アインズ様と民明書房   作:ギアっちょ

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エイプリルフール翌日編:冗談の後始末

四月二日。

 

朝。

執務室でアインズは、机の上に積まれた報告書の山を見ていた。

 

(……冗談の翌日は、現実が重い)

 

表題は、すべて嫌なやつだ。

 

『市井の騒擾報告:税率三倍流言について』

『冗談規約の運用結果(第1版)』

『冗談禁止令(案)に関する意見集約』

『白ウサギ目撃情報(参考)』

 

(白ウサギは関係ないだろ!!)

 

コン、コン。

 

「アインズ様、失礼いたします」

 

入ってきたのはセバス。

落ち着いている。癒し。

 

「街の状況は?」

 

「流言は沈静化しつつあります。

 ただし……」

 

(ただし、やめろ)

 

「“税が三倍になる”という話が、“冗談だった”という話に置き換わり――

 さらに、“冗談だったが本当になる可能性がある”という、二次流言が……」

 

「やめろおおお!!」

 

(噂って自己増殖するんだよ!!)

 

セバスは淡々と続ける。

 

「現在は、魔導国の掲示板にて

 『税率は変更なし。昨日の話は“冗談”として広まった誤解』

 と明文化し、周知しております」

 

「明文化……」

 

(明文化で火を消す。明文化で火を付ける。

 ……どっちもある。胃が痛い)

 

コン、コン。

 

次に入ってきたのはデミウルゴスだった。

いつも通り爽やかで、いつも通り危険。

 

「アインズ様。

 昨日の件、報告と、反省を」

 

「反省?」

 

(珍しい単語が出た)

 

デミウルゴスは一礼する。

 

「私の“禁止例の周知方法”に問題がありました」

 

(おっ……?)

 

「ゆえに、改善案を用意しました」

 

(……そういう反省か!!)

 

デミウルゴスが紙を差し出す。

 

『禁止例周知の改善案』

・禁止例は“伏字”で読み上げる

・禁止例は“紙面配布のみ”とし、口頭では言及しない

・禁止例は“最初に結論”を述べてから例を示す

 

アインズは机を叩いた。

 

「結論、禁止例を読み上げるな!!」

 

デミウルゴスは爽やかに頷く。

 

「承知しました。

 では“禁止例”という言葉自体を廃し、“注意喚起”と呼称します」

 

「言い換えればいいってもんじゃない!!」

 

(こいつ、やっぱり悪気ないな……)

 

そこへ、パンドラズ・アクターが入ってきた。

 

「アインズ様! 昨日の件、自己批判を――」

 

「自己批判って何だ」

 

パンドラは胸に手を当て、芝居がかった声で言う。

 

「私は“至高の御方を演じる冗談”という高度な芸を――」

 

「高度じゃない! 地雷だ!」

 

パンドラはしゅんとする。

 

「反省しております。

 以後、“演技の対象”は安全圏に限定します」

 

「安全圏って何だよ」

 

パンドラは真顔で答えた。

 

「『私はアウラ様の弟です』など」

 

「それは別に……いや、弟じゃないだろ」

 

アウラが外から聞こえた気がして、アインズは慌てて言った。

 

「やめろ! それも混乱する!」

 

パンドラは頷く。

 

「では『私は椅子です』にします」

 

「……それ、面白いのか?」

 

「これは冗談です!」

 

(規約が染み付いてる……)

 

コン、コン。

 

今度は、アルベドとシャルティアが“ほぼ同時に”入ってきた。

 

(やめろ、同時入室はやめろ)

 

アルベドは完璧な微笑で言う。

 

「アインズ様。

 昨日の“冗談”について、再発防止策を」

 

シャルティアも、にこやかに言う。

 

「まあまあ……わたくしも“再発防止”に一言。

 冗談いうのは、刺したらあかんのどすえ?」

 

「あなたが言うの?」

 

「あなたに言われとうないわぁ」

 

(始まる!!)

 

アインズは咳払いをし、必死にまとめる。

 

「再発防止策はいい。

 昨日の件で“冗談は危険”だと分かった。

 だから――」

 

デミウルゴスが口を挟む。

 

「はい。危険です。

 ゆえに、制度化すべきです」

 

「逆だ!!」

 

シャルティアが扇子もないのに口元を隠す。

 

「まあまあ……危ないもんほど“規約”が増える。

 ほんま、世の中どすなぁ」

 

アルベドが微笑む。

 

「規約が増えれば、違反者を排除できます」

 

「排除するな!!」

 

(やめろ!冗談で粛清するな!)

 

アインズは深呼吸した。

 

(目的は一つ。

 “税三倍デマ”の後始末。

 それだけに集中しろ)

 

「デミウルゴス。

 街のデマはどうする」

 

デミウルゴスは即答する。

 

「二段構えです。

 第一に、正式告知で否定。

 第二に、昨日の発端を“誰かの悪意ある流言”と断定し、抑止します」

 

「悪意……?」

 

(昨日の発端はお前の口だが)

 

アインズは目を細める。

 

「悪意ある流言と断定したら、誰かが罰されるだろう」

 

デミウルゴスは頷く。

 

「はい。抑止力になります」

 

「ダメだ。罰はいらない。

 『誤解だった』で終わらせろ」

 

デミウルゴスは一瞬、考えた。

 

「承知しました。

 では“誤解を生む冗談は避けるべき”という教訓として、啓発に使います」

 

「使うな!!」

 

(何でも材料にするな!)

 

セバスが静かに言う。

 

「アインズ様。

 流言の鎮火には、民衆が安心できる“具体”が必要です」

 

「具体?」

 

「例えば、今月の徴税額と用途を公開し、

 変更がないことを示す。

 また、孤児院への施しなど、目に見える恩恵を提示する」

 

アインズは頷いた。

 

(セバスが正しい。

 ……まともな後始末だ)

 

デミウルゴスが目を輝かせる。

 

「素晴らしい。

 恩恵の提示は統治に――」

 

「統治って言うな!!」

 

そのとき、報告役の使用人が駆け込んできた。

 

「アインズ様! 街で新しい噂が……!」

 

(来た)

 

「“税三倍”は冗談だったそうです!

 だから――“冗談を言えば税は免除される”と……!」

 

「何でそうなる!!」

 

パンドラが小声で言った。

 

「言葉の魔術……」

 

「魔術じゃない! 誤解だ!」

 

シャルティアが、呆れたように笑う。

 

「まあまあ……“冗談で免税”やなんて。

 ほんまにやったら地獄どすえ」

 

アルベドが微笑む。

 

「地獄にすべきです」

 

「すべきじゃない!!」

 

コキュートスが、どこからともなく現れ、一礼した。

 

「アインズ様。

 冗談ト税ヲ結ビツケルノハ危険デス。

 即時、切断スベキデス」

 

「切断って言葉が怖い!」

 

(でも正しい)

 

アインズは机を叩き、決断した。

 

「よし。掲示板に追加だ。

 “冗談で税が免除されることはない”。

 明確に書け」

 

デミウルゴスが頷く。

 

「承知しました。

 文面は私が」

 

「お前は書くな!!」

 

セバスが静かに手を挙げた。

 

「私が確認し、提出いたします」

 

「頼む、セバス……」

 

(癒し……。ナザリック唯一の常識……)

 

騒ぎが少し収まった頃。

アインズは、ふと疑問に思った。

 

「……ところで。

 お前たちは、昨日、冗談を楽しめたのか?」

 

一瞬の沈黙。

 

アウラが素直に言った。

 

「途中までは楽しかった!

 でも、税の噂でみんなピリピリして……」

 

マーレが小声で言った。

 

「……あいんずさま……たいへん……」

 

パンドラが真面目に言う。

 

「私は演技を楽しみました。

 ただし、皆様の心拍数が上がったのは、芸の成果です」

 

「成果にするな!」

 

シャルティアが、にこやかに言った。

 

「わたくしは、まあ……

 冗談の定義を学べて勉強になりましたえ」

 

アルベドが微笑む。

 

「私は、冗談など不要だと再確認できました」

 

「お前ら……」

 

(誰も楽しめてないじゃねえか!!)

 

その日の終わり。

 

アインズは椅子に深く沈み、天井を仰いだ。

 

(やっぱり、季節イベントは――)

 

デミウルゴスが最後に、ぽつりと言った。

 

「アインズ様。

 今回の教訓を踏まえ、来年は“冗談の質”を――」

 

「来年の話をするな!!」

 

アインズは叫び、そして力尽きた。

 

(次の季節イベント……怖い)

 

無いはずの胃が痛む思いで、アインズは深くため息をついた。




ここまで読んでくださってありがとうございます!
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今回いちばんツボったところ、もしあれば教えてくださいw
(例:好きなセリフ/オチ/アインズ様が一番不憫だった場面 など)

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