眠りの魔法の使い方~運び屋の魔法使いは催眠魔法で世界を生きる   作:furu6272

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燃やすか叩くか、2体の魔物を何とする

「さて、これは一体どういう状況なのか。」

 

 

 

 エリーと男、そして2体の魔物が地面に倒れてからしばらくして、その場には1人の男が現れていた。

 

 

 

 それは荷物を背負ったホルダー・アッシュだった。

 

 

 

 アッシュは、エリーが魔物に倒されたときに男が叫んだ声を聴いており、それから自身の周囲に強力な催眠魔法を掛けていた。

 

 

 

 それにより、円筒形の魔物と球形の魔物はエリー達に手を出す前に強制的に眠らされていたのだった。

 

 

 

 そして、アッシュとエリー達のいる場所がそれほど離れていなかったことから、アッシュは少しの時間で現場に辿り着くことが出来ていた。

 

 

 

 現場に着いたアッシュは、足元に背負った荷物を置くと、倒れている人間と魔物の状況の観察をはじめる。

 

 

 

(魔物は2体か。眠らせたからすでに危険はないけれど、見たことのない魔物だ。)

 

 

 

 アッシュが2体の魔物を見た感想は、エリーがこの魔物達に対して感じたものと概ね同じものだった。

 

 

 

 しかしながら、アッシュはさらに別の感想を持っていた。

 

 

 

(なんというか、眠りの世界にいる「何か」に似ている気がする。)

 

 

 

 アッシュは、アッシュのみが認識している、眠りの世界に存在しており、世界のどこかで魔物を生み出している「何か」に近い感覚を魔物達に感じていた。

 

 

 

 そしてそれは、アッシュが昔、「何か」に干渉して生み出したスライムにも似ているように感じられた。

 

 

 

(まぁ、だからといって何もないわけだけど。)

 

 

 

 実際のところ、この魔物達が「何か」に関係があってもなくても、今のアッシュには関係のないことである。

 

 

 

 アッシュはそれ以上の興味を魔物達に持つことはなく、倒れている男に近づいて行った。

 

 

 

 そして、男の様子をみて死んではいないことと、重症などは負っていないということを確認すると、アッシュは男の体を引きずって荷物を置いた場所の近くに移動させた。

 

 

 

「さて次は……」

 

 

 

 男を移動させたアッシュは続けてエリーの方を見る。そしてエリーの方を見たアッシュは若干、顔をしかめた。

 

 

 

(魔物との位置が近すぎるな。)

 

 

 

 エリーは円筒形の魔物と至近距離で戦っていたため、魔物と隣り合う形で横たわっていたのである。

 

 

 

 それはアッシュにとって嫌な状況であった。魔物はアッシュの魔法で眠っているが、だからといって魔物に近づくほどアッシュは不用心ではなかった。

 

 

 

 とはいえ、そのままで問題が片付くわけではないので、アッシュは「チッ」と軽く舌打ちをしてエリーに近づいて行った。

 

 

 

 そしてエリーに近づいたことで、アッシュは倒れていた女性が、自分が昨日会った人物という事に気づく。

 

 

 

(この人、昨日あった人じゃないか?バルサと一緒にいたハンターで、夜に肩もみを受けに来た人。たしかエリーだったか。)

 

 

 

(剣がそばに落ちてるし、魔物と戦っていたのか。エリーの催眠魔法のかかり方からすると、俺の催眠魔法がかかる前から気を失っていたみたいだ。ということは、この円筒形の魔物にやられたところだったのか。)

 

 

 

 アッシュはエリーの状況から何が起きたのか、大体の想定を立てていた。

 

 

 

 それからアッシュは、魔物から離れるためにエリーの体を引きずり男の傍まで移動させてから、エリーのケガの状況を確かめる。

 

 

 

(血が流れている場所はないけど、顔がはれているか?致命傷ではなさそうか。)

 

 

 

 アッシュは大まかにエリーが致命傷を負っていないことを確かめると、とりあえず人の救助は終了したと判断した。

 

 

 

 そして、アッシュはあらためて魔物へ視線を送る。

 

 

 

「魔物の方はどうするか。」

 

 

 

 そう言いながら、アッシュは球体の魔物に近づいて行く。

 

 

 

 そして、アッシュは魔物から多少距離を開けた場所で立ち止まると、ポケットの中から液体の入った瓶とマッチを取り出した。

 

 

 

 その液体は肉や物を燃やす際に使用している油だった。

 

 

 

 アッシュは油の入った瓶の蓋を開けると、そのまま瓶を放り投げて魔物の体に油をかける。

 

 

 

 そして、少し間を置いて魔物の体に油が広がるのを確認すると、アッシュはマッチに火を点けて魔物の体に放り投げた。

 

 

 

 ボウッ、と音もなく魔物の体に火がまわる。

 

 

 

 だが、催眠魔法を受けているせいか、魔物は自分の体に火がついているにも関わらず微動だにしない。

 

 

 

 アッシュはそんな様子を見守ることなく、続けて円筒形の魔物に近づいて行く。

 

 

 

 そして、再びポケットから物を取り出すが、取り出したのは黒い筒のような物体で、上の面からは紐が伸びていた。

 

 

 

 それは爆弾であった。

 

 

 

 アッシュは爆弾の導火線に火を点けると、円筒形の魔物の頭付近を狙って爆弾を転がすように投げた。

 

 

 

 爆弾はころころと転がっていき、アッシュの狙い通り魔物の頭にコツンとぶつかった。

 

 

 

 そして、少しの間を置くと、

 

 

 

 バゴン!

 

 

 

 と爆弾が爆発し、魔物の頭にヒビが入った。だが、魔物の頭からは血などは流れず、ダメージが入ったようには見えない。

 

 

 

 しかし、そこから魔物の体に異常が生じ始めた。

 

 

 

 魔物の頭はヒビが入ったところからそのままヒビが広がっていき、頭が完全に割れたのだ。

 

 

 

 さらに、割れた頭は砂のようにザラザラと崩れていき、それに続くように円筒形の体までザラザラと崩れていったのだった。

 

 

 

(体が砂になって崩れた?たぶん、死んだようだけど、こいつは本当に魔物なのか?)

 

 

 

 魔物の体が崩れていく様子は、積み上げられた積み木が倒されて崩れる様子をアッシュに思い起こさせた。

 

 

 

 まるで生物感のない魔物の死に様にアッシュは違和感を感じたが、この場で考えることではないと判断したアッシュは魔物について深く考えることをやめた。

 

 

 

(そんなことよりも、燃やした方はどうなっているか。)

 

 

 

 考えを切り替えたアッシュは崩れた魔物から球体の魔物に体を向ける。

 

 

 

 油を掛けて火を点けた球体の魔物の体は、さきほどと変わった様子がなかった。火はまだ残っていたが、魔物の体が燃えたりダメージになっている様子はない。

 

 

 

(つまり、こいつらは火には強いが、爆弾などの強い衝撃があれば倒せるということか。)

 

 

 

 他にもこの魔物には秘密があるかもしれないが、アッシュはこの2点は確かだろうと判断する。

 

 

 

 そして、球体の魔物にも爆弾を使えればよかったが、残念ながらアッシュは爆弾を1つしか持っていなかった。

 

 

 

 ここでアッシュは「う~ん。」と悩む様子を見せた。

 

 

 

 魔物は強い衝撃を与えれば倒せそうだが、アッシュは他に武器をナイフしか持っていなかった。

 

 

 

 ナイフで魔物を傷つけようとする場合、アッシュは密接するのに近い距離で魔物に刃を突き立てることになるが、アッシュはこの怪しい魔物に近づきたいとは思わなかった。

 

 

 

(せめてもう少し長い武器があれば心情的に楽なんだけど。)

 

 

 

 そう思いながら周囲に目を巡らせると、地面に落ちている剣がアッシュの目に入った。

 

 

 

 それはエリーの剣だった。

 

 

 

(魔物と戦うのに使っていたのだろうから、俺が使ってもいいだろう。)

 

 

 

 そう考えたアッシュは迷うことなくエリーの剣を手に取り、感覚を確かめるように何度か素振りをした。

 

 

 

 そして、ナイフよりはマシだろうと考えて覚悟を決めると、アッシュは魔物の頭に向けて、ハンマーで叩きつけるかのように剣を叩きつけた。

 

 

 

 ガスッ

 

 

 

 魔物の頭に浅い傷が入る。だが、頭を破壊するには程遠い。

 

 

 

 ガスッ、ガスッ、ガスッ、

 

 

 

 アッシュは浅い傷しか付けられなかったことを気にすることなく、何度も魔物の頭に剣を叩きつける。

 

 

 

 エリーやバルサなら1撃で魔物の頭を切断していたかもしれないが、アッシュに剣を扱う技量はなかった。

 

 

 

 それでも、剣を叩きつけるごとに魔物の傷は深くなっていき、ついに、

 

 

 

 バキン!

 

 

 

 という音を立てて魔物の頭が割れた。

 

 

 

 そして、球体の魔物の体も円筒形の魔物と同じ様に、頭が割れて崩れると体もザラザラと砂のように崩れていく。

 

 

 

 その様子を見て、アッシュは「ふぅ。」とため息をついた。

 

 

 

(これで魔物の危険はなくなったか。けど、もしもこういう魔物が増えているのだとしたら、問題になるかもしれないな。俺一人なら問題ないけど、そこの2人みたいな状況が増えるかもしれない。)

 

 

 

 アッシュはそんなことを考えながら、魔物の傍を離れて自分の荷物がある場所に近づいていく。

 

 

 

 そして、荷物の近くに移動させていたエリーと男を見て今後の対応を考える。

 

 

 

(2人を起こして話をしても俺の面倒が増えるだけだろうし、かといって人間2人を運べるような力はないし、他の魔物に襲われないように処置だけして仕事に戻るか。)

 

 

 

 アッシュはそう判断すると、荷物の中から濁った緑色の液体が入った瓶を取り出した。

 

 

 

 アッシュが瓶の蓋を取ると臭みと刺激臭を合わせたような臭いが広がり、アッシュは強烈な匂いに思わず顔をしかめた。

 

 

 

 この液体は強烈な臭いを発することで、普通の魔物や野生動物が近寄らなくなる効果があるのだ。

 

 

 

 アッシュは液体を男とエリーを囲むように地面に撒いていく。

 

 

 

 そして、液体を撒き終えたアッシュは自分の荷物を背負うと、静かにその場を去っていった。

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