【完結】銀魂 銀狼篇 ~白夜叉鎮魂歌~   作:春風駘蕩

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第二十一訓 侍コレクション

 独房の中、銀時は黙っていた。

 山羊の男は、ハァ、と深くため息をついて頭をかく。

「…あんさんや、現実っちゅーんは思とるよりも残酷や。今回はしゃーない。相手がどーにも悪かった。まぁ…、あの子も運が悪かったんやと忘れることや」

 男は言うが、銀時は俯いたままなにも返さない。

 男は顔をしかめ、またため息を一つ。

「人間が何で辛いことがあっても生きていけるか分かるか? …忘れられるからや。なんぼ辛いことがあっても、忘れるからまた立てる。親が死んでも、兄弟姉妹がおらんなっても、友達(ダチ)や仲間に裏切られても、傷ついても、……自分の頭空にして、まっさらにできるから、人間はまた立ってられる。

 後悔やら因縁やら、そんなもんに囚われとったら、人間いつまでたっても進めへん。被った自責の念で、いつか押しつぶされてまう。後ろばっか向いとったら、明日なんかいつまでたっても拝めへん。

 そんなん、誰も望まへん。死んでった奴ら、浮かばれへん。自分らは、置いてった奴ら踏み越えていかな、もうどこへも行けへんよーなってまう」

「…………」

 男の言葉に、銀時は身じろぎすらしない。片膝を抱え、黙りこくるばかりだ。

「……ワイは、後悔ばかりやった。あの時こうしとったら、ああ言っとったら、あいつら死ぬことなかった。…そう考え続けとった結果、なんも()うなってしもとった。……失くしたもんおっかけて、全部失くしてしまうんなら、ワイはもう、全部捨てるほかは……」

「…………忘れらんねーよ」

 ふいに、銀時は強く言った。

 男は目を見開き、振り向く。

「なくすのが怖ェーから、全部捨てる? 冗談じゃねーよ。俺ァ、忘れるわけにはいかねーんだよ。…………俺には」

 口を閉じ、顔を上げる。目を見開き、格子の向こうを見据える。

 そこに、絶望などなかった。

 どこまでも鋭く、強く光る、刃があった。

 

「護らなきゃなんねェ、約束があんだよ」

 

 *

 

 粉塵舞う、人間と怪物の戦場。

 始めこそ優勢を見せた人間たちだったが、次第に押され始めた。

 反乱軍のリーダー・カクサが彼らを使ったのは、囮としてだ。少数の本体が侵入し、アークを討つまでの時間稼ぎ、捨て駒でしかない。

 そんな中、反乱軍の一角が崩れ始めた。

 いよいよ軍配が、革命軍に傾き始めたのだ。

 

 本隊もまた、戦況は思わしくなかった。

 四つの班それぞれを、足止めする者が現れたのだ。

「!!」

 それぞれの班が、同時に立ち止まる。

 カクサが率いる班には、ムカデを模したようなオルフェノクが率いる一団。

 クレイが連れる人の前に、海老の異形が。

 騏場が向かう道の途中に、獅子型のオルフェノクが先頭に立つ一小隊。

 巽が新八、神楽、信女とともに行く先には、一番遭いたくなかった、竜の異形の姿があった。

 一同はそれぞれの得物を構え、変貌し、戦闘に入っていく。

「……来るぞ」

「オオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 開始の合図と言わんばかりに、竜の異形の咆哮が轟き渡った。

 

 *

 

「……俺はよ、オッサン」

 牢の壁に背を預け、銀時は口を開いた。

 男はそれを黙って聞く。

「ガキの頃、伏の奴と約束してたんだ。他愛もねー、ガキっぽい約束をな」

 

 

「―――ってェ!?」

 朽ちた寺の賽銭箱の前で、座っていた青年は声をあげた。

 隣にいた娘が、ハンカチで青年の腕についた傷を拭いながら半目を向けた。

「我慢しろ。自業自得だろ? あんな無茶苦茶に突っ込みやがって。ヅラがまたキレてたぞ? 頼むからもう少し頭を使えとな」

「チッ、余計なお世話だっつの。あのロン毛が」

「まぁ、お前に計略など無理だろうがな。どうせ髪の毛と同じパーだし」

「オイ、伏。ぶっ殺すぞ」

 額に血管を立たせ、銀時は包帯を巻く伏を睨みつける。だが、伏は涼しい顔をしながら、「ハッ」と鼻で笑った。

 しかし、銀時の白装束に付く灰色や赤い汚れを目にし、耳と尾を下げる。

 赤色の方の半分は敵のもの。もう半分は……。

「…銀時」

「あ?」

 銀時は気だるげに返事をしてから、目を瞑る。

 伏は潤む目で、苦しそうに銀時を見つめていたのだった。

「…戦うなとは言わん。仲間のためだ。…だがせめて、せめて私の前だけでいい。一人で無理をしないでくれ」

 真剣な表情で、伏は懇願するように言った。

「私のワガママかも知れない。…だが私は、これ以上大切な繋がりを傷つけられたくないんだ。……大切な人を、失いたくないんだ」

 銀時は呆気にとられていた。伏という女は、見た目こそ娘らしいが、歳は十ほどしかない。その上、大人より博識のくせに、負けず嫌いという子供のような面もある。

 だが、こんな風に弱い彼女を見たことはなかった。

 心の底から怯えるような伏を、銀時は知らなかった。

 だがその表情の理由を聞き、銀時の額にまた青筋が立った。

「アホか」

「でっ!?」

 ゴスッ、と銀時のチョップが炸裂する。「なっ、何を…」という伏の抗議を遮り、銀時はビッと指を差す。

「テメーが言うなテメーが。常に前線で暴れてんのはどこのどいつだ?」

「…いや、それは」

「テメーに心配なんぞされなくても、俺ァ立派に天寿を全うしてやるよ。テメーより長生きしてやるよ」

「…………」

 伏は涙目で銀時を睨み、あぐらをかいてそっぽを向いた。

「…心配して損した。悪かったよ、ガラでもないこと言って」

「それでいーのだ」

 一瞬、誰のまねだ? と思ったが、伏はあえて聞かなかった。

 それからしばらく、空を仰いでいると、また唐突に伏は銀時の方に身を乗り出した。

「…ならば、銀時」

「今度は何?」

 半目を向ける銀時に、伏は「ん」と小指を立てて向けてきた。

「………は?」

「約束の儀式なんだろ? コレ。いついかなる時も、どんな手を使っても…、必ず、私の元に戻ってこい。私も、必ずお前の元の戻る。…どんな時も、どんなになっても」

「………………」

 銀時は本気で呆れた表情で伏を凝視した。

「お前、それガキの遊びみたいな儀式だぞ?」

「んなっ!? …し、仕方ないじゃないか、これしか知らないんだから!! だったらお前、これ以外のやり方知ってんのかよ!?」

「わ―った、わーったって。…しゃ―ねーな」

 言ってから、銀時は小指を立て、伏の者と絡める。

 

 ゆびきりげんまん うそついたら はりせんぼんのます

 

「ゆびきった……」

 歌ってから、伏は嬉しそうに笑い、銀時もふっと微笑んだ。

 

 ―――約束だぞ、銀時。

 ―――ああ、……約束だ。

 

「あのヤロー。先に約束破りやがって…、ザマぁねーよ」

 天井を仰ぎ、銀時は笑う。しかし、すぐに真剣な表情に変わり、膝を立てた。

「…けどよぉ、オレは破らねーぜ。誓ったアイツはもういねーけどよぉ、…せめて、せめてあいつが最期に遺した大事な奴は、一人にしちゃなんねェ。俺だけは、あいつとの約束を忘れるわけにはいかねェ…。

 俺はもう全身泥まみれ灰まみれだ。失った仲間の灰背負って、地べた這いずり回って、白なんざどこにも残ってねーんだよ。…それでも、俺の中にある記憶(こいつ)は、汚れちゃいねェ。俺の中で笑って、泣いて、怒って、また笑って、生き続けている仲間は、ずっときれいなまんまなんだよ。忘れようにも、朽ちちゃくれねーし、錆びちゃくれねー。

 …こいつだけは、忘れらんねェ。忘れちゃいけねェ」

 ザリ、と砂を踏み、銀時は地に立つ。

 

「俺ァこの身が滅びようとも、あいつらの記憶が生きる(こいつ)とともに、どこまでだって前に歩き続けてやるよ」

 

 そう言って、銀時は男を振り返る。

「ソイツが、俺が伏と誓った約束だ」

 それが、答え。

 夜叉(おに)が誓った友との答え。

 それだけで十分だ。男はふっと微笑んだ。

「…ワイは、あの子に何もしてやれなんだ」

 ボロボロと、男の体が灰となって崩れていく。

 それでも男は、笑って銀時を見つめていた。

「…護ってやってくれ、白夜叉」

「…ああ。その依頼、万事屋が引き受けたぜ、()()()殿()

 最後に男は笑い、静かに崩れ去った。

 

 *

 

 ズドォォ、と壁を突き破り、反乱軍のメンバーが火に包まれた。

 戦況は見る間に不利になっていく。味方の半分以上がすでに倒れ、残っている者も疲労と負傷でほとんど使い物にならない。

 ふと、メンバーの一人が何かに気付いて空を見上げる。

「…見ろ、アレ」

 つられて、他のメンバーも順々に顔を上げ、その表情を絶望に染めた。

 砂塵の舞う、黄色に近い色の空。

 そこには、何隻もの戦艦が浮かんでいた。

「あっ…アレは!!」

「てっ…敵の増援か!?」

 予想外の事態に、戦士たちに動揺が広がり始めた。

 

 竜の咆哮が轟く。

 暴君の一撃が、神楽と新八を吹き飛ばした。

「うわぁ!?」

「のわっ!!」

 二人は壁に激突し、肺の中の空気をすべて吐き出される。

 信女と巽も抜刀するが、鋼鉄の籠手に阻まれ、刃が通らない。逆に弾き飛ばされ、舌打ちしながら着地する。

 再び吠える竜の異形に、敵わないと知りながら、四人は身構える他になかった。

 

 空中に無数の羽根が舞う。

 海老の異形は、右手に持った細剣(レイピア)でそれらをことごとく撃ち落していく。

 周りを見渡しても、味方は一人もいない。皆敵と相討ち、残るは自分たちだけだ。クレイは翼を広げて、羽をまき散らしながら海老の異形に接近し、白兵戦に移行する。

 だが、海老の異形の余裕の表情は歪まなかった。

 

「ギャアアアアア!!」

 悲鳴を上げて、百足の異形が盛大に倒れた。

 追撃をかけ、カクサは起き上がろうとするタクマを蹴り飛ばし、光剣で切りつける。

 その顔は、終始笑顔だった。

「トドメだ」

 カクサはケータイのメモリーを取り外し、光剣に差し込む。

EXCEED CHARGE(エクシード・チャージ)

 光剣が輝きを増し、カクサはそれを構える。よろめくタクマを狙い、剣を振り上げて突進していく。

 そのままⅩ字に切り裂こうとしたその時。

 ドドドドドドドドドッ

 カクサの装甲に、青い無数の光弾が撃ち込まれた。

「ぐおぁ!?」

 攻撃を強制キャンセルされたカクサは、装甲から火花を散らせて倒れる。

 怒りに顔をゆがませるカクサは、空中に佇むその男を見つけ、さらに表情を憎悪にゆがめた。

「…久しぶりだな、カクサ」

「レオ……貴様ァ!!」

 飛行ユニットを背中につけ、白い装甲を纏うレオは、不敵に笑った。

 ゴッ、ゴッと硬い足で音を立て、牢に近づく者がいた。ペリカンとキリンの二体の異形が、鍵を手に牢へ向かっていた。

「…おい、上が騒がしいのに奴を迎えに行くって、あの人どんだけ執着してんだ?」

「さーな、変態の考えは俺らにはわからん」

 話しながら、横道を通り過ぎる二体。

 そこに一人の黒髪の男がいたことに、二体は気付かなかった。

 二体は目的の房につくと、鍵で錠を解く。扉を開き、不遜な態度で中にいる男を見下ろした。

「オイ、早く出ろ。社長様のお呼び……」

 言いかけたペリカンの方に、白い影が跳ぶ。

 銀時は猛烈なスピードで突進し、ペリカンの異形の首を掴んで向かい側の格子に叩き付けた。

「だばぁ!?」

「きっ、貴様何をぶぁ!?」

 奇声を発した男を離し、銀時はキリンの方に回し蹴りを放つ。

 倒れ伏した二体を置き、銀時はすぐさま逃走を開始した。

 だが、騒ぎを聞きつけたらしい兵たちが、前方を塞ぎ始めた。

「止まれェェ!! 貴様に逃げ場は無いぃぃぃ!!」

「チッ」

 そう言われて、止まるわけにはいかない。

 強行突破を考えたその時。

「おとなしくそこで止まっ……」

 兵たちの前にいたカブトムシ型の異形の声が途中で途切れたかと思うと、突如その体が青い炎に包まれ、一瞬で灰に還った。

「!?」

 目を見開く銀時の前で、兵たちも灰となって崩れていく。

 その奥に、一人の男が立っていた。

「おっ…、お前……」

 思わず、声が漏れる。

 知っていた。

 覚えていた、今度は。この男の名を。

「…行ってください。銀時さん」

 口元に微笑を浮かべながら、男は銀時に言った。

「行って、護ってあげてください。あなたの大切な人たちを」

 刀を鞘に納め、男は銀時を見つめる。

「……僕たちの、約束を」

 

 *

 

 ドォン ドォン ドォン!!

 飛来した戦艦が、何度も一斉に火を噴く。だがそのどれもが、スマートブレインの主要機関を攻撃していた。

「なっ…なんだァ!?」

「味方なのか!?」

 突然の事態に、敵も味方も混乱する。

 だがそこへ、ある集団が登場した。

 黒い制服に身を包んだ、侍達。その先頭に立つ、サングラスをかけた初老の男が、煙草を咥えながら口を開いた。

「オイ化け物ども。今から3秒以内に道空けろ。でねーと全員吹き飛ばす」

 そして、男が「1…」と言い終えるが早いか、オルフェノク達が爆発で吹き飛んだ。

「にっ、2と3はァァァァァ!?」

「うるせーな、男は1だけ覚えときゃ他は十分なんだよ」

 破壊神は、そう言ってギロリと異形たちを睨み、煙を盛大に吐き出した。

 

「あっ……あれは……」

 新八たちの元にも、彼らは姿を現した。砲撃で開いた壁の穴から、シルエットを見せる。

「おう、手間ァかけさせたな、テメーら」

「おかげで上も、ようやく重い腰をあげましたよ。お疲れ様でした」

 煙草を咥えた男と、片眼鏡の男。

 漆黒()純白(しろ)。二つの制服の侍たちが、再び集った。

「どーも~、お巡りさんで~す」

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