【完結】銀魂 銀狼篇 ~白夜叉鎮魂歌~   作:春風駘蕩

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第十五訓 ドラゴンは基本最凶キャラ

 夜の闇の中を、疾走する二台のバイクの姿があった。

 一台に男女が乗り、もう一台に一人の男が乗っている。

 二人乗りの男の方が、もう一人に合図をすると、二台のバイクはさらに速度を増し、目的地に向かって爆進を開始した。

 

 *

 

 天まで震わせる、竜騎士の咆哮が轟く。

 振り下ろされた竜の(あぎと)は、強烈な衝撃波を放ってあたりのものすべてを弾き飛ばした。

「おわあああ!?」

 爆風に跳ね飛ばされながら、銀時たちはなんとか体勢を立て直す。

「なっ、ななななな、なんじゃありゃあああ!?」

 目を限界まで見開き、冷や汗をダラダラ流しながら黒羽は絶叫した。

「おいぃぃなんかいきなりラスボスみてーな奴出てきたぞ!? ゾーマよりヤバそうな最凶っぽいキャラ出てきたぞオイ!!」

「クソ……、まさか奴まで出てきやがるとは……!!」

 同じく狼狽える銀時の横で、カクサが引きつった顔で言った。腹の立つ男の変貌に、さすがに銀時も真剣に目を向けた。

「…奴はゾーマでもデスピサロでもねェ。アニマを支配する独裁企業スマートブレイン社社長直属の幹部、ラッキークローバーの一人だ」

「ラッキーじゃねーよ、どう見ても!! 明らかにアンラッキーだろ!! 幸運じゃなくて死運んでくる死神的な奴だろあの化け物!!」

 銀時は言ってから、ハッと気づく。

 スマートブレイン社の幹部。そして、さっき襲ってきた者たちと同じく変貌した、灰色の鎧の異形。

「……まさか」

「そうだ」

 カクサは表情を険しくし、言い放つ。

「…今やアニマは、怪物が支配する惑星へと成り果てた!」

「オォオオォォオオ!!」

 ズシン、と地を踏み、竜の異形は銀時に襲い掛かった。

 銀時は振り下ろされた咢を木刀で受け流して躱し、打ちつけた反発で離脱する。先ほどの力を見た手前、正面衝突は避けたかった。

「白夜叉ァァァァ!!」

 コンテナの上から、ネズミが叫んだ。

「ソイツを相手にするナ!! 力がケタ違いすぎル!! 逃げロォォォォ!!」

 必死の形相で叫ぶネズミ。

 だがその時、竜の異形がゆっくりと振り向き、咢をネズミの足もとのコンテナに向け、砲弾のように撃ち放った。

 凄まじい音が響き、コンテナが木端微塵に吹き飛んだ。足場を破壊され、浮遊感の中破片が腹に激突し、ネズミは息を詰まらせた。

 咢を引き戻した竜の異形は、再びネズミに照準を合わせる。

 何故か、面の下でニヤリと笑った気がした。

 が、その攻撃は放たれる寸前で大きく外される。全力疾走した黒羽が、ネズミを抱えて離脱し、銀時が咢に蹴りを放ったからだ。

「! クソがっ……」

 竜の異形は激昂し、もう片方の咢を銀時に振るう。銀時はそれをしゃがんで躱し、追撃にと竜の異形の膝裏に木刀を叩き込んだ。

 ガクリと膝をつく竜の異形から離れ、木刀を構えなおす。

「銀さん!!」

「来るな!! そいつを連れて逃げろ!!」

 銀時の怒号に一瞬躊躇うものの、黒羽は腕に抱える気絶したネズミを見下ろし、意を決して背を向けて駆け出した。主に従い、オートバジンも後を追う。

 カクサもまた一度銀時の方を見て、一瞬迷った後、背を向けた。

 銀時はそれを見て、ニヤリと笑う。そして、攻撃の手を止めない竜の異形に、再び木刀の切っ先を向けた。

 だが、敵は予想以上の規模だったらしい。

 黒羽たちが向かった出口が破られ、大量の灰色の異形がなだれ込んできたのだ。

「い"っ!?」

 二人は足を止め、顔を強張らせながら光剣を片手で構えた。

 それを見た銀時も表情を変えた。

「まだいるのかよ!?」

「ウガァァァ!!」

「つーかテメーはどこの南蛮の王様!?」

 剛腕を振るう竜の異形に既視感を覚えながら、銀時は攻撃を躱し続けた。

 黒羽たちもまた、一体一体には力量で劣らないものの、その数に圧倒され、じりじりと後退し始めた。徐々に銀時と黒羽の間の距離が縮まり、トン、と背中が当たる。

 背中を合わせる四人と一体を、灰色の異形たちが取り囲んでいく。

 いわば、前門の(ドラゴン)、後門の軍隊蟻(グンタイアリ)

 蠢く不気味な鎧集団を前に、銀時は冷や汗を流した。

「……銀さん、マジでごめん」

 顔をひきつらせながら、黒羽が言った。

「言うんじゃねーよ。罵る気にもなれねーや」

「…そうだゾ、黒羽。悪イのハここにいるトラ耳野郎だかラ」

 いつの間にか起きていたのか、ネズミが弱々しく言った。

「全責任を押し付ける気か、ジェリーもどきが」

「黙れトム。ダイナマイトで自爆して星になレ」

 口論の間に、異形たちが雄叫びを上げて突撃を開始した。

 誰もがここまでか、と思ったその時。

 爆音が辺りを支配した。

 けたたましいエンジン音を轟かせ、二台のバイクが異形の集団を跳び越えてきた。

「!!」

 目を見開く銀時たちの頭上で、バイクの騎手が一斉に飛び降り、バイクだけが竜の異形に突っ込んでいく。

 竜の異形は驚きこそすれ、二台のバイクを難なく受け止め、両腕で左右に殴り飛ばした。飛ばされたバイクはコンテナに激突して大破し、爆発炎上した。

 竜の異形は怒りを目に滾らせ、飛び降りた三つの影を睨みつけた。

 影はヘルメットを外し、その顔を露わにする。それを見たカクサは、口元を歪めた。

「遅いぞ、騏場(きば)

 三人のうち一人、精悍な顔立ちの、馬の耳を有する青年が振り返った。

「すまない、途中妨害に遭っていた」

「これでも急いだ方よ」

 唯一の女が、もう一人の男とともに騏場の隣に並んでいった。

「さ~て、そろそろやりますかねェ!!」

 男が言うのと同時に、三人の姿が白く歪む。次の瞬間、三人がいた場所には、馬、鶴、蛇を模した三体の異形の姿があった。

「!?」

 目を見開く銀時の前で、騏場だったものが首だけを向けた。

「ここは俺が相手をする。巽とクレイは彼らを守れ」

「はい!」「オウ!!」

 頷くと同時に、三体はそれぞれの武器を手に散開する。

 馬の異形は剣と盾を手に、さながら騎士のように竜の異形に立ち向かい、鶴と蛇の異形は、無数の羽根とダガーを手に、背後の集団に斬りかかった。

「この裏切り者がァァァァァァ!!」

 竜の異形が、雷のような声で怒鳴った。

 銀時は事態の変化について行けず、困惑するばかりだ。

「何がどうなってんだ?」

「な、仲間割れ?」

 同じく困惑する黒羽に、抱えられたネズミが顔を上げた。

「……大丈夫、味方サ」

 弱々しく笑い、黒羽の腕の中から降りる。

「それよりモ、早く逃げロ」

 銀時は一瞬、馬の異形の方を見やるが、すぐに背を向けて走り出す。黒羽も頭を振り、それにつき従った。

「うらぁぁぁ!!」

「オラァ!!」

 怒号を上げ、並走する鶴と蛇の異形とともに、異形集団を蹴散らしながら、出口へと急ぐ。オートバジンがマシンガンを放ち、怯んだ彼らを薙ぎ倒していく。

「急ゲ、もう少しダ!!」

 ネズミが叫んだ時だった。

 またも、ぬるりとした、しかし先ほどよりも冷たい気配が銀時を襲う。

 ガキィィィン

 咄嗟に木刀を背後に向かって薙いだ銀時は、その音と衝撃によろめいた。同時に、肩口から鮮血が吹き出し、ガクリと膝をつく。

「!? 銀さん!!」

 慌てて立ち止まった黒羽。その耳に、知らない声が届く。

「見ーつけた❤」

 瞬間、黒羽の両足からも血が吹き出し、力が抜けてしゃがみ込む。

 じくじくと鈍く痛む足から目を離し、震える体で黒羽は背後にいる誰かを見上げ、硬直する。

 血に濡れた細剣(レイピア)を構えた海老のような異形が、黒羽を見下ろしていた。

「フフッ」

 海老の異形は笑いながら、細剣の切っ先を黒羽に向けた。

 銀時はその姿に、一気に頭に血を上らせた。

「黒羽ァァァァァァ!!」

 傷も無視し、銀時は怒号とともに突進する。

 だが、怒りに燃える銀時の横を、海老の異形が静かに通り抜け、目を見開く。

 二人の姿が重なり、離れ、一拍の間が開く。

 静かに佇む海老の異形の後ろで、銀時は体中のいたるところから鮮血を噴き出させ、ドサリと崩れ落ちた。

「ぎっ……」

 銀時が倒れた瞬間を見た黒羽は、目を剥いて声を震わせた。

「銀さんんんん!!」

 目に涙を浮かべ、目の前の男の名を呼ぶが、男がその声に応えることはなかった。

 同時に黒羽から離れた場所に、馬の異形が倒れこんだ。

「ぐああ!!」

「!!」

 驚く黒羽。その体が、ふいに激痛とともに浮いた。

 竜の異形に蹴られたのだと気付くより前に、黒羽はコンテナの側面に叩き付けられ、「がっ……」と目を剥いて悶絶した。

 さらには倒れるのと同時にベルトが外れ、変身が強制解除される。

「ぅ……あ……」

 激痛にうめく黒羽。その腹に、重い鎧の足がのせられた。

「ガッ」と空気が灰から漏れ、少女の体が地面に沈む。

「まずい……!!」

 異形を相手に奮戦していたカクサが、それを見て舌打ちする。すると、カクサは蛇の異形に目配せを送り、黒羽の落としたベルトの方を示した。

 蛇の異形は頷き、無駄のない動きで急ぎ、ベルトをかっさらう。

 カクサはそれを確認し、他の者の方を向いた。

「ここは一旦引く、撤退だ!!」

「!」

「!?」

 カクサの例に、何人かは銀時たちを見て難色を示すが、すぐに合理的理由を理解し従っていく。カクサも自分のケータイを操作し、自身のサイドカーを呼び出してすぐに乗り込む。

 馬の異形、騏場だけは拳を震わせていたが、カクサの「急げ!!」という声でそれを振り払う。そして、下半身を馬の首から下に変貌させ、ケンタウロスのような姿で撤退を始めた。

 カクサ達は異形をはねのけ、夜の闇へと消えていく。

 何体かの異形たちが追っていく中、竜と異形の姿が歪み、一組の男女の姿になる。

「……ようやく、第一段階終了ね」

「チッ……、殺したりねーな」

 竜の異形だった青年は、不機嫌そうに足を踏み鳴らして去っていく。遅れて海老の異形だった女も、クスリと笑って背を向けた。

「後は任せるわ。丁重に扱いなさい」

 女の命令に、数人の異形が従い、銀時と黒羽に近づいていく。

 迫る足音を聞きながら、黒羽は必死に手を伸ばそうとしていた。

「…………ぎ……」

 朦朧とする意識の中、黒羽はすぐ近くにいて、しかし手の届かない位置で地の海に沈んでいる銀髪の男を、必死に求める。

「……銀、さん」

 震える手が、届きそうになった時。

 少女は力尽き、その手は血の海に落ちた。

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