アインズ様と民明書房   作:ギアっちょ

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ゴールデンウィーク最終日編:五月病の真実と“休息の総括”

ゴールデン・ウィーク――最終日。

 

アインズは執務室で、机の上に置かれた“休息計画書”の束を見下ろしていた。

 

(……仕事はしてない。

 だが、疲れてる)

 

休みとは何だったのか。

休日とは何だったのか。

そして、なぜ“休んだはずなのに”こうも心が重いのか。

 

コン、コン。

 

「アインズ様、失礼いたします」

 

(来た)

 

入ってきたのはセバス。

……だけなら、今日は勝ちだった。

 

しかし、セバスの背後には、紙束を抱えたデミウルゴスがいる。

さらにアルベド、シャルティア、コキュートス、パンドラまで揃っていた。

 

(最終日だからってフルメンバーで来るな!!)

 

セバスが淡々と告げた。

 

「本日は最終日につき、休息の“締め”を行います」

 

「締め?」

 

アインズは嫌な予感を覚えた。

 

デミウルゴスが爽やかに頷く。

 

「はい。最終日は“総括”が必要です」

 

「総括するな!!」

 

(休みに総括って何だよ!)

 

会合の場が整えられた。

席は円形――ではなく、なぜか“円形に見える整列”だ。

 

(言い方がもう嫌だ)

 

デミウルゴスは、満面の笑みで紙束を掲げた。

 

「本日は、休息明けに発生する心身の不調――

『五月病』について、学びます」

 

アウラが即座に言った。

 

「えっ!? 休みの後って元気になるんじゃないの!?」

 

マーレが小声で言う。

 

「……おやすみ……むずかしい……」

 

(天使の正論)

 

シャルティアが扇子を口元に当て、にこやかに言った。

 

「まあまあ……休んだあとに“しんどい”いうの、

人間さんらしいどすなぁ」

 

アルベドが静かに頷く。

 

「休みの後が苦しいというのは、休みが足りないのです。

つまり――休みを増やすべきです」

 

「増やしてどうする!!」

 

(増やしたら増やしたで儀礼が増えるだろ!)

 

デミウルゴスが朗読を始めた。

 

「民明書房刊『武闘祭事記』――

“五月病の真の起源”」

 

「出すな!!」

 

アインズが止めるより早く、デミはスラスラ読んだ。

 

「古代中国、剛流伝(ごうるでん)地方に伝わる修行体系『雨育(ういく)』。

一週間、不眠不休で拳を突き出し続ける『万拳闘陣(ばんけんとうじん)』を終えた修行僧は――

翌月、極度の筋肉痛と闘志の枯渇に襲われた」

 

アインズは思った。

 

(翌月まで引きずるの!?)

 

デミウルゴスは続ける。

 

「これを当時の里人は、敬意を込めて

『誤痾病(ごがびょう)』と呼んだ」

 

アウラが首を傾げる。

 

「ごがびょう?」

 

デミウルゴスは爽やかに頷く。

 

「はい。

“誤って病んだのではない。鍛錬の正しい結果だ”――という意味です」

 

「最悪の解釈だ!!」

 

(病んでるの肯定するな!)

 

コキュートスが一礼した。

 

「闘志ノ枯渇……理解デキマス。

鍛錬ノ反動ハ必ズ来マス。

故ニ、最終日ハ武具ト心ノ再調整ガ必要デス」

 

(珍しくまとも……!)

 

セバスも頷く。

 

「休養の終わりには、日常へ戻す“段階”が必要です」

 

(おお、やっと平和な話題だ)

 

――と思ったのに。

 

デミウルゴスが、目を輝かせた。

 

「まさに!

よって私は提案します。

本日を『五月病予防儀礼』の初日とし――」

 

「初日にするな!!最終日だろ!!」

 

(最終日を初日にするな!)

 

アルベドが静かに微笑んだ。

 

「アインズ様。

ご安心ください。

五月病など、私が排除いたします」

 

「排除って言うな!!」

 

シャルティアもにこやかに頷く。

 

「まあまあ……五月病いうたら、“心の隙”どすえ?

隙を埋めればええんどすなぁ」

 

「埋めるって言うな!!」

 

(言い回しが全部怖い)

 

パンドラズ・アクターが感動して言った。

 

「“心の隙を埋める儀礼”……!

記録して保存すべきですね!!」

 

「保存するな!!」

 

デミウルゴスは、さらに紙をめくった。

 

「なお、民明書房には“五月病の処方”も記されています」

 

アインズの背中に冷たい汗(存在しない)が流れる。

 

(処方!? 余計なこと書いてあるに決まってる!)

 

デミウルゴスは爽やかに読む。

 

「第一:拳を突き出し、闘志を再点火する

第二:礼を継続し、心を整列させる

第三:休息を標準化し、儀礼化する」

 

アインズは天井を仰いだ。

 

(全部、今週やったことじゃねえか!!

 それで“疲れてる”んだよ!!)

 

アウラが素直に言う。

 

「それ、治るの? 悪化するだけじゃん!」

 

マーレが小声で言う。

 

「……もう……やすめない……」

 

(天使が泣きそうだ)

 

アインズは、ここで本気の“強引なまとめ”に入った。

 

「よし。結論だ」

 

守護者たちがピシッと背筋を伸ばす。

 

(やめろ、式典の空気にするな)

 

「一、ゴールデン・ウィークは今日で終わり。

 二、五月病は……知らん。

 三、民明書房の処方は採用しない。

 四、休息は儀礼化しない。

 五、総括は――終わりだ」

 

セバスが、静かに頷いた。

 

「承知しました。

では、皆様。

本日の残りは“何もしない”を徹底してください」

 

(セバス、神!!!)

 

アルベドが口を開く。

 

「何もしない――つまり、ただアインズ様を眺め――」

 

「眺めるな!!」

 

シャルティアがにこやかに言う。

 

「まあまあ……眺めるだけなら、

無言の礼で――」

 

「礼もするな!!」

 

デミウルゴスが爽やかに頷く。

 

「無言で礼をせず、眺めず、何もしない――

最高難度ですね」

 

「難度って言うな!!」

 

その日の夕刻。

 

奇跡的に、執務室は静かだった。

本当に静かだった。

 

アインズは椅子に沈み、目を閉じた。

 

(……静かだ……)

 

外で何かが“標準化”されていない。

誰も“儀礼”を提案してこない。

紙束も増えていない。

 

(……これが……休息……?)

 

そこへ、控えめな足音。

セバスが扉の隙間からそっと言った。

 

「アインズ様。

明日から通常業務に戻ります。

……本日は、お疲れ様でございました」

 

「……ああ」

 

アインズは心から思った。

 

(業務に戻る方が、むしろ落ち着くかもしれない……)

 

その瞬間、廊下からデミウルゴスの声が聞こえた。

 

「皆様!

“五月病予防儀礼”は来年のために記録しておきましょう!」

 

「来年のために!? やめろォォ!!」

 

無いはずの胃が痛む思いで、アインズは深くため息をついた。

 

(ゴールデン・ウィーク……終わった。

 だが、“終わったこと”が終わらない……)

 

休息は、終わった。

しかし、休息の“影響”は、確実にナザリックに根付いてしまったのだった。




ここまで読んでくださってありがとうございます!
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(例:好きなセリフ/オチ/アインズ様が一番不憫だった場面 など)

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