【完結】銀魂 銀狼篇 ~白夜叉鎮魂歌~   作:春風駘蕩

12 / 34
第十一訓 慣れないことするとロクなことにならない

 サイレンの音が、やかましく鳴り続ける。その日のかぶき町は、一際騒がしかった。

「コイツはひでーや。ほとんど原形を留めていやせんぜ」

 路地裏で発見された遺体を見て、沖田は思わず呟いた。シートの下には、灰が大量に零れている。同じような遺体が、同じ場所にいくつもあった。

「この一週間で似たような件が5件、犠牲者はこれで27人。目撃者も全員、似たような灰色の化け物を見たといってます。ただの人間の犯行じゃないですね」

「見つけた得物は片っ端からってところか。……噂通りの奴らしいな」

 監察・山崎の報告に、土方は煙をくゆらせ、唸るような声で言う。

 すると、表通りに集まっていた野次馬を押しのけ、スキンヘッドの隊士が土方の元に戻ってきた。

「副長、目撃された犠牲者の数が合いません。何人かは、行方知れずのままです」

「……連れ去られたか、あるいは生き延びたか」

 土方は思案し、次いで指示を放つ。

「よし、周辺をくまなく捜査しろ。必ず班で行動し、単独捜査は控えろ、いいな!!」

「はい!!」

 威勢よく声をあげ、隊士たちは散っていく。

 残った沖田は、再び目の前の遺体を見下ろした。

「…おい、総悟。覚えてるか」

「奇遇ですねぃ土方さん。俺も同じようなこと考えてやした」

 二人の脳裏に浮かんでいたのは、数日前になる祭りの襲撃事件。

 そこで暴れていた、戦闘集団。

 倒れた彼らは、全員あの後、全身が灰となって死んでいた。

「お前なら、どう関連付ける?」

「口封じですかねぃ。あの格好に、今回の下手人みてーな機能がついてるんだとしたら……使い捨てを処理する道具として」

 その案に同意しながら、土方は別のことを考えていた。

「あるいは……」

 その脳裏には、一人の少女が浮かんでいた。

 奴らとよく似た戦闘スーツを纏い、あの腹の立つ天パと暴れ回った、小柄な犬耳のことを。

 

 *

 

 チャリーン。

 そんな擬音が付く感じで、新八と神楽に分厚くなった封筒が渡された。

「…………え?」

 新八は茫然となり、その封筒と渡してきた相手を交互に凝視した。神楽なんかは、口をあんぐりと開けたまま固まっている。

「…銀さん、なんスかこれ」

「見りゃわかんだろ。給料袋だ」

 不機嫌そうに、銀時は答えた。

「え"え"え"え"え"!? あ、いや…当たり前っちゃ当たり前だけど……」

「何があったアルか銀ちゃんんん!! 死ぬあるか、銀ちゃん死んじゃうアルか!?」

「んなわけねーだろ、ぶっ殺すぞ!!」

 怒り心頭といった様子で銀時は怒鳴る。

「しゃ―ねーだろ。今の俺は完全に胃袋握られちまってんだから。そうなると自動的に給料袋も握られちまうんだよ。こないだの依頼もほとんどアイツが持ってきたようなもんだしな」

「もうほとんど嫁アル。いっそのこともらっちまえよ天パー」

「それもいいな、便利だし」

「誰がテメーの金○袋なんざ握るか!!」

 勝手な会話に、洗濯物を干していた黒羽がキレて怒鳴った。

「つーか今の今までまともに給料払ってねーってどんなブラック企業だよ!? 訴えたら普通に勝てるぞ!? 学糾裁判すら起こす必要もねーよ!!」

「うるせーよ。こっちだって結構あくせく働いてんだよコノヤロー」

「いや、だからその働いた稼ぎをちゃんとしねーからいつまでたっても貧乏なんだろーが」

 苛立ち交じりに、黒羽はパーンと洗濯物を振る。最後の一枚を柵の上にかけてから、振り返って腰に手を当て、前屈みで銀時を見つめる。

「稼いだ後でなまじ余裕があるから財布のヒモが緩むんだよ。自分の使う分はきっちりセーブする! これで後々困らずに済むの」

「明らかに7歳の発言じゃないよねコレ!?」

「オメー一体伏のところでどんな生活してたんだよオイ」

 ありえないものを見る目を向ける新八と銀時。

 黒羽は当時を思い出したのか、影を背負った顔でため息をついた。

「…いや、お袋はアレ。私生活メッチャだらしなかったから。研究室に5,6日こもりっぱなしとかザラにあったから、俺がやんなきゃ二人とも餓死してたろうし」

「マジでか」

 神楽が唖然として言い、黒羽は力なく笑った。

 と、その時、黒羽はいつもの表情に戻って「あ、そうだった」とひとりごち、銀時に茶封筒を渡した。

「ん? …何コレ」

 開いて中を見てみると、中には少なめだが紙幣が何枚か入っていた。

「銀さんの分だよ。パチンコだの賭け事を規制する気はないから……」

「キャッホォォォォォ!!」

 黒羽が言い終えるより早く、銀時は玄関に向かってダッシュした。

「って人の話最後まで聞け天パァァァ!!」

「わかったわかったって」

 再びブチ切れた黒羽が怒鳴ると、銀時は靴置きの前で振り返った。ひらひらと手を振り、ニヤリと笑ってみせる。

「今日はお前に免じて、甘味処だけにしといてやるよ。無駄遣いすんなって言われる前にな」

「…………まぁ、それならいいけど」

 黒羽は勢いを削がれたのか、半目になりながらそう返した。

 靴を履く銀時を待ちながら、黒羽はまた思い出して茶封筒を取り出し、銀時に差し出した。

「銀さん、あとコレ」

「今度は何? お前どんだけ封筒出せば気がすむの?」

 銀時は少しうんざりしながら、封筒を受け取る。

「そっちは家賃。銀さんから渡すのがふつうだろ? 喜ぶんじゃねーの?」

「余計な気まわしてんじゃねーよ!!新八と神楽(バカ二人)から何も学んでねーのか!?」

「いや、あそこまでヒドくねーだろ……」

 言ってから、黒羽も玄関に降り、自分の履物を手に取った。

「ついでにオレも出かけるわ。用事があるんだ」

「なんだァ? オメーもやっぱ息抜きが必要に……」

「いや、タイムセールがあるから急がねーと」

「頼むから年頃の会話しろよ!! なんか俺悲しくなってくんだけど!?」

 ツッコむ銀時を無視し、黒羽はトントンとつま先で靴を蹴る。ちゃんと身だしなみを整えてから、新八と神楽に笑いかけてから手を振った。

「じゃ、留守は頼むな、二人とも」

「あ、…はい」

「いってらっさいアル」

 気の抜けた返事をもらい、黒羽は戸をあけて玄関を出る。その後を、妙な汗をかいた銀時が続いた。

「つーかお前、絶対7歳じゃないよね。変な薬飲んで縮んだとか、手鏡でテクマクマヤコンした奴だよね!!」

「違う違う」

「…………」

 呆ける新八と神楽を余所に、二人は騒がしく階段を下りていく。しばらくしてから、下にあるスナックお登勢の引き戸をガララ、と開けたらしい音がした。

「おーい、バーさん。家賃持ってきてやったぞー」

 そんな声がした後、ぷっつりと下から音が消える。

「キャサリンんんん!! 早く町内に知らせなァァァ!! 隕石が降ってくるよォォォォ!!」

 お登勢の絶叫が響き、スナックは阿鼻叫喚の地獄と化した。

[落ち着いてくださいお登勢様。取りあえず今は冷静にタイムマシンを探すことが先決かと思われます]

「オ登勢タマガァァァ!! タマガ壊レタァァァ!!」

「オイぃぃぃ!! どんな天災扱いだテメーらァァァァァァ!!」

 家賃払いに来ただけなんですけどォォォ!! と叫ぶ地獄の中、取り残された新八と神楽、定春は、揃って青空を眺めた。

「……いい天気アルな」

「そうだね」

「わん」

 この姿を誰かが見ているならこう言いたい、と二人と一匹は思う。

 現実って、見なきゃダメ?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。