エンジン音と共に、鉄人は空を舞う。
黒羽は目を瞠り、ホイールを回転させるオートバジンを凝視した。
「…なんで、アイツ。誰が変身してんだよ!?」
オートバジンはマシンガンでレオを牽制しながら、回転して蹴りを叩き込む。
「ぐっ……この鉄クズがっ!!」
反撃に出ようとしたレオの顔面で、突如小さな爆発が起きた。
「!!」
ふらついたレオに、次々に青い光弾が命中し、炸裂していく。
五、六発受けたところで、レオはコントロールを失い、真っ逆様に墜落していった。
地面に激突し、立ち上る粉煙。
黒羽は目を見開いて、背後を振り返った。
その先には、銃を構えた白いチャイナドレスと、笠を纏った女がいる。そしてその向こうから、新八や神楽、会いたいと思っていた者達の姿があった。
「銀さーん! 黒羽ちゃーん!!」
「無事あるかー!!」
「…お前ら、なんで」
駆け寄ってくる彼らに、思わずそんな言葉が漏れる。
「何言ってるのさ、助けに来たんだよ」
当たり前だ、と言わんばかりに、新八は言う。
「私達万事屋は、いつでも一緒ネ。どんなに離れてたって、絶対助けに行くアル。それが私達ネ」
神楽が胸を張り、はっきりと言う。
「…お前ら」
「そーいうこった」
銀時が、ポン、と黒羽の頭に手を乗せ、微笑んだ。
「俺達ゃもう二度と、お前を一人にはしねーよ」
「…………」
「俺たちは、家族だ」
家族。
その言葉が、黒羽の心に突き刺さる。自身の出生の秘密が、最悪の形で伝えられ、存在そのものを揺らがされ、ヒビだらけにされた心が、癒されていく。
黒羽は乱雑に撫でられながら、嬉しそうに微笑んだ。
四人は笑いあい、見つめあう。チャイナドレスの女も、その光景に銃を下ろしながら顔をほころばせる。
その時、チャイナドレスの女の傍にいたネズミが叫んだ。
「おい! レオがいないゾ!!」
「!」
慌てて振り向く一同。
倒れていた彼は、いつの間にか忽然と姿を消していた。
「あの野郎……!!」
銀時は顔をしかめ、拳を握りしめた。
ネズミは銀時たちの傍に近づき、そのすぐ近くにある灰の塊を見下ろす。
「……カクサ」
ネズミは思わず呟く。
気に入らない相手だった。…でも、これまで苦楽を共にしてきた者、仲間だった。思うところは、多々あった。
黒羽もまた、カクサの遺骸を見つめ、悲痛な顔をする。
すると、ネズミは表情を変え、振り向いた。
「とにかく、敵のいナイ今が好機ダ! 今スグに脱出すル!」
「!?」
銀時たちは目を見開き、ネズミを凝視した。
「そんな! 放っておけって言うんですか!?」
食いつく新八に、ネズミは「大丈夫だ」と宥める。
「向こうにハ地球からの援軍もいル。そいつら二任せておけばいイ」
「でもっ…」
なおも食い下がる新八に、ネズミはフルフルと首を振った。
「……正直、こちらニこれ以上余裕は無イ。兵力の半数が倒レ、指揮系統も全滅。……なにより、頭が倒れタ」
「…………」
新八は悲しげにカクサを見下ろし、唇を噛んだ」
ネズミもまた、悔しげに顔を歪め、キッと一同を見やる。
「カクサがいナイ今、オイラは自分が最善と思えることをやル。巻き込んじまっタお前たちを、全力を持って逃がス!!」
「…ネズミさん」
「……急ゲ」
ネズミは自身の悔恨を拒むかのように、背を向けて歩き出した。新八たちは顔を見合わせ、後ろ髪の引かれる思いで後を追う。
兎姫は一人、その姿を見送りながら、ふと動かない二人に気が付いた。
「…………」
「! オイ、何してル!!」
ネズミが叫ぶと、黒羽と銀時は頭をかきながら、気だるそうに振り向いた。
「……ネズミさんよぉ、一ついいか?」
銀時の言葉に、ネズミは首を傾げた。
「俺たち残るわ」
「!?」
「ハァァァァァ!?」
全員が口をあんぐりと開き、固まった。
銀時は相変わらず死んだ魚のような目で、黒羽は申し訳なさそうに苦笑いする。
「何言ってんダ!? オイラの話聞いてたのカ!?」
「聞いてる聞いてるって。…けどお前、どこに逃げるっていうの?」
「ッ……」
思わぬ返答に、ネズミは口をつぐむ。
地球に逃げる? また追ってきて、地球の人々に危害が及ぶだろう。
別の惑星へ逃げる? 地球の場合と同じだ。それに、そこで無事でいられるのか?
「地球に逃げよーが、どこに逃げよーが、アイツらが追って子ねー確証は無ェだろ」
「…第一、逃げたところで、何も変わんねーだろ」
銀時と黒羽は二人並び、天井に空いた巨大な穴を見上げる。遥か上へと続く大穴は、風が通り抜け、唸り声をあげていた。
「…だったら、逃げる必要なんてねーだろ。どこにいよーと、何しよーと変わらねーなら」
「目の前の今を、全力で足掻くしかねーじゃねーか」
ざわり、と風が鳴る。
蜃気楼のように、灯りに照らされた二人の姿が歪む。
「
「……!!」
一同は目をこすり、再び二人の姿を凝視した。
そこには、いつもの二人の姿。だが、見間違いとも思えなかった。
そこへ、ガシャンガシャンと足を踏み鳴らし、銀の鉄人が歩み寄った。
黒羽は目を細めてオートバジンを見つめ、真っ直ぐに向かい合う。
やがてオートバジンは、静かに右腕を突き出す。その手に握られていたのは、銀のベルトと携帯電話―――ファイズギアだった。
「…………ありがとよ。丸腰じゃ、心許なかったところさ」
黒羽は微笑み、ベルトを受け取る。
「無茶ダ!! たった二人で、上層の連中を相手にするつもりカ!? 社長や幹部だけじゃナイ!! アークだってすでに復活しているかも……」
なおも食い下がるネズミ。その表情は必死で、今にも泣き出しそうだ。
そんなネズミに、黒羽は優しく微笑み、小さく口を開いた。
「大丈夫だよ、―――ミナ」
ネズミの動きが止まった。
呟かれたその名に、全ての思考が停止した。
「…………え?」
ネズミは自分の大きな耳で聞いたそのことすら、信じられなかった。
目の前の娘が知っているはずがない。だって、いま彼女が呼んだその名は。
彼の人が、二人だけの時に呼んでくれた、本当の名なのに。
―――お前の名は、少々言いづらいな。
……ミナ、と呼んでもいいか?
懐かしい声が、脳裏に響く。懐かしい姿が、目の前の少女の姿と重なる。
ネズミはもう、動けなかった。ただ、震える体で、じっと立ちすくむ。
その時、黒羽に向かって兎姫が動く。
まっすぐに黒羽を見つめ、その手に、畳まれた黒い衣服を手渡した。
「…? こいつは?」
黒羽は兎姫の顔を見上げ、尋ねた。兎姫は鉄仮面のようなその顔に微笑をたたえ、目元をゆるめた。
「……あなたのお母様より、託されていました。もしあなたが私に訪ねてくるようなことがあれば、これを渡してくれ、と」
黒羽は頷き、受け取ったソレを広げてみる。
それは、陣羽織に似た外套だった。黒と白の生地に、赤い襟。黒羽の体より少し大きめのそれを、黒羽は強く握りしめ、微笑んだ。
「…お袋……」
目じりに滲んだ雫を拭い、黒羽は陣羽織をバッと広げた。
広げた黒と白を背に纏い、袖に手を通す。ベルトで前を締め、シャンと背筋を伸ばして立ち、前を見据える。
ケータイを取り出し、コードを打つと、高々と頭上に掲げる。
[
金の瞳を輝かせ、黒羽は一言、叫ぶ。
「変身!!」
ベルトとケータイが一つと化し、[
全身を赤いラインが血管のように走り、黒い着物と銀の装甲を生み出していく。
最後に面が現れ、長く伸びた髪とともに揺れた。
黒羽はケータイをベルトに挿したまま開き、新たなコードを打ちこむ。
[
次の瞬間、闘技場の床が砕け、下から巨大な流線型の何かが現れる。
それは左右に三基の、後部に五基のブースターが付いた、超大型バイクだ。
「行くぜ、銀さん」
銀時の肩を叩き、黒羽はニッと笑う。
「行先は最上階。ラスボスの間でございま~す」
ガン、と互いに腕を当てて歩く二人の背中を見つめ、新八と神楽は笑った。
「ぎっ…銀さん! 僕らも行きます!!」
「銀ちゃん! 黒羽!」
心から嬉しそうに、新八と神楽は、バイクに乗り込む二人に駆け寄る。
その背中を、ネズミは茫然と見つめていた。
「……なんで、あいつラ…」
「あなたも言っていたじゃないですか」
振り向くネズミに、兎姫は自分のアイテムを取り出していった。巽も、その傍に立って言う。
「みーんな、あの人にそっくりだからだろ」
その直後、兎姫の足元近くからも、同型のバイクが出現した。
「さぁ、私達も行きましょう」
ネズミは兎姫と巽の顔を見つめ、やがて笑った。
甲高い音とともに、十一基のブースターが火を噴く。
唸り声を上げながら、二基の大型バイクは浮かび上がり、超高速スピードで上昇を始めた。高度はぐんぐん上がり、衝撃が辺りに放たれる。
すると、頭上に壁が迫ってきた。最上階の真下だ。
黒羽と兎姫は機体を操作し、バイクの左右から無数のミサイルを発射した。
白煙をたなびかせて飛散したミサイルは、壁に一定の間隔で命中し、上と下で大爆発を起こした。
「!!」
最上階にいたロズワは、一瞬でその姿を異形の姿に変え、爆炎の中から飛び出した何かを、鞭で粉砕した。何かはすぐさま破壊され、再び爆発が起きて、破片が辺りに飛び散る。
思わずにやりと笑うロズワ。だが。
「…惜しいな〰〰。もーちょっと早かったらヤバかったのに」
「!」
煙の中から、現れる七つの影。中心に立つ男が、ニヤリと笑った。
「どうも~、万事屋でーす」
一本の木刀を肩にのせ、銀時はいつもの調子で、そう名乗った。