転生先:リュミルアの森   作:AliceC

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今更ながらアエデスウェスタとイレギュラーレコードを一気見して揺さぶられている今日この頃。
プロットがギシギシ言ってる(´;ω;`)


離別

リュー・リオンは守り人である。

聖樹を、その下の里を護る戦士である。

守り人の朝は早い。

五時起床。軽くパンなどをつまみ、他の守り人と合流。

足慣らしも兼ねて一時間程度の訓練を行う。

その後二つの小隊に分かれ、それぞれ森の巡回ルートを回る。その際、夜勤組と交代。

欠伸をしながら帰っていく同胞を尻目に、森の隅々まで見逃さないよう目を光らせる。

そのまま五時間ほど続けた後、有事が無ければ里への帰路に着く。

それが、ここ数年のリューの日課(ルーティン)だった。

 

木刀と木刀が重なり合い、カンと音が鳴る。

 

組手訓練は二人一組。組み合わせは時折代わる事はあるが基本的には固定化されている。

それは、少数精鋭の守り人達が実戦において二人一組(ツーマンセル)を多用するが故に、互いの戦い方の理解を深めるという意味があった。

そして、リューの相方(バディ)は···

 

「ぼうっとして、眠たそうだね。リュー。いつもと比べてッ、覇気がないんじゃないかい?」

 

「そっちこそ!いつもより力が、入っていませんよグレイ!」

 

グレイ……グレイ・リュミルア。

リューから見て再従兄妹(はとこ)にあたる間柄で、リューにとって兄のような存在でもある。

 

「いやいや、リューが馬鹿力に目覚めただけでしょ、」

 

「女性に対して、失礼ですよグレイ」

 

「やぁ、戦士としての褒め言葉だよ褒め言葉」

 

「それでもです」

 

「ごめんね、美しき女性(マイ・フェア・レディ)?」

 

「バカにされている気がします」

 

「難しいね、乙女心って」

 

言葉を交わす間にも、互いの剣戟は続く。

彼とはもう六年ほどの付き合いになる。

こうして共に鍛錬に励むのも、もう幾度目になるのか分からない。

 

「強いね、リュー」

 

互いに手を知り尽くしているために、最近はいつも、初めの一時が舞のようになってしまう。

それが、どこかおかしくて。

心が笑いたがって、くすぐったかった。

 

「グレイこそッ」

 

リューは知っている。リューが寝ている間も、彼は寝る間を惜しんで結界魔法を当代(おおおじさま)から学び続けている事を。

それはリューが生まれてすぐ、彼の両親が亡くなってから、ずっとなのだと聞いた。

それでいて、こうやって守り人として戦う力も磨き続けている。

皆が、グレイを称えた。

幼馴染として、家族として、リューは誇らしかった。

尊敬さえしていた。

 

「らあっっ!」

 

「ッ····」

 

バキリ、と音を立てて木刀の先が折れた。

音を上げたのはグレイの得物。リューの側面からの一撃を防いだ代償を受ける形となった。

 

あちゃあ、と言わんばかりの顔をしながらグレイは自分の額の上に手を載せた。

 

「無理に防いだ僕が悪いけど、リューもやりすぎだよ。もっと肩の力抜かないと。」

 

「うっ···」

 

リューはいつもやりすぎてしまう。力加減というのは、リューが五年を経ても身につかなかった能力(スキル)の一つだった。

 

「でも、本当に強くなったね。リュー。僕はもう、勝てそうにないな」

 

グレイの心からの称賛に、リューは少し照れ臭くなった。

 

「そんな事はありません。まだ、グレイからは盗めていないものがありますから。」

 

「あぁ、白刃取りとかのこと?あれは手品(マジック)というか、宴会芸というか······実用性無いよ?素手が刃物に勝てるわけないし。」

 

「その実用性の無いものに、私は苦渋を飲まされ続けたのですが···」

 

「気のせいだよ、気のせい。」

 

「むぅ…」

 

目を逸らしながら頬をかくグレイに、リューは怒っているふりをする。

 

「ぷっ」「あはは」

 

どちらからともなく、笑った。

あまりにも私達(僕達)らしいと思ったから。

 

模擬戦終わりのお腹が引き攣って痛い。

でも、それがどこか心地よい。

 

リューは願った。この日々がいつまでも続きますように、と。

 

♦♦♦

 

今日の森はどこか騒がしかった。

巡回の途中、リュー達は人間(ヒューマン)亜人(デミ・ヒューマン)入り交じった一団に遭遇した。

彼らは"自分たちは、馬車が盗賊に襲われ行き場の無くなった者で、少しの間滞在させてもらうか或いは食糧を分けて貰えないだろうか"と、そんな旨を懇願した。

それに対し、守り人達は

「穢らわしい人間(ヒューマン)共め」と取り合わず、今すぐ立ち去るよう勧告する。

それでも尚と、言い募り迫る遭難者達に小隊の長は槍を振り回した。他の守り人も、リューとグレイ以外全員が武器を構え出す。

一人が負傷したのを見て恐怖したヒューマン達は蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げていく。

そんな余りにも理不尽と言える守り人達の言動にリューは抗議しようとした。

横から手振り(ハンドサイン)でリューを制したグレイに宥められるも、リューは心に沸いたモヤつきを取り除く事は出来なかった。

 

夕方、リューは自分の心を落ち着けるべく、一人、森の静かな場所で素振りをしていた。

異種族を見下し、排斥し、同族のみを賛美する。

そんな同胞達の在り方への嫌悪が、リューの胸をチクリと刺した。

同時に、嫌でも思い出してしまう。あの日の夜の事を。

あんな顔をするグレイを、リューは初めて見た。

 

···だから、グレイにも、祖母にも胸の内を打ち明け相談するのが少し後ろめたくて。こうして、一人で頭を冷やしていた。

 

そんな時、突如リューの耳に、ガサリという物音が届く。

それは、暗い感情に沈んでいたリューを現実へと引き上げた

 

「誰だ!」

 

後ろの茂みを振り返る。応答はない。代わりに、苦しげな吐息が吐き出されては消えるのを繰り返した。

 

「っ、大丈夫ですか!?」

 

足を運び、覗き込んだ先に居たのはリューよりも幼い少年。

彼は脚から大量の血を流していた。その傷口はざっくりと斬られたような跡で······

今朝の記憶が蘇った(フラッシュバックした)リューは、痛みに喘ぐ少年に駆け寄り、修練で怪我をした時の為に持っていたポーションを渡した。

 

「ありがとう······エルフのお姉ちゃん」

 

ゆっくりと、傷を癒していく少年に一緒にいた人達はどうしたのかとリューは訊ねた。

馬車にたまたま乗り合わせただけの自分を助けてくれる人なんて誰もいないんだ。彼はそう自嘲した。

御家族は?そう尋ねると少年はいっそう暗い面持ちで

「一緒にいた母は事故で死んでしまった」

と語った。

そんな少年に同情したリューは、祖母の暮らす家へ招き、少年を保護する事を決めた。

彼女(アルマ)なら、同胞でなくとも受け入れてくれるだろうと信じて。

リューの見立ては正しかった。

リューの祖母、アルマは少年を歓迎し、

「リューが男の子を連れてくるなんてな」「この子とグレイ、どっちを選ぶんだ?」等と言ってリューをからかった。

その後、少年の土と血に塗れたボロボロの姿を見たアルマは

少年に湯浴みをするように言い、またリューに対して少年が着替える為の服をグレイから借りるように指示した。

「流石に本人の同意無いままにはな」とはアルマの言だった。

 

「グレイ!」

 

里を駆け回り、守り人達と話し込んでいるグレイの姿を見つけた。

 

「どうしたの?リュー。そんな慌てて」

 

「グレイ、貴方の服を、借りたくて」

 

息を切らしながら喋るリューへ、グレイは少し気まず気な顔を向けた。

 

「えーっと、どうして?」

 

「それは···」

 

喉から出かけていた言葉をリューは呑み込んだ。

グレイ一人ならまだしも、ここには守り人達が何人もいる。ヒューマンの子供を匿った事を話すわけにはいかなかった。

 

「それは?」

 

かと言って、他に言い訳が思い付いている訳ではなかった。何より、こういう時に付く嘘がリューは下手だった。

 

 

「だ、男装に興味があって。だから、その···」

 

自分でも無理があると思った。

 

最後の方なんて尻すぼみになっていて、幼馴染であるグレイには絶対に看破されるだろうとも思った。

なのに、グレイはぶつぶつと

 

「この頃から?···カジノの時は苦渋の決断、嫌々ながらだった気はするけど···リュー天邪鬼だしなぁ···ん〜確かに?」

 

と、よく分からない言葉を呟き、やがて、

 

「うん、いいよ」

 

と軽く了承した。

 

「え、あの」

 

「じゃあ、続きは後程。ほら、リューいこ。」

 

固まっているリューを引連れるように、颯爽と背を向けて歩き出すグレイ。

残されたリューに、温かい眼差しが何本も突き刺さった。

中には、「リューくんとグレイくん···うへへ」

等と言う声も聞こえてきて、リューの背筋はブルリと震えた。

 

♦♦♦

 

「なるほどね。残念だ。」

 

リューからおおよその概要を聞いたグレイは、なんとも言えない顔をした。

 

「リューの男装の麗人姿が見られないとは」

 

「いや、そっちですか」

 

リューは思わずつっこんだ。

 

「グレイなら、こんな稚拙な嘘を見破って真意が他にあると察してくれると思ったのですが···」

 

あっさりと信じるとは思わなかった。

 

「なんていうか、有り得そうだと思って。」

 

「何ですか、私に女性的魅力が無いとでも言いたいのですか」

 

「リューさんには女性的魅力しかないです。」

 

食い気味に否定するグレイ。

それが、リューを宥めるための方便なのか、本意なのか、

自分は憤っているのか、嬉しく感じているのか、

リューはよく分からず、ただ耳を赤くしてぶっきらぼうに言った。

 

「もう、いいです。とりあえず、いい感じの服を下さい」

 

「7~8歳ぐらいの服かぁ。あったかな?」

 

グレイはウンウン唸りながら自室へ向かっていった。

 

「ヒューマンの子を入れてきたよ」

 

入れ替わるように、アルマがやってくる。

 

「入れてきたって、お祖母様、変なことは···」

 

「変なこと?」

 

「···いえ、何でもないです」

 

リューは少しでも邪な妄想をしてしまった自分を恥じた。

 

「安心しろ。あの子が恥ずかしがったから、何もしてない。」

 

「全然、安心出来ないのですが!!」

 

やはり、リューの懸念は正しかったのだ。

自省した先程の自分をリューは恥じた。

 

「おっと」

 

グラリと、アルマが躓き体勢を崩す。彼女が手に持っていたティーカップが割れ、中に入っていた茶がアルマと辺りを濡らした。幸いだったのは、中身が冷たいものであったことか。

 

「怪我は無いですか!?お祖母様!」

 

「ああ、大丈夫だ。ココ最近、目が悪くて。段差に気付かなかったよ。」

 

目元を抑えながら、アルマは力なく笑った。

 

「私が片付けておきます。お祖母様は、あの少年の次に湯浴みをしてきて下さい。」

 

わかったよ。そう言ってアルマはのろりのろりと歩き出す。

 

「どうしたの?」

 

カップの破片を拾い集めようとした時、

服を持ったグレイが戻ってきた。

 

「いいところに、グレイ。お祖母様への同伴もお願いできますか?」

 

アルマへ視線を移したグレイは一瞬、痛ましいものを見るような目をすると、

 

「わかった。こっちは任せて。」

 

そう言いながら、アルマの後を追いかけた。

 

数刻後、

 

グレイと少年が並んで戻ってきた。

 

しかし、居間には居着かず

 

「リュー、少し外に出てくるよ」

 

そう言って少年を伴って外へ出た。

 

その時、リューはアルマの不調の事ばかり考えていて。

故に、見逃してしまった。

 

更に数刻後、家の裏手から喉が裂けんばかりの絶叫が響き渡った。

 

♦♦♦

 

——数刻前の事。

 

 

「ありがとうございます。こんなに良くして貰って。」

 

僕の眼前の少年は、ニコニコと笑っている。

 

「どういたしまして。って言うのも何かな?感謝はリューに言ってあげて」

 

「お姉ちゃんの名前、リューさんって言うんですね!素敵です!」

 

「そうだね。綺麗な名前だと僕も思うよ。」

 

「リューさんと、グレイさんはどんな関係なんですか?」

 

ただ純真そうに、少年は尋ねた。

 

「幼馴染かな」

 

「それだけ?」

 

「うん、それだけだよ。」

 

「じゃあ────」

「ちょっと、外で涼まない?」

 

遮るように、言葉を被せた。

”ほら、湯上りでまだ火照ってるでしょ?”

そんなことを言えば、少年は納得したのか僕と一緒に外へ出た。

 

アルマ宅の裏手、一面に茂った森の中で僕たちは向き合った。

 

「涼しくていいね!お兄ちゃん!」

 

「そろそろいいでしょう。」

 

「え?」

 

「君は、いや、違うな。お前は、冒険者だな?」

 

答え合わせをするように、僕は彼に問うた。

 

「なんの、こと?」

 

首を傾げる幼子。そこに違和感は無い。だが、

 

「下らない演技は良い。

あなた、小人族(パルム)でしょう?いい歳したおじさんが子供ごっこして恥ずかしくないんですか?」

 

この森では、悪意は隠し切れない。

 

「へぇ、言ってくれるなぁ。エルフのガキ。」

 

本性を露にした()()()()は数トーン低い声で、応答した。

 

「それで?衆人環視ならいざ知らず、誰も居ない所で問い詰めて、二人きりになっちまって、馬鹿なのかぁ?馬鹿なんだろうなぁ。なんてったってこの村の奴らはみんな"気位(プライド)が高い"らしいからなぁ。」

 

彼は僕を嘲り笑った。

 

「貴方は今、袋の鼠だ。間もなく、大聖樹の裁きが訪れる。守り人達も、直ぐに駆け付けるだろう。」

 

「ああ、セイジュね。ダイセイジュサマ。

強力だよなぁ。お前らを守ってる結界魔法ってやつは。」

 

小人族の男に焦りは無かった。

 

「俺の仲間が以前手酷くやられたからな。調べさせて貰ったぜ。どうやら、”悪意”に反応してステイタスを下げてくるらしいが、そいつぁおかしな話だ。」

 

お前らエルフが一番悪意塗れなんだからよぉ、そう言って彼は嗤った。

 

「お前ら、鏡は見た事あるかぁ?小人族のおれたちを見下すお前らったら、そりゃ醜悪極まりないぜ?だから、お前らだけを除外するカラクリがあると見た。」

 

男の口調が段々と早まっていく。

 

「血だ。エルフ特有の血液に反応している。そして、俺のスキル【紅血制御(クリムゾン・コントロール)】は血液を操作する!!これを知った時は笑っちまったぜ!」

 

「だが、エルフ特有の血液の型を学習するには試料(サンプル)が要る。だから、いい感じに漬け込めそうな奴を探したんだが·····ハハハッ、お前ん家の女エルフ二人は傑作だな。一人は俺を態々自宅まで届け、もう一人は少し切り傷を付けられても何も気にしゃしねぇ。

なんて、アタリを引いたんだと、ここでも笑っちまったな」

 

「···」

 

「何よりもお前だよ。リュミルアの末裔。」

 

男はグレイを指差す。

 

「お前を手土産に、当代のジジイに結界を解かせる。その瞬間、俺たちのファミリアがお前達の森を蹂躙するだろう。大聖樹の素材も、エルフ(おまえら)も高く売れる。何より、お高くとまったお前らの凋落は、いい肴になるだろうさ。」

 

勝ちを確信した声音。

全ての状況が整ったが故の余裕。

だから、こんなにも彼自身の鬱憤を晴らすように、彼は喋り続ける。

 

「どうやって、そんな情報を?」

 

「ウチにはエルフが一人居てな。そいつを紛れ込ませただけだ。同胞相手にはベラベラと喋り立てて、異種族相手にはダンマリからの即攻撃なんだから、俺達よりよっぽどおっかねぇとお前も思わないか?」

 

「リューだけは、それに異を唱えようとしていた。」

 

「あぁ、お前の大切な”リューお姉ちゃん”な。あいつは、上玉だ。ちとばかし若いが、帝国の変態貴族なり、オラリオの歓楽街なりに高く売れるだろう。その前に手ぇ付けてやってもいいかもなぁ」

 

ギャハハと下卑た笑いを起こす小人族の男。

グレイ(ぼく)の精神を甚振るように、エルフ(ぼくたち)を貶すように、言の葉を紡いでいく。だが、

 

「遺言はもう終わり。それで、いいですか?」

 

僕にもまた、焦りは無かった。

 

「…まだ身の程が分かってないみたいだなぁ。確かにお前らは聖樹の恩恵でLv.1程度はあるだろうさ。弱体も込みで()()()()()()()()()()()。だが、俺は今()()()()。よって、Lv.2冒険者の俺は弱体(デバフ)を消し、恩恵(バフ)を得て、今Lv.3の状態にある!お前ら”恩恵無し”とは彼我の差だ!分かるか、この絶望が!!」

 

「傷付いた人質に価値はねぇ。互いの為にも、抵抗は最小限にするのをおすすめするぜ」

 

男はそう言って、戦闘態勢を取った。

 

「身の程知らず、ね。」

 

「──はっ、はは、あっははははははははははははははははははははは」

 

「確かにそうだ。的を得るのが上手いな、貴方は。だが、身の程知らずは貴方も同じだ。」

 

「あ?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。魔道具を渡されている小隊長達も、聖樹のお告げとしか伝えられていない。

僕か、祖父さんが()()()()()()()、それを知ることはかなわない。

おかしいと思わなかったのか?()()()()()()()()()()()()()、と。」

 

「ああ、僕も笑えたよ。貴方の道化振りに。感謝する。」

 

僕は、不敵に微笑んだ。

 

「······貴様ァ!!」

 

激高した小人族は血液を凝固させた刃を放つ。

 

「っ···」

 

左肩を浅く切り裂かれる。大丈夫。致命傷には程遠い。

相手の正常な思考能力は奪っている。”全てを掌握されているかもしれない”その疑心が生み出す動揺は強力。

故に、ここからが正念場だ。

 

「【今共に或る森の界域】」

 

──詠唱を開始する。

 

「【外敵を断ち同胞を護りし大樹の梢。汝の律者に基づき色彩の変革を】」

 

(うた)いながら、隠し持っていた短剣を振り下ろす。

男は避ける素振りも無い。

 

短剣が命中する。なのに、()()()()

 

なるほど、血液を凝固させ鎧としているのか。

攻守万能だな。

 

男は返しに、僕の首を掴もうとする。それを手で弾き、続く手刀の振り下ろしに対しては距離を取る。

 

「バカが」

 

だが、それはフェイク。攻撃範囲は血によって拡張され、

交戦距離を離した代償を相手に与えんとする。

僕は間一髪で回避する。

だが、片耳の先が熱い。頬に血が垂れてゆく。斬られた。一瞬の知覚の後、展開されゆく思考を切り捨てる。

構わない。

 

「【我は神に弓引く者。我は人を慈愛せし者。】」

 

血の格子が展開される。網目状となった血刃が迫る。

幅10メートル程。縦にも同様。

回避は不可能。故に、

 

「【天による不条理の悉くを無に帰せ。此処に裁定の光は齎される。】」

 

──詠唱は完了する。

 

故に、ただ僕は立ち尽くすだけでいい。

 

「は?」

 

小人族の男は、ただ唖然としたまま、僕と同じように立ち尽くしていた。

彼の立場を思えば当然だろう。

 

僕に触れた途端に、彼の刃はただの()()()に戻ったのだから。

 

「くっ、このっ!このっ!【血よ(ブラッディ)】!【血よ(ブラッディ)】!」

 

全て、無効化する。

 

「ふざけるな!何故、こんな!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「遺言?はっ、ははっ、勝った気でいるなよ!クソエルフがぁ···!」

 

殴られる。あまり、痛くない。少し、張られたぐらいの感覚。

 

「遺言はそれで終わり、いいですか?」

 

「くそぉッ」

 

押し倒され、殴られ、殴られ、殴られる。

全て、損傷(ダメージ)足り得ない。

 

短剣で、二閃。両耳を切り裂く。

お返しだ。

 

「ギァアアアアアアアアあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

続けてその煩い喉元を切り裂く。

血の鎧が展開されたが、無意味だ。

 

「な”ん、で、」

 

位置関係を入れ替える。

立場がハッキリするように。

 

僕の()()()()()()【ミスティルテイン】は神性を否定する。神性を強く帯びる程、効果もまた大きくなる。

結界魔法とは空間領域への魔法効果の付与。

故に対象を個人へ絞れば、それは付与魔法となる。

矛は貫き、盾は防ぐ。

目に見える形のみで語るなら、ある意味単純な魔法だ。

 

「遺言はそれで終わり、十分ですね(いいですか)?」

 

誰かに刃を突き立てるというのは、どうしてこうも冷たく虚しいのだろう。

 

「助け···」

 

僕はただ、機械的に、その胸を穿った。

 

♦♦♦

 

リューが駆けつけた時、全ては終わっていた。

「助け···」と自分の助けた少年が断末魔の声を上げると同時に、グレイがその命を奪っていた。

彼の冷たい目が、遺体となった少年から、リューへと向けられる。

 

「僕は言っていた筈だよ、リュー。外の者に肩入れするべきでは無いと。」

 

グレイの目は、何処までも冷たく凍てついていた。

あの日の夜に、外の景色を共に見てくれると言ってくれた彼の姿は何処にもなかった。

いや、違う。それは、あの日リューが自ら····

 

「なんで·······何故、彼を殺したのですか。グレイ。」

 

「何故?僕も君もこの森の守り人だろう?

寧ろ、どのような理由があったにしても危険因子を招き入れた君にこそ、僕は理由を問いたいくらいだ。」

 

「彼は私より小さい幼子だった!そのような者が何を出来ると言うのです!」

 

「僕が守り人になったのは7歳の時、君に至っては6歳の時だ。年齢や外見は判断基準として弱すぎる。」

 

「だから、殺すのですか!?外の者だから?エルフでは無いから?そんな······そんなことがあっていい訳が無い!」

 

エルフこそが至上であり、他の全ては虫同然である。

そんな、忌むべき思想。

(リュー)さえ、縛られている軛。

でも、お祖母様と貴方(グレイ)だけは違うと、そう、

 

「信じていたのに······貴方を信じていたのに······貴方なら分かってくれるって思っていたのに········」

 

彼は、グレイは、

 

「······君は守り人に向いていないよ。致命的に。

信念を貫く、なんて聞こえは良いが、それによって全体を危険に晒すことは愚行そのものだ。」

 

リューの祈りを嘲笑うように、

 

「確かに悪しき風習は存在している。それでも、積み重ねられてきた教えには確かな意味もあるんだよ。リュー。それが理解出来ない君は、きっとまた同じ事を繰り返す。」

 

「リュミルアの者としての通告であり、

幼馴染として、共に過ごした家族同然の友人としての慈悲だ。森を去れリュー・リオン。ここは、君のいるべき場所じゃない。」

 

冷たく、無慈悲に、宣告した。

 

お前では無い、と。

 

「グレイ、貴方はもう······家族でも友人でも、ありません」

 

「···ああ、僕もそう思う。」

 

「っ·······」

 

逃げるように、駆け出した。

次々に流れていく森の風景。

視界が滲み、輪郭は次第にぼやけ始める。

 

「うぁ······」

 

誰よりも信じていた、信じたかった人に、裏切られた。

 

でも、きっと最初に裏切ってしまったのはリューの方だ。

 

これがその報いだと言うのなら、

 

「ああ···」

 

誰かの信頼を裏切り、裏切られる。

それがこんなにも苦しいだなんて、知らなかった。

知りたくなかった。

 

「あああああああああぁぁ」

 

誰かを信じたい。

 

でも、誰かを信じられない。

 

裏切られたくない。裏切りたくもない。

 

でも、きっと裏切ってしまう。

 

嗚呼、リュー・リオン(わたし)は何処までも囚われている。

 

エルフという軛に。

 

 

気付けば日は暮れ、夜の帳が落ちていた。

頭上には無数の星が輝いている。

 

”ここでは無い何処かで、自由に駆け巡りたい。

 

人間(ヒューマン)も、亜人(デミ・ヒューマン)も、(デウス・デア)さえも関係ない。

 

大切な友人(とも)と、穏やかで暖かな日々の中で笑い合いたい。”

 

満天の星空の下、リューはそう、願った。

 

風のように、走りながら。




多重コンプショタ詐欺パルゥムおじさん、その能力を医療に向けられたらどれだけの…と思ったが、オラリオに名医はいっぱいいるのでやっぱいいです。

前述のあれで動揺しすぎて雑に書き殴っているのでどうかご容赦を。
輝夜の「今を全力で生きぬ者により良き未来など訪れるものか!」が一番刺さりました。
キモめの転生系主人公全員に対してぶっ刺してくるのやめてください。死んでしまいます。
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