眠りの魔法の使い方~運び屋の魔法使いは催眠魔法で世界を生きる   作:furu6272

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悪夢から覚めて少女は走る

ゴスン ゴスン

 

 

 

 遠くで物音が聞こえる。

 

 

 

 何か、硬くて重いものが地面に叩きつけられる音だ。

 

 

 

 そう思うと同時に、エリーは自分が夢を見ていることを自覚した。

 

 

 

 それは、エリーがよく見る悪夢の内容だったからだ。

 

 

 

 悪夢の中でエリーは地面に倒れていた。そして、周辺にはうす暗い空間が広がっている。

 

 

 

 エリーは倒れているのが自分が子供のときに暮らしていた街の地面だと分かっていた。

 

 

 

 なぜなら、これは鎧竜がエリーの街を滅ぼした時の夢だからだ。

 

 

 

 ゴスン ゴスン

 

 

 

 うす暗い空間の先から、鈍い大きな音と振動がエリーのもとまで伝わってくる。

 

 

 

 そして、その音はどんどん近づいて来ている。

 

 

 

 ゴスン ゴスン ゴスン ゴスン

 

 

 

 音が近づいて来ると、それにつれて空間の先にいたものの姿も見えてくる。

 

 

 

 頭を振り上げて、そして頭を地面に叩きつける。それはまさしく、子供のときに見た鎧竜の姿だった。

 

 

 

 鎧竜は頭を地面に叩きつけながら、少しずつエリーに近づいてくる。

 

 

 

 エリーは鎧竜から逃げるために体を起こそうとするが、エリーの体にはいつのまにか上から死体が覆いかぶさっており、エリーは体を動かすことができない。

 

 

 

(いつもだ。いつも、終わりが来るまで悪夢から覚めることができないんだ。)

 

 

 

 恐怖と諦めが混ざった感情に支配されながら、エリーは鎧竜から目を離すことができなかった。

 

 

 

 ゴスン ゴスン グシャ グシャ

 

 

 

 近づいてくる鎧竜の頭は、地面を叩きすぎたのか頭が割れ始めていた。

 

 

 

 それにつれて、地面を叩く音も乾いた音から湿った音に変わっていく。そして、鎧竜は頭から血が出ているにも関わらず地面を叩き続ける。

 

 

 

 グシャリ グシャリ グシャリ グシャリ

 

 

 

 鎧竜の頭から血が飛び散り、それでも地面に頭を叩きつけながら、鎧竜は近づいてくる。

 

 

 

 そしてついに、鎧竜はエリーの目の前まで迫っていた。

 

 

 

 鎧竜はエリーの体を潰すために、ひと際大きく頭を空に伸ばす。そして、渾身の力でエリーに向けて頭を振り下ろした。

 

 

 

 高速で迫る鎧竜の頭は、皮膚と肉が潰れて血があふれ出し、元の形が分からないほどに変形している。

 

 

 

 だが、エリーの体が鎧竜の頭に潰される直前、エリーは鎧竜と目が合ったように感じられた。

 

 

 

 グチャリ

 

 

 

 

 

「はっ!!!」

 

 

 

 エリーは電気ショックが与えられたように体を震わせ、目を大きく開き目を覚ました。

 

 

 

「はぁ、はぁ。」

 

 

 

 エリーは目を開いたまま、自分を落ち着かせるように呼吸を行う。

 

 

 

(悪夢の終わりはいつもこれだ。鎧竜が近づいて来て、潰されるところで目が覚める。)

 

 

 

 エリーは子供のときに鎧竜に街を滅ぼされ、そして自分だけが生き残ってしまったことにトラウマを負っていた。

 

 

 

 それは悪夢という形でエリーを苦しめていたのだった。

 

 

 

 エリーは魔物の被害から人を助けるためにハンターになったが、それはエリーがトラウマから逃れるための一手段でもあったのかもしれない。

 

 

 

 エリーは悪夢を振り払うために頭を振った。そして、

 

 

 

「痛っ!」エリーは頭の痛みに頭を押さえ、さらに、周囲に漂う臭気に顔をしかめた。

 

 

 

「なにこれ。一体何が……?」

 

 

 

 痛みと臭いの刺激によりエリーの脳は急激に覚醒する。そしてエリーは気を失う前の状況を明確に思い出した。

 

 

 

(そうだ!私は男の人を助けるために魔物と戦っていたんだ。)

 

 

 

 エリーは慌てて飛び上がり、周囲を見渡す。なぜか魔物の姿は見えない。そして、エリーは自分の隣に男がいることに気づいた。

 

 

 

 男は魔物にさらわれそうになっていた男であり、地面に横たわっていた。

 

 

 

 エリーが様子を見る限り、男は死んでいるわけではなく眠っているようだった。まるでエリーが先ほどまで気を失っていたときのように。

 

 

 

「大丈夫ですか?起きてください。」

 

 

 

 エリーは男に外傷がないことを確かめると、男の体を揺さぶって起こすことにした。魔物の姿は見えないが、このままここに留まることは良くないだろう。

 

 

 

「うぅん。」

 

 

 

 男はうめくような声を上げて身じろぎをすると、「ふわぁ。」と小さくあくびをしながら上半身を起こした。

 

 

 

「ううん。なんだ?あんたは誰だ?」

 

 

 

 男はエリーを見ると、寝ぼけた様子で尋ねる。

 

 

 

「私はエリーといいます。あなたは魔物に襲われていたんですよ。覚えていますか?」

 

 

 

「え?あ、ああ!そうだ!」

 

 

 

 エリーの言葉で何があったか思い出したらしく、男は慌てた様子で立ち上がった。そして、怯えた様子で後ずさりをしながら周囲をキョロキョロと見まわす。

 

 

 

「何があったんだ?あ、あの魔物はどこにいるんだ?」

 

 

 

 男は周りを見ながらエリーに話しかける。

 

 

 

「落ち着いてください。魔物はいなくなったようです。」

 

 

 

 エリーが男を落ち着かせるように話すと、男は少し緊張が解けたらしく、周りを見渡していた視線をエリーに向けた。

 

 

 

「そ、そうか。助かった。あんたが助けてくれたのか?ありがとう。」

 

 

 

 男がエリーにお礼を言うが、エリーはその言葉に顔を曇らせて俯いた。

 

 

 

「いえ、私が助けたわけではありません。私も今、目が覚めたところなので。」

 

 

 

「そ、そうかい。けど、あんたは俺のことを助けようとしてくれてたよな。何があったのかはわからないけど、あんたが来てくれなかったらどうなってたかわからないよ。」

 

 

 

 顔を曇らせたエリーの様子を感じとったのか、男は笑顔を作ってエリーを励ました。

 

 

 

 エリーは顔を曇らせたまま、「いえ、そんなことは……。」と言いかけたが、気持ちを切り替えるために頭を1度振ると、俯いた顔を上げた。

 

 

 

「そんなことより、早くここを離れましょう。」

 

 

 

「ああ、そうだな。それがいい。なんだか変な臭いもするし。」

 

 

 

 男は近くに漂う臭いに気づいたのか鼻をつまむ仕草をした。

 

 

 

 そんな男の様子を見ながら、エリーは自分の手荷物を確認する。そして、エリーは自分の剣がないことに気づいた。

 

 

 

(私の剣はいったいどこに?)

 

 

 

 まわりを見ながら周辺を歩き、エリーはそれほど離れていないところに自分の剣が落ちているのを見つけた。

 

 

 

 そして、エリーは自分の剣の傍にある小山になった砂のような塊があることに気づいた。

 

 

 

 何の変哲もない砂に見えるが、周りの土とは性質が違うように見える。

 

 

 

 エリーは剣を拾うために砂の塊に近づいて行く。

 

 

 

 そしてエリーは、自分達が寝ていた臭いのきつい場所から離れたこともあるのか、砂の塊から発せられる臭いをかぎ取っていた。

 

 

 

(これは?魔物の匂い!?)

 

 

 

 それに気づいたエリーは即座に砂の塊から距離をとり、緊張した様子で砂を注視した。

 

 

 

 だが当然のことながら、砂はそのまま何も変わることもない。

 

 

 

 エリーは魔物だったものが危険のない状態だと判断すると、慎重な足取りで剣を回収した。

 

 

 

 そして、エリーはその場から離れた場所にさらにもう一つ砂の塊があることに気づいた。

 

 

 

(おそらくあれも、私が対峙した魔物だったモノだろう。)

 

 

 

 エリーはその状況に混乱していた。なぜかはわからないが、魔物は砂になったらしい。

 

 

 

 いったいなぜなのか。

 

 

 

 だが、エリーはその答えに気づいていた。

 

 

 

(ここには何かが、誰かがいたのだ。)

 

 

 

(それを証拠に、私達の周囲にまかれていた臭いや、何かのかすかな臭いが遠くに続いて残っている。)

 

 

 

 エリーは魔力で嗅覚を高めることで、魔物避けの薬や、薬をまいたアッシュの匂いが道しるべのように残っていることを見つけていた。

 

 

 

(追わないと。早く。)

 

 

 

 なぜそう思ったのかはエリーにもわからなかった。

 

 

 

 だが無意識のうちに、エリーはポケットに手を入れて中にある小瓶を握りしめていた。

 

 

 

 その小瓶には、エリーの街を滅ぼし、そして自殺をさせられた鎧竜の破片が入れられていたのだった。

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