【完結】銀魂 銀狼篇 ~白夜叉鎮魂歌~   作:春風駘蕩

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第二十二訓 獣っ娘協奏曲

 砲撃の雨が降り、スマートブレインは幾度も地響きに襲われる。

 そんな中、剣と盾を備えた騎士と、薔薇の怪人は互いの血肉を抉りあう戦いを繰り広げていた。

「オオオオオ!!」

 騏場は剣を振るい、ロズワに迫る。だがロズワは、それらを軽々とかわし、何度もカウンターを叩き込んだ。

 呆れたようにため息をつき、ロズワは肩をすくめる。

「剣に迷いがあるよ? 君は何に悩んでいるんだい?」

「うるさい!!」

 騏場は吠え、剣を振るう。だが図星らしく、剣筋が乱れていた。

「答えないなら、私が言ってあげよう。…恐いんだろう? アークを倒したその後が」

「!! …黙れぇ!! 違う!!」

 挑発するように言ったロズワに斬りかかる。だが大きく空振りし、体勢が崩れたところを背後から蹴り飛ばされた。

「君自身はいいんだろう。…だが他の同胞たちはどう思う? 死ぬことに、消滅するかもしれないという事実に向き合えるかい? 君はそれを背負えるかい?」

「…だ、まれ……!!」

 騏場は起き上がり、再び斬りかかる。だが反撃として、剣も盾も弾き飛ばされた。

「仮にアークの復活が阻止されたとしよう。その先の我々は果たして幸福を手に入れられるだろうか? 普通の人間からすれば、我々は化け物だ。拒絶され、存在を否定されるのは目に見えている」

「ぐっ……」

「そんな世界を、君は望むのかい? 人のために戦った君を迎えることなく、冷たく拒む世界を君は受け入れるのかい?」

 ロズワは騏場の腕を捻り上げ、組み伏せる。頭部を掴み、外の光景を見せつけた。

 戦艦からの砲撃が、建物もオルフェノクもいっしょくたにして業火に包む。

 まるで掃除をするかのように、あらゆるものを吹き飛ばしていく。

「…………!!」

「見たまえ、彼らは一切の慈悲などない。我々の全てを否定し、破壊するだけだ。人間の敵か味方など、一切考慮しないだろう」

 ロズワは手を離し、騏場を解放する。

 騏場は、立ち上がらなかった。

「認めたまえ!! 乾伏がしてきたことは無駄なことだと!! 彼女が稀なケースなのだと!!」

「…………」

 騏場はその場で膝をつき、砂利を握りしめる。

「憎め、恨め!! 全てを破壊しろ!! 全てを炎で焼き尽くせ!!」

 そして数秒の後、立ち上がって、ゆっくりと天を仰ぐと、拳を握りしめた。

「…ぅおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 咆哮が上がり、騏場の姿が変貌していく。

 鎧はさらに鋭く、顔はさらに凶暴に。

 声が途切れ、彼が顔を上げた時。

 騏場がいた場所にいたのは、身の内に憎悪が渦巻く、修羅だった。

 

 *

 

「……おそい」

 怪物と侍。

 両者が睨みあい、沈黙が流れる空気を最初に破ったのは、信女だった。

 佐々木は悪びれた様子もなく、信女に目を向けた。

「すいませんね。上の人たちがなかなか出征を認めてくれなかったもので。あ、これ差し入れのドーナツで……」

 そう言って差し出されたドーナツを、信女は佐々木の手首ごと食った。

 新八は目を丸くして、佐々木を凝視する。まさか、来てくれるとは、この男が。

「さ、佐々木さん……」

「何をしてるんですか。とっとと行きなさい。ここからはエリートの領分ですよ」

 手から食いついて離れない信女を引きはがそうと悪戦苦闘しながら、佐々木は言った。振り回してようやく離れ、涎でベトベトの手をハンカチでぬぐう。

 新八は言葉を失くし、そしてすぐ背を向けた。

「…お願いします!!」

 ダッシュで奥へ向かい、神楽と巽も付き従う。

 信女もまたドーナツを呑みこんでから、少し考えて後を追った。

 佐々木はため息をつき、竜の異形を見やった。

「いいんですか? 行かせちゃって」

「ケッ、あんな雑魚の相手なんざつまんねーよ」

 竜の異形はそう返して肩をすくめる。

 そして、その顔を邪悪に歪めた。

「お前は楽しませてくれるか?」

 言うが早いか、竜の異形は咆哮と共に佐々木に襲い掛かった。

 隊士たちが身構える中、佐々木は迫る剛腕を前に微動だにしない。鋼鉄の籠手が、佐々木に届きかけたその時。

 ゴガンッ

 鈍い音とともに、その一撃が何者かに止められた。

「!」

 竜の異形は驚愕し、腕を交差させて籠手を止めている、オレンジの髪の青年を凝視した。

「…へぇ、面白そうな奴だね」

 チャイナ服に近い服装の青年は、そう言ってにっこりと笑った。

「俺を楽しませてくれそうな強い奴、見ーつけた。

 竜の異形は呆気にとられ、次いで笑い始めた。

「クク……いい。良いぞお前。最高じゃねェか!!」

 高らかに笑い、再び籠手を振り上げる。

 オレンジの髪の青年、神威もまた凶悪な笑みを浮かべて拳を構える。

 最強にして最凶。

 史上最悪の戦いの火蓋が、斬って落とされた。

 

 ズドガァン

 沖田のバズーカが火を噴き、海老の異形の周囲を炎が包む。怯む異形に、土方が斬りかかった。

「ウオラァァァァ!!」

「くっ……」

 海老の異形は細剣(レイピア)で受け、受け流す。

 クレイは信じられないとばかりに目を見開き、黒服集団を凝視した。

「……これは、一体」

「クレイ殿」

 その背後に、近藤が声をかけた。

「あとは我々にお任せください。残った者たちも、保護に回っています」

「……あなたたちは、一体……」

 クレイの呟きに、近藤はニッと笑う。

「なぁに、ただの腐れ縁というやつですよ」

 クレイは呆気にとられながら、聞こえてきた土方と海老の異形の怒号を耳にし、すぐに身構えた。

 

 スマートブレイン内部武器庫。

 量産型強化装甲兵ライオトルーパーたちが銃剣を手に、それぞれのバイクに乗って整列していく。そのうち、隊長格の男が声を張り上げた。

「急げェェ!! 侵入者にこれ以上先に行かせるなぁぁ!!」

 隊長格の男は慌ただしく動く中、舌打ちして顔をしかめる。

「使えない捨て駒共が……」

 そう、聞こえないように呟いた時だった。

 ドゴォォォン

 爆音が響き、整列していたライオトルーパーたちと隊長格の男が吹き飛んだ。

 一瞬で屍と化した男たちの頭を、女の足が踏みつぶす。

 そこにいたのは、編笠をかぶり、外套を纏った人間の女と、チャイナドレスを纏ったウサギの耳の天人。

「脆いのう。よくこげな用意で宇宙の支配なんぞ画策したもんじゃ」

「驕りとは醜いですわね」

 二人の美女、陸奥と兎姫はそう言って、廃墟のようになった武器庫を眺めた。

「儲けに目がくらんで、自分の財布の中身も見えなくなったのでしょう。何ともまぁ、懐の小さい」

「……なら、懐に性病を抱えたわしらの社長はどうすればよい?」

「……症状が頭部にも出ていますし、手遅れでしょう」

 この場にいない社長に毒舌を放っていると、二人の周りを残ったライオトルーパーたちが取り囲み始めた。

「ほほぅ、根性だけはしっかりしちょるの」

 ライオトルーパーたちが、整列し、一斉に銃口を向ける。

「じゃが、遅い」

 陸奥の姿が、一瞬で消え失せる。

 と、思った瞬間、陸奥の剛拳がライオトルーパーの顔面の中心をとらえ、殴り飛ばした。

 吹き飛んだライオトルーパーは弾丸のように飛び、仲間の腹に激突した。

 並んだままの兵たちは、その光景に唖然とする。

 陸奥は無表情のまま、ゴキリと拳を鳴らした。

「ちんたらしてたら、馬鹿に何を言われるか分からんきにの。さっさと終わらせるぞ」

 兎姫はそれを聞くと、懐に手を入れ、銃のグリップのような機器を取り出した。そして口元に運びながら、トリガーを引いて口を開いた。

「承りましたわ……変身」

STANDING BY(スタンディング・バイ)

 そして白いベルトを腰に巻き、グリップを右側のパーツに挿した。

 途端に青い光が迸り、兎姫のチャイナドレスを白い鎧が包んでいく。最後に全身と笠にΔ(デルタ)を模した黒いラインが走り、瞳が赤く輝く。

 鎧を纏った兎姫は、拳をバキバキと鳴らし、ライオトルーパー達に向き直る。

 そして、陸奥と二人で一歩踏み出した直後。

 狂戦士が、暴れだした。

 陸奥が駆け、ライオトルーパーの一人の顔面を鷲掴みにすると、振り回して敵を薙ぎ倒し、地面にめり込むまで叩き付ける。

 兎姫の拳が装甲をいとも簡単に破り、蹴りが弾丸のように飛ぶ。腰のホルスターからビデオガメラ型のパーツに装着したグリップを抜き、レンズ部分を敵に向けてトリガーを絞る。

 無数の光弾が跳び、大量の敵を一気に殲滅する。

 拳と蹴りが跳び、見る間に味方が倒れていく。

 その光景を見ながら、倒れ伏して灰化していく隊長格の男は、ある女のことを思い出していた。

 美しい容姿を持ちながら、いかなる敵も蹴り殺すといわれる種族―――勾兎(まがと)族。

 常に日除けの傘を欠かさず、先の大戦でその数が激減した三大傭兵部族の一つ―――夜兎族。

 二つの『兎』の名を持つ種族の間に生まれ、かつて、夜兎の王・鳳仙とも渡り合った戦乙女。

 その名を、兎姫(とき)

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