銀時は、開いた口が塞がらなかった。
「高杉……、なんでテメーがここにいやがる」
高杉とは、完全に道を違ったはずだった。
飛び立つ宇宙船を見上げ、その遠さに悲しみすら覚えた、筈だったのに。
高杉は硬直する銀時を見やりながら、煙管の煙をふぅ、と吐く。
「テメーらの事情は知らねーよ。…ただ、俺が壊す前に、あんな連中に好き勝手に引っ掻き回されんのが我慢ならねーだけだ」
その隣に坂本を挟み、桂は腕を組んだ。
「不本意ながら、俺たちの利害が一致したまでだ。…本来なら、願い下げだがな」
「ガッハハハハ!! 相変わらず面倒臭い二人じゃのう!! 同窓会のノリでもうちょい軽くいけんもんかのう!? 肩の力抜きぃ!!」
ゲラゲラと喧しく笑う坂本。
ため息をつく桂。
涼しい顔の高杉。
変わってしまった、しかし、変わらないものを持つ、三人の姿。
ふと、銀時は笑った。
「…ったく、ややこしいな、オイ」
頭をぼりぼりとかき、三人を見つめる。
熱いものが、胸の内を満たしていく。何故か、力が湧いてくる。
「…いいか、テメーら。こんな光景はもう二度と無ぇ。今のうちに目に焼き付けとけ。後から言っても、リプレイなんかしねェぜ」
三人はその言葉に、ふっと笑う。
銀時は坂本と高杉の間に立ち、刀を肩にのせる。
並び立つ、四人の侍。その背が、かつての姿と重なり、ブレる。
坂本は一人、にやりと口元を歪めた。
「…なんじゃ、懐かしいのう。こうやって四人そろうのは」
そういうと、銀時がニヤリと笑った。
「違げーだろ」
「?」
怪訝な顔をする坂本を余所に、銀時は一人の影を思い出す。
―――行ってください、銀時さん。
あなたを待つ人のところへ、あなたが待つ人の所へ。
あなたの、大切な人の所へ。
「
沈黙の後、坂本は笑った。
「…ほいじゃ、行くかの」
四人は刀と銃を抜き、通路を見据える。
前方も後方も、灰色の異形が埋め尽くす。怒号がいくつも重なり、肌にピリピリと突き刺さり、震わせる。
だが、そんなもの、何の意味もない。
「行くぜェェェテメーらァァァァァァァ!!」
刀を振るい、四人は一斉に駆け出した。柄を握りしめ、屍を踏み越え、一気に異形たちと肉薄する。
ゴゥッ
技も何もない、力の身の一撃。それが、オルフェノクの一団を叩き潰す。
怒りの咆哮を上げ、銀時は刃を一閃。オルフェノクの胴を両断する。背後の敵には柄頭を顔面に叩き込ませ、斬り捨てる。
高杉は襲い来るオルフェノクの攻撃を軽くいなし躱して、すれ違いざまに胴を薙ぐ。急所を的確に打ち、次々に葬っていく。
桂の居合がオルフェノクの武器を破壊し、その首を刎ね飛ばす。黒髪をなびかせ、白い鎧を両断していく。
宙に飛び、坂本の銃がオルフェノクの一体の頭を正確に撃ち抜く。豪快な柔術で、異形たちをねじ伏せていく。
その姿は、風のように早く、炎のように猛々しい。まるで嵐だ。
オルフェノク側の勢力が、見る間に衰えていく。
オルフェノクの一体を押さえつけ、桂が銀時の方を振り向いた。
「行けェェェ銀時ぃぃぃ!!」
「!!」
同じく坂本も、振り向いて叫ぶ。
「ここはワシらが抑える、いけぇぇ!!」
「…テメーら…」
銀時は頷き、走り出した。
脇目もふらず、異形たちの間を抜けていく背を眺め、高杉は一人笑った。
かつての仲間に背を向け、銀時は走り続ける。
その眼差しには、一点しか見えていない。
戦友より、愛した女より託された、小さな弱い少女。
―――後で、みんなに伝えてほしい。
現れたワニの異形の剣を受け止め、顔面に拳を叩き込む。続けざまに回し蹴りを横っ腹に決め、踏み越えていく。
―――……私は、
斬撃を潜り抜け、逆に隙を見て斬り捨てていく。
―――臆病者と呼んでくれて構わない。
…だが、私は今になって、この命が惜しくなったんだ。
頬を殴られ、一瞬意識が飛ぶ。だがすぐに我に返り、反撃とばかりに斬り返していく。
銀の剣閃が風のように光り、異形たちをねじ伏せていく。
―――私はお前たちという仲間を得て、初めて自分の生に意味を見出せた。
お前たちとの繋がりを得て、私の生は、宝物のように光り輝いたんだ。
……だからこそ、その宝を失うのが怖くなった。
傷つき、倒れていく仲間達をこれ以上見たくない。
……ただの、私のワガママだ。
だが……、せめて私は、お前たちを死なせたくない。
伝えるよ、お前たちのことを。後の世の者達に、私の子に。
お前たちの生きた記憶を、私は守り続けたい。
……それしか、私にはできないから。
「……これ以上、一人になんかさせるかよ」
死屍累々。転がる灰の塊の中心で、銀時は刀を杖にして立つ。
思い出すのは、彼女と共にいた、あの光景。屍が転がる、戦場。
疲労がたまり、思うように体が動かない。だが、その目に宿る炎は、まだ猛っていた。
震える足を引きずり、体に鞭打ち、歩き出す。
―――伏よぉ。
テメーは臆病者なんかじゃねェよ。
頼れるやつが一人もいねー孤独の中、テメーはずっと護りてェモノのために
戦い続けてたんだろーが。
テメーが決めた道を、真っ直ぐブレずに進んできたんだろーが。
そんなこと、俺達だってできなかったよ。
俺たちはお前が考えてるほど強くなんかねーよ。
大切なもん、何一つ護れなかった。誰一人、救えなかった。
約束破ったのは、俺達も同じだ。
荒い呼吸を噛みしめ、足を進める。
―――だが、せめて俺は、おめーが護ろうとしたモンだけは、取りこぼさねェ。
お前が遺した、アイツだけは、俺の手で取り戻す。
それが、俺にできる唯一のことだからよ。
ザリ、と地を踏み、辿りついたのは、広い空間だった。
高い天井の下に、円形の広場がある空間。
「……こいつは、闘技場か?」
いつだったか、煉獄館という違法な賭場を潰したことがあったが、ここはそこよりも遥かに広い。
その時、銀時の立つ場所と、闘技場の反対側にスポットライトが当てられた。
照らし出されたのは、ロズワだった。
「…………てめぇ」
銀時は怒りを露わにし、鋭く睨みつける。
するとロズワは、銀時に向かって大仰に手を広げた。
「ようこそ、白夜叉殿!! わざわざ自分から来てくれるとは嬉しいよ!!」
芝居がかった耳につく物言いが、銀時の神経を逆撫で、怒りを増幅させる。
ロズワは意に介さず、不気味に笑みを見せた。
「さぁ、お楽しみのショータイムだ。……君のために特別なゲストを呼んだんだ」
「……てめぇ何言ってやがる」
ガチャリと刀の柄に手をかけ、身構える銀時。
ロズワは移動し、背後に通じる道を開ける。
「君もきっと喜ぶだろう。ずっと会いたがっていたんだから」
「!?」
銀時は目を見開き、ロズワをギョッと見つめる。
「それではご紹介しよう……。私と、伏の子だ」
ロズワの元のスポットライトが、闘技場の入口に向けられた。
そこに、ゆっくりと誰かが近づいてくる。
小さな体に、薄い病院着のような格好をした、銀髪の狼の耳の少女。
ゆらり、ゆらりと体を揺らし、闘技場へと向かってくる。
「黒羽……!!」
思わず、喜色を帯びる銀時の声。だが、すぐにその表情は険しくなった。
黒羽は、何の反応も示さなかった。俯いたまま、そこに立っていた。
「フ―――ッ……、フ―――ッ…………」
静かな空間に、少女の獣ような息遣いが響く。
ふいに、前髪の下から金色の双眸が覗き、銀時を見据えた。
「ぅぅううう……!!」
犬歯をむき出し、歯を食いしばり、猛獣のような声を漏らす。
突如、少女は背を弓なりにそらし、天を仰いだ。
「アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンン!!」
高く、高く響く、狼の咆哮。
ビリビリと震える空気の中、銀時は黒羽を凝視した。
黒羽の髪がざわざわと蠢き、見る間に腰の長さまで伸びていく。そして全身が白く染まって歪み、一回りも二回りも大きくなっていく。
刺々しい鎧と爪、牙が生え、手に頑丈そうな
背中と尾の毛が全て逆立ち、風もないのに揺れ始める。
現れたのは、狼の異形。
悲しき狂気の怪物、ウルフオルフェノク。
荒い息をつき、狼は侍を睨みつける。
銀時は歯を食いしばって俯き、刀の柄を握りしめた。
間に、合わなかった。
どうしようもなく、自分が許せない。
[…さぁ、メインイベントだ]
スピーカーから、ロズワの声が届く。
同時に、黒羽だったものは、唸り声をあげながら駆け出した。
[戦え]
ガキン!!
刀とメリケンサックが、火花を散らしてぶつかり合った。
銀時は狼の異形を蹴り、距離を取る。だが狼の異形は変形した足で地を蹴り、追撃を続けて放ってくる。
[愛しき女の娘を斬り、絶望しろ!! 人の心など捨ててしまえ!!]
殴りつけられ、倒れ伏す銀時に乗りかかる狼の異形。だが銀時は、狼の異形の腹を蹴り、刀の峰で打ち据える。
[人間を超え、進化しろ白夜叉ァァァァァ!!]
ゴロゴロと転がった後、起き上がって睨みつける狼の異形。
銀時は荒い呼吸のまま、刀を構える。
そして、返していた刃を、峰から戻した。
ギリッ、と食いしばった歯がきしむ。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ォォオオオオオオオオアアアアアアアアアア!!」
怒号を上げ、狼と鬼が対峙し走り出す。
そして、銀色と灰色の獣が、ぶつかり合った。