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秘めた想いで滾らせた熱き血が、
今、輝きを放ち、互いの体に流れ込む。
鮮血を思わせる紅い閃光と、〝
そして、青い二本の戦刃と、輝きを放つ銀の刀が、ぶつかり合う。
「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」
赤と金、白と青の光がせめぎあい、火花を散らせる。
バキンッ
黒羽のエネルギーとぶつかりあう、騏場の剣。その先端が砕け、徐々に破壊されていく。エネルギーが粒子へと還り、黒羽の必殺の一撃が見る間に騏場に迫っていく。
銀時とレオの刃同士が喰らいあい、激しい火花を散らせる。そして、銀時の刃がレオの刃の上を滑り、レオの胸に到達した。
次の瞬間、黒羽の強化キックが騏場に炸裂し、銀時の刀がレオを両断した。
ズバァァァッ!!
蓄積されていたエネルギーが弾け、閃光が辺りに走る。
エネルギー波が周囲に飛び散り、オルフェノク達に突き刺さっていき、
赤い炎が、弾けた。
*
ガシャン、と音を立てて、白い骨のような異形は仰向けに倒れ伏した。
「……まさか、俺が負けるとはな」
誰にともなく呟き、竜の異形は口元をにやりと歪めた。
「……礼を言うぞ、夜兎のガキ。俺の前で笑っていた奴は、お前だけだった」
「……こいつは俺の流儀さ」
笑顔のまま、神威は言い、さらさらと灰化していく強敵を見下ろす。
もうあまり、時間はなさそうだ。
「殺す相手は、笑顔で送りだしてやろうと思ってね」
「……ありが、とう、よ……」
その直後、竜の異形はボロリと崩れ、息絶えた。
神威は瓦礫の上に座り、パタパタと足を上げ下げする。そこへ、灰に汚れた刀を担いだ隻眼の男が近づいてきた。煙管を加え、煙を吐く。
気付いた神威が、振り向いた。
「やぁ、終わったの?」
「……フン」
高杉が神威の前を通り過ぎ、刀を払って鞘に納める。
神威も瓦礫の上から降り、高杉の後に続く。
「じゃあもう帰ろうよ。強い奴がいないんならここにいてもしょうがないし」
高杉は神威の言葉を鼻で笑ってから、その場を後にした。
粉塵の舞う、廃墟と化した屋内。
真選組の面々に囲まれ、クレイは荒い息を繰り返し、横になっていた。
「クレイ殿、しっかりしろ!」
「まだ…、まだです! まだ逝ってはダメです!!」
近藤がクレイの傷口を抑え、呼びかけ続ける。鉄之助をはじめとする隊士たちが見守る中、クレイは弱々しく微笑み、口を開いた。
「……いいんです、もう」
「何言ってんですか!! すぐに治療して……」
「…いいえ、もう私は満足です……」
クレイの一言に、一同は目を見開く。
「……こんなにたくさんの…、素敵な人たちに囲まれて逝けるんです。悔いなんて、ありません……」
「……クレイ殿」
近藤にニコリと微笑み、クレイは胸に手を当てる。
「……私ね、最初に人間として死んだとき、独りだったの」
「…………」
「誰にも看取られることなく、悲しまれることもなく、たった一人で息を引き取った。そしてオルフェノクとなって、皆から拒絶されて、孤独になった……」
「…もういい……」
「カクサに同志として拾われてからも、あまり変わらなかった。所詮、私は捨て駒で、代わりの利く存在だったから。誰も、私を見てはいなかった……」
「もういい……!!」
「そんな私が、今はこんなにたくさんの人に見てもらえてる。こんなに嬉しいことはないわ」
「……クレイ殿」
悲痛な声が、近藤から漏れる。
クレイは、傍で泣きじゃくる鉄之助の頬に流れる雫を拭い、微笑みかける。
「…ただ、ちょっとだけわがままを言うなら……」
それは、今にも泣きそうな、辛い微笑みだった。
「……もっと早く、貴方達に、出会い、たかっ……た……」
クレイの目から、涙がこぼれる。
雫が落ちるのと同時に、クレイの手は、パタリと地に落ちた。
近藤はクレイの亡骸の手を持ち上げて手を組み合わせると、静かに手を合わせて目を閉じた。
全員が重い気持ちで、その場に佇んでいた。
その時、土方が何かに気付き、振り向いた。
「……おい、あの海老女はどこ行った?」
真選組が倒したはずの、海老の異形。その姿が、消え失せていたのだ。
ズリ……ズリ……
足を引きずり、女は一人中枢を目指していた。
憎悪と怒りに顔を歪め、目的地を目指す。
「おのれ……、下等種族め……」
呪詛のように呟き、歯を食いしばる。
「畜生ォ……、畜生ォ……!!」
その足が、広く開いた扉に差し掛かった時。
金色の光が、女を包み込んだ。
「!?」
女は目を見開き、目を細めて光を凝視する。
眩い光の中に、一体の異形のシルエットが映る。ゆっくりと歩を進め、女に近づいてくる。そして手を伸ばし、金色に輝く光の触手を女に絡め始めた。
「お……おぉ……おおお……!!」
女は触手に包まれながら、恍惚とした表情に落ちていった。
ガラガラと、ヒビの入った瓦礫が小さく崩れる。
その中心で銀時とレオは、獲物を振りかぶった姿勢で静止していた。
銀時は姿勢を正し、刀を払って鞘に収める。その瞬間、レオは全身から青い炎を噴き上げると、ダラリと腕を下ろして崩れ落ちた。
鎧の隙間から灰を零し、砕けた床に撒き散らした。
銀時は息をつき、横目をレオの亡骸に向け、きびすを返した。
もう動くことのない、愛した女の教え子を残して。
騏場もまた、倒れ伏していた。だが、まだ死んではいなかった。
瓦礫の上に足を投げ出し、ぼんやりと天井を見上げていた。
「……理想を、継ぐか」
一言呟き、ため息をつく。
「…俺は、急ぎ過ぎていたのか」
体を起こし、自分と戦った少女を見る。
黒羽は笑顔で走り出し、光剣を放り出して銀時に突撃すると跳び上がって抱きついていた。結構ボロボロだった銀時は耐え切れず、後ろに倒れこむ。
新八と神楽がそこへ駆け寄り、二人をからかう。銀時は額に青筋を立たせて叱りつけると、黒羽はそれを見て大笑いした。
心から、楽しそうに。
人間とオルフェノクなど、関係ねェと言わんばかりに。
「…人間一人では、辿り着けない理想郷……。だからこそ、仲間を信じ、共に行く……。あの人が言いたかったのは、そういう事か」
一人暴走していた自分を恥じ、自嘲する。
「…もっと、自分を見つめなおせ、ということか」
えっこらしょ、と体を起こし、腰に手をやる。
「…俺もまだ、やり直せるか……」
そう、呟いた時だった。
ズブッ
鈍い衝撃が、己の腹に走った。
目を瞠り、腹から生えた白い異形の腕を凝視する。
「……!! き、貴様は……!!」
ゴボッ、と血を吐き、騏場はがくりと膝をついた。
「!!」
異変に気付いた黒羽たちが、振り返って臨戦態勢に入る。
白い異形―――アークオルフェノクは、騏場をうち捨て、大きく天を仰いだ。
「ゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
終わるはずだった、決戦。
それは、王の復活によって、大きく筋書きが狂わされたのだった。