【完結】銀魂 銀狼篇 ~白夜叉鎮魂歌~   作:春風駘蕩

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第十七訓 隣の囚人は意外とよくしゃべる

 ―――………き……。

    銀時…。

「銀時!」

 強く呼び掛けられ、銀時は寺の縁側で目を覚ました。

 見上げると、そこには銀の髪を垂らし、金色の目で銀時を見下ろす獣人の女の姿があった。切れ長の目を向け、微笑んでくる。

 銀時はため息をついた。

「……伏か」

「調子が悪そうだな。また遊郭で女にフラれたか」

「うるせーよ。おかんかテメーは」

「図星か……」

 伏はフッと笑うと、銀時の隣に腰を下ろした。

「あんな場所に通わずとも、夜が寂しければ私が相手をしてやるものを…」

「黙れロリババア。俺より五つ下のクセに何大人のお姉さんぶってんだ」

 額に青筋を立てて銀時が言うが、伏は涼しい顔だ。

「狼牙の体質を忘れたか? 私はもう婚姻も○○○(ピー)もできるぞ」

「年頃の女がんな台詞を口にするんじゃありません!! メッ!!」

「ふん。こんな性格になったのはお前たちの影響だぞ?」

 伏の皮肉に、銀時は「ったく…」と悪態をついてそっぽを向く。

 伏はそんな銀時を見やり、ため息をついて寺の境内を眺め、銀時の隣で長い間ぼんやりとしていた。

 風に吹かれ、雲が流れる。

 流れていく雲の陰と、風に揺れる草木を眺めていると、唐突に伏が口を開いた。

「……銀時」

「あん?」

 伏の声は、ひどく不安気だった。大人っぽさを演じていた表情も、今はいくらか影を帯び、幼く見えた。

「お前は、もしもの世界を想像したことはあるか?」

「……はあ?」

 気の抜けた返事をする銀時に、伏は真剣なまなざしを向けた。

「…もしも、天人が来なかったら。もしも、先生が連れて行かれず、今も私たちとともにいたら……。もし、私が天人などではなく、ただの地球人の女の子だったら……、お前は、何か変わっていただろうか」

「…………」

 銀時は答えず、伏をまっすぐに見つめる。

 サァァ、と木々が揺れる音を聞きながら、伏はふいに目をそらした。

「……忘れてくれ。いつもの戯言だ」

 恥ずかしくなったのか、頬を染めた伏は手を振って、その場で立ち上がり背を向ける。だが、尻尾は悲しげに垂れ下がっていた。

 その時、伏の背中に向かって銀時は口を開いた。

「……変わんねーよ、何も」

 伏は背を向けたまま、立ち止まった。

「テメーが誰だろーが、昨日が違ってよーが、…テメーがいねー今なんざ、俺にとっちゃあり得ねーよ。過去を思い返しても何も変わんねー」

 銀時はごろりと寝転がり、頬杖をついて空を見上げる。

「テメーが何を迷ってんのかしらねーが、ソイツがテメーの決めた道なら、振り返らねーで、その道へ行け」

「…………」

 伏は黙り、拳を握りしめる。そして、強く噛んでいた唇をゆるめ、微笑んだ。

 その時、銀時が起き上がって縁の下に降り、手ごろな大きさの石を拾う。と、次の瞬間銀時は、その石を草むらに向かって全力投球した。

「そんでテメーら何やってんだァァァァァ!!」

「ぶごををを!?」

 草むらの中に隠れていたモジャモジャとロン毛の顔面に、石はクリーンヒットする。二人は鼻を押さえながら慌てて立ち上がった。

「待っ、ままま待て銀時! 俺たちは別にやましい気持ちで覗いていたのでは……」

「そうじゃ!! わしらは別におんしらのラブシーンなんぞ期待してな……」

「バカ!!」

 ブチッ、と銀時の何かがキレ、銀時はモジャモジャとロン毛に襲い掛かった。

「テメーらの罪を数えろォォォォ!!」

 草むらに突撃し、取っ組み合いを始めた三人に、伏は呆れてため息をつき、次いでその様子を愛おしげに見つめた。

 そこへ、二人の黒髪の青年が近づいた。

「……またやってんのか」

「いつも元気ですね」

 呆れた口調の二人に、伏は肩をすくめてみせる。

 小柄な方の黒髪の青年が腰を下ろし、喧嘩を続ける三人を眺める。

 その隣に立ち、伏は小さな声で何かを呟いた。

「ん? なんか言ったか?」

 青年が気付くと、伏は「何でもないさ」と首を振る。そして、髪をかきあげると、また 唐突に口を開いた。

「……高杉、黒子野」

 呼ばれた青年たちは、訝しげに振り向いた。

 伏は銀時の方を見つめたまま、先を続ける。

「…さっき、決めたことがあるんだ。後で、みんなに伝えてほしい」

 微笑みの消えた真剣な表情で、伏は言う。

「私は……」

 

 

「!!」

 闇の中、銀時の意識は覚醒した。

 まず目に入ったのは、埃っぽい独房を塞ぐ鋼鉄の格子。外のランプの僅かな明かりだけが、中の様子を照らし出している。

「……こいつは」

 銀時は険しい表情で、格子を凝視した。

 一瞬、何がなんだか分からなかったが、もう思い出した。そして、理解した。

 あの化け物達の仕業で、こんなところにいるのか。銀時はイラつきながら、獰猛に口元を歪めて外を睨みつけた。

「…なんや、新入りかいな」

 面白がるような声が、すぐ近くから聞こえた。

 銀時は振り向くと咄嗟に身構え、腰に手を当てる。だがそこに木刀が無いのを感じ、仕方なく警戒したまま目を凝らす。

 闇の中で、長身の体が動く。頭から伸びる、曲がった角の横から、山羊の耳がのぞいた。

 山羊男は銀時を興味深そうに見ながら、再び口を開いた。

「災難やったのう。こんな狭っ苦しい所に連れてこられて。…まぁ、この中にぶち込まれとるぐらいや。ここが運の尽きと諦めるこっちゃな」

 どこか軽い感じのする男に、銀時は目を細めた。

「…あんた、何者だ。ここはどこだ」

「……なんや、知らずにつれてこられたんか。不憫やのう……」

 男はえっこらしょ、と体を起こし、あぐらをかいて向き直る。

「名乗るほどでもないけども、まぁ、ハナガタとでも呼んでくれや。…んで、ここはアニマの地下牢や」

「アニマだと?」

「せや」

 ハナガタは頷くと、銀時の格好をじっと見た。

「あんさんもここに連れてこられとるっちゅうことは、かなり腕が立つんやろう。ここにぶち込まれとる奴らは、同じように多少名のある戦士や傭兵ばっかりや」

「どういう事だ?」

「簡単や」

 ハナガタはため息をつき、頭上を仰ぐ。

「ここにおる連中は、もうじき人でなくなる。鎧の化け物になって、スマートブレインの忠実な下僕(しもべ)になるんや」

「!?」

 銀時は目を見開いた。

 鎧の化け物と聞き、思わず詰め寄る。

「オイ、その化け物ってのは、灰色の奴らか?」

「…そうや」

「じゃあ、教えてくれ。あいつらは、一体なんなんだ?」

「…………」

 ハナガタは黙り、腕を組んでまた説明を始めた。

「オルフェノク。……早い話が、素質があった人間が、いっぺん死んで蘇り、力に覚醒した……いわゆる進化した人間。普段は普通の人間と変わらへん。せやけどあの化け物の姿になれば、生物を圧倒的に凌駕する能力を誇る」

「…進化した人間ねェ」

 銀時は半目で呆れたように呟く。

「多くのオルフェノクは力を隠し、普通の人間に紛れて暮らしてきた。…せやけど最近になって、一部のオルフェノクが現状に異を唱え始めた。力を有する自分らが、なんで陰でひっそりしとらなアカンのかってな」

「…そいつが、内乱のきっかけか」

「せや。支配を望む革命派と、共存を望む反乱派。…アニマは真っ二つに分かれた」

 ハナガタの声は沈み、独房に声は響かなくなった。

「革命派はじきに、オルフェノクの摂理(ルール)を大きく破った。普通の人間の体をいじくり、オルフェノクに改造する技術を得たんや」

「……!?」

「奴らは宇宙中から名のある強者を捕え、自分らの駒として作り変えていっとる」

 ハナガタは説明を終えると、大きくため息をついた。

「ここにおるんは、皆先の大戦やら内乱やらで戦っとった者たちばっかや。…あんさん、よう見たら地球の侍っちゅう奴やろ。特に奴らは、アンタらを狙っとるんや。攘夷戦争ゆうたか? あの戦いで、侍は今や宇宙に知れ渡ったからのぉ……」

 銀時は聞きながら、ある者たちのことを思い出していた。

 ―――狗神ぃぃぃぃ!!

 あのオコゼの怪物は、もしかしたら攘夷戦争の折、伏と戦ったことがあったのかもしれない。そして敗北し、死んでオルフェノクとして蘇った。そして、復讐しようとした。

 人を捨ててまで、恨みを晴らしたかったのだろうか。

 たとえ、その娘が相手でも。

「…………!!」

 銀時はハッとなった。

 思わずハナガタに掴みかかり、詰め寄った。

「オイ、俺の他にガキが連れてこられなかったか!? 俺と同じ銀髪の奴だ!!」

「…………」

 ハナガタは銀時を見つめ、ややあって頷いた。

「……ああ、来たで」

「どこにいる!?」

「……奴らの下っ端が、目も覚まさんうちに連れて行きおった」

 重い声で、ハナガタは答えた。

 銀時は「クソッ!!」と悪態をつき、格子を殴った。

 そんな銀時に、ハナガタは宥めるように語りかける。

「…あんさん、悪いことは言わん。諦め。奴らが連れてったっちゅうことは、もうどういう事かわかっとるやろ?」

 悲痛な顔で、銀時は歯を食いしばった。

 

「…もうあの娘とは、人として会うことはできへんで」

 

 *

 

 白い、不気味なほど白い空間。

 汚れ一つ無い壁と、無数の機械がぶら下がる天井。

 その中心に、黒羽はいた。

 四肢を拘束され、生まれたままの姿で、少女は機械が取り囲む寝台の上で、眠り続けていた。

 僅かな機械の作動音だけが聞こえる中、少女にとって絶望の時間が、刻一刻と近づきつつあった。

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