魔弾戦記リリカルなのは Abend Gewehr 作:星乃 望夢
ティアナとなのはちゃんの関係はたった1日にして良好な様子だ。
朝起きて朝食のあとになのはが恭也と美由希に連れられて帰るとなった時に何度もチラチラと俺を見上げるものだから、俺はティアナを連れて高町兄妹に同行する事にした。
すればティアナはぱぁっと花が咲いたみたいに笑顔になるし、なのはちゃんも嬉しそうにしているから、これで正解だった。
それで高町家にお邪魔して桃子さんには驚かれた。
もっと年配だと思っていたらしい。
いやまぁ、前世含めれば年配になるとは思うけれども、今世はまだ12歳だ。
それはさておくとして、俺は恭也に誘われて家の敷地内の道場に連れてこられた。
いや、家の敷地内に道場がある時点でびっくりだ。
そして言わんとしてる事は分かっている。
言葉は不要だ。
好きな物を使ってくれと言われて、俺は二本の木刀を握った。
ちょうど刃渡りがゲヴェーア・シュナイデと同じくらいだったからだ。
恭也は小太刀の木刀を握った。
道場には美由希となのはちゃん、ティアナ、桃子さんが俺たちを見ている。
恭也が礼をするのに倣って、俺も頭を下げる。
互いに得物を構えるが、打ち込む隙がない。
昨日温泉に入る時に見た身体の鍛え上げ具合は相当だと思ったし、あの卓球ラケット二刀流から相当な使い手だと思ったのも確か。
一応それなりに執務補佐官として修羅場を潜ってるハズの俺が打ち込む隙を見つけられないって。
ここ、管理外世界だよな?
そのままジリジリと構えたまま時間が過ぎると、不利なのは長物である木刀を構えている俺の方だ。
木刀の重さを支え続けるのは正直キツい。
フッと切っ先が少し下がった。
シュッと恭也の姿が霞み消えた様に見えて気付けば目の前だ。
掛かったな?
俺は左手の木刀を瞬時に逆手に持ち替えながら、柄尻で恭也の顎を打ち上げようとしたら、瞬時に恭也は顎を引いてその一撃を避けるが、俺は左手の手首を捻って木刀の刀身での攻撃に切り替えた。
それを右手の小太刀で防御する恭也。
ただまだ俺の右手はフリーだ。
その右手の木刀で逆胴を打ち込む。
すると恭也は逆手に握る左手の小太刀で逆胴を防御した。
どちらともなく間合いを開けて仕切り直しだ。
……次は今の誘いには乗ってこないだろうなと考えつつ、さてどうするのかと頭を全力で働かせる。
まさかこんな所にクロノと同等か、それ以上の剣士が居るなんて思いもしない想定外だぜ。
◇◇◇
ティーダ・ランスター。
名前からして外国人。茶髪の碧眼。
妹の髪の毛はオレンジで2人とも肌が白いのも見て欧州人か。
ともあれ、家出したらしいなのはを保護してくれたのは感謝する。
初対面の時は兄の俺よりもティーダの背に隠れたなのはを見て少し取り乱したのは俺もまだまだ修行が足りないな。
いや、ここ最近ピリピリしてた俺にとやかく言う資格はないか。
父さんが大怪我を負って、そこに店が繁盛して母さんも美由希も俺も忙しくて、なのはの事を見てやれなかった俺は兄失格だな。
ただ、ティーダの背になのはが隠れただけが取り乱した原因ではない。
ティーダの手が明らかに武器を普段から手にしている人間のそれだったからだ。
そのティーダの提案での卓球勝負。
スマッシュの応酬の最中でラケットを二刀流持ちした時に確信した。
その構えがとても自然に見えるなんていうのは、普段から二刀流の使い手。
それでいてその持ち方が銃を握る人間のそれであった事により一層警戒をした。
美由希とそれ程変わらない年齢だろうに、日常的に銃を手にする子供。
傭兵か少年兵かとも思ったが、それにしては火薬の匂いがしない。かといって血の匂いがしないわけでもないというのが少し不思議だった。
汗を流す為に服を脱いだ身体はあちこち傷だらけだった。
特に多いのは火傷痕の様なものが多かった。
そして腕に関しても得物が銃だけじゃない鍛え方がされている。
なにか重い物か長物を扱う人間の筋肉の付き方をしていた。
だからなのはと、ティーダの妹が別れを惜しんで、ティーダが家に来るというのは渡りに船だった。
実力を知りたくてティーダを連れて道場に入った。
美由希となのは、母さんまで見学に来るとは思わなかった。
そしてティーダの妹もまた見学者の一人だった。
互いに妹に格好悪い所は見せられない立場だ。
それの意地は卓球勝負で既に知っている。
ティーダが選んだのは二本の木刀だった。
長物は刀の類か?
何処の型かは分からないが、その構えも自然体。
つまりは構え慣れている。
ふと切っ先が下がったのを見てこちらから仕掛けた。
こちらの縮地の速さに対応した時点で相当な使い手だと意識を切り替える。
すれば左手の木刀を逆手に持ち替えて、柄でこちらの顎を狙ってきたのを顎を引いて避ければ、手首の動きで木刀の刀身で斬り掛かる動きに変えてくるのを右の小太刀で防ぐ。
避けられても次の手に瞬時に移行する柔軟性。
防御した次は逆胴を打ち込まれそうなのを左手の小太刀で受け止め、互いに間合いを話した。
中々、一筋縄じゃいかない相手らしい。
父さんが入院してから店を手伝うのに忙しくてここ最近鍛錬は疎かだった。
湧き上がる血潮を感じながら、次の一手を待つ。
おそらくティーダは受け身の型だ。
こちらが踏み込むのを迎撃するのに長けていると見た。
なら、今度は向こうから仕掛ける型を見てみたい。
そう口許に弧を描いて小太刀を構え直した。
◇◇◇
さて、物凄く誘われてんな。
ゲヴェーア・シュナイデはインターセプト、つまりは迎撃とカウンターに重きを置いてる近接戦闘スタイルだ。
つまり受けは強くてもこっちから仕掛けるものじゃない。
ただ、誘われてるとわかってて仕掛けないのは男じゃねぇよ、な!
俺は木刀をベルトの両腰に差すと、後ろ腰から銃を抜く。
アーベント・ゲヴェーアじゃない。
地球で買ったエアガンだ。
銃爪を引けばパスンッと軽い音と共にBB弾が発射される。
それを小太刀で弾く恭也は怪訝な表象を浮かべた。
まぁ、それなりの速さの弾速ならどうにかやってやれなくはないか。
俺は脚を踏み込むのと同時に大きくジャンプしながら道場の天井を蹴って恭也に向かって飛びながらエアガンを撃つ。
玉を小太刀で弾く恭也の背後に着地してエアガンと視線だけを向けると、こちらへと振り向きながら小太刀を逆手で振るう恭也が見える。
振り向きながら右手の逆手で斬り掛かる恭也の手首に、こちらも身体を恭也へと振り向かせながら身体を起こしつつ、左手の手首をぶつけてガードする。
右手の逆手の斬り上げを、左手のエアガンの銃底を叩き付けて弾き、そのまま腕と手首を捻って銃口を恭也へと向けてトリガーを引けば、発射された玉を恭也は首を逸らして躱した。
ぶつけ合っている手首を軸に恭也の背中に回り込んで右手のエアガンを向ければ、左手の小太刀を後ろへと突き上げてくる。
それを身体を逸らして躱しながらバク転で間合いを開けつつエアガンを連射すれば、向き直った恭也が玉を小太刀で弾く。
弾切れのマガジンを落としながら、腰のベルトに刺さっている新しいマガジンを叩き込む様にリロードする。
アーベント・ゲヴェーアならまたゲヴェーア・シュナイデに切り替えたり、シュベルトゲベールに変形させたり、そもそも魔法での撹乱や幻影殺法も使えてと色々とやり手はあるんだが、魔法が使えないとこの程度の物だ。
しっかし俺的には使い慣れているハンドガンの本気で挑んだのに全部対処されると自信無くすぞ。
やっぱり近接戦闘に関して、恭也はクロノと同レベルかそれ以上だ。
となると勝ち目がないんだが、ティアナが見てる手前、兄ちゃんには敗けられない意地ってのがあるんだよ!
◇◇◇
決着としてはなにかドラマがあったとかそういうものじゃなかった。
天井や床を使った跳弾を試してみてもすべて対処され、オマケに弾切れとなれば打つ手ゼロ。
俺の本気であるハンドガンが通用しないなら敗けを認める他なしだ。
アーベント・ゲヴェーアなら弾は魔力だから俺の魔力が続く限り弾切れなんてのは起こらなくても、魔法無しでの真剣勝負ならそれが切り上げ時だろう。
まだ木刀でチャンバラしようにもそれも既に対処されてるんだからどう足掻いた所で勝ちの目は薄い。
そもそも俺はベルカ式に転向したワケでもない本職はガンナーなんだぜ?
弾切れ=敗けってなったって、それが筋ってもんだろ?
ただティアナもなのはちゃんも、美由希もポカーンとしてたな。
俺としてはカッコ悪いところしか見せてないからそんなキラキラした視線向けられると心が痛いから勘弁してくれ。
◇◇◇
散らばりまくったBB弾を片付けて、試し合いで汗だくになったからシャワーを借りたあと、シュークリームとショートケーキをご馳走になった。
それがまた美味いのなんの。
聞けば桃子さんはホテルでパティシエをしていたところから結婚して喫茶店をオープンしたという事である。
この味が喫茶店の手頃な値段で食べられるなら、そりゃ繁盛して忙しくなるなと口には出さずシュークリームの旨さに舌鼓を打つ。
ティアナとなのはちゃんが、ティアナに買った二丁のデリンジャーを分け合って撃ち合いをしていた。
弾は入っていないから危なくはないものの、もうちょっと女の子らしい遊びをしようぜ君達。
そんな微笑ましくも少し心配になる光景を見守りつつ。
庭の盆栽の剪定をして居る恭也が目に入った。
親父さんの趣味なのか美由希に訊いてみたら、恭也自身の趣味らしい。
ハイスクール生くらいのハズだよな?
趣味が盆栽って渋すぎねぇか?
シメのコーヒーを飲んでると、ウズウズする身体を乗り出してきて、自分とも手合わせして欲しいと美由希に言われた。
わかったから落ち着け。
あの兄にこの妹あり、か。
大丈夫そうなのは歳が離れてるなのはちゃんだけか?
まぁ、種明かしはされてるからそんな面白くないとおもうぞと前置きはしつつ、コーヒーを飲み干して恭也が見守る中でまた道場で一試合した。
結果?
確かに手強かった。
ただクロノや恭也みたいにバケモノ染みてないから俺が勝った。
というか、それで美由希にも敗けた日には、俺は自信を喪失するか、管理外世界である事を疑うかのどっちかだ。
またシャワーを浴びて良い時間だから旅館に戻る事にした。
……ティアナが高町家に泊まりたがったから、桃子さんには申し訳なかったが、ティアナを預かって貰って、俺は旅館へと戻った。
いや旅館に荷物あるしチェックアウトしてないから勝手に外泊出来ないし。
それに、微弱だが感じる魔力反応の調査もしたかったからな。
サーチャーを飛ばしておおよその位置を特定した。
旅館のある山の森の中。
「……ネコ?」
アタリを付けた場所にはネコが横たわっていた。
それも普通の何処にでも居そうなネコじゃない。
毛並みは長くて、それなりに手入れもされているネコ。
そのネコが魔力の発信源だ。
取り敢えずそのネコを抱えて旅館に戻った。
ペット厳禁?
ペットじゃないし、これは時空管理局執務補佐官としての緊急対応だからセーフだ。
取り敢えず足りなくなってそうな魔力を送り込んで、あとは──布団の中で一緒に寝るか。
そうして一夜明けた次の日。
頭にネコの耳を生やした素っ裸のお姉さんに抱き締められる朝を迎えた。
……誰かなにか起きたのか説明してくれ。
◇◇◇
素っ裸の美人なネコ耳お姉さんに抱き締められて朝を迎えるなんていう事態。
なんか色々柔らかいというか良い匂いがする上に朝だから色々とヤバい身体の事情。
「にゃ〜ん……ごろごろごろ」
見た目お姉さんなのにちゃんとネコなのか?
どうにか抜け出せないかと試行錯誤するもののびくともしない。
「んふふ、くすぐったいですよフェイト……」
俺を誰かと勘違いして抱き締めてるのかこれは。
ネコだからな。
あんまやりたかないけどしょうがないな。
「フギャッ、いたたたっ、フェイト、尻尾は引っ張らないでとあれ程……。いえ、何を言っているんですかね私は。って、きゃっ、だだ、誰ですかあなたは!? そそ、それに、何故私は裸に!」
「その辺に浴衣が転がってるはずだから着替えてくれ。話はそれからにしようぜ」
「は、ぅ、はいぃ……」
本当はもう少し眼福というか良い匂いに包まれてたかったけども、話が始まらないから仕方ない。
耳をしおらせて俯く浴衣に着替えたお姉さん。
俺は備え付けの茶を淹れて、それを一呑みしてから口を開いた。
「俺は時空管理局執務補佐官のティーダ・ランスター。今は非番でこの管理外世界に滞在している。そんな管理外世界で魔力反応を検知してお前を見つけた。拾った時はネコだったから何処かの誰かの使い魔だと推察するが、何故この管理外世界の森の中で倒れてたんだ? 事と次第だとお前の主に書類送検しないとならないんだが?」
と、俺が捲し立てると、彼女は耳をピンと立てて俺の顔を見て来た。
「私は、リニスと言います。主は、居ません。役目を終えたので契約解除となりました。私は残された魔力で最後に世界を見て回ろうとして、ここには座標を指定しない転移魔法を使ったので、管理外世界であるとは知らず…」
なんかなのはちゃんに続いて訳アリを拾ったのはなんでなんかねぇ。
「確か契約履行後の使い魔に関しては契約者がその処分や面倒を見るはずだったと記憶してるが?」
「あ、主は病気で、その……。あ、あの、なんでもしますから、主の事は!」
身を乗り出して俺の手を掴んで自分の胸に押し当てるリニス。
いやそれではい良いですよ、お前は一生俺の奴隷だってなったら管理局とか執務官は要らねぇっての。
「ちょっと落ち着けリニス。今の俺は非番だ。そしてここは管理外世界。つまり俺が何も言わなきゃ取り敢えず今のところ法的に問題はない。そこまでは良いな?」
「は、はい。……でも、どうして…?」
「言ったろ?執務補佐官だって。弱ってる女の子に付け込んで手籠めにしよって鬼畜外道な事をする法の番人が何処に居るってんだよ。少なくとも、俺はそんなふうに落ちぶれるのはゴメンだぜ」
俺は俺の手を掴むリニスの両手を掴んで、一先ずもう少し魔力を送ってやる。
「つーか結構ガッツリ送ってるのに底がわからないって、もしかして元の主ってかなりの魔導師とかか?」
「え、ええ、その。詳しくは言えませんけど」
そんな魔導師の使い魔が契約満了とはいえ野に放たれるって何考えてんだ?
病気だって事だから維持する魔力が辛くなったのか?
なら使い魔側で省エネにすれば良いだけだろうに。
「取り敢えず今日の午後に職場に戻る。……お前は行き倒れてて危なかったから使い魔にして助けたってことにするから、契約と口裏合わせろ。それが今は少なくとも余計な事は聞かないでいてやる司法取引だ。こんな破格な取引は我ながらなかなかないぜ?」
「わ、わかりました」
さて、問題はクロノにリニスの事をどうやって説明するかってところだ。
アイツなら絶対にツッコんで来るっていう確信がある。
まぁ、最悪俺が司法取引したからちょっと時間くれって言うだけなんだが。
◇◇◇
契約は完了したものの、やっぱり結構魔力が持って行かれている。
とは言っても全体の半分くらいならどうにかなるか。
無理が出来なくなったくらいで、戦闘自体への支障はない。
俺、魔力量はA判定あるから量だけは平均のBより多くある。
だから陸戦ランクならAに行ける。
空戦はC+だけれども、そこの問題も解決している。
取り敢えずリニスの服を買おう。
法衣──バリアジャケットじゃなくて普通の服だ。
なんせ胸元がパックリ見えてるデザインで防御力ではなく機動力を高める為か生地が薄くて身体のラインが分かりやすい構造だ。
取り敢えず服屋に到着するまでは生地を厚めにして露出も控えるデザインに変更して貰った。
ネコ耳を隠すのに帽子は必須。
カーディガンにロングスカートは何処にでも居そうな恰好なのに元が良すぎるから周りの視線を集めていた。
次は高町家に向かう──その途中で女の子が誘拐されるのを目撃してしまった。
俺はリニスと顔を見合わせると、手荷物をアーベント・ゲヴェーアのストレージに格納して、サーチャーを一般人にもバレない高度で飛ばしながら誘拐犯のワゴンを追跡した。
管理外世界で非番のはずなのに、なんでこう次から次へとイベントが舞い込むんだと、俺はリニスと迷彩魔法を使って普通の人間には認識され難くしながら家の屋根や塀の上を駆け抜けて行った。