アインズ様と民明書房   作:ギアっちょ

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民明書房とゴルフの真実(?)

「おお……これが……」

 

ティトゥスは思わず声を漏らした。

膨大な蔵書を誇る大図書館。その書架の迷宮を、どれほど彷徨っただろうか。

一冊の本を探すだけのことが、まさかここまで困難を極めるとは思わなかった。

 

――だが、ついに見つけた。

 

埃をかぶった背表紙には、いくつかの書名が並んでいる。

 

『スポーツ起源異聞』

『世界の怪拳・奇拳』

 

そして、その下に小さく記されている出版社名――

 

民明書房。

 

ティトゥスはごくりと喉を鳴らした。

いかにも怪しいその名を、彼はよく知っている。

 

至高の御方アインズと、階層守護者デミウルゴスだけが口にする、

「世界の秘められた真実」を記した書を出す、選ばれし出版社――そう説明されていたからだ。

 

「これで……アインズ様とデミウルゴス殿のお言葉に、ようやく追いつけるかもしれませんね」

 

静かな興奮を胸に、ティトゥスはその本をそっと抱え上げた。

 

************************************

 

「たっち・みー様が仰っていました。『ゴルフ』なるスポーツが存在したと。

 無論、私はそれを嗜んだことはありませんが……。

 お話によれば、紳士が行う高貴な遊びだとか」

 

セバスの落ち着いた声が、静かな会議室に響く。

 

「かの大図書館にも、それについての文献がありましたね。

 なんでも、棍棒で球を叩き、遥か彼方の的を狙って飛ばすとか……。

 より正確な打球と、飛距離を競う競技のようです」

 

ここは、各階層守護者が集う“至高の方々の御言葉を学ぶ場”。

今回は、たっち・みーの名を冠する至高の御方の逸話について学ぶ回だ。

司会進行を務めるのは、もちろんセバスである。

 

「……」

 

その場の一角で、デミウルゴスは必死に口元を押さえていた。

どうにかして笑みになろうとする口角を、理性の鎖で押さえ込む。

 

(まさか……今回の議題がゴルフとは……!)

 

先日、ティトゥスから「強引に」預かった――いや、どう見ても奪い取ったあの書物。

民明書房刊『スポーツ起源異聞』には、ちょうどその『ゴルフ』の起源についても記されていた。

 

脳裏に、その一節が鮮やかに蘇る。

 

纒劾狙振弾(てんがいそしんだん)

 

棍法術最強の流派として名高いチャク家流に伝わる最大奥義。

この技の創始者・宗家二代 呉 竜府(ご・りゅうふ)は

正確無比の打球で敵をことごとく倒したという。

この現代でいうゴルフスイングにも酷似した打撃法は、

球の飛距離・威力・正確さを得るために

もっとも効果的であることが証明されている。

 

ちなみにゴルフは英国発祥というのが定説であったが、

最近では前出の創始者 呉 竜府(ご・りゅうふ)が

その起源であるという説が支配的である。

 

(ああ……この「真実」をご存じなのは、アインズ様と、このデミウルゴスだけ……!)

 

以前、アインズから民明書房について直々に賜った御言葉――

「時に常識を覆す真理を記す、選ばれし書」としての説明を思い出す。

 

(アインズ様からいただいた、私だけの宝物……。

 アインズ様と私だけの、甘美なる“秘密の叡智”……!)

 

思わず頬が緩みそうになる。

デミウルゴスは慌てて口元を押さえた。だが――

 

「……ふふっ」

 

「あ」

 

小さく漏れた笑い声は、静まり返った室内で、妙に響き渡った。

 

「どうかしたの? デミウルゴス?」

「デミウルゴスさん、どこか痛むんですか?!」

 

アウラとマーレの視線が一斉に向けられる。

気づけば、他の守護者たちの目も、揃ってデミウルゴスに注がれていた。

 

「?! ……い、いえ。なんでもありませんよ……」

 

眼鏡を押し上げながら、慌てて取り繕うデミウルゴス。

 

「……変なの」

 

アウラが、じっとこちらを見ながらぼそりとつぶやく。

このままでは、余計な詮索を受けかねない。

 

(いけませんね……民明書房の真理に思いを馳せるあまり、つい表情が……)

 

「おおっと……所用を思い出しました。

 本日は、この辺りでよろしいのではありませんか?

 続きは、また次回ということで」

 

デミウルゴスは椅子から立ち上がると、実に自然を装った動きで出口へ向かう。

セバスも特に異議を唱えることなく、今回の集会を締めくくった。

 

会議室を出ると同時に、デミウルゴスの足取りは、見る者がいれば違和感を覚えるほど軽くなる。

 

(さぁ、早くあの本の続きに目を通さなければ……!

 もしかすると、他のスポーツの起源にも、さらなる驚くべき真実が――)

 

鼻歌混じりに廊下を進むデミウルゴスの背中は、上機嫌そのものだった。

 

一方、その背中を見送った会議室では――

 

「「「……怪しい……」」」

 

残された守護者全員の意見が、見事に一致した瞬間であった。

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