アインズ様と民明書房   作:ギアっちょ

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花見翌日編:桜吹雪の後始末と“春の整備日”

四月の、翌朝。

第六階層・桜庭園は――静かだった。

 

静か、というより。

 

(……埋まってる)

 

地面一面が薄紅の絨毯。

木の根元、茂みの隙間、水辺、石畳の溝。

花弁、花弁、花弁。

 

昨日の“増強された雰囲気”が、ちゃんと現実として残っている。

 

アインズは庭園の入口で、遠い目をした。

 

「……美しいな」

 

横にいたアウラが即座に言った。

 

「嘘!!」

 

「冗談だ。冗談」

 

「冗談はもう禁止って言ってたじゃないですか!」

 

(正論で刺すな)

 

マーレが小声で言う。

 

「……おそうじ……たいへん……です……」

 

アインズは頷いた。

 

「……そうだな」

 

(花見とは“見る”ものではなく、“片付ける”ものだったのかもしれない)

 

そこへ、落ち着いた足音。

 

「アインズ様。おはようございます」

 

セバスだった。

手には実務的な道具――熊手、箒、布、袋。完璧。

 

「状況は概ね想定の範囲内です」

 

「想定するな!!」

 

セバスは淡々と続ける。

 

「ただ、溝に花弁が詰まっております。

水の流れ道が塞がると、滞水し、腐食の原因になりかねません」

 

「……腐食?」

 

アインズの脳裏に、なぜか“車が錆びる”という言葉がよぎった。

 

(そういえば、そんな話を聞いたような……)

 

セバスが頷く。

 

「ええ。外界の車両では、花弁や樹液を放置すると塗装に悪影響が出る、という話もございます」

 

「なるほど……」

 

(ナザリックに車はないが、“腐食”という言葉は怖い)

 

「アインズ様!!」

 

明るい声が飛んできた。

 

(嫌な予感)

 

デミウルゴスだった。

そして当然のように紙束を抱えている。

 

(紙束はやめろ)

 

「昨日の件を踏まえ、本日を――

『春の整備日』として制定することを提案します」

 

「制定するな!!」

 

デミウルゴスは爽やかに言う。

 

「放置は腐食の原因になります。

ゆえに、毎年恒例の――」

 

「恒例にするな!!」

 

(昨日“来年も”って言われたばかりだぞ!!)

 

桜庭園の広場には、いつの間にか守護者が集結していた。

 

アルベドが完璧な微笑で言う。

 

「アインズ様。

昨日、アインズ様が座られた周辺は、私が責任をもって清掃いたします」

 

(責任って言うな)

 

シャルティアも、にこやかに言う。

 

「まあまあ……ほな、わたくしは“花弁の美しさ”を残しつつ掃除しますえ。

ぜんぶ取ったら、風情が死んでまう」

 

アウラがツッコむ。

 

「風情は昨日死んだよ!」

 

「失礼どすなぁ」

 

(揉めるな)

 

パンドラズ・アクターが目を輝かせる。

 

「花弁は保存すべきです!!

昨日の“桜吹雪増量”は歴史的瞬間でした!」

 

「保存するな!!」

 

デミウルゴスが頷いた。

 

「保存は良案です。

花弁を標本化し、来年以降の“最適な花弁密度”を――」

 

「最適化するな!!」

 

(もうやだこの職場)

 

コキュートスが一礼した。

 

「アインズ様。

清掃ハ戦闘準備ノ一環デス。

私ハ“刃”ノ手入レト同様、徹底シマス」

 

「頼もしい……が、戦闘準備って言うな」

 

コキュートスは真顔で続ける。

 

「花弁ハ薄イ。

濡レテ乾クと固着シ、除去ガ困難ニナリマス。

先ニ“乾式”デ飛バシ、後ニ水デ洗イ流スベキデス」

 

アインズは感心した。

 

(コキュ、たまに妙に現実的だな)

 

セバスも頷く。

 

「その手順が最も効率的でしょう」

 

(癒し枠が二人もいる……!)

 

だが、デミウルゴスが満足げに言う。

 

「やはり必要ですね。

『花弁除去規約(第1版)』が」

 

「規約にするな!!」

 

アルベドが微笑む。

 

「規約があるのは良いことです。

違反者を――」

 

「処罰するな!!」

 

シャルティアがにこやかに言う。

 

「まあまあ……規約いうたら、抜け道も増えますえ?」

 

「増やすな!!」

 

(掃除で政治するな)

 

そこへ、報告役の使用人が駆け込んできた。

 

「アインズ様!街で……!」

 

(なぜ第六階層に街の報告が届く)

 

「“魔導国の花見の翌日は、全員で儀式的に花弁を清める”と……!」

 

アインズは天井を仰いだ。

 

「……誰だ、そんな噂を」

 

デミウルゴスが、爽やかに答える。

 

「私ではありません」

 

(お前じゃなくても、お前のせいだ)

 

セバスが静かに補足した。

 

「昨日の“陣形”と“儀礼”が、良くも悪くも印象に残ったのでしょう」

 

「良くも、の部分どこだよ……」

 

作業は始まった。

 

乾いた箒でふわりと掃き、

溝の詰まりを取り、

水場の周囲を整え、

最後に全体を軽くならす。

 

アウラとマーレは、最後までちゃんと手伝った。

自分たちの庭だからだ。

 

マーレが小声で言う。

 

「……きれいに……なってく……」

 

アウラも笑う。

 

「ね。これなら、また桜見れる」

 

アインズも頷いた。

 

「……ああ。今日の方が、花見っぽいかもしれない」

 

その瞬間、デミウルゴスが嬉しそうに言った。

 

「つまり結論として、花見は“後始末”まで含めて完成する祭事――」

 

「完成させるな!!」

 

アインズの叫びが、第六階層の森に虚しく響いた。

 

無いはずの胃が痛む思いで、アインズは深くため息をついた。

 

(次の季節イベント……怖い)




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