眠りの魔法の使い方~運び屋の魔法使いは催眠魔法で世界を生きる   作:furu6272

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お金のためなら人を殺すか、あるいは復讐のためか エピローグ 前

「まったく気が滅入る、いったい何なんだこの状況は。」

 

 

 

 捜査官のムスロは不満と嫌悪感が合わさった声を吐き出した。

 

 

 

 ムスロは今、建物の中で行われた殺人事件を捜査するために殺人現場に来ていた。

 

 

 

 事の発端は昨日のこと、警察署に1人の男が駆け込んできたことから始まる。

 

 

 

「た、助けてくれ!殺される。みんな殺されてたんだ。俺も殺されちまうよ!」

 

 

 

 そう言って警察に飛び込んできたのは顔に刺青を入れた強面の男だった。

 

 

 

「一体どうした?」

 

 

 

 警察官の一人が男に近寄ると、男は警察官に飛びつくように縋りついた。

 

 

 

「お、おい!落ち着かないか。」

 

 

 

 警察官が男を引き離そうとするが、男は半狂乱の様子で手を放そうとしない。

 

 

 

「助けてくれよ!助けてくれよぉ!」

 

 

 

 縋り続ける男が落ち着きを取り戻したのは、それから1時間ほどがたってからだった。

 

 

 

 男が話すには、自分たちが使用している建物で仲間が殺されていたのだという。

 

 

 

 話を聞く中で男が暴力団員ということがわかり、その拠点で殺人事件が起きたということで、まず3人の警察官が現地の様子を見に行くことになった。

 

 

 

 1人で行かせなかったのは殺人事件という重大な事件ということもあったが、男の様子が異常だったということもある。

 

 

 

 男が所属していた暴力団は暴力的で評判が悪く、男自身も暴力沙汰を起こしている。おそらく死体を見たこともあるだろう。

 

 

 

 そんな男が、たとえ仲間のモノだったとしても死体を見てここまで取り乱すだろうか。

 

 

 

 そのような疑念があったことからまずは3人で現地を見ることになったわけだが、警察官たちは建物の1階ですぐさま3体の死体を見つけることになり、それ以上は中に入らず退却することになった。

 

 

 

 こうして、この現場へより専門的な捜査官が配備されることになり、ムスロをはじめとして殺人事件を扱っている捜査官達が赴くことになったのであった。

 

 

 

 建物の中では、合計で6人の人間が殺されていた。

 

 

 

 1階で3人、3階で1人、5階の最上階で2人が殺されており、死因は首を刃物で切られたことによるものだったが、奇妙なことに死体には争った形跡がなかった。

 

 

 

 死体は首以外の外傷がなく、衣服を漁られた形跡もない。命を奪うために最低限の事をしていったと思わせる状況をみて、ムスロは犯人に冷徹な印象を受けていた。

 

 

 

 ただ、3階で死んでいた男だけはイスに縛られていた。そして、その傍には最上階の2人のものであったと考えられる、切断された頭部が無造作に転がっていた。この様子から、3階の男だけは他の死体と異なり拷問を受けていたのだろうと考えられた。

 

 

 

 イスに縛られた死体の前には、死体と向き合うようにイスが置かれていた。犯人はそのイスに座って男に拷問をしていたのかもしれない。

 

 

 

 普通、犯人はそうした形跡を消していくものだが。

 

 

 

(犯人はそうした手がかりを消すこともせずに、この場を去って行ったようだ。自分の力によほど自信があるのだろうか、ふざけた奴だ。)

 

 

 

 ムスロは殺人現場をひととおり見てから3階に戻り、犯人が座っていたであろうイスを忌々しげに睨みつけていた。

 

 

 

「おや、イスなんて睨みつけてどうしたんだい?」

 

 

 

 イスを見つめるムスロの横から声が掛けられた。

 

 

 

 ムスロは心の中で顔を歪めたが、努めて無表情をつくり声の主に振り向いた。

 

 

 

「生まれつきこういう目つきでね。オリオンこそどうしてここに?」

 

 

 

「私がいるのは当然だろう?なにせ大量殺人が起きたのだから。」

 

 

 

 当然と言い放つオリオンに対して、ムスロは心の中で舌打ちをした。ムスロはこのオリオンが苦手だった。

 

 

 

 オリオンはハンターであり、警察に所属していない人間だった。しかしながら殺人事件、それも重大な殺人事件が起きたときには、捜査にオリオンが参加することが常になっていた。

 

 

 

 それはオリオンがハンターであり、普通の人間よりもはるかに強いことから、危険な殺人事件の犯人と対峙するのに適した人材であったこと。そして、オリオン自身が殺人事件の捜査に協力することを望んでいたことがあった。

 

 

 

 優秀な人材が殺人事件の捜査に協力するのは良いことのように感じられるが、オリオンは正義の心を持って捜査に協力しているわけではなかった。

 

 

 

 オリオンは殺人事件を捜査して犯人が見つかると、犯人を自分の手で殺していった。

 

 

 

 犯人を逮捕するのではなく、犯人をわざと逃げるように仕向けたり、抵抗するようにさせたうえで、緊急の措置として殺していく。

 

 

 

 それはオリオンが殺人犯を許せないという動機ではなかった。オリオンは合法的に人を殺す場を求めていたのだ。オリオンは快楽殺人者だった。

 

 

 

 このため、何も知らない人はオリオンを正義に燃える人だと信じている人もいたが、オリオンの事を知る人でオリオンに近寄ろうとする人は皆無であり、できることならオリオンの助けを借りたくないというのが警察の本心であった。

 

 

 

 とはいえ蛇の道は蛇なのか、猟奇的な殺人事件が起きたときに、警察で犯人を見つけることが出来ない場合でもオリオンは犯人の行動を的確に分析し、犯人を追い詰めて行った。

 

 

 

 また、殺されるのが殺人事件の犯人なら事件が解決しないよりはマシだろうと、あきらめのような考えが警察内部で共通のものになっていたのだった。

 

 

 

 そして今回の事件では複数人が殺されており、オリオンがやって来たのは確かに当然のことだった。

 

 

 

「それで、君はこの事件をどう考えてるんだい?」

 

 

 

 ムスロの視線を気にした様子もなく、オリオンはムスロに尋ねる。

 

 

 

 ムスロは心の中で再び舌打ちをしたが、仕方なく口を開いた。

 

 

 

「どうと言われてもね。暴力団同士の抗争かなにかじゃないかね。この暴力団は他の組からも嫌われていたらしいし。」

 

 

 

 ムスロがぶっきらぼうに答えると、オリオンはつまらなそうに「ふ~ん。そうかな。」と言った。

 

 

 

「そちらこそ、この事件をどう思うんだ?」

 

 

 

 ムスロは逆にオリオンの考えを聞こうとした。

 

 

 

 だが、オリオンはムスロの問いに答えず、部屋に転がっていた人の頭部を指で弾いた。

 

 

 

 頭部がゴロンと転がり、首の切断面がムスロの目に入る。

 

 

 

(気味が悪いからできる限り見ないようにしていたのに。)

 

 

 

 ムスロは顔を少し引きつらせて、床の頭部から目を反らした。

 

 

 

「ねぇ、私は別に捜査に協力しなくてもいいんだけど?私の考えが聞きたいならまず、君の考えを話してよ?」

 

 

 

 オリオンが再びムスロに質問をした。まるでムスロには別の考えがあって当然というように。

 

 

 

(俺の話を聞いたとして、オリオンが人の話を聞くタイプには見えないが。とはいえ捜査に協力しないとまで言われると、困るのはこちらだろうか。)

 

 

 

 ムスロは少し間を空けると、小さくため息をついてから口を開いた。

 

 

 

「考えといってもとくにないけどね。やはりこのイスに縛られた男。名前はグリースというらしいが、この男と犯人に関係があるのは間違いないと思うが。」

 

 

 

「それはどうして?暴力団同士の争いだったら、狙いは暴力団の団長なんじゃない?」

 

 

 

「ああ。実際、先ほどは暴力団の争いと言ったが、その可能性は低いかもしれないな。暴力団の団長の頭部がこの部屋に投げ捨てられているのだから。とはいえ、この男がそれほど重要な人物とも思えないがね。」

 

 

 

 ムスロはイスに縛られた死体に目を向けた。ムスロはここに来るまでに暴力団の情報を一通り調べていたが、グリースは暴力団の下っ端であり、誰かに狙われるような重要な人物には思えなかった。

 

 

 

 ムスロの言葉にオリオンが頷く。

 

 

 

「そうだね。この男になにがあるかはわからないけれど、間違いなくこの男が事件の中心だろう。」

 

 

 

 オリオンはグリースの前にある、犯人が座っていたであろうイスに座ると、犯人をまねるかのようにグリースを真正面から見つめた。

 

 

 

 そして、グリースを見つめたままムスロに向けて言う。

 

 

 

「この男になにがあるんだろうねぇ。……ねぇ、君はこの男の交友関係とか調べるよね?この男についてわかったことは全て私に教えてね。」

 

 

 

「いや別に、この男を調べることを決めたわけではないが。」

 

 

 

「じゃあ調べてね。命令だから。」

 

 

 

「ぐっ。」

 

 

 

 オリオンの有無を言わせない様子にムスロは詰まった。命令と言われるとムスロとしては断ることができない。

 

 

 

 それは、オリオンが殺人事件の捜査に協力する代わりに、警察もまたオリオンの要望に可能な限り応えることとされているためだった。

 

 

 

(気に入らないが仕方ない。実際、グリースの事は調べるつもりだったし。)

 

 

 

「わかった。調べよう。」

 

 

 

 ムスロがそう言うと、オリオンはムスロに顔を向けて「しっかり頼むよ。」と軽い調子で念を押した。

 

 

 

 そして、オリオンはさらにムスロに質問をした。

 

 

 

「さて、君は他にどう考えているんだい?この男の詳しい情報はさておき、誰がどうやって、どうしてこんな事件を起こしたと思う?」

 

 

 

 オリオンの質問にムスロは眉をひそめた。

 

 

 

 ムスロは何度かオリオンと現場で会ったことがあるが、オリオンは一人で捜査を進めていくタイプであり、今回のように他人の考えを聞こうとすることはほとんどなかったはずだ。

 

 

 

(それが先ほどから俺の考えを聞こうとするとは。今回の事件がそれほど特殊ということか。)

 

 

 

 今回の事件について緊張感が高まったムスロは、少し硬い口調でオリオンに語った。

 

 

 

「一般的な考えになるかもしれないが。誰というなら、俺は1人でこの事件を起こせたとは思えない。訓練された何人かがチームを組んで、組織的に建物に押し入ったんじゃないかと思う。」

 

 

 

「暴力団の拠点をわざわざ狙ったのも、ばらばらに相手を狙うよりも、最も団員が集まっている場所を制圧したほうが効率的だと考えたんじゃないか?」

 

 

 

「そう考えると俺はやはり、これは暴力団同士の抗争なんじゃないかと思う。この男がイスに縛られた理由はよくわからないが。暴力団に攻め入る動機があって、それを実現する力をもっているのは同じ暴力団か、あるいはハンターくらいだろう。」

 

 

 

「俺の今の考えはそれくらいだが……そういえばオリオンはハンターだったな。あんたとしてはどう思うんだ?」

 

 

 

 自分の考えをひととおり話したムスロは、返す形でオリオンに質問をした。実際、ムスロはオリオンがこの事件をどう考えているのか気になっていたのだ。

 

 

 

「私の考え?そうだねぇ。」

 

 

 

 質問をされたオリオンは顎に手をあてて考える様子を見せた。そして、少しして顎から手を放すとイスに縛られたグリースの死体をじっと見つめ、

 

 

 

「私はこの事件を起こしたのは1人だと思うよ。それに犯人はハンターじゃない。」

 

 

 

 と静かに言った。

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