転生先:リュミルアの森   作:AliceC

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たしかに出会いというのは劇的なのかもしれない

黒と白が統合し、()となる。

 

気付けば久しぶりに、僕は身体を動かしていた。

 

屋上を流れる風は冷たく、切り裂くように痛い。

 

それでも歩みは止めず、

これ以上踏み出す余地の無い外縁まで足を掛ける。

 

すぐさま二の足を踏み抜き、僕は夜闇に身体を投げ出した。

 

永遠のようにさえ感じ続ける浮遊感の連続。

 

しかし、あらゆる事象に永遠など無く。

 

やがて、ぐちゃり、という幻聴と共に、僕の意識はブレーカーが落ちる様に一瞬で断絶した。

 

 

 

 

「··········元気·······の子·······だよ。」

 

「···········ん、そうみたいね······」

 

音が、聞こえる。視界もぼんやりとしているが見えないわけじゃない。

高層マンションから身を投げた筈の僕。

しかし、意識がある。

 

────死に損なったのか。

 

いや、違う。

 

木の香り溢れる知らない部屋、

五体満足で矮小な体躯、

名前も知らない僕を抱く誰か。

 

なるほど、僕は転生というやつをしたらしい

 

死んで、生まれ直す。

輪廻転生。魂の循環。

ただの作り話(フィクション)だと思っていたそれは、どうやら実在していたようで。

 

身体は軽いのか重いのかよく分からない不思議な感覚で、視界に映る自分の手はやけに小さい。

泣きたくも無いのに何かを喋ろうとする度に涙が滲み、喉が震えた。

声すらまともに形作れない無力感と、

死の間際の灼けるような痛みのリフレイン、

まだ全てを理解できていない現状に対する不安······とりあえず、色々なものに襲われて僕は泣いた。

 

いや、どっちかと言うと鳴いた、の方が正しいかもしれない。親鳥を前にした雛鳥の合唱を一人で演奏していたような気がする。

そんな僕に寄ってきてヨシヨシ、と宥める母親(誰か)

 

安心感や暖かさが心を満たしていき、不思議と涙や嗚咽が止まった。

僕はどこか浮かされたような気分になり、更なる暖かさを求めて手を伸ばす。

伸ばした先にあった彼女の耳は、長く尖っていた。

 

······長すぎたし、尖りすぎていたと言っていい。

 

「え···る···ふ······?」

 

脳裏にすぐさま浮かんだ三文字。

北欧神話や指輪物語に端を発し、ファンタジーものに頻出する、人間とは異なる種族。

 

曰く、エルフは美しく若々しい外見を持ち、

曰く、彼らは長命種であり、

曰く、彼らは森人である。

 

僕を抱き抱えながら、言葉を発した事を喜ぶ(誰か)と、驚きのまま、僕を覗き込む(誰か)

キャッキャキャッキャと喜ぶ彼らはどちらもとても綺麗で、美しくて、

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そうか。

僕は生まれ変わった。

それも、ただ生まれ変わったわけじゃなくて、

神話や異世界譚のような舞台に転生したのかもしれない。

 

あれだ、昨今流行りの異世界転生だ。

 

自分の第二の生がベタすぎる、と天井を仰ぐ。

 

否、転生なんてものをした以上、今更非現実要素の一つや二つ増えても変わらない、か。

生まれたて幼児の小さな脳を使い切った僕は思考を放棄し、ふて寝した。

 

 

♦♦♦

 

 

生誕初日の考えが確信に変わったのは歳を数年分程重ねた末の事だった。

ある日、知識欲に駆られた僕はこの世界について調べに調べた。

そうして目に耳にしたのは、

【神時代】【恩恵(ファルナ)】【ファミリア】といった単語の数々。

そのどれもが、聞き覚えがあった。

思わず耳を疑ってしまう程に。

何故なら、それら全てを内包する物語を、僕は前世においてよく知っていたから。

 

それは、一人の少年が憧憬を抱きながら英雄を目指す物語。彼の歩みを彼の女神が記す眷属の物語(ファミリア・ミィス)

 

僕と僕の友人の好きな物語だった。

 

だからこそ、

この世界が所謂ダンまちの世界であると分かったからこそ、納得出来た事が幾つもあった。

 

神が実在のものとして扱われていること、

同胞のエルフ達がやけに排外主義であること、

あとは······そう、

 

両親が何故死んだのかは、特に分かりやすい事柄だったと言えるかもしれない。

 

 

産まれて間も無く僕を抱き上げた、今世の両親と言えた人達。

父のアレクセイと母のエリシアは僕が3歳の頃に竜によって殺されてしまった。

 

当時、自殺未遂を繰り返していた僕を庇う形で。

 

 

その際に、僕の生まれた森の多くの守り人が死に、そして突如現れた戦士達によって元凶は討ち取られた。

 

到来した非日常にあの時は理解が追いつかなかったが、今ならよく分かる。

 

あの竜は、黒竜を封じる竜の谷の結界から漏れた竜種系モンスターの内の一体で、

漏れ出た竜を討滅した戦士達は十中八九、ゼウス及びヘラファミリア。

 

竜の谷から産まれる竜種は数が多い事に加えて、強力な個体が多く存在していると、朧気ながらに記憶している。

後に訪竜問題と呼ばれるそれの脅威は言うまでもなく

現に、里に至るまでに位置していた村落は壊滅的被害を受けた。

 

しかし、里では十数人のエルフが犠牲になった"だけ"に抑えられている。

それは、最強派閥の戦士達によって既に致命的な損傷(ダメージ)が与えられていたから。

 

故に、今回発生した損害に対しては、仕方の無かった事だ、と受け入れる他に無いだろう。

寧ろ運が良かったと安堵すべきかもしれない。

 

──だから、ほんの一瞬でも謝罪を口にした最強派閥のメンバーと、それを受けて糾弾し続ける里のエルフ達の姿はどちらも無意味に思えた。

ゼウス・ヘラ両ファミリアの冒険者以上にそれを担当できる者達はいない。誰も黒竜の元から産まれた化け物の相手などしたくない。僕達は彼ら彼女らに強さ故の責任を押し付けている。だから、糾弾する資格なんて、どこにも無い。

 

弱いから奪われる。弱いから、失い、喪う。

 

当然の摂理、当然の、ことなんだ。

 

目の前で血だらけになった両親が、やがて死んだと通告された時、不思議と涙は出なかった。

 

自分のせいで死んだというのに、可笑しな話だった。

 

きっと、前世の記憶のために本当の意味で彼らを父・母であると思えなかったのかもしれない。

僕は第二の人生を彼らの元で新たに始めようと思える程、強くなかった。

 

そうだ。

僕は何一つ、向き合おうとしなかった。

(誰か)と母(誰か)なんて、どこか、ずっと他人事のように振る舞い続けて。

僕の成長に一喜一憂するあの人達に冷めた眼差しを向け続けて、与えられる温もりに何一つ答えようとも思わず、

 

 

だから、後悔している。

 

泣ける位、関係を深めていれば良かった。

里のエルフ達みたいに激情できる位、あの二人を愛していれば良かった。

父さん、母さんとただの一度も呼んであげられなかった。

 

涙は出なかった。

それでも、心の何処かに穴が空いたような気がした。

 

なんとか理性的に受け止めようとしても、ダメらしい。

涙は枯れているというのに、心は虚を吐き出し続けて止まらない。

両親の死後に取り憑かれたかのように執心し励んだ知識収集も、本当は逃避手段の一つに過ぎなかったのかもしれない。

 

何れにせよ、僕はまた、喪くしたのだ。

 

 

♦♦♦

 

 

それから僕は更に歳を重ねた。齢は6歳程。

両親を亡くして以降、僕は祖父の妹···所謂大叔母にあたる人物の元に身を寄せていた。

大叔母さんは、優しさと厳しさを両立した人で、

エルフの中では珍しく、選民思想的な考えを持たない人だった。

前世で、差別思想と余り縁の無い日本人であった僕は、

森のエルフ達の種族賛美や他種族下げにげんなりしていたため、彼女の存在はとてもありがたかった。

 

···自殺未遂はあの日からただの一度もしていない。

ここで死んだとて再び転生する可能性がある以上、命を絶つという行為は僕にとって終わりを意味しないと気付いたのだ。少し考えれば、分かる事だった。

何よりも、それでは父さんと母さんの献身が、死が、無意味になると思った。

もう、後悔を残したまま死にたくない。

もう、全てを無為にして死にたくない。

そう思った。

だから、僕は、後悔を背に生き続けなきゃいけない。

 

念じ続けるその度に、

辛気臭い顔をするなと、大叔母に頭を軽く叩かれた。

そこには、彼女の確かな優しさがあった。

 

 

ある日、大叔母から、孫に会わせたいと言われた。

どうやら、家族と喧嘩により家出中のため、その子を家に泊めるらしい。

両親を失った君の気を害するかもしれないが、と断られたが、気にしないで大丈夫と答えた。

親と考えが合わないという事は前世で覚えがある事だったから。

例え今世でもう体験出来ないことと言えど、理解出来る悩みだった。

 

コンコンと、扉を叩く音が響く。

件のお孫さんが来たらしい。

出迎える大叔母を尻目に、僕は少しばかり不安に駆られた。お孫さんは、僕の1歳歳下の子だという。

しかし、前世含めた年齢差は大きく離れている。

無意識的に子供扱いしてしまわないか、

いや、そもそもこんな辛気臭い男がいては悪影響だろう。

最悪、1週間ほど空気に徹していた方がいいのかもしれない。

そんな僕の後ろ向きな考えを他所に、

颯爽と大叔母は戻ってきた。後ろに小さな女の子を連れて。

 

 

綺麗な金糸のような髪が風に流れた。

 

その子の姿をはっきりと認めた時

僕のそれまでの考えは全て吹き飛んでいった。

ただ、世界が形を変えたような、そんな感覚が最初に湧いて。

恒星を目の前にした時のような眩しさが僕を襲った。

 

驚愕、既視感、次いで腑に落ちたような感覚。

 

穹のような瞳と視線が重なる。

 

 

······僕は、目の前のこの子を、痛い程知っている。

 

そう、思った。

 

ああ、何故気付かなかったのだろう。

大叔母の名前はアルマ────()()()()()()()

ならば、その孫である彼女の姓も同じである筈。

 

故に必然、彼女の名は────

 

「リュー・リオンです。よろしく······おねがいします。」

 

控えめに会釈する彼女の姿を認め、見惚れ、硬直してしまう。

こと、ダンまちの世間はやけに狭い。

所謂原作キャラと接する機会は既に何度かあった。

だが、リューとの邂逅(であい)は何か、他とは違う気がした。

 

どうして、こうも目が離せない。

 

どうして、こうも、心が揺さぶられる。

 

「グレイ・リュミルアです。よろしくね。」

 

不規則(ランダム)に跳ね打つ心臓を抑えつけながら、僕は彼女に微笑んだ。

この日を以て、第二の人生の分岐点が決定付けられた。

そんな感覚を、はっきりと自覚しながら。

 

それは、長らく道を見失っていた者を照らす星光の導きのようで。

 

───だからこそ、気付けなかったのだろう。

 

抱いたその感情を持ち続ける事が、どれ程愚かであったのかということを。

 




湿度設定を間違えたかもしれない。
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