「ほあちゃああああああああ!!」
元気の良い掛け声とともに、鉄製のスライドドアが蹴破られる。
中を覗き込んだ神楽は、キョロキョロと中を見渡してから顔をしかめた。
「銀ちゃーん! 黒羽―! どこアルかァァァ!!」
呼びかけながら、神楽は隣の部屋に移り、壁やドアを破壊していく。
掛け声と破壊音が交互に聞こえる中、新八と巽が破壊された部屋をもう一度覗きこんで詳しく調べる。
「クソッ…銀さんたちはどこにいるんだ!?」
「まずいな……急がねーとマジでオルフェノクにされちまうぜ」
書類をまき散らし、何か手がかりはないかと奮闘する二人。
そんな中、別の部屋から「新八ぃぃぃ!!」と神楽の切羽詰まった声が届いた。
「どうしたの!?」
「何かあったか!?」
二人が神楽のいる部屋に駆け込むと、神楽は驚愕の表情で一冊の日誌らしき本を見せた。表面に、数人の白衣姿の男たちが映る写真が張り付けてあった。
「これ、黒羽が映ってるアル!!」
そう言って指差した写真の一部に、長く白いくせっ毛の女性が、他の者とは距離を空けて佇んでいるのが写っていた。
「…ほんとだ。髪の長さが違うけど……」
眉を寄せ、写真に見入る新八と神楽。だが、すぐにその可笑しさに気付く。
写真は相当古いものだった。それなのに、写真の中の黒羽は、いっこうに歳をとっているようには見えなかったのだ。
そこへ、同じく覗き込んだ巽が、首を振って口を開いた。
「……いや、この人は黒羽ちゃんじゃない。……伏先生だ」
「え!?」
言われて、改めて写真を凝視する。確かに他の男性の身長を考えると、それなりに背が高いし、目つきも黒羽より鋭い。黒羽が大人になれば、こんなふうになるのかもしれない。
「…この人が」
新八は呟き、そして本を開く。
そして目にする。狗神の真実と、生き様を。
白く長い廊下を、異形たちが走る。
目的は、目の前にいる鬼を止めること。
「おらぁあああああ!!」
咆哮とともに、銀時は刀を一閃する。オルフェノク達の体は簡単に両断され、青い炎に包まれながら崩れていく。
銀と白が翻り、その度にオルフェノク達が倒されていく。
疾風怒濤。怒りに震える侍は、もう誰にも止められない。
白夜叉はもう、止まらない。
『―――アニマ新暦729年○月×日。
遺伝子の解析、及び精細胞の生成に成功。今週中にも体内に注入し、受精作業に入る。私自身のバイタルは、皮肉にも安定している。
……正しいことをしているとは思えない。私の子にはこの先、辛い人生が待っていると思うと、どうにもやるせない』
「……これって……、まさか黒羽ちゃんの……」
新八はゴクリとつばを飲み込みながら、ページをめくった。
『×月◆日。
初めて〝つわり〟というものを経験した。マジで辛かった。
胎児の報告をしながら、ギアの制作を開始する。
正直、こんなものは作りたくない。平和を望んでいたはずなのに、奪うための力を欲し始めてしまった。……この星の人々も、変わってしまった。
社長は何を望んでいるのか、私にはもうわからない』
『ギア制作の傍ら、若い子等に勉学を教授することになった。
戸惑ったが、松陽先生のような仕事にたずさわれたことは、正直、とても嬉しい。
アニマの未来を担う希望。手にした力を誰かのために使ってくれる。
その姿を想像するだけで、この身が震える。
ただ、カクサという生徒の目が最近妙に熱っぽい。言動にもおかしさを感じる。
…………なぜだろうか』
『胎児はかなり成長し、私のお腹のふくらみが分かるようになってきた。
このあたりから、胎児の性別が分かるようになった。女の子だ。
エコーで伝わる、小さく動くその姿に、私の目が熱くなった。
……アイツの子だ。間違いなく、アイツの子だ。
小さな、けれど力強く脈打つ我が子の鼓動と私の鼓動の不協和音を聞きながら眠りにつく。この時ばかりは、音がよく聞こえる狼牙に生まれてよかったと思う』
『胎児が腹を蹴った。それも何度も。
性格はアイツ寄りだろうか。手を焼く子になりそうだ。 最近動くのが辛くなってきたため、こういう反応があると少しうれしい。…決して寂しかったわけではない。きっと。おそらく。多分。
あと、最近教え子の一人が何度も忍び込んでくる。
聡明な子だ。もしかしたら、私の雰囲気から、何気に事情を察しているのかもしれない。
私の腹にやさしく触れて、歌ってくれる。
優しくて、暖かい歌だ』
『新社長として、ロズワが就任した。
悪夢だ。前社長はどこに行ってしまったんだ。
もう、ロズワを止められるものはどこにもいないじゃないか。
アニマの未来に不安を覚えながら、私は腹をふるえる手で撫でる』
『定期的なメディカルチェックの結果に目を通す。
医師が言うには、もうじきとのことだ。
そう聞いた途端、私の体を言いようのない喜びが駆け抜け、どうしても震えが止められなくなる。まだ見ぬ我が子の顔を想像し、一人笑みを浮かべる。
だが、どうしても不安がちらつく。ロズワのことだ。
あいつは自分の遺伝子を有していると思っている私の子を、どう扱うだろうか。
オルフェノクにされた者達と同じように、実験台にのせられ、人としての尊厳をすべて奪われ、ボロボロになるまで使われるのだろうか。
アニマの兵士として、前線に送られるのだろうか。
私の元から、引き離されるのだろうか。
……お前は、生まれる前からこんな重荷を背負わせた私を憎むだろうか。
十字架を背負わせた私を恨むだろうか。
許せとは言わない。言えるはずがない。
けれど、お前は望まれて生まれてきたのだと信じてほしい。
私や他の誰かに望まれて、私のもとに生まれてきたのだとわかってほしい。
せめてもの証明に、私はお前の名を探している。
お前という存在を示す、いい名を……』
「……先生」
巽が、日誌を覗いて声を漏らす。
新八も神楽も、一人の母の紡いできた言葉の一つ一つに心を奪われ、目を離せなかった。
息をつき、ページをめくる。
『△月□日。
私の体を何度も激痛が襲う。時が来たらしい。
正直辛くて、これ以上筆が進まない。
だがせめて、これだけは書き残しておきたい。誰かが読んでいるのなら、私に何かあった時、憶えていてほしい。
今日生まれる子の名は、〝黒羽〟。
砂の星を舞う、黒い蝶。
私と、アイツの子だ』
*
地球の軍勢も加わり、さらに激化する戦場。
幕府艦隊の火力に、アニマの軍事力もあり、両者は完全に拮抗する。
そんな中、ぶつかり合う侍とオルフェノク達の頭上を、大きな影が覆った。
侍たちは、頭上に浮かぶ戦艦に描かれたマークを見て、目を見開く。
菱形に、その四辺から長方形が伸びるマーク。
知らぬ者はいない、ならず者たちの旗印。
「はっ……春雨だァァァァァァァァァァァァァァ!!」
誰かが叫ぶのと同時に、戦艦から無数の小型艇が飛来し、不揃いな鎧に身を包んだ天人の兵隊が、咆哮を上げて進撃を開始した。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
刀を手に、廊下を走る銀時。
オルフェノク達に囲まれながら、一人奮闘し続ける。
だが、やはり多勢に無勢か。徐々に取り囲まれ、押され始める。
頬を切られ、よろめいた時に、銀時に向かって数体が一斉に武器を振り上げる。
だが、その寸前。
ドォォォン
真っ赤な爆発が起き、オルフェノク達が吹き飛ぶ。
銀時は目を剥き、そして驚愕する。
瓦礫を踏み、現れた三人の男たちの姿に。
―――黒羽。
いつか、お前を連れて会いに行こう。
「……お前の邪魔はさせんぞ、銀時」
黒い長髪の男が、刀を振るって言った。
「ガハハハハハ!! 驚いとるようじゃのう!! まぁ、無理もなか!!」
モジャモジャ髪の男が、サングラスを光らせる。
そして。
「ククッ。間抜け面はかわんねーな、オイ」
最後に、包帯を巻いた、派手な着物姿の男が、
ありえない三人。ありえない再会だ。
「てっ、テメーら……」
銀時は、言葉を失った。
そこに現れたのは、かつて戦場を共に駆けた侍達。
狂乱の貴公子、桂小太郎。
快援隊統領にして、桂浜の龍と呼ばれた男、坂本辰馬。
そして、鬼兵隊総統、高杉晋作。
袂を分かった、かつての仲間。
―――私が共に生きた、鉄クズの宝物。
バカで、粗野で、野暮で、でも愛しかった仲間たちのもとに……!!