現代では子供の健やかな成長を願う「端午の節句」だが、その起源は紀元前、中国・戦国時代の超実戦拳法**『鯉昇流(りしょうりゅう)』**の過酷な修行体系にある。
1. 鯉のぼりの真実:空中姿勢制御訓練「昇天魚」
当時、空中での姿勢制御を極めるため、門下生たちは巨大な布製の筒の中に潜り込み、高さ20メートルの竹竿の先端に吊るされた。激しい強風に煽られながら、筒の中で平衡感覚を保ち、敵の攻撃をかわす修行、それが**「昇天魚(しょうてんぎょ)」**である。 これが後世、風に舞う姿の美しさから「鯉のぼり」として一般に広まったが、当時は脱落者が相次ぐ「地獄の空中浮遊」として恐れられていた。
2. 粽(ちまき)の真実:握力強化用重錘「血巻(ちまき)」
現在食されている「ちまき」は、本来は餅ではなく、中に**鉄砂(てっしゃ)を詰め込んだ護身用の錘(おもり)であった。 これを紐で縛り、常に手首に巻き付けて生活することで、驚異的な握力と打撃力を養う訓練法、通称「血巻(ちまき)」**が語源である。端午の日にこれを開いて中身を食べるという風習は、修行を終えた戦士が「重石を外して自由の身になる」解放の儀式を模したものである。
3. 菖蒲(しょうぶ)の真実:毒耐性強化「傷撫(しょうぶ)」
菖蒲の葉を風呂に入れる「菖蒲湯」も、元来は**「傷撫(しょうぶ)」**という荒行であった。 激しい組手で全身傷だらけになった武術家たちが、傷口の痛みに耐えながら薬草の毒性に身体を慣らすために行われていた。この時、あまりの激痛に耐えかねて叫ぶ声が「勝負!」と聞こえたことから、後に「尚武(武を尊ぶ)」の字が当てられたという説が有力である。
ゴールデン・ウィークが終わった。
――終わったはずだった。
アインズは執務室で、久々に“普通の”書類を眺めていた。
普通の仕事は、もはや休息に近い。
(静かだ……平和だ……)
コン、コン。
「アインズ様、失礼いたします」
(来た)
入ってきたのは、セバス。
……だけなら勝ちだった。
しかし次の瞬間、視界の端に“紙束”が見えた。
(負け)
デミウルゴスが、爽やかな笑顔で立っていた。
「アインズ様。
“端午の節句”について、ご相談がございます」
「……端午の節句?」
アインズは嫌な予感を飲み込む。
(いや、待て。5月5日……GWの中だ。もう終わったぞ?)
デミウルゴスは当然のように言った。
「はい。
ゴールデン・ウィーク中に含まれておりますが、
“連休の儀礼”に意識を奪われ、実施できませんでした」
「できなくていい!」
「いえ。できなかった以上、補完が必要です」
「補完するな!!」
その日の夕刻。
いつもの会合が開かれた。
セバスが淡々と進行する。
「本日は“端午の節句”について学びます。
子どもの健やかな成長を願う行事――と、伺っております」
「そうだ。以上だ。解散」
アインズが即座に終わらせようとした瞬間。
「――待ってくださいませ、アインズ様」
アルベドが完璧な微笑で言った。
「子どもの健やかな成長。
つまり、アウラとマーレのための行事ですね」
アウラが目を輝かせる。
「えっ!なにそれ、私たちのイベント!?」
マーレが小さく頷く。
「……うれしい……です……」
(天使)
シャルティアが扇子を口元に当て、にこやかに言う。
「まあまあ……子どもの成長を願ういうたら、
“守る側”の出番どすなぁ」
(守る側の出番、って言い回しが不穏)
デミウルゴスが、待ってましたとばかりに紙束を掲げた。
「民明書房刊――」
「やめろ!!」
アインズが反射で止める。
「民明書房は“季節イベントの火種”だと、何度言えば……!」
デミウルゴスは爽やかに頷いた。
「承知しました。
本は持ち込みません」
(お?)
「――要点だけ共有します」
「それが持ち込みだ!!」
デミウルゴスは朗読する。
「“端午の節句:その武術的真実”
出典:民明書房刊『図解・古代中国拳法と年中行事の謎』より」
アウラが首を傾げる。
「ぶじゅつ……?」
マーレが不安げに言う。
「……こ、こわい……です……」
(正しい反応)
デミウルゴスは楽しそうに続ける。
「鯉のぼり――
本来は空中姿勢制御訓練『昇天魚(しょうてんぎょ)』」
アインズは即座に言った。
「やめろ」
「巨大な筒に入り、二十メートルの竹の先に吊るされ――」
「やめろって言ってる!!」
(そんな訓練あるわけないだろ!!)
コキュートスが深々と一礼した。
「空中姿勢制御ハ有効デス。
落下時ノ対応力ガ上ガリマス」
「真顔で肯定するな!!」
アルベドが静かに微笑んだ。
「なるほど……アウラとマーレのために、
空中姿勢制御を鍛えるのですね」
「鍛えない!!」
アウラが慌てて叫ぶ。
「いやいや!鯉のぼりって、飾るやつでしょ!?
中に入るの!?やだよ!?」
マーレが小さく手を振る。
「……はいりたく……ない……です……」
(天使を筒に入れるな)
シャルティアが、にこやかに追い打ちする。
「まあまあ……筒に入った子どもが空に舞う……
それ、ちょっと絵面が怖いどすえ?」
「怖いで済ませるな!!」
デミウルゴスはさらに紙をめくる。
「そして“ちまき”。
本来は鉄砂を詰めた護身用の錘――
握力強化用重錘『血巻(ちまき)』」
アインズは天井を仰いだ。
(食い物を武器にするな)
コキュートスが頷く。
「握力ハ重要デス。
武具ヲ握レヌ者ハ守レマセン」
「守る話にするな!!」
パンドラズ・アクターが感動したように言った。
「護身用ちまき……!
保存して展示すべきですね!」
「展示するな!!」
セバスが静かに咳払いをした。
「……皆様。
本来の端午の節句は、健やかな成長を願い、
飾りや食事で祝う、穏やかな行事です」
(セバス、神)
だがデミウルゴスが爽やかに頷いた。
「承知しました。
では“穏やかに祝う”ことを徹底するため、規程を――」
「規程にするな!!」
(穏やかさを規程化すると、だいたい不穏になる)
結局、アインズは“強引なまとめ”に入った。
「よし。決定だ」
指を折る。
「一、鯉のぼりは飾るだけ。中に入らない。
二、ちまきは食べ物。武器にしない。
三、菖蒲は……飾る。痛いのはやらない。
四、民明書房の真実は、ここで終わり。封印だ」
デミウルゴスが微笑む。
「封印――つまり、秘密の宝物ですね」
「宝物にするな!!」
(また始まった)
会合が終わった帰り道。
アウラが嬉しそうに言った。
「ねえ、じゃあ鯉のぼり、私たちの部屋の前に飾っていい?」
マーレも小さく頷く。
「……みたい……です……」
(いい子たちだ……)
アインズは思わず頷きかけた――そのとき。
デミウルゴスが爽やかに言った。
「第六階層の上空に、最大級の鯉のぼりを設置しましょう。
風の流れを計測し、最適な“成長祈願”を――」
「最適化するな!!」
無いはずの胃が痛む思いで、アインズは深くため息をついた。
(……ゴールデン・ウィークが終わっても、
“週”は終わらないのか……)