オオオオオオオオ!!
砂の星を、無数の灰色の怪物の歓声が包む。
街の中心に一人の男、社長にして総帥たるロズワが立ち、演説を行っているのだ。
[―――時は来た!! 闇に生きてきた我が同胞たちよ!!]
歓声とともに、スピーカーによる大声が轟く。
ロズワの傍には、竜と百足の異形、ラッキークローバーの二人が控え、その周囲を例のボディスーツを纏った武装兵たちが守る。
[我らはこの力を恐れられ、これまで歴史より葬られ続けてきた。だが、もうそんな時代は終わりを告げる!! 全てを破壊し、全てを手に入れる準備はできた!! 我らを虐げてきた下等生物共に、牙をむく時が来たのだ!!]
その瞬間、ロズワの姿が歪み、白い異形へと変貌する。
その姿は、他のオルフェノクとは一線を画す、悪魔のような姿だった。
天を仰ぎ、ロズワ―――ローズオルフェノクは吠えた。
[我らこそ至高の種族、オルフェノクだ!!]
一際大きい歓声が響き渡る。
それと同時に、動く影の姿があった。
町の陰を駆け、集っていく影たちに向けて、トラの耳の男は、無線を繋げた。
「…始めろ」
その瞬間、ビースタルのいたるところで、赤い火が爆ぜた。
ドゥゥゥン!!
衝撃と轟音が駆け抜け、大地が揺れた。
「敵襲ぅぅぅぅぅぅ!!」
誰かが叫ぶ。
一時混乱した兵士たちは、突貫してきた反乱軍の進撃に出遅れた。
怒号を上げて、ぶつかり合う両者。力の差はあれど、奇襲により反乱軍に若干軍配があがり、戦況は均衡した。
人間と
決して相容れない二つの存在が、ついに激突した。
爆ぜる炎、交わる剣戟、轟く怒号。
カクサは建物の陰から戦況を見やり、新八たちの方を振り向いた。
「……本部に侵入した後、四班に分かれる。その後は言った通りだ」
カクサがそういうと、クレイと巽が頷き、騏場が「分かった」と答えた。
すると、巽が緊張した表情の新八に気付いた。
「どーしたよ坊主。戦争は初めてか?」
「……紛い物なら、何度か。でも、内乱に参加したのは初めてですかね」
言ってはみたものの、そう言った事件の時には基本逃げ回っていた。主に紅桜編とか星海坊主編とか真選組動乱編とか。
考えてみたら結構死にかけてるな、と思いつつ、新八はゴクリとつばを飲み込む。
巽はそんな新八の肩を叩く。
「……すまんな、うちの頭が無理言って」
「い、いえ……」
巽は新八の前に出て、戦況を見やりながら言う。
「野郎も、昔はもっと素直な良い奴だったんだがな……。先生が俺たちを置いていってから、野郎もこの星も変わっちまった」
「先生?」
「伏のことサ」
新八の疑問の声に、ネズミが答えた。
「…オイラ達はみんな、伏の教え子なんだヨ」
目を見開く新八に、巽がまた目を口を開く。
「あの人がまだスマートブレインにいた頃、あの人はしょっちゅう抜け出して、孤児だった俺たちに勉学を教えてくれてな……、あいつは、その中でも特になついていた。そのせいか、逃げ出したことにかなりショックを受けてな。その原因かもしれない黒羽ちゃんには、どうしても辛く当たっちまって……」
「巽……」
肩をすくめて話していた巽に、凍えるような低い声が届いた。
ギロリと射殺しそうな目で睨んでくるカクサに、巽は「怖い怖い」と首を振った。
カクサが前を向くのと同時に、新八が再び口を開く。
「…じゃあ、みなさんが戦うのって……」
「…ああ。俺はともかく、あいつは先生の弔い合戦みてーに考えてんじゃねーのかねェ」
言ってから、巽は目を細める。
そこへ、クレイが微笑をたたえながら近づいた。
「……だから、あなたたちが来てくれてすごくうれしい。私たちの味方がいるって、わかったから」
「クレイさん……」
「……あの人に拾ってもらった時から、ずっとこんな日が来るのを待ってた。この命を、あの人のように誰かのために使えるって思えるなら」
クレイは、そこで笑顔を見せた。
「私、もう何も怖くない」
「…スイマセン、やめてくれませんか。そういうのやめてくれませんか」
新八が青い顔でそう返した。聞いたことある台詞の上に、クレイの持つ雰囲気が非常に似ているため、縁起が悪いことこの上ない。
そんな新八の耳元に、巽が口を寄せた。
「……坊主、オレなぁ。この戦いが終わったらアイツに告白すんだ」
「やめてくんない!? そういうのマジでやめてくんない!? シャレにならない気がしてきたんスけど!?」
「もし俺に何かあったら、……先に行け」
「オィィィやめろつってんだろーが!! わざとだよな、わざとやってんだよな!?」
目を剥いて叫ぶ新八。
「…いい加減士気に関わる冗談はやめロ、巽」
見かねたネズミが言い、巽は肩をすくめて離れていった。
「…すまんネ。ああいうやつデ」
ネズミは新八に謝ってから、目を細めて空を仰いだ。
「みんな強がってんのサ。伏の理想を信じて歩んできタこの荊の道に、迷わないようニ。…アイツと違ってナ」
「アイツ?」
尋ねた新八に、ネズミは表情を険しくした。
「…もう一人いたのサ、伏を信じて、そして裏切った大馬鹿野郎ガ」
*
カクカクと関節を動かし、無数の機械人形が迫る。
そのうちの一体の胸に、青い光刃を備えたトンファーが突き刺さり、その機械人形は一瞬で爆散する。白い中華軍服に、青いラインの入った白い装甲を纏った男は、青い光刃のトンファーを振るい、機械人形たちを次々と屠っていく。
刃で体を切り裂き、貫き、叩き潰していく。
最後の一体を、蹴りで頭部を千切り破壊すると、男は深く息を吸い、構えを降ろす。
そこへ、一本の通信が入った。
[しゅっ……、主任! 社長の演説中、反乱軍の暴動が!!]
「……少しばかりボリュームを下げろ。見苦しい」
男はベルトからケータイを外し、光とともにスーツを消す。
羊の角の生えた藍色の髪の男は、ケータイを手のひらの上でポンポンと弄びながら、不機嫌そうに振り向いた。
「奴らがここで暴れだすのは予想の範囲だ。貴様らで対処しろ。…それに、どうせ表の派手な動きは囮だ。内部の守りを薄めるな」
「りょ…了解!!」
通信を終えた男は、深いため息をつく。
その背に、別の声がかけられた。
「相変わらず見事ですね、
「……タクマか、何の用だ」
タクマと呼ばれた触角の生えた男は、眼鏡を押さえて笑う。
「社長より集合がかかりました、お急ぎを」
「…ふん、俺が出るまでもないだろうに」
「念には念を。逆らう愚か者は徹底的に潰せとのことです」
「チッ……」
坤 レオは舌打ちし、ケータイを懐に入れる。
「…あの暴君竜は何してんだ?」
「ご想像の通りです」
「前線か……」
レオは憎々しげに顔をしかめ、タクマのそばを通り過ぎる。
「…あの女は?」
「ロードにご執心でして…。離れません」
「あそこまでとなると、もはや異常としか言いようがないな」
言いながら去っていくレオ。
その背に、タクマはまた笑う。
「…彼女にはもう会わないのですか? 恩師の娘なのでしょう?」
「…………もうあの人には興味はない」
レオは立ち止まり、また歩き始めた。
その口元に笑みを浮かべながら、男は道を進んでいく。
「俺はもう、あの人を超えた」
広い、そして深く暗い墓地のような空間。
スマートブレイン社中枢の地下の巨大空間に、奇妙な光が灯っていた。
黄色に近い光の束が、一点に集まっている。時折脈動し、点滅を繰り返し、ウネウネと生物のように蠢いていた。
それを見つめる、一人の黒い髪の女がいた。
心底陶酔した表情で、光の中心を熱のこもった目で見つめている。
「……いよいよ、時が近づいておりますのね………」
[…………力ガ肉体ヲ呼ビ覚マシテイクノヲ感ジル……]
姿の見えぬ声を聞き、女は一人、その時を待つ。
一瞬、光が歪に蠢いた。
[……戻リ任ニ励メ]
「御意に」
頭を垂れ、女は背中を向けて退室していく。
そこにいたのは、白い異形。
圧倒的存在を放つ、オルフェノクの王たるもの、人間の進化の頂点。
名を、アーク。