【完結】銀魂 銀狼篇 ~白夜叉鎮魂歌~   作:春風駘蕩

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第三十二訓 刹那の約束

 誰もが、呆けていた。

 命をかけた戦いの果て。多くの仲間を失い、辿り着いた終幕のあっけなさに、誰もが疲れ果て、何かを言う気力も削がれていた。

「……親父」

 ようやく口を開いたのは、黒羽だった。

「……あによ」

 気だるげに返す銀時。だがその口元は、笑っていた。

 黒羽はその様子に、微笑む。

「…勝ったな」

「…そーだな」

 それ以外、言えなかった。言う必要も、もうなかった。

 

「………………まだ、終わらんぞ」

 破壊された、とある一室。無数の機材が陳列され、今はもはやスクラップの山となった真っ白い部屋。

 そこでは、一人の男が這いずっていた。

 青い炎に包まれ、灰化が進んでいる男―――ロズワは、部屋の一室に隠された蓋を開き、中の赤いボタンを露わにした。

「もう…、許さん。……誰一人として」

 ゆっくりと、ロズワは指をボタンに近付け、

「生きては、帰さん」

 力強く、押した。

 

 ドン

 

 その瞬間、スマートブレイン社本部の各所で、爆炎が躍った。

「!?」

「なんだ!?」

 異変に気づき、真選組も見廻組も即座に身構える。

 すると、周囲のあちこちから、同等、もしくはそれ以上の爆発音と振動が立て続けに起こる。振動が振動を呼び、まるで中規模の地震が長時間起こっているように感じさせられる。

 ぐらぐらと揺らぐ地面に耐えながら、土方は方々に振り向く。

「何だ!! 何が起こってる!?」

「副長ォォォ!! 都市のあちこちで爆発が起こってるもようです!!」

 離れたところから走ってきた山崎が、汗だくになりながら答える。その横から、再び起きた爆発による黒煙が弾けた。

「爆発はどんどんこっちにも向かってきてるようで……あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」

 黒煙に呑まれた山崎が、断末魔の悲鳴を上げた。

「山崎ぃぃぃ!!」

 土方が叫ぶ前で、山崎はチリチリアフロになりながらドサッと倒れた。

 一応無事だと判断した土方は、その顔を怒りに歪めながら最上階を睨んだ。

「まさか奴ら……俺達をまとめて道連れにするつもりか!?」

 土方の呟きを肯定するように、アニマに崩壊の波が広がっていった。

 

 途端に、アニマは阿鼻叫喚の地獄と化した。

 敵も味方も、老若男女も関係なく、火に包まれる都市から我先にと逃げていく。誰もが惑星を捨てて逃げようと、ターミナルへ向かっていく。

 真選組や見廻り組はそんな混乱を抑えようと懸命に動き続ける。警告も聞かず暴走する輩は容赦なく殴り飛ばし、民衆を先導する。

 だが、混乱はまだ始まったばかりだった。

 ドガァァ

 再び、別の場所から火の手が上がり、広まり始めたのだ。

 民衆はもう、落ち着いてなどいられなかった。

 集団暴走(パニック)が起こり、民衆は好き勝手に逃げ惑う。土方や佐々木が何を叫ぼうとも、もう止まらなかった。

 

 銀時たちもまた、爆発で揺れる本部の通路を必死に走る。

 振ってくる瓦礫を躱し、獲物で弾き、出口へ急ぐ。新八たちを前に行かせ、銀時と黒羽はその後を追う。

 見当たる隙間もない、だが、侍たちはそれでも生にしがみつく。

 そんな中、黒羽の耳が何かを捉えた。

「親父ィィィ!!」

 黒羽は突如、前を走っていた銀時に体当たりした。

 衝撃で銀時は前のめりにはね飛ばされ、反対に黒羽は後ろにひっくり返る。

 何を、と抗議しようとした瞬間。

 ドフォォォォン!!

 銀時と黒羽の間で、大きな爆発が起こった。

「!!」

「ぅあっ……」

 衝撃波と熱風で、二人は別々の方向にはね飛ばされる。新八たちもその余剰波を食らい、髪を嬲られながら顔を手で覆った。

「……!! 黒羽ァァ!!」

 銀時の前で、真っ赤な炎が壁となって踊る。その向こう側に、ただ一人黒羽だけが取り残されていた。

 頭から血を流し、苦しげにうめき声を上げる。

「黒羽! 今行くアル!!」

 神楽が炎を跳び越えようとするも、急激にその勢いが強くなって近付くこともできない。

 黒羽はゆっくりと起き上がりながら、銀時たちをじっと見つめて何かを考え込む。

 そしてややあってから、小さく微笑んだ。

「……親父、皆。もう、いい」

「!?」

 炎に囲まれながら、黒羽は言った。

 銀時たちは目を見開き、額から血を流す黒羽を凝視した。

 片目を瞑った黒羽は、悔しげに笑った。

「先に、行ってくれ」

「……!! 馬鹿野郎!!」

 銀時が、炎を無視して駆け出そうとする。だが、それを止める者がいた。

 兎姫だった。

「!! テメェ!!」

 殺気を込めて睨みつける銀時を、兎姫は悲しげに見つめ、肩を掴む手の力を強める。

「黒羽ァァァァァァァ!!」

 叫ぶ銀時の前で、炎がまた膨らむ。そして今度起きた爆発で、銀時たちと黒羽との間の通路の床が砕けた。

 慌てて飛び退くと、それはもう、跳び越えることすらできないほど大きく崩れてしまっていた。

 歯を食いしばる銀時。

 黒羽は、優しく微笑んだ。

「……親父。悪いんだけど、お登勢さんに代わりに謝っといてくれ。当分会えそうにないから」

「……っ!!」

 オレンジ色に照らされながら、黒羽は言う。

「新八、妙さんに言っといて。嫁の件は考えさせてって。神楽、卵かけごはんばっかじゃなく、もっといろんなもの食えよ?」

「黒羽ちゃん……!!」

「黒羽ぁ…………!!」

 新八と神楽が、悲痛に顔を歪める。

 黒羽はネズミと兎姫にも笑みを見せた。

「ネズミ、いろいろ世話になった。兎姫さん、母さんの遺品、届けてくれてありがとな」

「ッ……、黒羽」

 最後に黒羽は、銀時の方を向いた。

 今にも消えそうな、儚い笑みを見せながら。

「…かぶき町のみんなにも、よろしく言っといてくれ。あと将ちゃん。あの後ごたごたで会えなかったから、元気でなって」

「………っ、自分で言いやがれ!!」

 言い争う間にも、火の手は迫ってくる。全てを呑みこみ、焼き尽くす炎の渦が、壁となって近づいてくる。

 もう、時間がなかった。

「……大丈夫」

 ふと、黒羽は呟く。

 優しい微笑みで、皆を見つめながら。

「俺は、お袋の約束も受け継いでるから」

 銀時は、目を見開いてその姿を凝視する。

 そこにはまるで、伏がいたように見えたから。

「……親父、俺は―――」

 炎の中で、黒羽の唇が動く。

 紡がれた言葉は轟音でかき消されても、何故かそれは、銀時の耳に届いた。

 その直後、荒ぶる炎が風を起こし、一同を包み込む。熱い烈火が銀時たちを呑みこみ、黒羽から引きはがす。

 

 暗い闇の空間の中、アニマという惑星で、光が弾けた。

 まるで蛍のような、淡い光が。




次週、最終回!!
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