ゴールデン・ウィークも、気がつけば中日。
アインズは執務室で、机上に並べられた「休息計画」の紙束を見下ろしていた。
(休息……計画……)
休みとは、自然発生するものではなかったのか。
なぜ“計画”にする必要があるのか。
なぜ“チェック”があるのか。
なぜ“記録”があるのか。
(……ナザリックだからか)
コン、コン。
「アインズ様。失礼いたします」
(来た)
扉を開けて入ってきたのは、セバス。
その背後に、紙束を抱えたデミウルゴス。
さらに、控えめに笑うアルベドとシャルティア。
(もう四人そろってる時点で休めない)
「本日の休息は、午前と午後に分けております」
セバスが淡々と告げる。
「午前:静養(森林階層)
午後:心の回復(音楽鑑賞)」
アインズは思わず頷いた。
(静養! 鑑賞!
単語だけは、ちゃんと休みっぽい!)
だが、デミウルゴスが爽やかに続ける。
「加えて、本日は“万礼闘陣”の第三段階――
『感謝の循環』を実施します」
「実施するな!!」
(第三段階って何だよ!
中日で第三段階って、最終的に第七段階くらいあるのか!?)
午前。第六階層の森。
木漏れ日の中、アインズは椅子に座り、静かに目を閉じた。
(……これだ。
今日は何も起きない。
起きないでくれ)
周囲の気配はある。
だが、警戒でも、布陣でもない――はずだ。
アルベドが、静かにささやいた。
「アインズ様。
お呼吸のリズムが安定しております。
素晴らしい休息です」
「実況するな!!」
シャルティアも、にこやかに言った。
「まあまあ……アインズ様、今、ええ顔してはりますえ。
……骨やけど」
「骨やけどって言うな!」
デミウルゴスが爽やかに頷く。
「休息の状態が共有できましたね。
では、これを“標準化”しましょう」
「標準化するな!!」
そこでセバスが一歩前に出た。
「皆様。
本来、休息とは“静かに見守る”ものです。
言葉をかける必要は――」
「あります」
アルベドが即答した。
「ありません」
セバスも即答した。
「まあまあ……ありますえ。
言葉がないと、愛が――」
「ありません」
セバスが強い。
(セバス、今日めっちゃ強い)
デミウルゴスが、爽やかにまとめる。
「つまり結論として――
休息とは、言葉を発さずとも“礼”が成立する状態」
「成立させるな!!」
突然、パンドラズ・アクターが現れた。
どこからともなく。
「アインズ様!!」
「静かにしろ!!」
パンドラは、気づいたように口を押さえた。
「し、失礼しました……
本日は“無言の礼”の日だと聞きまして」
(無言の礼……?)
パンドラは、妙に荘厳な所作で一礼した。
深い。完璧。無言。
アルベドも、無言で一礼。
シャルティアも、無言で一礼。
コキュートスまで、無言で一礼。
全員、無言で一礼。
(何この集団)
アインズは、目を閉じたまま悟った。
(……休息が“式典”になった)
午後。音楽鑑賞。
第九階層のホールに、椅子が並ぶ。
照明は柔らかい。音量も控えめ。
(これは普通に良い)
演奏が始まる。
静かな旋律。落ち着く。
アインズは、心の底から(たぶん)リラックスしかけた。
その瞬間。
デミウルゴスが、隣ではなく斜め前あたりで、無言で一礼した。
(今!?)
アルベドも、無言で一礼した。
シャルティアも、無言で一礼した。
(やめろ! 音楽に集中できない!)
セバスが小声で言う。
「……皆様、礼は演奏の後に」
デミウルゴスが小声で返す。
「礼は“間”を外すと意味が薄れます」
「意味を濃くするな!!」
(礼のタイミングを議論するな)
演奏が終わった。
静寂。
アインズは、ようやく言った。
「……良かった。
これは良い休息だ」
その瞬間、デミウルゴスが満面の笑みになった。
「素晴らしい。
では、この“良かった”を儀礼化しましょう」
「儀礼化するな!!」
(褒めた瞬間に制度化される)
アルベドが微笑む。
「アインズ様が“良かった”と仰ったことは、
ナザリックの歴史に刻むべきです」
「刻むな!!」
シャルティアがにこやかに頷く。
「まあまあ……そら刻みますえ。
石碑でも立てます?」
「立てるな!!」
パンドラが叫ぶ。
「石碑は保存に適しています!!」
「保存するな!!」
その夜。
アインズは、執務室に戻り、椅子に沈み込んだ。
(休んだ……ような……
休んでないような……)
そこへセバスが静かに言った。
「本日は、休息の質が向上しました」
アインズはかすれ声で言う。
「……そうか」
セバスは続ける。
「皆様が“静かに”なったからです」
(確かに静かにはなった。
静かな礼の嵐だけど)
すると、デミウルゴスが爽やかに言った。
「静かな礼の標準化が進みました。
明日は第四段階――
“礼の継続”に移行します」
「継続するな!!」
(中日でこれなら、最終日に何が起きるんだ)
無いはずの胃が痛む思いで、アインズは深くため息をついた。
(ゴールデン・ウィーク……怖い。
休みが怖い)
それでも――仕事はしなかった。
だから、今日も勝ち……のはずだった。