の時間が流れる。綾音さんは口を閉じたまま、何を言おうともしない。

 

「あの、言えないんだったら無理に言わなくても」

「いえ、違うんです。そうじゃなくて」

「じゃあ……」

 

 綾音さんはゆっくりと頭を下げて、両手を床についた。相変わらず優雅な所作に、目を奪われてしまう。思わず息を呑んでいると、綾音さんが口を開いた。

 

「何も言わずにいなくなって、本当にごめんなさい」

 

 凛とした声が、部屋中に響き渡った。

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