アニマの中心は、武装した天人達が放つピリピリとした殺気で殺伐としていた。
右も左も、鍛え抜かれた肉体と重層な鎧、そして多様な武器を持つ戦士たちが集い、油と血の匂いが漂っていた。
そんな中を、三人のフードを被った者たちが抜けていく。
先を行く小柄な方に、あとに続く二人のうち背の高い方が問いかけた。
「…信女さん、この人達って一体?」
「…あの宣戦布告を受ける前から、アニマについた腕に自信のある連中。星々から派遣されてきた軍人。そして…、奴らにとっての捨て駒」
新八の問いに、信女は淡々と答える。
よく見れば獣型だけでなく、植物型や昆虫型、軟体型や鳥類型まで、様々なタイプの天人達がいる。
その誰もに一貫しているのは、その目が危険な光を帯びているということだった。
「こんなにたくさん……! そんなに人を殺したいんですか」
「けど、こんなに混ざってると、銀ちゃん探すのも苦労しそうヨ。どうするアルか?」
「私の任務は情報を集めること。人を集める前にやることがある」
信女は言ってから、二人を路地裏に連れて行く。そして、懐から何かを取り出して二人に手渡した。
新八は渡された、布に包まれたそれを見つめた。
「信女さん、これは…?」
「潜入するには、地球人は目立つ。見た目が良く似ている夜兎族も同様。だから変装する必要がある」
言われて神楽は、渡されたものを身につける。
果たしてそれは、神楽の髪の色と同じ色をした、いたって普通のウサギの付け耳だった。何故か、神楽の頬が少しだけ赤くなっていた。
完成した神楽に、信女は言う。
「これで大丈夫」
「なわきゃねーだろォォォォ!!」
目を剥いて、新八はシャウトした。
「ただのコスプレじゃないですか!! こんなんで誤魔化せるワケねーだろ!!」
つーか神楽ちゃんなんで照れてんの!? と突っ込み、新八は信女を睨みつける。
信女はそれを無視し、新八にも渡したものをつけるように促す。
「あなたには、こっち。早くして」
果たしてそれは、フレームが猫の形となった眼鏡だった。
「何で眼鏡だァァァァァァァ!!」
天に向かって吠える新八の前で、信女はなぜか刀を抜き始めた。
「あとは簡単。横についてる本物の耳削ぎ落とせばいい」
「最終的にアンタただ人斬りたいだけだろーが!! やめてくんない!?」
「耳が四つもあるのはおかしい。すぐに終わるから」
「いやだっつってんでしょーが!! ……え? ちょ、マジでやんの? ちょっ、ちょっと待って!! や…やめ……ギャアアアアア!!」
路地裏の絶叫は、上空を飛ぶ宇宙船にかき消された。
結局、耳削ぎは説得し、耳はヘアーピースで隠すことにした。
黒い猫耳をつけた信女を先頭に、三人はさらに中心部に向かっていく。途中すれ違う人々も、徐々にその殺気を強め、新八は気が滅入りそうになった。
ただ、それ以上に複雑だったのが、ほとんど変装なしのすっぴんにもかかわらず、誰一人として咎めてこないことだった。
なんで誰も突っ込まないの?
キャッツ的なメイクするべきじゃないの?
僕の存在って何?
新八は本気でそう思った。
鬱々とした気分のまま、新八は信女について行く。
その時。
「待ちなぁ……」
新たな声が、三人を止めた。
「!」
「…………」
神楽はハッとして、信女は実に面倒そうに、路傍に座り込んでいたボロボロのローブを着た男の方に振り向く。ボロボロの裾からは、緑色のトカゲの鼻先と指、長い尾が小さく覗いていた。
「…何?」
「お嬢さんや、悪いことは言わんからこの先へ行くのはやめときなさい。…命がいくつあっても足らんよ」
男はローブの下でニヤリと笑う。
信女は興味の欠片もないと目をそらした。
「あなたには関係ない」
「大ありさ……。こっから先へ行く奴は、上が許さん限り通すなとお達しでね…」
信女は表情をわずかにしかめ、男に向き直った。
多少の殺気を向けられても、男は涼しい顔をしているようだった。
「たとえそれが、天の遣いであってもねェ……」
「!!」
その言葉に、信女は大きく目を見開いた。
男は珍しく動揺する信女を見上げながら、笑みを深めて言った。
「なぁ、奈落の〝
ガキィィィィン
信目が刀を抜くのと、男の姿が変化して剣を振るうのは同時だった。
体重差から吹き飛ばされた信女は、邪魔な外套を脱ぎ捨て、神楽と新八を連れて逃走を開始した。
「スパイだァァァァァ!!」
「地球の犬がここまで来やがったァァ!!」
怒号を上げて、傭兵達が新八たちに襲い掛かった。中には何人かオルフェノク化する者の姿もあり、無数の敵が三人を取り囲んでいった。
「ほあちゃああああ!!」
神楽が、情けなく慌てる新八に代わって先頭に立ち、群れる傭兵をまとめて蹴り飛ばす。未熟と言えど、三大傭兵部族の一人。雑兵には負けはしない。新八はそのそばに控え、神楽の死角からの攻撃を防ぐ。こうなったらもう仕方がない。敵の合間を抜けて、銀時と黒羽を探さなければならなくなってしまった。
「殿は私が務める」
信女はそう言って、後ろから新八と神楽の背中を守り、敵を次々に斬り伏せていく。鮮血と灰を浴びながら、信女は居合抜きを放った。
「捕えろォォォ!! 生きて返すなァァァ!!」
「追えェェ!!」
全力で新八たちは走り、路地裏に入る。入り組んだ道を走り、三人は砂塵の舞う中を逃走していく。
しかし、その前に続く道からも、怒号が聞こえてきた。
「い"っ!? ヤバい!!」
「袋叩きだったアルか!?」
「いや、袋のネズミだから!!」
慌てて振り返るも、その方向からも怒号が聞こえてくる。
新八の顔が、青ざめた。
「どっ…どうすれば……」
神楽は冷や汗を流しながら傘を構え、信目も刀の柄に手を駆け、三人で背中を合わせて身構えた。そして徐々に、声が近づいていく。
だがその時、新八の足もとの石畳の一つが、ボゴッと浮き出た。
「!?」
驚愕の表情で、足元を見下ろす三人。
数秒後、辿りついた傭兵達の前には、向かいの道から来た傭兵達と、誰もいない空間だけがあった。
「!? どこに消えた」
「探せ! 探せぇ!!」
顔を見合わせた傭兵達が騒がしく立ち回り、離れていく。
その道の下、地下の空間を、灯りが照らした。
「…力のない鼠でも、根性出せば猫にも噛みつくし、袋も破るものサ」
ピョコン、と耳を立て、少年とも少女ともつかないソイツは、新八たちに向かってにやりと笑いかけた。
「特に、窮地ではナ」
不思議な雰囲気に呑まれながら、新八はメガネを元に戻して頭を下げた。
「あの…、ありがとうございました。えっと……」
「…ネズミでいいヨ」
ネズミはふっと表情を消し、灯りを携えて地下通路を先行した。慌てて、新八たちも後に続き、歩き出した。
「この都市の地下にハ、昔水路として使われていタ空間が網目のように通じていル。はぐれたら帰れナイと思え」
「あっ…はい」
「…………なんで、助けてくれたアルか?」
神楽が尋ねると、ネズミはわずかに肩を揺らした。
そして、背を向けたまま、険しくなった表情で先を急ぎながら口を開いた。
「……君らのオーナーに、面目が立たないからだヨ」
「!? 銀さん…!?」
新八と神楽は驚き、思わず詰め寄った。
「銀さんを知ってるんですか、アルゴさん!!」
「誰がアルゴダ!? 確かにほとんど一緒のキャラだけド!!」
振り向いて突っ込んだネズミは、深く嘆息して頭をかいた。
「話は、オイラの仲間と合流してからにしてくレ」
そう言って、ネズミはまた歩き出した。
しばらくすると、一行は巨大な空間に出た。高い天井を、無数の巨大な柱が支える地下の世界。そこには、たき火をたき、テントを張り、いくつもの武器を整備している武装した天人達がいた。
「……!! これって……」
「…カクサ。連れてきたヨ」
驚く新八を押しのけ、ネズミが誰かに言った。
すると、武装していた天人達が道を開け、一人の男が姿を現した。
虎の獣人、カクサは新八たちを見つめ、口を開いた。
「…よく来てくれた。歓迎する」
「あなたは……?」
新八の疑問に、カクサは目を細めて答える。
「俺はこの反乱軍のリーダー、カクサ。革命派の連中の野望を砕き、真の自由を求める者の一人だ」
虎の尾を揺らし、