眠りの魔法の使い方~運び屋の魔法使いは催眠魔法で世界を生きる   作:furu6272

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エリーはハンターになり、そんなハンターの仕事は今では運送業になりました。

街と街をつなぐ山道で、大柄な女性が道の端にある木を前にして立っていた。

 

 

 

 そして、女性は手に持った大きな斧を両手で大きく振りかぶると、

 

 

 

「ふんっ!」

 

 

 

 覇気のある掛け声とともに、勢いよく斧を木に叩きつけた。

 

 

 

 バスン!!

 

 

 

 鈍い大きな音が周囲に響き、1撃で幹を叩き切られた木はメキメキと音を立てて倒れていく。

 

 

 

「は~、やっぱり外はいいね。街の中にいると体がなまっちまうよ。」

 

 

 

 木を切り倒した大柄な女性、バルサは満足した様子で手に持った斧を地面に突き立てて言った。

 

 

 

 バルサはフォートという街で長い間ハンターをしている女性であり、全身を覆う鍛え上げられた筋肉と自分に自信のある様子から、ハンターのなかでもベテランということが察せられた。

 

 

 

「すごいです!バルサ先輩。」

 

 

 

 背中越しにバルサに声が掛けられる。

 

 

 

 バルサに声を掛けたのは、少し離れた位置でバルサが木を切り倒す様子を見ていた小柄な若い女性、ミシェル・エリーだった。

 

 

 

 エリーは子供のとき、自分の暮らしていた街を魔物に滅ぼされた過去を持っていた。そして、エリーはそれが魔物を操る人間によって起こされた事件だと信じており、その犯人を追うため。また、魔物や悪者から人々を守るためにハンターになっていたのだった。

 

 

 

 そしてハンターとして新人のエリーは、ベテランハンターのバルサと行動を共にして経験を積むことになり、今はエリー達の拠点であるフォートという街から、隣のビズリーという街へ向かっている最中だった。

 

 

 

「そうかい。この仕事は何事も力がないといけないからね。エリーもちゃんと鍛えなよ。」

 

 

 

 バルサは笑いながら、腕の筋肉を見せつけるようにしてエリーに言った。

 

 

 

「は、はい!私も鍛えて木を切り倒せるくらいになります!」

 

 

 

 エリーは生真面目な様子でこたえる。そんなエリーの様子を見て、バルサは好感を持ったようだった。

 

 

 

「いい返事じゃないか。がんばるんだよ。」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

 エリーは力強く返事をする。実際、エリーはバルサの力に驚き、バルサに尊敬の念を抱いていた。エリーは自分の身体能力にそれなりの自信を持っていたが、それでも1振りで木を切り倒すことはできない。

 

 

 

(これぐらいの力があったなら、子供のときに街を襲った魔物をその場で倒すことができたかもしれない。)

 

 

 

 そんなことを思いつつ、エリーは言葉を続けた。

 

 

 

「がんばって魔物をどんどん倒せるようになります。」

 

 

 

 エリーが意気揚々とした様子で言うと、なぜかバルサは苦笑した。

 

 

 

「いや、魔物はどんどん倒さなくてもいいんだけどね。」

 

 

 

 苦笑しながら語るバルサに対して、エリーは不思議な顔を浮かべる。

 

 

 

「そうなんですか?けど、魔物を多く倒すのがハンターの仕事なのでは?」

 

 

 

 不思議そうに言うエリーに対して、バルサは苦笑をやめた。そして、顔を上に向けて「う~ん。」とうなり、何かを考える素振りを見せた。

 

 

 

「エリーって、勉強とかあんまりしなかったタイプ?」

 

 

 

「えぇ!?い、いえ、そんなことはないと思うんですけど。」

 

 

 

 バルサから単刀直入な質問をされ、エリーはしどろもどろになりながら答える。

 

 

 

 そして実際のところ、エリーは勉強が苦手ではなかったが、勉強に熱心なわけではなかった。

 

 

 

 エリーは長い間ハンターになることを目標にしていたが、ハンターになるには一定の能力を示す必要があったところ、そこで必要とされた能力は勉強の成績ではなかった。

 

 

 

 そこで求められたのは運動能力や魔法の能力を有していることであり、エリーは勉強よりも体を鍛えることなどを優先していたのだった。

 

 

 

 あたふたしているエリーを見て、バルサは「ははは。」と大きな笑い声をあげた。

 

 

 

「そんなに慌てなくてもいいさ。ハンターなんてバカなくらいがちょうどいいんだ。」

 

 

 

「そ、そうですよね。はは。」

 

 

 

 笑いながら言うバルサに合わせて、エリーは愛想笑いを浮かべた。

 

 

 

(よかった。怒らせたわけじゃなかったみたい。)

 

 

 

 愛想笑いをしながらエリーは心のなかで息をついた。

 

 

 

「よし。少しお話をしようか。」

 

 

 

 そう言って、バルサは腕を組んだ。

 

 

 

「エリーはハンターの仕事は何だと思う?」

 

 

 

「えっと、魔物と戦うことだと思います。」

 

 

 

 バルサの問いにエリーはすぐに答えた。

 

 

 

 人を守るためだったり、もしくはそれ以外の目的があるときもあるだろうけれど、基本的にハンターの仕事は魔物と戦うことのはずだ。だからこそエリーはハンターを目指したのだから。

 

 

 

 エリーはそう考えていた。しかし、バルサの答えは違っていた。

 

 

 

「うん。昔はそうだった。けど今は、魔物と戦うことは重要な仕事じゃないんだ。」

 

 

 

「そ、そうなんですか!?」

 

 

 

 バルサの答えにエリーは驚きの声をあげた。

 

 

 

「そう、今のハンターの一番の仕事は運送業なんだよ。」

 

 

 

「運送、ですか?」

 

 

 

 耳慣れない言葉にエリーが聞き返すと、バルサは頷いて話を続けた。

 

 

 

「そう。つまり人とか物を運ぶ仕事っていうこと。」

 

 

 

「エリーの言うみたいに、昔はハンターの仕事は魔物と戦うことだった。それも弱い魔物じゃなくて、より強い魔物を倒すことがハンターの矜持みたいなものだったよ。私も他の奴らも、遠征して山の中で数か月過ごしながら魔物を追ったこともある。」

 

 

 

「けど、段々とそういうわけにもいかなくなってきてね。何があったかというと、私らが遠征をしている間に、街が魔物に襲われたことがあったんだよ。それも何回もね。街の中にも戦える人がいないわけじゃなかったけど、ある程度強い魔物が出るともうダメさ。それで、私たちが遠征をして魔物を倒して意気揚々と帰ってきたら、自分の家が魔物に壊されてなくなっていた、なんていうこともあってね。遠征に出ている間に自分の街が壊されたら元も子もないだろ?だから、だんだん遠征に行くことが少なくなっていって、街から遠くに行かなくなっていったんだよ。」

 

 

 

「それともう一つ要因があって、街の外も問題だったんだ。」

 

 

 

「街の外ですか?」

 

 

 

「ああ。街だけじゃなくて、街道にも魔物とか盗賊が出ることが増えてきたんだな。それで、普通の人が街と街の間を行き来するのが難しくなったんだ。人や物の行き来ができなくなると、必需品がなくなったり街が衰退して、私たちも暮らせなくなっちゃうだろ?それで、人や物の行き来をするのに私達ハンターが同行することになっていって、それがいつのまにかハンターの一番の仕事になっていったってわけ。」

 

 

 

「そんなわけだから、今では魔物を多く倒すのはハンターの仕事じゃなくなってるんだ。とはいっても、必要があれば魔物や人間と戦うことはあるけどね。まぁ、ハンターの仕事もつまらなくなったもんさ。強い魔物と戦わなくなって若い奴らもどんどん貧弱になってきてるしね。まったく。」

 

 

 

 そこまで言うと、バルサは小さくため息をついた。バルサは魔物と戦うのが好きならしく、今の仕事には不満があるようだった。

 

 

 

 そしてバルサの話はひととおり終わったらしく、エリーに「わかった?」と尋ねた。

 

 

 

「は、はい。わかりました!」

 

 

 

 エリーははっきりと返事をした。

 

 

 

 しかしながら、ハンターの仕事が人や物を運ぶ仕事に変わっているということはエリーにとってショックな話だった。

 

 

 

(まさか、ハンターの仕事が運送業になっていたなんて……。けど、人や物を魔物から守るのは大切なことだと思うし。それに、私の一番の目的は魔物を倒すことではなくて、魔物を操って人を襲わせている魔物使いを探すことなわけだし。)

 

 

 

 考えようによっては、魔物を倒すことだけを仕事にするよりも、よほど人の役に立つ仕事ではないだろうか。そんなことを考えて、エリーは心を落ち着けるようにした。

 

 

 

「その、質問をしてもいいですか?」

 

 

 

「ああ、いいよ。」

 

 

 

「昔と比べると、そんなに魔物が増えていたり、人が襲われるようになっているんですか?」

 

 

 

 エリーが気になったのは、バルサの口ぶりからすると、バルサがハンターとして活動していた最初の方では魔物がそれほど積極的に人間を襲っていなかったところ、時間が経つにつれて人間を襲う頻度が増えたように感じられたことだった。

 

 

 

 そんなエリーの質問に対して、バルサは肩をすくめるようにして「さぁ?」と言った。

 

 

 

「どうだろうね。魔物の数がすごい増えているとは感じないけどね。人が襲われるといっても、いつでも魔物が待ち構えていて襲ってくるわけじゃないし。」

 

 

 

「ただ、たしかに昔よりも人が襲われることが増えている気はするね。もしかすると、野生動物が人の味を覚えると人を襲うことが増えるみたいに、魔物も人の味を覚えたのかもしれない。」

 

 

 

 バルサの答えにエリーは深刻な顔をした。

 

 

 

「そうなんですね。魔物が狂暴化しているのだとしたら危ないですね。」

 

 

 

「ああ、実際のところはわからないけどね。……そういえば、エリーって本当にハンターの仕事知らなかったの?フォートまで来るのだって、ハンターと一緒に来たんじゃないのかい?」

 

 

 

 バルサは思い浮かんだ疑問をエリーに投げかけた。

 

 

 

 それに対してエリーはどことなく気まずそうな様子を見せた。

 

 

 

「あ~、実は私お金をあまり持ってなくて、基本的に一人で行動してたんです。外を歩いてもあまり魔物に遭遇しなかったですし、ハンターの人がそういう仕事をしてるとか気にしてなかったんです。」

 

 

 

「それに、私はグラントリノという街でハンターになったのですが、そこが人がすごい多いところで、ハンターの人が物を運んでるところをあまり見ていなかったと言いますか。」

 

 

 

 気まずそうに話すエリーを見ながらバルサは考える。

 

 

 

(なんというか直情的なのか視野が狭いと言うか、ハンターになる奴は変わったやつが多いけど、その中でも変わった子かもしれないね。)

 

 

 

 バルサのいる街では女性のハンターが少なく、また、バルサとエリーの年齢が離れていることもあってか、バルサはエリーに子供に接するような親近感を感じていた。このためバルサは、エリーに対して多少できの悪いくらいの方が可愛げがあると考えていたのだった。

 

 

 

「ふ~ん。グラントリノか。聞いたことあるよ、王様がいてアイラム教の聖地なんだっけ?すごい栄えてるらしいじゃん。どうしてフォートでハンターの仕事をやろうと思ったんだい?」

 

 

 

「はい。えっと、いろいろな場所で魔物のことを調べたかったということと、人が多すぎる場所が少し苦手でして、それでここに来た感じですね。」

 

 

 

 魔物を調べたいと語るエリーの目には、先ほど気まずそうにしていた様子とは異なり強い意志が感じられた。

 

 

 

 それを見て、バルサは少しエリーへの見方を改める。

 

 

 

(さっきから魔物に強く執着しているみたいだし、何があったのか知らないけど、強い目的のある子なのかもしれない。人が多い場所が苦手というのはどうかと思うけど。)

 

 

 

 そんなことを考えながら、バルサはエリーの肩を軽く叩いて言った。

 

 

 

「なるほどね、ハンターの仕事をしながらいろいろな魔物を調べたいと。それなら、なおさら頑張らないといけないね。」

 

 

 

 悪意のない笑顔でバルサが言う。それに対してエリーは

 

 

 

「はい!がんばります。」

 

 

 

 とハッキリと返事をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、2人が歩きはじめようとしたとき、山道から外れた山の斜面から、ガサガサと物音が聞こえてきた。

 

 

 

 2人は素早く音のする方へ体を向けた。

 

 

 

 ガサガサという物音は少しづつ大きくなり、2人に近づいてきているようだった。

 

 

 

 バルサは無言で斧を構えると、道の中央に移動した。

 

 

 

(さっそく魔物が現れたのかな。)

 

 

 

 エリーはバルサに続いて道の中央に移動すると、腰に差した剣に手をあてた。

 

 

 

 そしてすぐに、物音の主は山道に姿を現した。

 

 

 

 現れたのはほっそりとした1人の男だった。

 

 

 

(いったい誰だろう?)

 

 

 

 エリーは警戒しながら男を見つめる。エリーの男に対する第一印象はどことなく影のある人間ということだった。

 

 

 

 男の方はバルサが切り倒した木を見つめており、エリーとバルサに気づいていない様子だったが、2人がいることに気づくと小さく会釈をした。

 

 

 

 それに対して反応したのはバルサだった。

 

 

 

「よう。アッシュじゃないか。何してるんだいこんなところで。」

 

 

 

 バルサは斧を肩に担ぐと、片手を上げて男に言葉を投げかけた。バルサは男のことを知っているようだった。

 

 

 

 男はバルサへ顔を向けると、「どうも。」と短く返事をした。

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