【完結】銀魂 銀狼篇 ~白夜叉鎮魂歌~   作:春風駘蕩

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第十九訓 マッドサイエンティストはいちいち動きが不気味

 眩しい光を当てられ、黒羽は顔をしかめた。

「うっ……」

 薄く目を開き、すぐにその異様なほどの白色の空間に驚愕し、一気に意識が覚醒した。

「…なんだよ、ここ」

 しばらくの間、呆然となる黒羽。

 だが、妙に寒いと感じると、自分が全裸で拘束されていることに気が付いた。

「…え、あれ!? なんでオレ、裸!? ちょ、誰かァァァ!! 服プリィィィズ!!」

 真っ赤になって叫ぶ黒羽は、ガタガタと拘束を揺らす。お約束か、大事な所は機械が邪魔になって見えなかった。

「ざっけんじゃねーよ!! 俺はしずかちゃんでも不二子でもねーんだぞ!! お色気シーンなんぞ由○かおるに任しときゃいーだろがァァァ!!」

 うがぁぁ、と吠えていると、空間の一部がほとんど音もなく開き、僅かな音を拾った黒羽はキッと振り向いた。

「…やぁ、はじめまして」

 そう言って挨拶してきたのは、深い緑色の髪の男だった。白衣の姿と、微量な薬品の匂いから、研究者だということが分かる。またよく見れば、髪はバラの花のようだし、植物の匂いもする。植物型の天人らしい。

「テメーか、俺をこんな格好にしやがったのは、この変態が」

「もう随分元気らしいね。さすが狼牙の出ということか……」

「…アレ? 聞いてる? 質問してんのはオレなんだけど」

 睨みつける黒羽の前で、男は計器に目を向け、何かを確認し始めた。

「バイタルは安定。外傷もほぼ完治、と。ホント化け物みたいな体質だよねー、君達って」

「余計なお世話だ。良いからさっさとコレ外せテメー!!」

「準備は万全。いつでも始められるなー」

「オイぃぃ!! 最後までガン無視かコラァァァ!!」

 ガシャガシャと拘束を揺らして抗議するが、男は黒羽を空気か何かのように無視する。それどころか、近くに年頃の娘がいるにもかかわらず、頬を紅潮させ、恍惚とした不気味な笑顔になった。

「そして……、ああ!! 次はついに……、彼の番だ!! 私がずっと求めていた彼がようやく私のもとに来るのか!! ああ、待ちきれないよ!!」

「銀さん助けてェェェェ!! 変態が……、変態がいるよぉぉぉ!! ヘルス、ヘルスミー!!」

 瞬間的に目を背けた黒羽が、懸命に叫ぶ。届くはずもないのだが、叫ばずにはとてもいられなかった。寒気で、全身の毛が逆立つほどなのだから。

 その時、笑っていた男がはじめて黒羽に反応した。

「ああ、心配しなくてもいい。君もいずれ彼と同じになるのだから」

「……え?」

 耳を疑う黒羽の前で、男は腕を大きく広げる。

「もはや伝説ともいえる最強の侍、〝白夜叉〟!! 彼は間もなく我々の手で、まぎれもない本物の鬼になる!! この時をどれほど待ったことか!!」

「!!」

 下手な演説を聞かせるような男の言葉に、黒羽は目を見開いた。

 何をするつもりかは知らないが、銀時の身に何か良くないことが起ころうとしている。それだけは、瞬時にわかった。

 男は恍惚となったまま、黒羽を置いて背を向けた。

「さて、無駄話をしすぎた。君の番を早く済ませて、早く彼を迎えに行かなければ」

「…ま、待ちやがれ!!」

 去っていく男に、黒羽は吠える。尚も止まらない男に、黒羽は続けて叫んだ。

「てめぇ、銀さんに何かしやがったらただじゃおかねェ!! 指一本でも触れやがったらテメーの喉笛食いちぎってやるからな!!」

 すると、男の足がピタリと止まった。

 数秒たってから、反転した男は黒羽の前に歩み寄り、見下ろす。

 訝しげな表情を浮かべる黒羽の前で、男はニヤリと黒い笑みを浮かべると、おもむろに手を伸ばして黒羽の白い腹の上に右手の平を置いた。

 ゴギィィィッ

 そして、常人ではありえない怪力で、男の指が黒羽の腹にめり込んだ。

「!? 一……い"ぎゃあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」

 黒羽は激痛に目を剥き、背中をのけぞらして絶叫した。

 男は悶え苦しむ少女を冷たく見下し、舌打ちをする。

「うるさいな、実験動物(モルモット)が」

 先程とは打って変わった乱暴な口調で、男は吐き捨てる。黒羽を見るその目は、まるで汚いゴミを見る目だった。

「ギャーギャーと騒いで私の邪魔をしやがって。私に従うしかないお前にはそれ以外に価値なんてないんだよ」

「うあああああ!!」

 言いながら、男は指の力を強め、黒羽はそのたびに声が涸れるほどの悲鳴を上げ、ビクビクと震えて苦しむ。

 唐突に男は手を離し、黒羽は台の上にぐったりと横たわる。涙と鼻水と涎で顔はぐちゃぐちゃになり、荒い息を吐き出して放心する。

「あの女を超える彼の存在に比べて、失敗作(・・・)であるお前など、ゴミかそれ以下だ」

 血が付いた指先をぬぐい、男はまたニヤリと笑った。

 

 *

 

「キョージ・ロズワ。現スマートブレイン社社長にして、人間をオルフェノクに改造する術を生み出した研究者。つまりは、現ビースタルの最高権力者だ」

 新八たちを前に、カクサは語る。内容が内容だけに、新八たちは身じろぎも出来ない。

「奴は一オルフェノクとして、上位種の生物たる自分たちが人間を支配すべきという思想を立て、革命派の実質的な指揮をとっている」

「…なら、その男が今回の黒幕なんですか?」

 新八が尋ねると、カクサは首を振った。

「いや…、下っ端は知らないが、オルフェノクは皆、一つの目的のために動いている。頭を一人潰しても意味がない」

「じゃあ、どうすれば……」

 新八が呟く。カクサは身を乗り出した。

「…奴らの最終目的は、アークの復活にある」

「アーク?」

 思わず聞き返すと、カクサは鋭い目で頷いた。

「全てのオルフェノクの王、と呼ばれている存在。そいつが覚醒すれば、オルフェノクの力は完全に目覚めるという。…反対に、アークが死ぬようなことがあれば、オルフェノクは滅びるとも言われている」

「!! じゃあ……」

「そうだ」

 カクサは頷き、新八たちの顔を見渡す。

「俺たちの目的は、アークの復活の阻止、もしくは討伐だ」

「分かりやすいアル!!」

 神楽は横で意気込む。難しい話を聞くより、最終目標が分かっているなら体も動かしやすい。

 だが、そこで新八は大切なことに気付き、一同の背後にいる人を振り返った。

「…でも、それじゃあの人たちは……!?」

 その先にいる、騏場、巽、クレイの三人。耳のあたりと体に羽毛の這えた鳥類系の獣人であるクレイは、微笑みながら首を振った。

「…いいのよ。覚悟はできてるわ]

「けど、オルフェノクは滅びるって……」

 新八が言うと、クレイは肩をすくめた。

「…私は、何人もの人の命をすでに奪っているわ」

「!!」

「驚いたでしょ? …でも、私たちオルフェノクは、進化する前から心に闇を抱えているわ。…私は、幼少のころから義妹や家族から疎まれて、周りからいじめを受けてきた。その結果で死んだ私は、彼らを皆殺しにした。…後に残ったのは、持て余した大きすぎる力と、虚しさだけ」

 俯いたクレイは、その後関しげに微笑んだ。

「…だから、もういいの。死ぬとわかっていても、それが誰かのためになるなら、私は少しでも救われる」

「…………」

 新八はその表情に心を打たれ、何も返せなかった。

 カクサは冷めた表情でその様子を見て、呆れたように背を向けた。

「…幸いベルトは三本ともこちらにある。帝王の〝天〟のベルトは別として、〝地〟のベルトは現在適合者が存在しない……。お前たちの準備を待ち、予定通り我々は武装蜂起を決行する。覚悟を決めておけ」

 そう言って、歩き出すカクサ。その背に。

「…ちょっと待つアル」

 小さな、少女の声がかけられた。

 カクサは振り返り、俯く神楽を見やった。

「…ベルトってまさか、黒羽が持ってたやつアルか?」

「…そうだ」

「…黒羽は、銀ちゃんはどうなったアルか?」

「…………」

 カクサはため息をつき、神楽に向き直った。

「…白夜叉殿とともに、奴らに捕らわれている。十中八九、近いうちに改造手術が始まるだろう」

「!! 何ですって!?」

「どういう事?」

 新八は驚愕し、信女は目を細めて詰め寄る。だが、カクサは表情を変えない。

「彼がオルフェノク化し、敵に回られるとこちらとしても痛い。何としてもそれは阻止しなければならない」

「…………黒羽はどうなるアルか」

 低い声が、神楽の口から漏れる。そして、バッと顔を上げ、怒りに燃える目でカクサを鋭く睨みつけた。

「なんで黒羽のことは何も言わないアルか!? 何で助けるって言わないアルか!?」

「…………小娘。よく聞いておけ」

 カクサは起伏に乏しい声で言った。

「あのガキにこれ以上感情移入するのはよせ。無駄でしかない」

「……どういう事アルか?」

 冷たい声。刺し殺すような声が、神楽から発せられる。

 他の者は、困惑するほかない。

「……ベルトは本来、アークが復活した時にその身を守護する守り人として設計された代物。だが高度な技術で作られたそれらは、並の人間では強烈な負担がかかる。帝王のベルトと呼ばれる二本に関しては装着すれば灰化し、瞬く間に死に至る凶悪さ。使用できるものはいなかった」

 神楽は何の話をしているとばかりに表情を険しくするが、カクサは気にせず続ける。そして神楽も、その続きをすべてを理解することになる。

「…そして七年前。ロズワはある実験を試みる。優秀な人間の遺伝子を分析し、母体の卵細胞に投与する。そうして、帝王のベルトに適応できる人間を生み出そうという、狂気の実験だ」

 ギリッ、とネズミが歯を食いしばる音が聞こえた。

 カクサも拳を握りしめ、続ける。

「その最初にして最後の被験者。……………………それが、乾 伏」

 全員が、凍りついた。

 聞きたくなかった、聞いてしまった。

「……な、七年前って……」

 新八は、震える声を絞り出した。いやな予感しかしない。けれど、聞いておかなければ後悔すると思った。

「だが実験は失敗だった。生み出された個体は、素体よりも遥かに劣る身体能力しか有しておらず、計画は凍結せざるを得なかった。伏姫はその後スマートブレインから脱走し、その後流行病で死去。残された個体は、輸送艦に紛れて、素体の母星である地球へとやってきた。……乾 黒羽と名乗って」

 

 *

 

「…………なんだよ、ソレ」

 茫然となった黒羽は、白衣の男―――ロズワを見上げて声を漏らした。

「…オレが、実験動物(モルモット)? …お袋は、オレをただの道具として生んだってのか? …………ふざけんなよ、そんな……」

 キッと睨みつけ、黒羽は歯を食いしばった。

「そんなふざけた話があるか!? お袋はそんな奴じゃねェ!! お袋は一度たりともオレをそんなふうに扱ったりしなかった!! お前の話なんてでたらめだ!!」

「……彼女が何を思っていたのかは、私も知らない。だが、私は嘘などつかない。腹芸はあまり得意ではないのでね」

 ロズワは気持ちの悪い笑みを浮かべ、黒羽をいやらしく見下ろす。真実を知り、自分を根底から覆された少女の恐怖する姿に、ひどく嗜虐心を煽られているようだった。

 ふと、ロズワは考え込み、また笑みを深めた。

「…なら、もう一ついいことを教えてあげよう」

 睨みつける黒羽に、ロズワは告げる。

 絶望の一言を。

「彼女に投与した遺伝子、あれの元はね…………私の血なんだよ」

 思考が完全に止まった。

 一気に青ざめた黒羽の前で、ロズワは自分の胸に手を当て、覗きこんでくる。

「どうかね? 実の父と対面した感想は」

 その瞬間、黒羽は足元がガラガラと崩壊していくような感覚に襲われた。

 そこの見えない漆黒の闇の中に放り出され、自分を完全に見失ってしまった。

「…………嘘だ」

 言葉が、自然に漏れる。

 だけどそれは、自分のものであるかもわからなかった。

「嘘だ……うそだ……ウソだ……!!」

 ガタガタと体が震え、口が渇く。目からは涙がこぼれ、胸の内が空洞になって、中を嵐が吹き抜けるようだ。

 心が悲鳴を上げる。バラバラに引き裂かれていく。

「嘘だァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 涙を流し、黒羽は絶叫した。

 荒い呼吸で胸が上下し、全身に汗が噴き出す。

 怖い、恐い、こわい、コワイ!!

 ヒューヒューと短くしゃくりあげながら、黒羽は恐怖した。

 ロズワが嗤い、背を向ける。準備は整った。

「始めろ」

 それと同時に、黒羽の前に佇んでいた機械が動き出した。

 無数のメスと針、医療機器が、蠢きながら近づいてくる。それでも黒羽は動けなかった。糸の切れた操り人形のように、虚ろな目で転がるだけだ。

「…嫌、いや……イヤだ……」

 視界が黒く染まっていく中、黒羽は思う。

 一人の、白い鬼を。

「銀さん………………………………………助けて」

 そして、全てが闇に包まれた。

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