誰もが、呆けていた。
命をかけた戦いの果て。多くの仲間を失い、辿り着いた終幕のあっけなさに、誰もが疲れ果て、何かを言う気力も削がれていた。
「……親父」
ようやく口を開いたのは、黒羽だった。
「……あによ」
気だるげに返す銀時。だがその口元は、笑っていた。
黒羽はその様子に、微笑む。
「…勝ったな」
「…そーだな」
それ以外、言えなかった。言う必要も、もうなかった。
「………………まだ、終わらんぞ」
破壊された、とある一室。無数の機材が陳列され、今はもはやスクラップの山となった真っ白い部屋。
そこでは、一人の男が這いずっていた。
青い炎に包まれ、灰化が進んでいる男―――ロズワは、部屋の一室に隠された蓋を開き、中の赤いボタンを露わにした。
「もう…、許さん。……誰一人として」
ゆっくりと、ロズワは指をボタンに近付け、
「生きては、帰さん」
力強く、押した。
ドン
その瞬間、スマートブレイン社本部の各所で、爆炎が躍った。
「!?」
「なんだ!?」
異変に気づき、真選組も見廻組も即座に身構える。
すると、周囲のあちこちから、同等、もしくはそれ以上の爆発音と振動が立て続けに起こる。振動が振動を呼び、まるで中規模の地震が長時間起こっているように感じさせられる。
ぐらぐらと揺らぐ地面に耐えながら、土方は方々に振り向く。
「何だ!! 何が起こってる!?」
「副長ォォォ!! 都市のあちこちで爆発が起こってるもようです!!」
離れたところから走ってきた山崎が、汗だくになりながら答える。その横から、再び起きた爆発による黒煙が弾けた。
「爆発はどんどんこっちにも向かってきてるようで……あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
黒煙に呑まれた山崎が、断末魔の悲鳴を上げた。
「山崎ぃぃぃ!!」
土方が叫ぶ前で、山崎はチリチリアフロになりながらドサッと倒れた。
一応無事だと判断した土方は、その顔を怒りに歪めながら最上階を睨んだ。
「まさか奴ら……俺達をまとめて道連れにするつもりか!?」
土方の呟きを肯定するように、アニマに崩壊の波が広がっていった。
途端に、アニマは阿鼻叫喚の地獄と化した。
敵も味方も、老若男女も関係なく、火に包まれる都市から我先にと逃げていく。誰もが惑星を捨てて逃げようと、ターミナルへ向かっていく。
真選組や見廻り組はそんな混乱を抑えようと懸命に動き続ける。警告も聞かず暴走する輩は容赦なく殴り飛ばし、民衆を先導する。
だが、混乱はまだ始まったばかりだった。
ドガァァ
再び、別の場所から火の手が上がり、広まり始めたのだ。
民衆はもう、落ち着いてなどいられなかった。
銀時たちもまた、爆発で揺れる本部の通路を必死に走る。
振ってくる瓦礫を躱し、獲物で弾き、出口へ急ぐ。新八たちを前に行かせ、銀時と黒羽はその後を追う。
見当たる隙間もない、だが、侍たちはそれでも生にしがみつく。
そんな中、黒羽の耳が何かを捉えた。
「親父ィィィ!!」
黒羽は突如、前を走っていた銀時に体当たりした。
衝撃で銀時は前のめりにはね飛ばされ、反対に黒羽は後ろにひっくり返る。
何を、と抗議しようとした瞬間。
ドフォォォォン!!
銀時と黒羽の間で、大きな爆発が起こった。
「!!」
「ぅあっ……」
衝撃波と熱風で、二人は別々の方向にはね飛ばされる。新八たちもその余剰波を食らい、髪を嬲られながら顔を手で覆った。
「……!! 黒羽ァァ!!」
銀時の前で、真っ赤な炎が壁となって踊る。その向こう側に、ただ一人黒羽だけが取り残されていた。
頭から血を流し、苦しげにうめき声を上げる。
「黒羽! 今行くアル!!」
神楽が炎を跳び越えようとするも、急激にその勢いが強くなって近付くこともできない。
黒羽はゆっくりと起き上がりながら、銀時たちをじっと見つめて何かを考え込む。
そしてややあってから、小さく微笑んだ。
「……親父、皆。もう、いい」
「!?」
炎に囲まれながら、黒羽は言った。
銀時たちは目を見開き、額から血を流す黒羽を凝視した。
片目を瞑った黒羽は、悔しげに笑った。
「先に、行ってくれ」
「……!! 馬鹿野郎!!」
銀時が、炎を無視して駆け出そうとする。だが、それを止める者がいた。
兎姫だった。
「!! テメェ!!」
殺気を込めて睨みつける銀時を、兎姫は悲しげに見つめ、肩を掴む手の力を強める。
「黒羽ァァァァァァァ!!」
叫ぶ銀時の前で、炎がまた膨らむ。そして今度起きた爆発で、銀時たちと黒羽との間の通路の床が砕けた。
慌てて飛び退くと、それはもう、跳び越えることすらできないほど大きく崩れてしまっていた。
歯を食いしばる銀時。
黒羽は、優しく微笑んだ。
「……親父。悪いんだけど、お登勢さんに代わりに謝っといてくれ。当分会えそうにないから」
「……っ!!」
オレンジ色に照らされながら、黒羽は言う。
「新八、妙さんに言っといて。嫁の件は考えさせてって。神楽、卵かけごはんばっかじゃなく、もっといろんなもの食えよ?」
「黒羽ちゃん……!!」
「黒羽ぁ…………!!」
新八と神楽が、悲痛に顔を歪める。
黒羽はネズミと兎姫にも笑みを見せた。
「ネズミ、いろいろ世話になった。兎姫さん、母さんの遺品、届けてくれてありがとな」
「ッ……、黒羽」
最後に黒羽は、銀時の方を向いた。
今にも消えそうな、儚い笑みを見せながら。
「…かぶき町のみんなにも、よろしく言っといてくれ。あと将ちゃん。あの後ごたごたで会えなかったから、元気でなって」
「………っ、自分で言いやがれ!!」
言い争う間にも、火の手は迫ってくる。全てを呑みこみ、焼き尽くす炎の渦が、壁となって近づいてくる。
もう、時間がなかった。
「……大丈夫」
ふと、黒羽は呟く。
優しい微笑みで、皆を見つめながら。
「俺は、お袋の約束も受け継いでるから」
銀時は、目を見開いてその姿を凝視する。
そこにはまるで、伏がいたように見えたから。
「……親父、俺は―――」
炎の中で、黒羽の唇が動く。
紡がれた言葉は轟音でかき消されても、何故かそれは、銀時の耳に届いた。
その直後、荒ぶる炎が風を起こし、一同を包み込む。熱い烈火が銀時たちを呑みこみ、黒羽から引きはがす。
暗い闇の空間の中、アニマという惑星で、光が弾けた。
まるで蛍のような、淡い光が。
次週、最終回!!