機動戦士ケンプファー 栄光のサイクロプス   作:ハンマーしゃぶしゃぶ

1 / 6
第一話 あの頃までは何マイル?

ミハイル・カミンスキーは四十過ぎの、でっぷりとした腹を抱えつつも筋肉質の巨漢の男で、仲間内からはミーシャという愛称で呼ばれていた。

ロシア系を先祖として持つ事がその容姿と名から分かるが、宇宙世紀の今では人種や肌の色はもはや問題にならない。

新たな時代に適応した問題は、宇宙に住むか地球に住むか、という事と、そして宇宙に住むのならばザビ家を信じるか正統な意味でのジオンを信じるか、というところだった。

そしてミーシャという男はそのどちらも信じていない。

彼が信じるのは自分の命を預ける殺人マシーンと、背を預ける仲間と、そして酒だ。

 

「…寝酒が過ぎたか?」

 

ミーシャは、頭髪の薄くなった寝起き頭を軽く掻いて呟いた。

不思議な夢を見た。

不吉でもあった。

その夢は、今後のミーシャの末路を暗示するかのような、〝未来予知〟かのような、やけにはっきりと記憶にこびりつくような夢だ。

 

「縁起でもねえ」

 

合理主義を突き詰めていく兵士という職業の中で、さらにそれを深く鋭く突き詰めていった特務部隊の一人であるミーシャだが、合理的かつ効率的な努力と実践の後に出来る事は、自分流のジンクスであったりルーティンだったり神頼みであり、最後にはそれら迷信的行為に頼る事は珍しくない。

だから兵士というのは意外と迷信深かったり信心深い者が多い。

神に祈りながら人殺しをし、人殺しをしても神だとか超自然的なものが自分を守ってくれるから大丈夫だなどと、兵士は平然と言ってのける。

それは酷く矛盾しているようで、しかしその矛盾こそが、人殺しを主な活動の一つにしている兵隊などという職業をやっている人間の心を守る。

それだけ、人というのは、複雑で屈折していて矛盾した精神の裏と表をいくつも抱えている生き物だった。

ミーシャもご多分に漏れずそうだ。

だが、神に殺人の罪を悔いて、それをいつまでも引きずるような小心な男でもない。

彼は豪胆な男だが、しかしそんなタフな男が、その夜に見た一つの夢如きに少しだけ心を動揺させていた。

 

 

その夢は、サイクロプス隊の末路を語っていた。

まるで自分が戦死した未来から巻き戻ったかのような、タイムスリップでもしたかのような夢だった。

ジオンそのものが戦争に負けていく。

ジオンが劣勢に追い込まれていく中でサイクロプス隊も酷使され、消耗し、そして最後にはサイド6での困難な任務の中で皆が死ぬのだ。

尊敬する隊長も、つい先週サイクロプス隊に配属された新入り…ガルシアも、自分も。そして、未来にこの隊へと入ってくる、印象的な金髪とまだあどけなさの残る青年バーナード・ワイズマンも。

酷い結末ではあるが、軍人としてはよくある最期だろうし、人類史に残る未曾有の大量虐殺(フリティッシュ作戦)を〝ただ仕事だったから〟でやってのけたミーシャにはお似合いの末路だろう。

ジオン軍がまだジオン国防隊を名乗っていた頃からの生粋の叩き上げ軍人であるミーシャからすれば、この年まで最前線や暗部に関わりつつも生きてこられただけ儲けものなのだ。

上官であると同時に長年の戦友でもあるシュタイナーもきっとそう思っているだろう。

しかし、まだ若いアンディやガルシア、右も左もまだろくにわかっていない新兵のバーニィが、あんな酷い作戦に付き合わされた挙げ句に無駄死にするのは気に食わなかった。

若者の無駄死になど戦場ではよくあることで、今更ミーシャもそんな些細な出来事に動じるつもりは無かったが、身近な後輩となれば話が違う。

いざ戦死されてしまえば切り替えられる自信がミーシャにはあるが、防げるならば、助けられるならば全力で仲間は助けたいのだ。

それぐらいには仲間意識は強い。

 

(まぁただの夢さ)

 

ミーシャは愛飲する〝RED(ウィスキー)〟の瓶にのこっていた少量のアルコールを一気に飲み干して、巨体をベッドにどっかと寝かせて目を瞑った。

好きなものを喰って飲んで、戦って、そして死ぬだけの人生だ。

肝臓を労ってやろうなどという気は微塵も無かった。

明日にも戦死するかもしれない我が身であるし、夢が正夢ならば今年のクリスマスには死にゆく我が身だ。

くだらん夢だ、と鼻で笑ったミーシャは再び大きな寝息を立てて眠り始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミーシャは、戦場を駆け回るジープの後部で、機関銃のトリガーを引きながら愕然としていた。

 

(夢の通りじゃねぇか)

 

数日前に見た夢の通りに、戦場の趨勢は移っていったのだ。

サイクロプス隊が三手に分かれて敵軍の後方に回って、味方のMS機甲師団の前進と同時に連邦主力の後方を襲撃するという作戦。

ブリーフィングで作戦概要を聞いた時から「まさか」とは思ったが、実際にドンパチをしてみれば敵兵までが〝夢〟の通りに動くではないか。

細部まで覚えちゃいなかったが、大まかにはまさに夢通りの流れだ。

いっそ不気味にも思えて、ミーシャは自分の頭がとうとう酒でイカれてしまったのかとさえ思った。

ここら辺りで最後の抵抗を試みる連邦の61戦車の無限軌道を、側面から軍用車両サウロペルタの機関銃で撃ち抜き、正面から攻めるザクの援護を完遂する。敵の動きを手玉に取るような、その余りに華麗な戦いっぷりに、ミーシャと共にジープに乗り込んでいた同僚ジェームズ・(ホアン)

 

「お、おい!ミーシャ、すげぇ!すげぇぞ!低空飛行してたからって、おまえ…戦闘機(マングース)を撃ち落としちまうヤツがあるかよ!ははは!スゲーな!!」

 

などと、まるで自分のように、そして子どものようにはしゃぐほどだった。

その攻防が数分続いて、やがてMSの威力の前に敵は全機沈黙したが、ザク隊には目ぼしい被害は無い。これはMSの性能の素晴らしさもあったが、何よりもミーシャの援護が的確過ぎたせいでもある。

作戦完了の信号弾を打ち上げてからミーシャは僚機と共に帰投し、そしてその足でシュタイナーの部屋へと駆け込んだ。

そして夢の事を洗いざらい喋りだした。

ミーシャも頭の回転は早いし、副隊長のような立場にあるから馬鹿ではない。だがシュタイナーの頭脳は頭一つ抜けていて、ミーシャを始めとしてサイクロプス隊の誰もがその知恵を認めて頼っていた。もっと階級が上であるべきだし、一大隊の指揮さえ出来る器だとミーシャは確信していた。

シュタイナーは黙ったまま、長年の付き合いの戦友の話を聞いていて、火のついていないタバコを口に咥えたまま目を瞑っていた。

「ミーシャ」と一言発してから目を開け、そして真っ直ぐにミハイルの目を見つめた。

 

「俺もお前も長いこと戦いを経験した。この全面戦争が始まってもう四ヶ月。そして、俺とお前はそれ以前から…各地のコロニーで反乱を煽ったり、小規模紛争に参加して火種を煽ったりだ。随分と忙しく戦場を作ってきたものだが…力と知恵の全てを尽くしたら、後は天運が全部を支配してしまう……戦場というのは不思議な場所だ」

 

「ええ」

 

ミーシャは居住まいを正しながら短く答えた。

 

「嫌な予感がしたら、本当に悪いことが起きたりする。第六感というやつは、確かに存在すると思ったのも一度や二度じゃない」

 

シュタイナーは、穏やかだが鋭い目で言葉を続けた。

 

「お前が見た夢の中で…俺達が最後にやっていた作戦は、ニュータイプ用の最新MSの奪取…そう言ったな」

 

「はい、間違いありません。…俺の頭が酒で焼け切れちまってなけりゃの話ですが」

 

「戦場では前々から、やたらと勘の鋭い奴が出てくる事が噂になっていた。もちろん、お前も聞いた事があるな?」

 

「ニュータイプ、ですかぃ」

 

「ああ。今はまだニュータイプも噂程度だが、ミーシャ…お前の見た夢…予知夢ってやつかもしれん。お前が見たとかいう未来では、ニュータイプの軍事利用は本格化しているようだな」

 

サイクロプス隊は月のグラナダを本拠地としていて、そしてグラナダはキシリア閥だ。

キシリアという女は、ギレンやドズルに水を空けられている派閥間の実力差を埋めるために、様々に政治的権謀術数を展開し、そして軍事方面では兄達が手つかずの未知の分野に打開策を探している。

その打開策の一つがニュータイプだ。

シュタイナーは、様々な要因から未だ尉官だが、本来なら佐官レベルの人脈と知見を持つから、未だ眉唾のニュータイプについても一定の知識を持っていた。

 

「予知夢…俺が、そんなへんてこなもん見ちまうなんて、何か俺の性分じゃありませんがね」

 

「悪い予想が夢の形を借りて見た悪夢…そんな程度の話じゃなさそうだからな、お前の見たものは。具体性が有りすぎるし、現に今日の作戦の展開も同じだったのだろう?」

 

ミーシャは頭髪の薄くなったデコを軽く掻いて「えぇ、まぁ」と認めた。

 

「俺も独自の情報網は持っているが、そこでもニュータイプというのはそこそこ噂にはなっている。その話じゃ、ニュータイプは未来予知じみた先読みをするらしい。……ミーシャ、お前はニュータイプなのかもしれんぞ」

 

「俺がですか?ハッハッハッハッ!まさかですよ、隊長」

 

超がつくほどの現実主義者の群れであるサイクロプス隊の、鬼の副長格のミーシャだ。

ニュータイプは戦場の与太話の一つとしてしか捉えていなかったが、彼の見た未来では確かにニュータイプは軍事利用化されていた。友軍にもニュータイプ兵器は投入されたとの話は幾度も聞いた。

大笑いをしつつも、ミーシャでさえ〝もしや〟と思うし、自分がニュータイプなどという不確かな進化生物の一種かもしれないと思うのは、らしくもなく不安だった。

だからミーシャはシュタイナーを頼ったのだろう。

 

「しかし、そのまさかの可能性が高い。…今日の撃墜記録も見たぞ?……ジープで、61式戦車を3両、ヘリを2、マングースを1…もともとお前が凄腕なのは知っているが、それにしても、だ。RPGを担いで、マングースまで堕とすなんてのは尋常じゃない。ミーシャ…敵の動きが分かっていたんだろう?」

 

「いえ、俺は…戦場で敵の動きを先読みしたわけじゃありませんぜ。夢で見たのを覚えていたのと…後は、夢の中でもちょいとばかしこの戦場の経験を積んだつもりになったもんですから、それで動きやすかったってだけで」

 

「そいつが既に普通じゃないのはお前も理解しているんだろう?確かに、俺の聞いたニュータイプの話とは差異はあるが、それでもお前の経験した事は、ニュータイプに近い現象かもしれんと俺は思う」

 

「…じゃあ、俺はサイクロプス隊から離れて、実験場送りですか」

 

「さて、問題はそこだ」

 

火のついていないタバコを灰皿に押し付けて、シュタイナーも悩む素振りを見せる。

 

「サイクロプス隊からお前を取られたくないが…お前の、その経験をうちだけで独占するのも持て余す。…それに、どれだけ隠してもいずれはバレてしまうだろうからな」

 

もたらされた撃墜報告書を見ながら、そいつを指でトンッと指し示しながらシュタイナーは薄く笑う。

 

「だったら、今後は俺のスコアはだまくらかします。今日のだって、ホアンの野郎が鼻息荒くして俺の撃墜記録を馬鹿正直に記録しちまっただけで、こんなもんいくらだって誤魔化せる。…俺だってここから離れたくはねぇですから」

 

「そんな事をしてもバレるさ。うち(ジオン)の内偵は優秀だぞ?」

 

シュタイナーに言われて、ミーシャは巨体に似合う大きな溜息を吐きながら「確かに」と呟いた。

 

「面倒な事になっちまいましたね」

 

「ふっ、その愚痴は俺が言いたい所だがな。なにせ俺の右腕がもってかれるかもしれんのだからな」

 

二人の古参兵は、己の今後を正しく予想していた。

やれやれと気怠げに笑いあいながら、二人はグラスに酒を注ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後のヨーロッパ戦線でも、サイクロプス隊は目覚ましい活躍を続けた。

とはいっても、それはもっぱら裏方ではあったが。

MS機甲師団の突撃を、陰に日向に支援を続け、サイクロプス隊が援護に入るとMS隊の損害が目に見えて減ると、友軍からもかなりの評判となる程には活躍をしていた。

そして、ミーシャはサイクロプス隊内での訓練でも、予知夢で得た経験を存分に活かした。

 

「っ!?あぐ…!っててててて!お、おいミーシャ!降参だ、降参!」

 

「なんでぇ、ガルシア。このぐらいで音を上げんのかい」

 

へへへ、と笑いながらガルシアの腕を捻り上げたミーシャが男臭く笑っていた。

その模擬戦の様子を、ホアンもアンディもシュタイナーも、そして未だ健在の他の隊員達も野次を飛ばしながら笑って見ていた。

 

「おいミーシャ、それもニュータイプってやつに目覚めたからか?…へへ、それにしてもガルシアぁ、ちょっと情けねーぞ!」

 

「言ってやるなよ、まだ新人なんだぜ?でも確かに、まるでガルシアの動きが分かってるみたいに動いてたな」

 

「ありゃあ勝てねぇよ。あのガタイに加えてあの動きだろ?」

 

格闘戦においては、目覚ましいものがあると評判の隊の新入り(ニュービー)であったガルシア。

しかし、速度で翻弄するはずが、ガルシアの動きはことごとく読まれて、そしてあっという間にミーシャは巨漢を活かしてガルシアを抑え込み、関節をロックしてダウンさせていた。これは、ミーシャが予知夢によって、ガルシアが好む動き、癖などを事前に知っていたから出来た事だ。

他にも、ミーシャは銃撃、小破した友軍MSの修理、MS戦理論などなどにも著しい成果をあげて、近い将来…具体的には今年の10月あたりには連邦製MSが登場し、しかもそいつらはMS経験の差を埋めるべくビーム兵器持参でジオンを襲ってくる…という未来予知を予測の体裁でこんこんと説く。それら全てを惜しむことなくサイクロプス隊に伝授し、そして他の軍団にも…という所でやはりというか少しばかり難儀した。

サイクロプス隊の面々は何の問題もなかった。

サイクロプス隊は、共に危険な矢面に立ち続け、共に裏方に回って花形とは無縁の裏工作に従事した仲だから、すでにどのメンバーも固い絆で結ばれていたからだ。

問題は、MS機甲師団の連中である。

もともと短期決戦でしか勝ち目はないと、ジオン内でもシュタイナーを始め有識者は口を酸っぱくして言っていたが、それはジオンの国力に対して地球が広すぎる事や、地球環境に不慣れで絶対的に知識と経験が不足している事、万全で潤沢な補給を施すにはサイド3と重力戦線が遠すぎる事、時間をかけると連邦軍の驚異的な地力故に巻き返される、などetc…etc…色々あるが、もっと根本的な問題として、貧弱な国力を更に等分割するかの如くの派閥争いがある。

大まかにはデギン派、ギレン派、ドズル派、キシリア派、ガルマ派、であるが、これは余りに乱暴に大雑把に分けただけで、実態はこれ以上に複雑で、そしてそれぞれの勢力が高すぎるプライドと強い縄張り意識を持って互いを牽制しあっている。

創設されたての地上攻撃軍も、当然そのように縄張り争いと手柄競争の意識が既にあった。

地上攻撃軍はガルマ派であり、これは全体が指揮系統においてもキシリア傘下であるのだが、すでに地上軍の意識はガルマ派だという自意識が生まれ強くなっている。

そして、サイクロプス隊は地上軍に合流しているものの、キシリア直下の特務隊であり、ここでもうMS機甲師団からはちょっとした冷ややかな目で見られているのだ。

これはまったくナンセンスな、ジオン軍全体に根深く蔓延る病といえた。

ジオンを牛耳るザビ家が一枚岩でない事も深く関係するし、なんならザビ家独裁以前…ダイクン家とザビ家の頃から続く伝統の病だった。

とにかく、サイド3勢力は一枚岩になりきれない歴史がある。

ただでさえ連邦に圧倒的に水を空けられている勢力なのに、少ない国力のパイを派閥がひたすらに奪い合っているのだから、これはもう笑えない問題点だった。

この悪癖が、今この場面においてもミーシャの邪魔をしたのだ。

 

「俺達には俺達のやり方がある。あんたらは…確か、サイクロプスだかなんだかって言ったか?大人しく俺達、機甲師団の露払いをしてりゃあいい」

 

「MS戦理論だァ?そんなにMSに精通してて優秀だっていうなら、なんでお前らはMS無しの裏方を命令されているんだ?俺達の方がMSパイロットとして優れているから、司令部のそういう判断があったんだろう」

 

「連邦が後たった数ヶ月で、ザクより高性能なMSを作って、しかもビーム兵器を使うかもしれない?予測という妄想だな。統合失調症の疑いがあるぜ、カミンスキー中尉殿」

 

「MS機甲師団は花形だ。()()()()かい?特務隊だなんだって言ったって、誰もヤりたがらない汚い仕事をやってるだけだろ?聞いたことあるぜ。特務隊とか海兵隊ってのは、能力はあっても、いつ切られても惜しくない人材を集めて、汚れ仕事をやらせてるってな。真の自由を勝ち取る戦いをする俺達の、栄光あるジオンの邪魔をするんじゃねぇよ、面汚し共が」

 

このように思い込んでいる、厄介なプライドに脳を占有された者が多かった。

こんな事を言われるのは初めてではないし、こういう風に思われているのも予知夢でとっくに知っている。

しかし、予知夢内ではミーシャは「どうせそう思っているんだろ」と、こちらもこちらで高を括って、機甲師団と交流を持とうとはそもそも思っていなかった。

だが今回は違う。

 

(これも、サイクロプス隊を生き残らせる役には立つはずだ)

 

そう思うから、無下にされようとも積極的に交流を持とうと試みる。

無論、無理攻めはしない。

何度門前払いされても、「無理にとは言わねぇさ。また明日、土産持参で来るから、そん時ゃちょいと考えてみてくれ。損はさせねえよ」と、軽い雰囲気を装って自分の経験則を伝えようと奮闘した。

そうしているうちに、ミーシャの健気さとでもいう行為に絆される者も中には出てくる。

もっとも、こういう殊勝な態度も特務兵故の演技力であるのだが。

 

「…カミンスキー少尉。今までの同僚達の態度には、私も思うところがあります。…自分だけでも、頭を下げさせて頂きたい」

 

そう言って、1人の女パイロットがミーシャに教えを請おうとする。

ミーシャは内心で口笛を吹く。

なんとも見目麗しい、女というものを存分に主張する肉体を持つ美女だ。

パイロットにしておくには惜しい逸材だが、逆にパイロットだからこそ男には堪らぬ魅力でもある。

ジオン軍人らしい強気な性格なのだろう。そういう性格が瞳に出ているような鋭い目だが、よく見れば瞳は優しい。

艶のある黒髪を、女らしさを軽減して舐められぬ為にか、オールバックなどにしていかにも強い女を演出していた。

 

「あんたは?」

 

「自分は欧州方面軍第1機甲師団――」

 

「あー、別に所属部隊まで言わんでいいぜ。ここに駐屯してのなんざ、第1機甲師団と特務隊ぐらいだ。そして態度と物腰を見りゃ、機甲師団かどうかは見分けがつく」

 

「…確かに。自分はトップ曹長であります。よろしくお願いいたします、少尉」

 

「サイクロプス隊のミハイル・カミンスキーだ。へへ、こんな戦場であんたみてーな美人とお近づきなれるなんざ嬉しいねぇ」

 

その言葉に、一瞬、トップはむっとしたようだった。

この容姿だ。そして軍隊とは宇宙世紀になった今も、昔と同じくやはり男性が大多数で荒くれ者が多く、男社会が基盤にある。

今まで出会う男共に、同じようなセリフや下卑た視線を投げかけられた事だろう。

そしてミーシャも同じ男だ。男盛りで、体力も精力も人一倍だ。そして女に色目を使わぬなんて女に失礼だろうとも思った。

サイクロプス隊にも一応女は1人いるが、あれは女と言っていいのか微妙な類人猿だ。除外していいだろう。

 

「おっと、こいつは失礼。だが、まぁここは一つ許せよ曹長。だってあんたが美人なのは確かだし、ほら…俺は見てくれがこんなだからよ。あんたみてぇな美人には免疫なくてなぁ」

 

少しとぼけてコミカルにミーシャが言う。

むけつけき大男のミーシャが、見てくれに見合わぬ愛嬌を振りまいたから、これにはトップも少し頬が緩みそうになった。

 

「ご冗談を」

 

「ははは、まぁ実際冗談さ。それで…曹長は俺の話を聞いてくれるのかい?」

 

「はい。是非ご教授願います。私はMSパイロットとしてはまだ未熟で、あそこまで居丈高にプライドを振りかざす勇気はまだありませんよ。周囲の者も、充分に訓練は詰んできましたが……実質皆が初陣のようなもので…」

 

「そりゃそうだ。ベテランの殆どはルウムで死んじまったしな」

 

「ですので、ルウム前からパイロットをしていたという少尉の話を、是非聞かせて頂きたいのです」

 

よし!とミーシャは心の中でガッツポーズを披露する。

これは小さな橋頭堡だが、しかし確固たる第1歩だ。

誰かしらに自分のMS戦の経験を伝えられれば、そいつの腕前を向上させる自信がミーシャにはある。己は教官向きではないという自覚はあるが、伊達にベテラン兵士ではないから、何人もの後輩を鍛え上げてきた自信はあった。

それに、今回のお相手はこんな美人だ。

男なら誰でも俄然やる気が出るというものだった。

 

「時間が惜しい。曹長のMSで、シミュレーターモードでいっちょやらせてくれ。口でどうこう言うよりかは、実践の方が早ぇだろ」

 

「あちらで整備中です。行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

そして30分後には、トップのザクⅠの周囲にはちょっとした人だかりができていた。

最初はトップが、ひたすら驚嘆し、称賛し、目を輝かせてミーシャの操縦に魅入っていたが、その様子を遠巻きに見ていた他のパイロットや整備士達が、〝薄汚い裏方野郎〟に教えてもらうなんてごめんだ…という態度を崩せないながらも、普段は冷静で勝ち気な美人パイロットとして仲間内でも有名だったあのトップが、騒ぎながら絶賛しているのを聞いてしまえば、もう興味が抑えられない。

ちょっとだけ…と整備士の1人が、シミュレーターモードの映像を整備用端末のタブレットに表示させ、盗み見た。

そしてその映像に、食い入るように見つめる者が1人、また1人と増えていく。

 

「…ウソだろ?これ…シミュレーターのシチュエーションを弄って、ゲームのチートモードみてぇにしてるんだろ!?」

 

「なら見てみろよ。……相手の動きだって、俺達がいつも使ってるのと変わんねぇぞ、これ」

 

「し、信じらんねぇ…」

 

「こんなの…俺の養成所時代の教官以上だぜ!?」

 

「な、なぁ…トップに教えているのって…最近いつもうちらの所に来てた、あのデカいやつか?」

 

「……そうだよ。うちの隊長殿が、いつもバカにして追い返してた、あの特務隊の少尉さんさ」

 

「………ヤバいな」

 

「あぁ、色んな意味でな。……サイクロプス隊って…こんなエース揃いだったのか…?」

 

「もったいねぇよ…!うちの隊長と代わってもらいてぇ…」

 

「うあぁ…俺のトップ曹長がぁ…!パッと出の汚いおっさんに取られちまう!」

 

評価が一変した。

そこに居合わせたMS機甲師団の誰もが、もうミーシャの事を、サイクロプス隊の事をバカにしなくなっていた。

そのように、ミーシャは機甲師団と同陣地に滞在する度に、主にトップにMS操縦のテクニックを伝授していった。

やがて耐えきれず、他のパイロットもミーシャに請うようになり、その噂とテクニックは少しずつ人を介して欧州方面軍に広がっていく事になる。

 

「…お前のとこのカミンスキー少尉は凄いな。重力下でのMSの問題を、こうも的確に当てるなんて。少尉の言っていた問題点が、実戦を重ねる度にどんどん浮き彫りになって証明されちまう。この短期間で、うちの軍団のレベルはかなり上がっているとも実感できるしな。驚いたぜ!…キシリア閣下麾下の特務隊じゃなけりゃ、うちの師団にスカウトするとこだがなぁ!」

 

ははは、と笑いながら欧州師団のお偉いさん…つまりは司令官のユーリ・ケラーネ少将までが、がわざわざサイクロプス隊に手土産持参で礼を言いに来たのには、冷静沈着なシュタイナーもかなり驚いているようだった。

「サイクロプス隊の名は覚えておく。何かあったらいつでも俺のとこに来い」などと気さくに声を掛けてくる将官も珍しい。

もともとユーリ・ケラーネはフットワークが軽く、下士官や一兵卒にまで声を掛け、肩を組んで酒を飲み合うような人物という噂だったが、まさにその通りで、これには未来を視たミーシャも随分な驚天動地である。

 

(ちょっとした事で、未来なんざ変わっちまうって事か?へッ、かえって好都合だぜ。運命なんてねぇってのは、何とも俺好みじゃねえか)

 

ミーシャの〝覚醒〟とでもいうべき飛躍的な成長と、派閥や兵種の縄張り意識を越えてやろうという些細な努力は、サイクロプス隊の評判の改善、そしてレベルアップに大いに貢献し、ついにはヨーロッパ師団全体の質すらも徐々に向上する事へと繋がっていくのだった。

 

教えを請う者達が増加しても、その起点となった美人パイロット、トップは「私が一番最初の教え子だ」という顔をしていたし、それに筋の良い他の同僚などが、ミーシャの教えを受けて急速に腕を伸ばしていくのはやはり面白くなかったようだ。

空いた時間をほぼ全部使っているのでは?と思えるような頻度で、そして他者に見つからぬようにミーシャの陣幕を訪れる事が増えた。

 

「…うちの師団と、サイクロプス隊がいつまでも同じ戦場にいれるとは限りません。少尉、お忙しいのは勿論理解しています…!ですが…」

 

「しょうがねぇなあ。…確かに俺ぁ忙しいが…あぁいいぜ。言ったろ?俺だって美人は好きだからよ!トップは特別扱いしてやるぜ、ははは!」

 

「しょ、少尉…やめてください。そのような戯言を、め、面と向かって」

 

人目を忍ぶように、ひっそりとミーシャに会って、MS操縦のコツや、これからの時代に来たるべき様々な問題を、予想という形で次々に仕込まれていく。

そして明くる日の侵攻戦で、その特訓は目に見えて効果を発揮するのだから、もうトップが抱くミーシャへの信頼はうなぎのぼりだった。

だが、欧州侵攻があまりに順調で破竹の勢い…という事は、第1機甲師団とサイクロプス隊の共同作戦も、もうじき終わるという事だ。

第1機甲師団が北部占領を終えた後、サイクロプス隊はすみやかに南部部隊へ合流せよ…との命令が既にきている。

ヨーロッパ北部を離れる最後の夜…トップとの秘密訓練を終えてサイクロプス隊の陣幕へと戻ってきたミーシャを、隊員の殆どが起きて待っていた。どうやら、聞きたくて聞きたくて仕方ない事が皆あるらしい。

 

「戻ったか、ミーシャ。あの曹長とまた密会か?」

 

「くくく、まいりましたね。色男の噂は、隊長の耳にまで届いちまいましたか」

 

真面目一徹で冷徹。そういう評判が立っていて、実際そういう男であるシュタイナーまでが、ニヤつく他の隊員達と一緒にミーシャを待っていた。

シュタイナーは、別に戦場の男どものこういう粗野で少々下品なお遊びに付き合わぬような潔癖な男ではない。むしろ、こういう事にも理解があった。

隊員と混じって、この副官をからかってやろうという魂胆で、それが隊の結束を高めると理解している。

 

「ぬかせ。ったく、うまくやりやがって。トップ曹長は、第1機甲師団・第17大隊のアイドルだって聞いたぜ?」

 

アンディが少々羨ましそうに言っていた。

 

「17大隊の連中に、後ろから刺されるんじゃねぇか?」

 

笑いながら、ホアンがそう付け加えた。

ミーシャは、ホアン以上に大笑いする。

 

「鬼のサイクロプス隊に、白兵戦挑むなんて命知らずがいたら、俺ぁその勇気に感動しちまうだろうよ!」

 

「チッ…ったく、そのデカい図体でよく動きやがるからな、ミーシャは」

 

「ガルシアぁ、てめぇの得意分野だろうが。もっと磨けよ。俺程度のおっさんに遅れを取ってんじゃねえぞ」

 

「おっさんはおっさんでも、あんたは特別製だろ」

 

違いない、と同僚達が口の中で笑っていた。

朗らかな雰囲気の中、アンディが急に真面目な顔で、声のトーンを落としてミーシャを手招きする。耳打ちするかのように、真剣な顔を耳に寄せてきた。

 

「…でよ。トップ曹長のあのぱいおつ……攻略したのかい、少尉殿」

 

「くくくく…堅牢な陣地の隅々まで突撃完了だぜ」

 

ヒューッと口笛が次々に鳴る。

 

「曹長殿の陣地は、誰にも防御陣を突破されてないまっさらで小綺麗な花畑でありました、隊長」

 

ハラスメント対策だとか防止だとかに全力で唾吐くような、セクシャルなトークの連発は命がけで戦場を駆ける男達にとって取るに足らぬ娯楽に過ぎない。敬礼しながらシュタイナーに言うと、シュタイナーもくっくっ、と声にならぬ笑いを漏らして肩を震わせた。

 

「おいおい、ってことはなんだぁ?トップ曹長がバージンだったって?」

 

「ウソだろ?野郎に囲まれた軍隊生活してて、しかもあのスケベったらしい体でか?」

 

「てめぇミーシャ!美味い汁吸いやがって!俺にもわけろ!」

 

「わはははは!てめぇらとは年季が違うぜ、小僧共!」

 

そのまま、ミーシャvsサイクロプス隊の白兵訓練が、皆が寝静まる深夜に…シュタイナーが見守る前でこっそり開催された。

さしものミーシャもリンチ状態となったが、負けても晴れ晴れとしたその顔は勝ち誇っていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはりシュタイナーの予想は的中していた。

サイクロプス隊は常に危険な最前線に送られる。激戦の中で、いくらミーシャが戦果をコントロールしたところで、自然と目立つ部分が出てきてしまう。

それに、ミーシャもミーシャで、損耗率の高いサイクロプス隊の損害を抑える為に自然と予知夢での経験を活かしてしまいがちで、お陰で、ミーシャの記憶ではヨーロッパ戦線の中頃で戦死するジェームズ・黄は今も元気に活躍できていた。

サイクロプス隊の消耗を抑えれば、ミーシャの活躍が自然と友軍の目にも止まりやすくなり、そしてミーシャが己が目立つのを抑えようとすれば、サイクロプス隊は予知夢通りの激しい損耗を強いられる。

ミーシャにとっては大きなジレンマであったが、結局彼が取った選択肢は、仲間の命だ。

この悪目立ちで、たとえ自分が実験施設送りになっても、ホアンやアンディがこの先助かって、そうしたら戦力不足も少しはマシになり、あの不利極まるルビコン作戦も乗り切れるかもしれない。そう考えれば、自分のモルモット扱いなど安いものだ…とミーシャは思うのだ。

とくれば、ミーシャの意志を汲んだシュタイナーは反りの合わない直属上司(キリング)へと、先手を打ってその事実を報告した。

隠せぬとあらば、いっそのこと〝ニュータイプ素養を持つパイロットの早期発見〟という手柄をサイクロプス隊のものとし、今後の隊の存在感を重くすべきと判断したのだ。

 

「ニュータイプ…か。確かに異常な戦績のようだ」

 

シュタイナーからの報告書をジッと見て、キリングは背もたれに深く身を預けながらデスクを指で叩く。

シュタイナーとキリングは反りが合わないが、キリングもまた上司であるルーゲンス、そして更にその上のキシリアと決定的なまでに反りが合わない。

キリングは熱狂的なギレンの信奉者であった。

だから現状の人事には大いに不満があったわけで、チャンスがあればギレン派閥へと移りたいと常々思っていた。

今、キシリアがニュータイプ研究に力を注ぎだしていて、近々本格的な研究機関を設立する予定でいるのは、キリングも独自に諜報網を駆使して知っていた。だが、さすがにキシリア肝いりの研究機関の詳細は、策謀家のキリングですら把握できていない。だから、自分の思う通りに動かせるサイクロプス隊のメンバーをニュータイプ研究機関に送り込めるのは、いつの日かギレンの元へ馳せ参じる為の良い手土産になると思う。

サイクロプス隊の活躍もあり、想定より早く欧州は陥落。その1ヶ月後、ヨーロッパ戦線が完全に安定した事で、キリングはシュタイナーの言を入れ、ミーシャを一時的にサイド6へと出向させる事を決意する。

ミーシャはグラナダへの帰還命令を受け、サイド6への出立の直前、キリングに呼び出しを受けていた。

 

「―――というわけだ。分かったかね、カミンスキー少尉。まぁ君の活躍が評価されたという事だ」

 

メガネの奥の、じとりとした陰鬱な目。

ミーシャはこの目が嫌いだった。

人間味を感じさせず、その瞳はまるで爬虫類か昆虫、あるいは魚類か。とにかく、感情を感じさせぬ機械じみた瞳であると強く思えた。

 

「ハっ。光栄であります。明日、小官はサイド6へ向かいます」

 

「うむ。…キシリア少将も既に了承の事だ。君は、少将自身が推挙した秘蔵っ子達と共に、近々開設されるニュータイプ研究機関に出向してもらうわけだが。…サイド6(リーア)〝8バンチ〟パルダが主施設とは聞いているが…詳細は私にさえ未だ開示されていない…――分かっているな?」

 

「ハっ」

 

ミーシャの対応はどこまでも事務的なものだったのは、嫌悪を表に出さぬためのものだ。ここにシュタイナーでも同席していれば、きっとミーシャはちょっとした子供じみた嫌がらせなりをしてみせただろうが、ここにはフォローしてくれるシュタイナーはいなくて、そして今は自分がサイクロプス隊の名を背負ってキリングと対しているのだから杜撰な対応はできない。そういう分別はミーシャにはある。

キリングは、ようは女狐がパルダ以外にも根を張り巣を作っているのでは…と疑っていたのだ。だからそれを探れと言う。

そして、パルダにおいても、戦力としてのニュータイプの実用化の現状。その人員の質。キシリアへの感情。諸々を探れとも言う。

キリングが強烈なギレンシンパである事は、今のところは周囲のキシリア閥の者達にはバレてはいない…少なくともキリングはそう確信している。

だから優秀なサイクロプス隊を直下に置くことを許されているし、ニュータイプ研究所の情報もある程度は与えられた。

だがそこ止まりだ。

これ以上を求めるなら、キシリアの信頼を勝ち取らねばならないわけだが、そうすると今度はキシリアの懐刀マ・クベが立ち塞がる。

自分の智謀に()()()()()()()()()()()自信を持つキリングだが、マ・クベが相手となると事はそう簡単ではないという客観性も持ち合わせているのは幸いだった。

マ・クベは陰湿な切れ者であるというのは、既に派閥を越えて有名な事実だ。

 

ようは、キリングの点数稼ぎの為にミーシャは利用されるわけだが、今回の事は寧ろミーシャにとっても都合が良かった。

自分が抜けた後のサイクロプス隊については若干の不安もあるが、だが既に自分が出来る事はやり種は蒔いてきた。

ヨーロッパ戦線での過酷な連続任務で失うはずだった仲間は、全員ではないが既に何名かは助けられたし、この時点ではまだまだ青い部分も多かったガルシアも、ミーシャが隊を離れる時には既に一端の顔つきになっていた。

アンディやホアンも、ミーシャの記憶にあるよりも実力は一回り以上向上したように見えた。

この時点では確立されていない、将来、対MS戦や今後の地上侵攻戦で起きる問題点や課題なども既に「予想だが…」とか何とかとそれらしい事を言って機甲師団の連中にも伝えてあるし、機甲師団達も「あのサイクロプス隊が言うなら」と聞く耳を持ってくれたのは、シュタイナーの全面協力があればこそだった。それらに加え、ミーシャは思い出せる限り〝夢〟の内容を詳細に書き出して、シュタイナーに伝えてある。それらは些細な干渉で、そして小さな一歩に過ぎないにしても、ここから少しずつ事態が好転していってくれれば…と、ミーシャはそう願ってもいる。

 

(俺は別に愛国者ってわけじゃねえが、それでも祖国が勝つのは嬉しいしよ…何よりも友人が生き残ってくれるのは、やっぱいいもんだからな)

 

少しでも、1人でも多く仲間を生かしたい。

いくらミーシャが、勝つためには冷酷にもなれる軍人であっても、そういう人の情は当たり前に持っている。

あの晩に見た予知夢が、こうまで役に立ったという事実に直面した時、リアリストのミーシャがそれを最大限活用しない手はなかった。

 

(………バーニィは、俺達が死んじまった後、生き残れたんだろうか)

 

ふと金髪の青年の顔が思い出された。

自分が見た夢は、ガンダムタイプの新型にケンプファーごと敗死した場所で終わっている。

別行動していたシュタイナー、ガルシア、そしてぺーぺーの新人バーニィがどうなったかはミーシャにも分かっていないが、しかしあんな状況では生き残れなかったであろうと容易に想像がつく。ベテランのシュタイナーと、屈強なガルシアでさえ至難の業だろうに、あんな生っちょろい新入りなら尚更だろう。

ケンプファーと自分がいなくなれば、サイクロプス隊は新型ガンダムに蹂躙されるしかないのだから。

 

そう。バーニィだ。

バーナード・ワイズマン。

グラナダに戻ってきて、色々な準備をバックアップチームと共にこなす中、ミーシャは空いた時間を使ってバーニィを調べた。

今はまだ軍の養成所(航空学校)に入ってはおらず、ハイスクールカレッジの卒業を間近に控えた学生に過ぎないが、確かにいた。

この事実を確認した時にも、ミーシャは自分が見た予知夢をいよいよ信じざるを得ないと感じたが、この時は面倒な未来を知ってしまえた不気味な力への忌避感よりも、あの柔和な顔をした素直な青年が実在した事に対する喜びが勝った。

 

「へっ、軍人よりよっぽど似合ってらあ」

 

学校のコンピューターを軽くハッキングしてやり、在学生一覧の名簿を顔写真付きで眺めた時に出たミーシャの感想はそれだった。

願わくば、この間抜け面の好青年が、サイド6の騒がしいガキと、何の裏表もない一友人として付き合える…そんな未来図を残してやりたい。ミーシャは、冷徹な軍人の思考を一瞬だけ置き去りにして、僅かに人の良い中年オヤジの顔を覗かせていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。