アインズ様と民明書房   作:ギアっちょ

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民明書房 刊 聖ホワイト司祭の伝説 より抜粋

1. 聖バレンタインの「影の相棒」
3世紀のローマ。皇帝クラウディウス2世が兵士の結婚を禁じていた時代、内緒で結婚式を執り行っていた聖バレンタイン司祭には、実は若き弟子(あるいは相棒)がいました。それが、後に「聖ホワイト」と呼ばれることになる**アルビヌス司祭(Sanctus Albinus)**です。

バレンタインが「愛を誓い合う場」を作ったのに対し、アルビヌスは**「想いを受け取った後の礼儀」**を重んじる、非常に几帳面な性格でした。

2. 「3月14日」に起きた奇跡
2月14日にバレンタインが殉教した後、残された恋人たちは悲嘆にくれました。彼らが受け取った愛のメッセージや贈り物をどう返せばいいのか、答えを出せずにいたのです。

殉教からちょうど1ヶ月後の3月14日。アルビヌス司祭は、悲しみに暮れる村人たちを集め、こう言いました。

「愛は受け取るだけでは完成しない。鏡のように清らかな心で、その想いを反射(お返し)してこそ、永遠の絆となるのです」

彼は、当時貴重だった白い砂糖を卵白で固め、雪のように白いお菓子(マシュマロの原型)を焼き上げ、村人たちに配りました。これが「ホワイトデー」の始まりと言われています。

3. 聖ホワイトにまつわる3つの象徴
聖ホワイト(アルビヌス司祭)を語る上で欠かせないシンボルがこちらです。

純白の法衣: 彼は非常に潔癖で、常に真っ白な法衣を着ていました。しかし、お菓子作りに熱中するあまり、いつも小麦粉でさらに白くなっていたという微笑ましい逸話があります。

白ウサギ: 彼の使いと言われる白ウサギが、夜な夜な恋人たちの玄関先に「お返しの品」を届けて回ったという伝説があります。

「3倍返し」の教え: 彼は「愛には利子をつけて返しなさい」と説きました。これが現代の**「ホワイトデーは3倍返し」**という過酷な(?)風習の起源になったとされています。

4. 悲劇の結末
残念ながら、彼は「甘いものを食べすぎると歯が悪くなる」という警告を皇帝に無視されたことに抗議し、マシュマロの粉塵の中に消えていった……という謎の失踪を遂げたと伝えられています。

彼の命日(あるいは失踪日)である3月14日は、今でも「もらった愛を白紙に戻さず、白いお菓子で返そう」という誓いの日として、特に**東の果ての島国(日本)**で熱狂的に支持されることとなりました。


ホワイトデー準備編:白聖譚と返礼係数

三月に入った。

ナザリックの空気は、ほんの少しだけ落ち着いて――いるはずだった。

 

執務室でアインズは、机に手をつき、深く息を吐く。

 

(節分、ひな祭り……乗り切った。

 ……もう、しばらくは)

 

コン、コン。

 

「アインズ様、失礼いたします」

 

入ってきたのは、デミウルゴスだった。

その手には、紙束がある。分厚い。

 

(……終わった)

 

「アインズ様。

 まもなく“ホワイトデー”です」

 

「……だろうな!!」

 

思わず声が出た。

デミウルゴスは、にこやかに首を傾げる。

 

「何かご不満でも?」

 

「不満というか……嫌な予感しかしない」

 

デミウルゴスは楽しそうに言った。

 

「ご安心ください。今回は事前に、整理しました」

 

(整理って言うな。怖いんだよ、その言葉)

 

その日のうちに、玉座の間に各階層守護者が招集された。

 

アインズは玉座に座りながら、心の中で祈る。

 

(頼む……普通に、お菓子を配って終わりとかで……)

 

しかし、祈りは届かない。

 

デミウルゴスが前に出る。

 

「諸君。本日はホワイトデーの準備会です」

 

「準備会って言うな」

 

「失礼。『共有』です」

 

「言い換えればいいってもんじゃない!」

 

デミウルゴスは、紙束の表紙を見せた。

 

『聖ホワイト司祭の伝説』

――民明書房

 

アインズは天井を仰いだ。

 

(またお前か)

 

「ホワイトデーとは」

 

デミウルゴスが朗々と語り出す。

 

「二月十四日に贈り物を受けた者が、三月十四日に返礼をする日。

 しかし、その由来は意外にも深い――」

 

(深くなくていい)

 

「聖バレンタイン司祭には“影の相棒”がいた。

 若き弟子、アルビヌス司祭――後の『聖ホワイト』」

 

アルベドの目が光る。

 

「“影の相棒”……!」

 

シャルティアが口元を隠して笑う。

 

「まあまあ……“影”やなんて。

 誰かさんの立場が危うなる単語どすなぁ」

 

「あなた、何を言いたいの」

 

「うふふ。なんでもありんせん」

 

(言いたいことしかない顔だ)

 

デミウルゴスは続ける。

 

「バレンタインが“愛を誓い合う場”を作ったのに対し、

 聖ホワイトは“想いを受け取った後の礼節”を説いた――」

 

コキュートスが深々と一礼する。

 

「礼節ハ重要デス。

 返礼ハ共同体ノ秩序ヲ強化致シマス」

 

(コキュがまともな方向で頷いてる。安心……いや、安心していいのか?)

 

デミウルゴスは資料の一頁をめくった。

 

「そして三月十四日。

 聖ホワイトは村人にこう告げたという――」

 

デミウルゴスは一瞬、間を作り、神妙な声になる。

 

「『愛は受け取るだけでは完成しない。

 鏡のように清らかな心で、その想いを反射(お返し)してこそ、永遠の絆となる』」

 

「……」

 

(妙にそれっぽいこと言うな!!)

 

デミウルゴスはさらに言う。

 

「彼は白い砂糖を卵白で固め、雪のように白い菓子を焼き、村に配った。

 これがホワイトデーの始まり――」

 

パンドラズ・アクターが、身を乗り出す。

 

「白い菓子……!

 包装は白紙、封蝋は銀、リボンは絹……!」

 

「保存に寄せるな!!」

 

アインズが叫ぶと、パンドラズ・アクターは少しだけしゅんとした。

 

「し、失礼しました。

 ですが、返礼の“体裁”は非常に重要です」

 

(重要にしないでくれ)

 

「さて。象徴です」

 

デミウルゴスが指を三本立てる。

 

「聖ホワイトを象徴する三つの印――

 純白の法衣。白ウサギ。そして――」

 

ここで、デミウルゴスは少しだけ声を落とした。

 

「……三倍返しの教え」

 

玉座の間が、静かにざわついた。

 

アルベドが小さく息を呑む。

 

「三倍……」

 

シャルティアがにこりと笑う。

 

「まあまあ……三倍やなんて。

 “愛には利をつけて返す”いうやつどすか?」

 

アインズは反射で言った。

 

「待て待て待て。

 三倍返しは俗説だ。たぶん!」

 

デミウルゴスは爽やかな笑顔で頷く。

 

「はい。俗説です」

 

(よし)

 

「ですが」

 

(やめろ! その接続詞やめろ!!)

 

「“返礼は元の贈与を上回るべし”

 という礼節の考え方自体は、共同体の秩序維持に有効です」

 

(採用する気だ!!)

 

コキュートスが真顔で補足する。

 

「贈与ト返礼ノ比率ガ明確デアレバ、争イハ減少致シマス。

 ただし、比率ガ過激デアルト……争イハ増加致シマス」

 

(コキュ、正論!)

 

デミウルゴスが頷く。

 

「ゆえに、適切な基準が必要となります」

 

(始まった)

 

デミウルゴスは、別紙を配った。

 

表題。

 

『返礼基準(暫定)』

 

アインズは見たくなかったが、目に入ってしまった。

 

・返礼係数:1.0(平等)

・返礼係数:2.0(礼節重視)

・返礼係数:3.0(俗説/参考)

 

(係数って言うな!!)

 

「デミウルゴス」

 

「はい」

 

「……なんで“3.0”が載ってる」

 

デミウルゴスは一点の曇りもない表情で言った。

 

「俗説であっても、民衆の間で流通している以上、無視できません」

 

(こいつ……!)

 

ここでアルベドが、ゆっくりと手を挙げた。

 

「アインズ様」

 

「なんだ」

 

「平等……つまり係数1.0は、“皆に同じ返礼”ということですね?」

 

「そうだ。私はそれでいいと思う」

 

「……それでは、“特別”がありません」

 

(来た!!)

 

アルベドは、真剣な顔で続ける。

 

「私にとってホワイトデーとは、

 アインズ様の想いを受け取れるかどうかの――」

 

「違う!!」

 

「証明の日です」

 

(重い! 重いんだよ!!)

 

シャルティアが、柔らかい声で言った。

 

「まあまあ。

 平等いうのもええと思いますえ。

 “特別扱いされへん”と分かった瞬間、諦めもつきますし」

 

「シャルティア……?」

 

「ただし」

 

(お前も“ただし”使うな!)

 

「“平等”を盾にして、誰かが“抜け駆け”したら――

 それはそれで、えげつない修羅場になるだけどす」

 

「……」

 

(それもそうだ)

 

パンドラズ・アクターが、控えめに言う。

 

「“平等”でも、包装の角度やリボンの結び目で差は出せます」

 

「出すな!!」

 

アインズは頭を抱えた。

 

(どうする……?

 平等に返したい。だがアルベドは特別を求める。

 シャルティアは平等で刺しに来る。

 デミは係数で制度化する。

 パンドラは包装で差を作ろうとする。

 コキュは安全な比率を求めてる。

 ……セバスだけが静かだ)

 

アインズはセバスを見た。

 

「セバス。お前はどう思う」

 

セバスは淡々と答える。

 

「返礼とは本来、感謝を形にするもの。

 過度な競争は、贈与の本旨を損ねます」

 

(正論!)

 

「ただ」

 

(セバスまで“ただ”言うのか)

 

「ツアレに関しては……

 私個人として、ささやかな返礼をしたく存じます」

 

「……それは、いい」

 

(癒やし……! まともな返礼……!)

 

アルベドが、微笑んだ。

 

「……セバス。

 ツアレに“特別”をするのですね?」

 

セバスは表情を変えずに答える。

 

「はい」

 

「“特別”は存在する、と」

 

「……」

 

(アルベド、そこ拾うな!!)

 

シャルティアが笑う。

 

「まあまあ……“特別”はあるんどすなぁ。

 ほな、特別枠の取り合い、始まってまうねぇ」

 

(始めるな!!)

 

アインズは咳払いをし、強引にまとめに入った。

 

「よし。決める。

 返礼係数は――1.0。平等。以上」

 

デミウルゴスが穏やかに頷く。

 

「承知しました。

 では“平等返礼”を実施するため、順番と距離、授受作法を――」

 

「作法を増やすな!!」

 

コキュートスが一礼。

 

「接近距離、衝突回避、優先順位……必要デス」

 

「必要って言うな!」

 

パンドラズ・アクターが輝く。

 

「授受作法! その所作は保存すべきです!」

 

「保存するな!」

 

(終わった……準備編の時点で終わってる……)

 

集会が解散した後。

執務室に戻ったアインズは、机に突っ伏した。

 

(当日……どうなる……)

 

そこへ、デミウルゴスが忘れ物を取りに戻ってきた。

 

「アインズ様。ひとつだけ」

 

「……なんだ」

 

デミウルゴスは、にこやかに言った。

 

「聖ホワイト司祭には、もう一つ“伝説”がございます」

 

(聞きたくない)

 

「彼は“甘いものを食べ過ぎると歯が悪くなる”と皇帝に諫言し――

 聞き入れられず、マシュマロの粉塵の中に消えたと」

 

「……」

 

アインズは、静かに呟いた。

 

「縁起でもない」

 

デミウルゴスは爽やかに微笑む。

 

「当日、甘い返礼が過剰になれば――

 似たような悲劇が起こる可能性もございますね」

 

「起こすな!!」

 

デミウルゴスは一礼して去っていった。

 

残されたアインズは、天井を仰ぐ。

 

(ホワイトデー当日……怖い)

 

無いはずの胃が痛む思いで、アインズは深くため息をついた。




ここまで読んでくださってありがとうございます!
一言でも感想いただけたらめちゃ喜びます…!
今回いちばんツボったところ、もしあれば教えてくださいw

感想・ツッコミお待ちしてますm(_ _)m

・・・次回、ホワイトデー当日編です(平等返礼が地獄になります)
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