そんなネタです。
知ってるヒトは判ってwww
エ・ランテルの冬は早い。
吐く息が白くなり、夜の屋台が湯気で霞む頃――街には、妙な噂が流れ始めた。
「……聞いたか? “鮭の使徒”が出るってよ」
酒場の片隅。
冒険者崩れの男が、声を潜めて囁く。
「鮭の……何だって?」
「鮭の使徒だ。骨みたいな仮面、赤いマント。
夜に出てきて、こう言うんだ」
男は低い声で、妙に抑揚をつけた。
「――『クリスマスにはシャケを食え』」
「は?」
「しかもな、チキン屋にだけは厳しい。
“クリスマスにチキンを売るな”って、壁に爪で……いや、爪は言い過ぎか。
とにかく、謎の落書きが残るらしい」
「落書きかよ!」
笑いが起こる。
だが次の一言で、空気が少しだけ冷えた。
「笑うなよ。あの魚屋の路地で……見たって奴がいる。
“白い骨の口”がギシギシ動いて――鮭を掲げるんだとよ」
「……」
「……いや、嘘だろ?」
「俺もそう思った。
でもな、“サンタ”の噂、覚えてるか?」
その言葉が出た瞬間、誰もが思い出してしまった。
“恐ろしくも慈悲深いサンタ”が孤児院に現れ、
子どもたちに施しを与えた――あの噂。
そして、その噂は「実在した」ように語られている。
「……サンタの次は、鮭かよ」
「世も末だな」
「いや、むしろ魚屋が救われるか?」
そうして笑いが戻りかけた時、酒場の扉が開いた。
冷たい風と一緒に入ってきたのは、魚屋の若い店員だった。
顔色が悪い。
「お、おい……聞いてくれよ……」
「どうした?」
店員は震える指で、紙切れを差し出した。
そこには、乱暴な字でこう書かれていた。
『クリスマスにはシャケを食え わかったか』
「……」
酒場が静まり返る。
「……誰が書いたんだ」
「知らねぇ……!
朝、店のシャッターに貼ってあったんだよ!
しかも、うちだけじゃない。チキン屋にも貼ってあった!」
「チキン屋には何て?」
店員は喉を鳴らして読み上げた。
『クリスマスにチキンを売るな』
「……」
「……ガチじゃん」
翌日。街は妙にざわついた。
魚屋の前に客が並ぶ。
チキン屋の前にも客が並ぶ。
だが、空気が違う。
「ほら、鮭が正しいんだろ?」
「使徒に怒られたくないしな」
「いや、怒られたらどうなるんだよ」
「知らん。だが……“サンタ”は本物っぽかった」
そう“サンタ”。
噂は噂を呼ぶ。
噂は現実を変える。
そして都市伝説とは、現実が“少しだけ”寄り添った時に完成する。
その日の夕方。
孤児院の子どもたちが、外で雪玉を投げて遊んでいると――
「ねえねえ、“シャケの人”ってほんとにいるの?」
「いるよ! だって紙が貼ってあったもん!」
「サンタの仲間かな?」
「サンタはお菓子で、シャケの人は……シャケ?」
「シャケっておいしいよね!」
子どもたちは笑う。
それだけなら、ただの可愛い噂話だ。
だが――
孤児院の門の近くに、いつの間にか置かれていた小さな包み。
中身は、塩漬けの鮭だった。
「……え?」
「ねえ、これ……誰が?」
「サンタ? それとも……」
子どもたちが包みを見つめる。
院長は青ざめた。
「だ、誰かに見られたの……?」
その夜から、噂は“確信”に変わった。
――鮭の使徒は、いる。
――そして、鮭を置いていく。
――なぜか、孤児院に。
数日後。
魔導国の中枢――ナザリック地下大墳墓。
執務室で、アインズは書類を見つめていた。
(……嫌な予感しかしない)
表題は、こうだ。
『市井の風聞に関する定例報告(冬季)』
差出人:デミウルゴス
(定例……定例かぁ……)
コン、コン。
「アインズ様、失礼いたします」
入ってきたのは、デミウルゴス。
笑顔が爽やかすぎて、確信に変わる。
「アインズ様。
街で“鮭の使徒”が話題になっております」
「……やっぱりな」
「サンタの噂と結びつき、都市伝説として自走しております」
(最悪の“噂の連結”だ……)
デミウルゴスが淡々と続ける。
「特筆すべきは、暴力行為がない点。
また、孤児院への“鮭の施し”が発生しています」
「……施し?」
「はい。効果は絶大です。
恐怖と慈善が同居する存在――人心掌握において理想的」
「褒めるな!!」
アインズは反射で叫んだ。
「誰だ、そんなのやってるのは!」
デミウルゴスは穏やかに目を細める。
「不明です。
ですが、街の者たちは――“アインズ様の配下ではないか”と推測しております」
「やめろ!!」
(やめろやめろやめろ)
そこへセバスが静かに入ってくる。
「アインズ様。
魚屋からの要望が届いております」
「要望……?」
「“鮭の供給安定”について」
「要望するな!!」
(都市伝説に物流が発生してる……)
さらに、扉が開いた。
「アインズ様!!」
アルベドが飛び込んでくる。顔が真剣すぎる。
「鮭の使徒……アンデッドの可能性があります!」
「可能性って何だよ」
「もし、アインズ様の同胞であるなら……保護すべきです!」
「保護って言うな!」
シャルティアが、ゆったり入ってくる。にこやかだが目が笑っていない。
「まあまあ……。
アンデッドかどうかより、問題は“誰がアインズ様の名を借りて”動いとるか、やわぁ」
「名を借りてるって決めつけるな!」
「借りてへんのやったら、もっと厄介どすえ?」
(確かにそうだ)
パンドラズ・アクターが、輝く目で言う。
「“鮭の使徒”……その衣装と仮面、保存すべきです!」
「保存するな!」
コキュートスが深々と一礼する。
「アインズ様。噂ハ既ニ街ニ浸透シテイマス。
抑圧ハ逆効果ニナル恐レガアリマス。
最小ノ介入デ、拡大ヲ抑エルベキデス」
(コキュの意見がまとも……だが、胃が痛い)
アインズは頭を抱えた。
(誰だよ……鮭置いていくの……!
俺は知らん……!知らんぞ……!)
しかしデミウルゴスは、さらりと追い打ちをかける。
「ちなみに――街には、もう看板が出ております」
「看板?」
「はい。“鮭の使徒”の言葉として」
デミウルゴスが紙を差し出した。
そこには、でかでかと――
『クリスマスにはシャケを食え』
「……」
アインズは天井を仰いだ。
(次の季節イベント……怖い)
無いはずの胃が痛む思いで、アインズは深くため息をついた。
「……頼む。
せめて俺の知らないところでやってくれ」
返事はない。
だが、遠い街のどこかで――
今日も“鮭の使徒”は、存在しないはずの足跡を残しているらしい。